【第五十二話】自動販売機
王都でパワードスーツ風の子供服が販売されて早くも一週間が経った。
予約の段階ではトップであったリリアイエローを、ミレイブルーが上回る勢いで販売数を伸ばしているようである。
これは、伯爵令嬢にして魔法課首席卒業であるミレイに肖ろうと、貴族の親達が挙って買い求めた結果だそうである。
お陰で、このところのミレイの機嫌はすこぶる良好で研究所内の雰囲気も良い。
余談はこれぐらいにして本題に入ろう。
今日、ユウイチはザブマスのヴィーラングに招かれて冒険者ギルドを訪れている。
アースドラゴンを倒した英雄は応接室に通されて手厚いもてなしを受けた後に洞窟関連の処理の話し合いを行っている。
「そうすると、新たに発見された魔晶石の鉱床の権利は放棄するって事でいいんだよな?」
ユウイチはアースドラゴン討伐の実況見分の際に、ホールの奥で鉱床を発見して再び世間を驚かせてたのであった。
リリアが茂みで見付けた魔石も魔晶石だと判明したため、鉱床の権利は第一発見者のユウイチ達のものとなっていた。
「あははは、王族や王城の役人達との交渉など庶民の俺には荷が勝ちすぎているからな。
それに教会本部が何割か保有するんだから問題ないさ」
そう言って自嘲気味に笑うユウイチだが、国王なら新作スイーツ一つで黙らせる自信は持っている。
「今や所長殿は押しも押されぬ英雄なんだぜ。
アースドラゴンに比べたら役人なんざ目じゃないだろう」
ヴィーラングは簡単そうに言うが、王城の役人達は国王より手強そうである。
"壁に耳あり障子に目あり"、何処で誰が聞いているかしれたものではない。
余計なことを言って不敬罪で捕まっては堪ったものではないと、ユウイチは早々に話題を変えることにした。
「そんなことよりも、"ウムドレビの果実"と"アースドラゴン"は冒険者ギルドで買取って貰えるんだよな?」
「おぉー、そうだったな。
全量をギルドで買取ることで、話は纏まったようだ。
だが、支払いは分割で頼みたいそうだ」
先日、ユウイチは冒険者ギルドが提示してきた買取り見積り書を読んだのだが、恐ろしいほどの数のゼロが並んでいた。
まるで前世のマスクさんやゲイツさんにでもなったような気分である。
「分割払いはいいとして、買取り代金を冒険者ギルドから教会への寄付という扱いにしてもらえるんだよな?」
「こっちは構わないが、それでは所長殿達の取り分が無くなっちまうがいいのか?」
ヴィーラングは俗っぽ顔をして、からかい勝ちにユウイチに聞いた。
「教会には研究所の設立当初から多大な支援をしてもらっているからな。
これは寄付と言う名を借りた恩返しだよ」
前世では鶴や亀や猫でも恩返しをしていたので、こちらの世界でユウイチが恩返しをしたとしてもおかしな話ではない。
だが、恩返しと言うのは建前で、買取り代金の山分け案をリリア達が断固として拒否しているからである。
もし、ユウイチが全額を懐に入れてしまったら炎上確実である。
教会本部への寄付はユウイチがとった苦肉の策なのである。
「そうか、分かったよ。
教会には、こちらから連絡を入れておくよ」
「そうして貰えると助かる。
これで、怪しい投資話や貴族の妬みから解放されるな」
前世でも、宝くじに高額当選すると怪しい宗教団体や慈善団体から寄付の要請がきていた。
ユウイチはヴィーラングにやれやれといった表情をして肩をすくねて見せる。
「それと、所長殿の冒険者のランクが"Cランク"になることが決まったぜ。
ご令嬢方とのパーティーなら"Aランク"なんだが彼女達は本当に冒険者登録しないのか?」
「はははは、貴族と商家の令嬢が冒険者になるわけないだろう。
そんなことより初心者の俺がいきなり"Cランク"で大丈夫なのか?」
これは謙遜ではなく面倒事に巻き込まれたくない一心での質問である。
"出る杭は打たれる"、特に新参者は古参の者から叩かれやすい。
冒険者ギルドに行く度に厳つい大男に絡まれては、堪ったものではない。
「そりゃあ、当たり前だろう。
アースドラゴンを倒した英雄をいつまでも"Fランク"のままにしておいたら冒険者ギルドが非難されちまう」
「そうか、それなら仕方がないな」
ルーキーがFランクからCランクへ一気にジャンプアップすることは、前代未聞の出来事らしいがユウイチは甘んじて受けることにした。
「これで洞窟関連の処理は終りだな。
俺も雑務から解放されて漸くのんびりできそうだぜ」
今度はヴィーラングがやれやれといった表情を見せて肩をすくねる。
「そう言えば洞窟の入口の謎はどうなったんだ?」
リリア達が知らなかった洞窟の入口の謎は、研究所に置いてある書物では解決できなかった。
「その話なら魔法規制局が仮説を立てたようだぞ。
