3-7 砂漠管理団長
「おや、族長殿」
中央公館へ向かう道すがら目抜き通りに出るやいなや、わざとらしい笑みを湛えた一人の男が寄ってきた。
明らかに待ち伏せしていた様子。
「やあ、ゼーロ殿」
挨拶を返すアルテューマ。
「あの男が砂漠管理団の団長だ」
とサッカルが小声で知らせてくる。
「ターロ様、、、」
「うん、分かってる」
メトドの目配せに応えるターロ。
老砂漠毒蜥蜴で門に出来た人だかりを遠くから睨んでいた男達の一人だ。
ゼーロは態とターロ達とは目もあわせずにアルテューマに言う。
「お連れは見ない顔だが、紹介願えるか?」
「うむ。樹海の魔術師の方々だ。サッカルの客としてこの街にご滞在頂いている」
「ほー、サッカル殿の客分扱い、、、。 魔術師風情に、随分と高待遇ですな」
その物言いにサッカルが、
「無礼であろう! ゼーロ殿」
と咎めてもゼーロはニヤニヤするだけで取り合わない。
「砂漠管理団というのは、そんなに強い権力が与えられているんですか? 族長とその従兄にむかって、随分な態度ですね?」
と不快を顕わにするターロに、
「小僧は黙ってろ。そこの頭巾を目深に被った男、お前がエルダーを仕留めたそうじゃないか。どんな手をつかった?」
とゼーロが返した。
どうやら、バシリスクを仕留めたメトドを一番の実力者と勘違いしているらしい。
「ゼーロ殿!」
あまりの無礼さに今度はアルテューマが声をあげる。
大通りで、真っ昼間。
人通りは沢山あり、何事か、と野次馬が集まってくる。
それを待っていたのだろう。
「アルテューマ殿。このゼーロ、神殿周辺の管理を任されており、そこでの詐欺行為は見過ごせぬのですよ。こやつらは何かインチキをして、エルダーを狩った様に見せかけ、サッカル殿に取り入ったに違いない! 樹海の魔術師というのも怪しいもんだ。その生成りの麻の裾長服さえ着れば、それらしく見えますからな」
野次馬に聞かせるように、芝居がかった大声を張り上げるゼーロ。
それに対し口を開きかけたターロをメトドが制して、
「では、どうしろというのだ?」
前に出た。
意味深な目配せをしてくるメトド。
なにか考えがあるのだな、とターロは下がった。
そんなやり取りには全く気付いていないゼーロは、メトドの言葉を待っていましたとばかりに、
「エルダーを仕留めたという、火矢の魔法を見せてみろ」
と応えた。
(何なんだ? 本当にインチキで、魔法は使えないとでも思っているのか? あんなに目撃者がいたのに、、、)
ターロはゼーロの自信たっぷりな態度に違和感を感じるが、メトドを見ると、眴せして何かを訴えている。
目線の先を見るとゼーロの後ろにいる取り巻きの一人が何か短い手笏の様な物を持っていて、そこに魔力を注いでいた。
(あれは魔道具?)
ターロはメトドに確かめようと小さく唱える。
【テレパシー】
(、、、!)
会話が出来ない。
(そうか、あの魔道具はマジックキャンセラーの一種だな)
どうやら、魔法を無効化する魔道具らしい。
(あの魔道具の影響下で魔法が使えない所を野次馬に見せて、笑いものにしようって腹か。なんてえげつない)
ターロは試しに、自分の手に魔力を集めると、霧散することなく集まる。
(体内の魔力を消すほどの力は無いんだな。そりゃそうか、そんなに強力だったら、あの魔道具を発動させる魔力も消えちゃうし、生命維持に必要な魔力も消えて周りの人がみんな死んじゃうしな。よし、それじゃあ、、、)
何か思いついたらしい。
屈んで何かを拾うとターロは言った。
「じゃあメトドさん、ぶちかましちゃってよ。アルテューマ殿。高価じゃない種類の硬貨持ってますか? あー、駄洒落じゃないですからね」
「?」
この状況下でよくそんなことが言えるものだな、信じられん、と、ターロの顔を怪訝そうに見ながらも、アルテューマは懐の硬貨を探る。
「三枚ほどあるが、、、」
「それをメトドさんが射抜きますんで、空中に放っちゃってください!」
と観衆に聞こえるよう、ターロは大き目の声で言った。
「なんと! そんな曲芸が」
素直に驚くアルテューマだが、メトドは、
「え! ターロ様、、、それは流石に、、、」
小さな声で抗議すると、
「色んな意味で大丈夫だから」
と、メトドにだけ聞こえる小声でそう言ったターロは、今度は大音声で、
「さあ、皆さんご注目!」
観衆を煽る。
おお〜!!
という一瞬のどよめきの後、静まり返って、皆がアルテューマの手元のコインに注目した。
ニヤつきながらもゼーロ達もコインを注視している。
「で、ではいくぞ」
集まった注目にちょっと緊張しながらアルテューマが三枚の硬貨を空中に投げると同時に杖を掲げたメトドの詠唱。
【ファイヤーダーツ】
バシュッ、バシュッ、バッシュッ!
杖から射出された極小の手矢は狙いを違わず三枚のコインに命中。
空中で少し弾かれ、コイン三枚は地面に落ちた。
少しの静寂の後、硬貨を見た者が驚きの声を上げる。
「あ、穴が、硬貨に穴が開いているぞ!」
「本当だ! 当てただけじゃなくって、射抜いたっていうのか?!」
「こんな小さな物を? 三枚とも?」
コインを拾ったアルテューマがそれを摘んで皆に見えるようにする。
そして感嘆の声を漏らした。
「むうう、、、硬貨を溶かすのではなく、射抜くとは、、、。 どれだけ魔力が収束しているのか想像も出来ん、、、」
おおおおおッ!!!
大きな歓声。
ハッとしたゼーロが後ろを振り向くと、手笏を持っていた取り巻きの男は腕を抑え悶ていた。
手笏は地面に転がっている。
ゼーロが此方を苦々しげに睨みつけながら絞り出すように言う。
「ぐっぐ、、、どんな手を使った!?」
アルテューマは蔑みの目で返す。
「どんな手も何も、今見たであろう。実際魔法の火矢を放っていたではないか。これで懸念は晴れたな?」
勿論、ゼーロの言う”どんな手”と言うのは、火矢の魔法ことではない。
どうやって魔道具を使わせなかったか、という意味なのだが、それを言える訳もなく、
「ふん。これも役目なのでな。悪く思うな」
と捨て台詞を残して、取り巻きと共に去って行くのだった。




