2-24 緑色地竜ドーラ
「へえ、ここなら誰にも迷惑にならなそうだね」
浜は三方を低い崖に囲まれていた。
所謂、ポケットビーチという地形だ。
ドーラがはしゃぎ回っても大丈夫なくらいの広さはある。
「じゃあ、何から始めるか。先ずはドーラだな」
ここに来てから、確認をするように匂いを嗅いだりして走り回っているドーラ。
「お〜い、ドーラ〜っ!」
呼ぶと、凄い勢いで戻ってきた。
ターロは前世で飼っていた犬を思い出す。
「ぬししゃま。なあに?」
ターロの腕にぶら下がって来るドーラ。
「ドーラさぁ、何が出来るか教えてよ」
「どーら、いろいろできるのよ! やる?」
「あっ、ちょっと待って。毒とか吐いたりする?」
「どくだせる」
そんなこと何でも無いといった顔で衝撃発言をするドーラ。
「出さないで。っていうか、何で毒出せるの?」
慌てて止めて、前から思っていた疑問をぶつけた。
何故属性が毒なのか。
地竜の属性はほとんどが土なはずだ。
それは、ライン王子の記憶や、メトドの知識、そしてイッヒーから受け継いだ魂力”ライブラリ”でも確認済みだ。
稀に水属性があるが、毒、というのは記録にないらしい。
「どーらねえ、つちのせーれいとおやくそくしてるの」
「おやくそく?」
(契約のことか?)
「そう。どーら、うまれるとき、つちのせいれいが、どくがたいへんだ〜ってないてて、じゃあたすけてあげる、って、いったの」
「ん? 全然分からないぞ? 、、、メトドさん、アウロ、分かる?」
「いえ、、、」
メトドでも分からないらしい。
アウロが訊く。
「土の精霊が泣いていたの? 悲しくて?」
「んーん。くるしくて」
「苦しくて?」
「そう。かわからどくがいっぱいきて、つちにしみこんで、くるしーって」
(かわ? 川か?)
前世の知識があるターロには話が少しずつ見えてきた。
「ああ、鉱毒か!」
「鉱毒?」
と、メトド。
「そう。鉱山で、金属の採取とか精錬する時に、毒が出るんだよ。それが川に流れちゃってる、ってことじゃない?」
「そうかもしれません。ドーラがいた辺りには、ターロ様が流れてきた川とは違う、もっと大きな川が流れています。その上流にも帝国の鉱山があったはずです。」
「ライン王子がいた方の川は鉱毒が出てなかったよね? 魚が浮いたりしていなかったし。」
「そうですね。あの川は、特に問題ないはずです」
思えば、わざわざ運んで死体を流していた。
採掘や生活に必用な水は、帝国側に流れて行く川を利用していたようだった。
「じゃあ、ドーラが言う川の上流の鉱山では金とか銅とかでも掘ってるのかな?」
「金や銅ですか?」
「うん。金とか銅とかの採掘には、鉱毒が出るらしいよ」
ターロも簡単な前世の知識しか無いので断言は出来ないが、この世界の科学レヴェルで鉱毒が出る採掘物は、金や銅だろう。
「何掘っているかなんて、この際どうでもいいや。で、ドーラ、その土の精霊とドーラはどういう関係なの?」
「ん? おともだち」
「、、、分からん」
「ターロ様。ドラゴンには属性がありますが、それは親から引き継いだり種族によって決まっていたりという事ではないとされています」
「そうなんだ」
暇があれば大賢者の方丈の本を読み漁っていたというメトドは、流石に博識だ。
「はい。証明されてはいませんが有力な学説では、ドラゴンが生まれるときその土地の有力な精霊と契約を結ぶか祝福を受けるかしてその精霊の属性を得る、とされています」
「そうか。だから、地竜は土属性ばかりなんだね」
「話からすると、土の精霊に泣きつかれたようですし、ドーラも大きな括りでは土属性なのではありませんか?」
「土属性の、毒特化型?」
「そんな感じかと」
「そうか、、、それで、土壌を汚染している毒を浄化する為に、ドーラが何らかの形で消費している、ってことかな?」
結論は推測の域を出ないが、考える材料が少なすぎる。
分からない事をいつまでも、あーだこーだする意味はないので、考えを他へ向けることにした。
「ってことは、土魔法も使えるのかな? ドーラ。ブレスは毒以外できるの?」
「うん。どーら、できる。やる?」
「危なくないようにやってみて」
するとドーラは息を大きく吸い込み、
「きゃ〜〜〜〜〜ぁ!!」
叫んだ。
ドラゴンのときとは違い、女の子らしい甲高い叫び声。
しかし、それが齎した物は可愛らしさの欠片もない。
ドーラを起点に扇状に、地面から人の腕ほどもある先端の尖った土塊が勢いよく突き出した。
触るとかなりの硬さがある。
まるで針山地獄だ。
この真上に立っていたら、と想像して青ざめる三人。
「す、すげーな、、、人形のままでも、出せるんだな、、、ドラゴンブレス」
三人は口を開けて見るしかなかった。




