3-9 霊魂潜行
「おおー涼しい!」
樹海の一同は建物内の涼しさに驚く。
「先生! 水の精霊の気配がします。」
アウロの言葉に、
「それはそうだ」
アルテューマの説明では、この建物は採風塔だけではなく地下用水路も組み合わされて作られているという。
この涼しさはそのお陰なのだそうだ。
自然の物をうまく組み合わせてクーラーと同じ効果を出していることに感心するターロ。
(自然破壊なんてしなくても、快適な環境は作れるんだな。この世界はそっちの方に発展していって欲しいものだ)
そうなるように自分も協力していこう、とターロは思った。
「火の精霊の影響を免れて、地下水は蒸発はしないのか。それがこの建物の下をたっぷり通っているんだね。水の精霊と接触したら、何か分かるかな?」
とターロが言うので、地下に皆で行ってみる。
地下一階は部屋として使用されていて、地下二階に用水路があった。
「すごい水量だね。水の精霊の力も強そうだ」
と、ターロが大声で言う。
流れる量も速さもかなりのものがあり、室内はゴーッという音のうねりで満たされていた。
これでは鼻笛による精霊との接触は出来ない。
そうなると頼みになるのはアウロの魂力のみだ。
「僕、水の精霊と話せるか試してみます」
アウロは屈んで用水路に手を浸した。
目を瞑りそのまま動かない。
皆が見守る中、アウロは小刻みに震えたかと思うと、そのままガクリと脱力した。
慌ててターロとメトドが、用水路に落ちないようにアウロを支える。
「気を失っています、、、ターロ様! アウロの魂が深い所まで持っていかれているようです!」
焦りながら言うメトドに、眉をひそめ応えるターロ。
「、、、うん、不味いな、、、。このままだと帰ってこられなくなるぞ、、、」
二人の会話に、不安そうにアルテューマが尋ねる。
「ど、どうしたのだ? その少年はなぜ急に気を失った?」
「精霊と接触して、そのまま精霊に魂を持っていかれたようなのです。今この体に彼の魂はない、、、」
「どういう事だ? 死んでしまったと言うのか?」
「いいえ、魂と体は依然として紐付いているので、死んではいません。いませんが、とても不安定で危険な状態です。この紐が切れたら、、、その時は、死んでしまうでしょう、、、」
苦しげにそう説明するターロ。
ドーラもかがんで心配そうに覗き込んでいる。
「私が、アウロの魂に潜って連れ戻します!」
とメトド。
「いや、危険過ぎる。下手したら二人共戻ってこられなくなるかもしれない。行くなら俺が行くよ。少なくとも俺は経験済みだ」
そうだ、この方は”異世界渡り”なのだった、と思い出すメトド。
ターロが、アウロの魂にサイコダイブしようと、彼を抱え、身構えたその時。
「ターロ様、、、」
メトドの握る杖が薄く輝く。
「あ、、、」
ターロが、腰に落とし差しにしている木刀も淡く光っている。
「、、、なんか、大丈夫みたいだね、、、」
と、ターロとメトドは安堵の胸を撫で下ろす。
ドーラも何かを感じたようで、心配そうだった顔がいつものに戻っている。
「ど、どう言うことだ?」
話が見えないサッカルとアルテューマが説明を求めた。
「この木刀も、メトドさんの杖も、精霊樹から貰ったものなのです。これを通して、大丈夫だから何もするな、と精霊樹が知らせてくれました」
「、、、そんな事が、、、」
二人は、精霊とそれに関わる者の不思議さを目の当たりにして言葉を失っている。
ややあって、ターロの腕の中のアウロがビックっと体を大きく震わせると、目を開いた。
アウロの手元が輝いている。
そこには飾りの一切ない杖と、木製の鼻笛が握られていた。
「、、、あ、ここは、、、。 戻ってきたんですね、、、?」
アウロは何故か泣いていた。
「大丈夫?」
とターロが尋ねる。
「はい、、、でも、、、あの、、、」
「いいんだよ、言いたくない事があるなら、言わなくても。いつかアウロが大人になって、話してもいい、と思えるようになったら、酒でも呑みながら聞かせてよ」
何かを察したターロが優しく言う。
「、、センセ〜、、、」
アウロはターロの胸に顔を埋めて泣くのだった。




