2-23 真の仇
「どうかしましたか? ガレオスさん」
皆が盛り上がっている中、一人バルコニーに出て海を眺めているガレオス。
杯を片手にターロも出てきて、その横に立った。
「うむ、ターロ殿。 実はお主に礼を言わねばならん」
「礼? 何故でしょう?」
「商会支部長のユーキリスはな、儂の、、、義理の息子だ」
「え? って言うことは、、、」
「ああ。奴の女房、ゾーイは、儂の、、、娘だ」
「、、、そうだったんですね、、、」
そういえばユーキリスは、”会わせたい人”と言っていた。
それはガレオスの事だったのだろう。
「予断を与えぬ為、ここへ連れてくる前に何も言うなとユーキリスには言ってあったのだ。隠していたわけではない。すまぬ」
「いえ、いいんですよ」
「ユーキリスから聞いた。娘も孫も浄化してくれたそうだな。他の者は、目が飛び出たり、鼻から脳髄が出てたりで、酷い有様だったが、、、あいつらは綺麗なもんだった、、、。 恩に着る」
「いえ、そんな、、、」
なんと言っていいか、ターロには言葉が見つからない。
「あれは芯の強い子でな、、、ユーキリスから、あれの最後を聞いた。 女だてらに勇ましい最後だったというじゃないか、、、」
海を見たままガレオスは話し続ける。
「母親は、あれが生まれて直ぐに死んだ。男手一つで育てたが、、、自分でいうのも何だが、しっかり育ってくれてな。儂が漁に出てもおとなしく待っていて、手が掛かった覚えがない。、、、だが、一度だけ、儂に反抗してな」
「一度だけ?」
「そうだ。それが、ユーキリスを連れてきたときだ。 、、、年頃になったら、儂の後継者になれそうな、活きのいい漁師と一緒にしてやろうと思っていたんだが、、、生涯の伴侶だけは、自分で決めたい、と言ってな」
「そんな事があったんですね、、、」
「そこまで慕った者を守って死ねたんだ。 幸せな、、、死に方だ」
手摺を持つ手が、小刻みに震えている。
ターロはガレオスの顔は見ずに、一緒に海を眺めた。
波の音がする。
その音の間から、
嗚咽がこぼれた。
暫く海を眺める。
ややあって、ガレオスが口を開いた。
「ターロ殿。娘と孫の本当の仇は、天使なのだろうか?」
「ええ、あの男の研究には、天使が何かしら関係しているはずです。あの男の研究成果の詰まった宝玉を持ち去りましたから、、、」
「じゃあ、その、”研究”が、本当の仇、って訳だな」
「そうなりますね」
ガレオスはターロの肩を掴み、
「娘や孫と同じ死に方をする者を二度と出したくない。手伝わせてくれ。何でもする」
肩を掴む手に、手を重ね、
「お願いします」
ターロは、しっかりと応えた。
昼もだいぶ過ぎて、宴会はお開きになった。
これから足の速い船を出し、半島付け根の内側にあるブラキーオーンの首都、ミュコスに増援を頼むらしい。
それが到着するのに早くて三日はかかるという。
「分かりました。それまで、特訓をしています」
と、ターロが言うと、何の特訓だ、と聞かれる。
「主に魔法ですかね」
ドーラに関しては、先ず彼女の能力を調べなくてはならないが、メトドとアウロはまだまだ魔術の底上げが出来るだろう。
無論、ターロ自身も、だ。
「なら、我々にも何か教えちゃくれませんか?」
漁師達がいう。
聞けば学校に通ったことがある者は一人もおらず、皆、読み書きも碌に出来ないらしい。
その所為で、商人に騙されたりもするらしいが、その時は腕力による報復があるので滅多に起きることではないという。
「では、我々の修行の合間にこちらにお伺いしましょう。読み書きと、計算、生活魔法から始めるので如何でしょうか?」
「おお、こいつらにそんなに色々教えてもらえるんなら寝泊まりはこの漁師小屋でしないか? 客間もいくつかある。その方が移動の手間もないだろ? 飯も運ばせるぞ」
というガレオス。
願ったり叶ったりなので、厚意に甘えることにした。
魔法の練習場所には人気のない浜があるという。
ターロたちは早速、宿から荷物を取ってきて漁師小屋に置くとその人気のない浜へ行く事にした。




