2.このまま結婚しましょう。
二週間後の約束の日。
人目を避けてきたのか目深にローブを羽織った女性が裏口に停まった質素な馬車から降りてきた。
婚約者が恭しくその手をエスコートする姿をバッチリ見た。
ちなみにメリアは時間をつぶすために庭を散策中だった。
婚約者といえど親しい間柄ではないのでいつまでも顔を合わせていたくなかったので時間つぶしだ。
庭園の四阿にお茶の用意がされる。
丸いテーブルだが心なしか2:1で対面するような距離感。メリアの左右はとても風通しがいい。
ここでお互いに自己紹介し、本題へと切り込む。
「さて、ではお二人はお付き合い成されて長いんですの?」
との質問を投げるとまだ三ヶ月くらいだという。
切欠は前当主がお亡くなりになってから前伯爵だったカーマイン様のお父上の親友だったグノリア侯爵が残された息子を慰めようと侯爵家に招待されるようになったこと。
彼女は子爵家の三女でグノリア侯爵家にメイドとして働いておりそこで面識を持ったと。
そして招かれて顔を合わせるうちに二人は恋に落ちたそうだ。
貴族の長子ではない子にはよくあることだが、家を継げるのは一人だけなので他の兄弟は家に残って肩身狭く生きるか結婚するか自力で身を立てるかの三択しかない。しかも貴族である以上平民と同じように市井で働くことは出来ないのでどこぞの貴族の家のメイドや侍従になることがおおい。
彼女もそういうパターンだったようだ。
(蛇足だが、当主がメイドに手を出して生まれた子が実子として迎え入れられるのはメイドも貴族出身だから。メイドが平民だと半貴族籍になり私生児扱いになる。)
「なるほど、経緯は把握しました。それでは今後の方針を決めましょう。まず初めに、我が家での私の意見は通りません。そしてカーマイン様も我が家の当主であるお祖父様に了承を得るのは難しいと感じているでしょう。だからまず初めに私にお話をしてくださったのでしょう。…そこで私は考えました。彼女と私はお友達になりましょう。」
「…は?」
「えぇ?」
「とはいえ急に「仲良しです」というわけにはいきませんから、一緒のお茶会に参加することから始めましょう。彼女さんはメイドをなさっているとはいえども貴族令嬢ですもの、全く一切ひとつもお茶会に誘われない、なんてことはありえませんわ。まずは誘われたお茶会の予定をお聞きしても?」
「え、あ…そんなことをして何か意味があるんですか?」
「ありますとも。お茶会や夜会の招待なんて「とりあえず出す」というのが基本ですもの、一つ二つは被ることもありますわ。そこで私たちは親しくなり友人となったことを周知させるのです。」
結婚前から友人となった方が後々に都合がいい。
「それと、カーマイン様と私との婚儀は予定通り進めましょう。そして頃合いを見て離婚し、彼女とご結婚なさればよろしいのだわ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。婚約を白紙にするのではなく結婚だって?」
「えぇ。私はお二人の純愛を全力で応援いたしますわ。けれども、お二人の要望を飲むだけでは私には一切の利が無く損しかありません。結婚適齢期で長年の婚約者との婚約が白紙になった令嬢が世間でどう評価されるかはご存じ?しかも大抵のマトモな男はとっくに売り切れている市場で残っているのはワケアリばかりですのよ。そもそも私だってカーマイン様を愛してはおりませんがあの家を出る手段として婚姻を心待ちにしておりましたの。令嬢のまま放逐されては困ります。せめて離婚歴は欲しいのですわ。そうすれば社会的に自立した個人とみなされて家とは縁を切れますもの。」
「魔法誓約があるのに結婚など出来るはずが無いだろう。」
「誓約の内容に【結婚しない】とは書かれてはいません。【身を引く】【離れる】【別々の人生を歩む】と明記されている筈です。ですから最終的に私とカーマイン様は離れますし、ほんのすこし過程が変わってくるだけのことですからさしたる問題ではないかと。」
出した書類を見たカーマイン様は絶句していたが、こんな程度のことは貴族同士の蹴落とし合いや裏のかきあいではよくあること。
明確な文言はなく、それを連想させる言葉を入れて相手を信用させることは処世術のうちだとおもっている。




