3.目的達成のための作戦を考えましょう。
「俺としては離婚歴などという瑕疵を作らないことが君へのせめてもの誠実さだとおもっていたんだがな…」
「あらぁ、うふふ身勝手なことですわね。一般的な令嬢にならソレは当てはまるのかもしれませんが私には迷惑な押し付けです。相手を思い遣るのはとても大切なことですが、自分の罪悪感を軽くするための行為は優しくありませんわ。」
「そう、だな。すまない。…それにしてもメリアは、きみは笑えたんだね。」
「あら、いけない。…私ったら笑っていました?貴族として感情を顔に出すなと厳しく教育されてきましたが、今日ばかりは嬉しさを抑えきれなかったようですわ。」
メリアは常に微笑みを絶やさない令嬢だった。しかしいつもその目の奥は笑ってはいなくて気味が悪かったのに…とカーマインは心の中でごちる。
「さぁあ、それでは作戦を立てましょう。カーマイン様とユーレア嬢は結ばれて睦まじく生きていくことが目標で、私はノクオリオ家からの離脱が目標でお間違いないですわよね?」
「…あぁ。」
「はい、そうです。」
「では、私の考えたシナリオをお聞きになって。ご意見があれば都度に改善していきましょう。」
メリアが語るシナリオは以下の通りだ。
①婚姻前からユーレアとメリアが親しい友人になる。
②予定通りカーマインとメリアが結婚する。
③バーレイズ伯爵夫人としてユーレアと更に親交を深める。
④頃合いを見て隣国に夫婦で旅行に行き、そこでメリアは一夜で恋に落ちた男と駆け落ちするという体で失踪。
⑤傷心のまま戻ったカーマインとメリアの行方を心配するユーレアという図式でバーレイズ宅に足を運ぶ。
⑥そのうち恋仲になりました。
⑦ハッピーエンド
…という、よくある展開の陳腐なシナリオがメリアから語られた。
「このシナリオだと結局メリアが悪妻ということになるんじゃないか?」
「べつにそう呼ばれても構いませんわ。私の耳に入らなければどうでもいいですもの。それに悪評が立てばあなたたちの恋仲の後押しになるだけではなく私が完全に家から縁を切られたいからでもあるのです」
「どうしてそこまで…?」
「そうとでもしないと、家に連れ戻されてしまうかもしれないでしょ。」
ニッコリ笑っている。
けれどもユーレアは背筋が凍るほどの怖さを感じた。
メリア様の目の奥が暗くて、どす黒くて。
「ときに、ユーレア嬢はメイドの就職先にノクオリオ家へは希望しなかったのかしら?」
「え?あ…とても条件が良いので家から推薦状を送りましたが、書類審査で落ちました。」
「そう。それはよかったわね。」
「……どうしてですか?」
「だって、我が家の家臣は下男までも終身雇用だもの。あなたのような美しい女性はきっと耐えられなかったとおもうわ。お給金や労働環境が悪いわけではないけれど、お祖父様がね…」
「ノクオリオ伯爵様はそんなにも気難しいお方なのですか?」
「そうね、ある意味では難しい方よ。逃げた使用人は引き摺り戻すし罰としてお祖父様の部屋に裸で繋がれるから、みんな息を殺して大人しくしているわ。」
「っ!?」
「若くて美しいと気に入られてしまうから、期間は長くなりがちね。」
「気持ち悪いッ」
「そうよね。だから縁を切りたいのよ。あの家で使用人は喋って動く人形で、家族でさえ駒としての扱いだもの。夢も希望もありやしないわ。」
切実に家から逃げたいメリアの心の闇を垣間見て、カーマインとユーレアは口を噤んだ。
先に言われたように、自分たちの気遣いはエゴで悪者になりたくないだけという偽善の浅ましさが浮き彫りになって恥じ入るしかなかったというのが正直なところ。




