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【第十五話】卓上トースター

 王家のシェリル姫が来店した噂は瞬く間に王都中に広がり、バーガー・カテドラルは連日盛況を呈している。


 暫くは貴族の馬車によるドライブスルー待ちの行列ができたほどで、王城の交通課からやんわりとしたクレームがあったほどである。


 そんなバーガー・カテドラルでも朝の時間帯には閑古鳥が鳴いている。


 その対策にユウイチは新しい魔導具を発明した様である。



「やはり朝のハンバーガーセットは胃に重いんだろうな」


「そうですね。

 朝食を摂らずにコーヒーで済ませる人もいますからね」


 そう言ってリリアは手に持っているカップを少し掲げる素振りをする。


「そうだよな、朝からバクバクと食べられるのは若者の特権だよな。

 俺のように年齢を重ねると、リリア君が言う通りで朝はコーヒーで十分だからな」


 この辺りに関しては前世の日本人とこちらの世界の住人に大差はないようである。


「参考までに教えて欲しいんだが、リリア君の朝食はどんな感じなんだ?」


「そうですね。

 朝はパンと紅茶が用意されていますね」


 貴族と言えど朝から豪華な食事はしないようである。


「今朝も食べてきたのか?」


「いえ、今日はちょっと……」


 ユウイチの質問にリリアの目が泳いでいる。


 朝食は用意されているが、食べている時間があるかどうかは起きる時間しだいということである。


 どうやらユウイチがプレゼントした目覚まし時計は役に立っていない様である。


「そうか、とても参考になったよ」


「そ、それは良かったです」


 ユウイチはそれ以上の深掘りはしないでおいた。


「やはり、今のバーガー・カテドラルにはこれが必要だな」


 そう言ってユウイチは机の棚にあった魔導具をリリアの前に置いた。


「何ですか、この箱は?」


「これは"卓上トースター"と言って、これを使うとパンがこんがり狐色に焼けるんだよ」


 ユウイチは、こちらの世界の狐の毛の色は知らないが取り敢えず狐色と言っておくことにした。


「へぇー、これでどうやってパンを焼くんですか?」


 どうやらリリアの面白い物センサーが反応したようである。


「ここに切ったパンを入れてレバーを下ろす。

 後は焼ければ自動でパンが上がってくる仕組みだよ」


 早速、始まったユウイチのをプレゼンを聞いて、リリアが目を輝かせてパンが上がってくるのを黙って見詰めている。


 暫くしてから、"バンッ"という音とともにパンが飛び上がった。


「あっ、綺麗に焼けてますね。

 キツネ……でしたっけ?」


「あぁ、これでトーストの出来上がりだな。

 色は狐色でも黄金色でもどっちでもいいよ」


 どうやら、この世界に狐は棲んでいない様である。


 しかし、探せば狐色の魔獣なら棲んでいるかもしれない。


「ユウイチさん、凄くいい匂いがします。

 トーストの入浴剤って発売されませんかね?」


「あははは……

 リリア君、入浴剤はもう勘弁してくれよ」


 ユウイチとしては、これ以上の臭いフェチ文化は遠慮したいところである。


「それで、この卓上トースターをどうするんですか?」


「卓上トースターで焼いた、このこんがり狐色のトーストを"バーガー・カテドラル"で売るんだよ」


「もしかして朝のメニューですか?」


「リリア君、なかなか察しがいいな。

 トーストに茹で卵とコーヒーを付けてモーニングセットとして販売しようと思うんだよ」


 前世の朝と言えば、やはりモーニングセットである。


 余談ではあるが、前世の"ミャーミャー言語圏"では、モーニングセットにこれでもかと言うほど色んな物がついてくるらしい。


「それならハンバーガーセットほどは重くないですもんね」


「モーニングが浸透すればトースト以外のメニューを増やしてもいいな」


 リリアに対するプレゼンが成功したユウイチはサンドウィッチやホットドッグ、バゲットサンドなんかもいいかもしれないと思いを巡らせるのであった。



 モーニングセットの発売から二週間が経ったある日のこと。


「ユウイチさん、バーガー・カテドラルからの報告書を持ってきましたよ」


「ありがとう、リリア君」


 いつもの明るい表情をしたリリアから、ユウイチは書類を受け取って目を通す。


「やはり、狙い通りにモーニングは好調のようだな」


「はい、朝に時間がない人が利用しているみたいですね。

 王都はちょっとしたモーニングブームですよ」


 リリアはそう言いながら"バーガー・カテドラル"のロゴの入った紙袋を持ち上げる。


 リリアもご多分に漏れず朝に時間のない生活を送っている人のようであるが、ユウイチはそのことには触れないでおく。


「カウンター席の利用率も良いようだし、そろそろメニューを増やしてもいい頃かな」


 ドライブスルーを設置した時にイートインスペース用に増設したカウター席がモーニングを食べる客には丁度良いようである。


「新メニューもいいですけど、トースターを置いてブームに便乗したい飲食店や宿屋から問い合せが来ていますよ」


 そう言ってリリアは王都にある、冒険者用の宿屋で実際にあった話を始めた。


「いらっしゃい、お一人ですか?」


「いや、一寸尋ねたいのだがここはモーニングとやらをやっているのか?」