"ウムドレビの果実"が放つ毒を解毒するためにアースドラゴンは相当な魔力を使っていた。
だから、アースドラゴンが入口にかけた"認識阻害の魔法"が解けんじゃないかと言う話だったぜ」
規制局の仮説には"アースドラゴンがどうやって洞窟に入ったのか?"と言う肝心な部分が抜けている。
規制局が意図的に隠しているのなら、ユウイチが洞窟の中で妄想した陰謀説が現実味を帯びてくる。
「そうか、ウムドレビの果実の毒がなければ洞窟の入口は発見できなかったと言うことか……」
だが、世の中には知らない方が良いこともある。
ユウイチは肝心な部分には、敢えて踏み込まないでおく。
「入口が見つからなきゃ魔晶石もアースドラゴンも手に入らなかったんだ。
規制局の奴らは"ウムドレビの奇跡"と呼んでいるらしいぜ」
「あははは……」
陰謀説論者のユウイチには規制局が奇跡を全面に押し出して真実を覆い隠そうとしている様に感じる。
「だが、そのお陰で今後は洞窟の周辺が賑わうだろうな。
鉱夫達のための宿屋や料理屋、そらから治癒師なんかも必要になるからな」
ここで規制局から話題が逸れたので、ユウイチはそらちの話に乗ることにした。
「ふーん、洞窟一つでそこまで環境が変わるのか?
強ち投資話は嘘じゃなかったってことだな」
「そいつは玉石混淆だろうな。
だが、石の方でもいいから俺の担当するダンジョンが賑やかになってくれたら助かるんだがな」
ヴィーラングによると、とある領地に初心者向けの錆びれたダンジョンがあるらしい。
そのダンジョンは潜る冒険者が少なく周囲に店舗が無い。
だから、余計に冒険者が寄り付かないと言う悪循環に陥っているそうである。
「料理屋や宿屋、それから魔石やポーションを売る店なんて採算が合わなければ誰もやらないからな」
前世の経済学で、"企業の目的は利益の追求である"と言っていた。
「そうだよな……
もっとダンジョンに潜る奴を増やしたいんだが、階層が浅い上に大したお宝が出ないんだよ。
だから、初心者も慣れたら稼げるダンジョンに移動しちまうんだよ」
これは前世の町興しに失敗した自治体の嘆きに近いものがある。
箱物を作ってみたが、利用者が少なく周辺にコンビニさえできないといった具合いだろうか。
「そうか、それなら無人販売所でも作ってみたらどうだ?」
前世では田舎の道路沿いに無人販売で野菜が売られていたことを思い出したユウイチは何の気なしに提案してみた。
「所長殿、それでは無料販売所になっちまうぞ」
無人と無料では天と地ぐらいの差がある。
前世の治安の良かった日本でも無人販売所では窃盗事件が後をたたなかった記憶がある。
「そうだ、所長殿がいるじゃないか。
錆びれたダンジョンでもやっていける店を考えてくれないか?」
「ヴィーラング殿、突然の無茶振りだな。
それはかなり難易度が高いと思うんだが……」
前世の経済学では、"企業の目的は顧客の創造である"とも言っていたが、錆びれたダンジョンではハードルが高い。
「はははは、難易度で言えばアースドラゴン討伐の方が高いだろ」
「確かに俺は肉体労働より頭脳労働にむいてはいるが、もしかしたらこの問題はアースドラゴン以上に手強いかもしれないぞ」
考えられる方法としては、ダンジョンに冒険者を呼ぶか、はたまた少人数の客相手でも儲かる店を作るかの二択である。
「所長殿、期限は設けないから気長に取り組んでみてくれよ」
「やるだけやってみるが、余り期待しないでおいてくれよ」
世間話が講じて、ユウイチはヴィーラングからの依頼を受けることになってしまったのである。
「お帰りなさい、ユウイチさん。
それで、冒険者ギルドとの話し合いはどうでしたか?」
アースドラゴンや鉱床の処理がどうなったか気になるリリアが恐る恐るユウイチに結果を聞いている。
アースドラゴンだけでも相当な金額になるのだが、魔晶石の鉱床まで加わっては王国の国家予算並みになるかもしれない。
「こちらの要望は全て飲んで貰えたよ。
これでやっと通常営業に戻れるな」
「じゃあ、五等分は無しですね。
これで漸くのんびりと仕事ができます」
この所、リリア達は社交界で引っ張りだこであった。
だが、その殆どが自領への投資話や援助を求める下心満載の貴族達によるものであった。
買取り代金を教会本部へ寄付する要望が通って、これらから解放されるリリアはホッとした様子である。
「いや、そうは問屋が卸さないんだよな」
「えっ、ゴホッ……
ま、未だ何か残ってましたか?」
アースドラゴンと鉱床以外に未だ何かあったのかと驚いたリリアが、口に含んだお茶を吹き出しそうになりながらユウイチに聞いた。
「実は、ヴィーラング殿からダンジョン周辺の店舗について相談を受けたんだよ」
「ダンジョン周辺の相談ですか?