 一人の冒険者がやってきて尋ねたが店主のベイカーの答えは「やっていない」であった。


「そうか、それは失礼した」


 ベイカーの答えを聞いて冒険者は帰っていった。


「いらっしゃい、お二人ですか?」


「その前に聞きたいのだが、ここはモーニングとらやをやっているのか?」


 次に来た、二人連れも先ほどの冒険者と同じ様な質問をベイカーにしてきた。


 ベイカーの答えは当然「やっていない」である。


「そうか、邪魔をして悪かった」


「へい、またのお越しを……」


 その二人連れもベイカーの答えを聞いて帰っていった。


「はぁー、最近はこんなのが多いんだよなぁー」


 ベイカーは宿屋の玄関を出て去って行く二人連れの背中を見ながら呟いた。


 そのベイカーの後方にある玄関には店名の看板が掲げられている。


 なんでもベイカーの祖父の代に四兄弟で始めた宿屋で全員で頭を捻って決めた店名らしい。


「おっ、ここじゃないのかモーニングをやってる店は?」


 そこへ"ワイワイ"と言いながら新たに二人連れがやってきた。


「いや、うちはモーニングなんてものはやっていませんよ」


 うんざり気味のベイカーが少しイラッっとしながら二人連れに答えた。


「えっ、だけど看板にバーガー・カテドラルって書いてあるじゃないか!」


 ベイカーは後ろを振り返って看板を指差してこう叫んだ。


「あのね、よく見て下さいうちは"ベイカー・カルテット"ですよ。

 そのバーガー・カテドラルとか言う店とは無関係です」


 これは発音が似ているために起こった小さな悲劇である。


 暫く"ベイカー・カルテット"を"バーガー・カテドラル"と間違ってやってくる冒険者は後を絶たなかった様である。


 堪りかねたベイカーはこれを逆手に取り、魔導具研究所から卓上トースターを取り寄せてモーニングを始めることにしてのであった。



 リリアの話を一通り聞き終えたユウイチは、ベイカーさんに心の中で謝っておいた。


「それから王城の下級役人の詰め所にも卓上トースターが置かれているみたいですよ」


 リリアが新しい情報をユウイチに提供した。


「王城の休憩室に……

 なるほど、これで謎が解けたぞ」


 昨日からの謎が解けた名探偵ユウイチは"ポン"と膝を打った。


「謎って何かあったんですか?」


「実は至急、卓上トースターを王城に届けて欲しいと要望が入ってきたんだよ」


 下級役人の詰所から漂う芳ばしい香りに鼻を擽られた国王が、朝食に卓上トースターで焼いたトーストを所望しているらしいのである。


「それでユウイチさんは朝から作業していたんですね」


「明日の朝食でもにしたいんだろな。

 お陰で早起きさせられたよ」


「でも、その甲斐あって完成した様ですね」


 ユウイチの机の上には王城の要望通り改良された卓上トースターが、"デン"と置かれていた。



 そして、研究所から卓上トースターが届けられた翌日の王城。


「陛下、朝食がとても楽しみです」


「私もレオンと同じで楽しみにしております」


「そうか、シェリルとレオンも存分に楽しむといいぞ」


 食堂に向かう廊下を進みながら国王とその子供達が話をしている。


 今日は月に一度の王族が揃って朝食を摂る日である。


 今の王族は前国王夫妻と現国王夫妻、それと二人の子供の計六名で勢揃いである。


 それに加えて本日は、傍系の王族で現在は公爵家である三名も招待されている。


「全員がお席に着かれたようですので朝食をお持ちいたします」


 侍従長の合図により数名掛かりで卓上トースターを運び入れて大きなテーブルの上に"ドカッ"と置いた。


「ほう、これが噂の卓上トースターであるか」


「陛下、これでパンが焼けるのですか?」


「待ちきれません、早く焼いて下さいませ!」


 各々が卓上トースターを見て感想を口走っている。


 その間に従者がいそいそとパンをトースターに入れていく。


 そして、"ガシャッ"と一気にレバーを下げた。


「あっ、良い香りがしてまいりましたね」


「陛下、もう待ちきれません!」


 そして、芳ばしい香りが漂ってくる頃合いを見計らった様に茹で玉子と飲み物が各自に配膳されていく。


「皆様、そろそろでございます」


 侍従長がそう言った瞬間にトースターのレバーが上がり"バンバンババババン"とパンが飛び上がった。


「おう、九枚が同時に焼き上がると壮観であるな」


 こんがり狐色に焼き上がった九枚のトーストを見て興奮気味の国王の感想に皆が黙って頷いた。




 話は戻って前日の魔導具研究所である。


「リリア君、あれは苦心の末に完成した王族専用の卓上トースターだ。

 一度に二十枚のトーストを焼くことができるんだよ」


「一度に二十枚焼けるトースターって普通のオーブンの大きさを軽く超えてしまうんですね」


 卓上なのに巨大サイズのトースターを見てリリアはすっかり呆れている。


「いいかリリア君、"大は小を兼ねる"ものだよ。

 謂わばこれは、"卓上トースター・デラックス"だな」


「ユウイチさん、デラックスが付く時点で卓上は諦めた方が良かったんじゃないですか……」


 リリアは力なくユウイチにツッコミを入れたのであった。

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