でも、洞窟関連でなくてよかったです」
そう言ってリリアは再びお茶を口に含んだ。
これ以上、洞窟に関わってはリリアが"洞窟アレルギー"を発症するかもしれない。
「ヴィーラング殿が担当している錆びれたダンジョンの周辺で営業できる店舗を作って欲しいと頼まれたんだよ」
「ヴィーラングさんは、人がいない場所でお店をやれと言うのですか?」
どうやら、リリアにもこの相談が難題だということが分かったようである。
「料理屋や宿屋なんかは無理だと思うんだよ。
可能性があるとしたら魔石やポーションを売る店だろうな」
「ユウイチさん、何で魔石やポーションなんですか?」
料理屋でも魔石屋でも客が来なければ商売として成り立たないのは同じ理屈である。
「先ず、魔石やポーションはダンジョンに潜る冒険者に需要があること。
二つ目に魔石やポーションは腐ったり劣化しないこと。
三つ目は人がいなくても売ることができることだな」
ユウイチは自信満々で説明したが、リリアは訝しんでいるようである。
貴族達の怪しい投資話ほどではないにしろ俄に信じられる話でもない。
「一つ目と二つ目は分かりますが、三つ目はどうするんですか?」
「魔石やポーションを魔導具に売ってもらおうと思ってるんだよ」
久しぶりにリリアの頭の上に"?マーク"が浮かび上がった。
こんな遣り取りは久しぶりで、何となく懐かしい感じがするユウイチである。
「もしかして、魔導具と言っておきながら魔導具の中に入ったスライムが売ると言うオチですか?」
リリアは"洞窟アレルギー"よりも"スライムアレルギー"の方が強そうである。
「あははは……
さすがに、それはないから安心してくれ」
こうして、ユウイチはリリアのスライムアレルギーに配慮しながら、新たな発明に取り組むことになったのであった。
ユウイチがヴィーラングに無茶振りされてから一週間が経ったある日のこと。
例によってユウイチによる新しい魔導具のプレゼンが研究所で始まった。
「所長さん、この見るからに邪魔そうな大きな箱は何ですの?」
そう言いながらミレイが、恐る恐る近づいて見ている。
「所長、ここに並んでいるのは魔石とポーションよね」
そう言って、リーネが箱の表面に並んでいる魔石とポーションを指差している。
「ゆ、ユウイチ所長、もしかしたら魔石とポーションを製造する魔導具ですか?」
アルマの予想は、当たらずも遠からずである。
「皆さん、不正解です。
これは魔石とポーションを売る魔導具です」
前世のバラエティー番組なら三つか四つぐらいボケられていたはずであるが、リリアによって早々にネタバレしてしまった。
「リリア君の言う通りこれは"自動販売機"と言って魔石とポーションを自動で売る魔導具だよ。
コインを投入して欲しい商品のボタンを押すと商品がでてくるんだよ」
"幽霊の正体見たり枯れ尾花"、バレてしまってはしょうがない。
ユウイチは先ず体験させてみるプレゼンプランを変更して説明を始めた。
「所長、これで何種類ぐらいの商品を売るつもりなの?
それと、価格はどれくらいにするの?」
自動販売機と聞いて商業ギルドから出向してきているリーネが興味深そうにしている。
「今のところは、魔石とポーションを三種類づつで考えている。
価格は銀貨一枚から金貨一枚までの間になるかな」
前世の自販機の様に十種類以上の商品を販売することは可能だが、今回はテスト用なので六種類にしておいた。
「複数のコインが使われるようですが、どのように判別する仕組みになっているのかしら?」
魔法規制局から出向してきているミレイが、自販機のコイン投入口を興味深そうにを見ている。
「投入口から入ったコインの金属成分による魔力の違いと、物理的なサイズや重量で選別しているだけだな」
この辺りは前世の貨幣選別装置を応用しているが、磁気ではなく魔力による判別はこちらの世界ならではである。
「ゆ、ユウイチ所長、この魔導具を何処に置くつもりですか?」
これは、王城から出向してきているアルマでなくても疑問に思うだろう。
「初心者向けのダンジョン内に設置しようと思っているんだよ」
「「「「ダンジョン内にですか?」」」」
きれいな四人のハモりも、通常営業再開を感じさせてくれる。
「魔石やポーションが必要になるのはダンジョン内だろう?
そんなに驚くようなことでもないと思うんだけどな」
富士山頂にも自動販売機が設置されている前世の日本人なら驚くようなことでも無いのだろうが、こちらの世界では予想外の場所だったようである。
「所長さんの仰ることには一理ありますわね」
「ミレイ様、それを言うなら"一理しかない"でしょう。
魔獣の巣窟であるダンジョンに魔導具を置いたら破壊されるのは目に見えてるわ」
「この自動販売機はアースドラゴンの鱗で作ってあるから頑丈なんだよ。
それに鱗から微かな魔力が出ているから魔獣は近寄って来ないと思うんだ」
アースドラゴンの鱗は、一石二鳥の働きをしてくれる強い味方なのである。
「も、もしかしたら、ダンジョン内の魔獣を従えるラスボスになるかもしれません」
「スライムに取り憑かれて、暴れ回るかもしれません」
四人からのツッコミを受けたユウイチは、プレゼンの関所のお白州の上で研究所に日常が戻ってきた感慨に浸っている。
「自販機は自走しないし、音声機能も付けていないので安心してくれ。
他に問題点や疑問点が無いようなら、ヴィーラング殿に連絡して設置してもらうが、どうだろう?」
「ミレイ様、何かない?」
「何も思い付きませんわ。
何だか久しぶりで、調子が出ませんわね」
「き、今日のところはこれぐらいで勘弁しておきましょう」
「そうですね。
私達にできることは、問題が起こらない様に祈るだけです」
いつもよりは甘めではあるが、自動販売機のプレゼンは無事に成功したようである。
そして、初心者向けダンジョンに自動販売機を設置して、二週間が経ったある日のこと。
「ユウイチさん、冒険者ギルドから報告書が届きましたよ」
「リリア君、ありがとう」
ユウイチはリリアから手渡された報告書に目を通していく。
≪ダンジョン内の自動販売機の売上報告≫
小魔石 二十個/二十個
中魔石 四個/二十個
大魔石 九個/二十個
ポーション(低) 十本/二十本
ポーション(中) 二本/二十本
ポーション(上) 八本/二十本
販売数の報告の後に"以上の結果により各階層に追加での設置を検討中である"と結んであった。
「小魔石は完売しているな。
他の商品もまずまずの売れ行きじゃないか?」
「そうですね、これなら他の階層でも売れそうですね」
「他の階層どころか街の中にも設置できるわ」
リリアとリーネが興奮気味に今後の展望を見据えていると、その横でアルマとミレイが顔を見合せている。
「で、でも、低級ポーションなら分かりますが初心者の冒険者が上級ポーションを使うでしょうか?」
はっきり言って、上級ポーションは効果が高いだけあって値段も高い。
「高価な上級ポーションなんて買ったりしていたら、初心者の稼ぎでは赤字になるのではないのかしら?」
アルマとミレイが呈した疑問を聞いて、リーネとリリアも"なるほど"と頷いている。
「たまたま、裕福な家の初心者冒険者がいたのかも知れないぞ。
オリハルコンの剣を持っているとか…… 」
ユウイチがかなり苦しい説を披露したが、四人は揃って"ナイナイ"と首を横に振っている。
しかし、設置後の二週間で想定以上の売上だったことは事実である。
一先ず、ユウイチは次の報告を待つことに決めた。
初心者向けダンジョンに自動販売機を設置して一ヶ月が経ったある日のこと。
「所長殿はいるか?」
「ヴィーラングさん、いらっしゃいませ。
ユウイチさんを呼んできますので座って待っていて下さい」
リリアが開発室に籠っているユウイチを呼びに行っている間に、ヴィーラングは勧められた通りに応接用のソファーに"ドカッ"と腰を降ろした。
暫くしてユウイチが汚れた手をつなぎ服で拭きながら現れた。
「ヴィーラング殿、自動販売機に何かあったかな?」
「さすが所長殿、よく分かっているな。
実は困ったことになってな…… 」
「売れ過ぎて自動販売機の補充が間に合わないんだろう?」
頭を掻きながら答えたヴィーラングにユウイチは自信満々の表情で言い放った。
「確かに完売は完売なんだが……」
「でも、完売して困るって変ですよね」
戻ってきたリリアが三人分のお茶をテーブルに置きながら話しに加わった。
もし、完売して困るっているなのら予想される言葉は、"補充が間に合わないから難とかしてくれ!"である。
「それがだな……
ダンジョン内に棲むゴブリンが自動販売機の使い方を覚えて、商品を買ってるようなんだよ」
「ゴホッ、ゴブリンがか?」
予想外の言葉にユウイチは噎せながら聞き返した。
「アイツら弱そうな冒険者から銀貨や金貨だけを奪っていくらしいんだ。
今や売上げのほとんどがゴブリンどもが買ったものらしいんだ…… 」
ヴィーラングによるとゴブリン達はドラゴンの鱗から出る微かな魔力には慣れてしまったようで、前世のゲーセンで見られるようなことを初心者冒険者相手にしているようである。
もしかしたら、初心者冒険者にジャンプさせて"チャリチャリ"と音がしないか確認しているかもしれない。
「……そうか
どうやら、自動販売機は奴らにとっての宝箱になってしまようだな」
前世の異世界アニメで学んだ知識によれば、ダンジョンと言えば宝箱が必須アイテムである。
「ユウイチさん、それ上手くも何ともないですからね!」
したり顔のユウイチにリリアが冷静にツッコミを入れる。
「おいおい、これは深刻な話なんだぞ……」
そう言って、ヴィーラングはソファーにもたれ掛かり天を仰いで固まった。
「ヴィーラング殿、何か良い対策を考えるよ。
まぁ、余り期待せず気長に待っていてくれ」
「はぁー、頭脳労働派なんだろ?
困っているんだから速攻で頼むよ。
所長殿、速攻だからな!」
ヴィーラングはユウイチに念を押して帰って行った。
だが、奇しくも自動販売機を使用するゴブリンの噂を聞いた冒険者達で、暫くダンジョンが賑わったのだから世の中は分からないものである。
後日談。
私の名はリーネ。
商業ギルドからの出向で、今は魔導具研究所で働いている。
最近は"リーネ"の後に"レッド"をつける方が多くてうんざりしている。
これも商業ギルドと冒険者ギルドが、おかしな催し物を始めたお陰だわ。
いえ、諸悪の根源は情報を易々と手放す所長だわ。
あー、思い出したらまた腹が立ってきたわ。
気分転換に商業ギルドから販売されている"パワードスーツ風の子供服"の販売実績と市場動向調査の結果でも読むとしましょう。
やはり、売上トップはミレイブルーね。
「うちの娘もミレイ様のように首席で卒業して欲しい」
「私は王立学院で魔法課を選考するのです。
ミレイ様は憧れです」
「これを買えば、伯爵様の覚えがめでたくなるかも……」
市場動向調査で分かったことは、貴族が主な購買層だと言うことね。
逆の見方をすれば庶民には人気が無いと言うことになるけれど、ミレイ様には黙っておくわ。
次に売上が高かったのはリリアイエローね。
「僕は、リリア様の勇姿に惚れ惚れとしました」
「リリア様が剣を振るう姿が素敵でした」
「うちの息子もあのような騎士になってもらいたい」
市場動向調査の結果では、騎士を目指す子女が主な購買層だったわ。
でも、リリア様は騎士ではないのよね。
そして三番目がアルマグリーン。
「うちの娘なら絶対に似合うと思うんだ」
「アルマ様のような娘が欲しい」
「小動物のようでとても可愛らしいアルマ様を応援したい」
市場動向調査の結果では、アルマ様の見た目に庇護欲を刺激された人達が購入したようだわ。
でも、アルマ様は見た目に反して芯がしっかりしているのよね。
そして最後がリーネレッド。
「どうして大人用がないのかしら?
あれば、リーネ様とお揃いになるのですけれど……」
「私の憧れの女性騎士キャロル様にも着て頂きたいわ。
だから、大人用を是非!」
「うちの店の娘に着せて接客させたら一部の客には大人気になるだろな。
だから、大人用の販売を考えて欲しいな」
リーネレッドだけトーンが違う意見が多いのは何故かしら。
でも、この熱い声に応えて商業ギルドでは、"大人向けリーネレッド"の発売を真剣に検討しているらしいわ。
フッ、その計画は絶対に阻止してみせるわ!
私の名はリーネ。
一部の女性からは"リーネお姉様"と呼ばれ始めている。




