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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第二章 海の国 ”ブラキーオーン”
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2-22 生魚と腕相撲

「酒は!」


「こっちだ。杯を並べろ!」


あっという間に宴会の準備は整い、四人は真ん中に座らされた。


目の前には豪華な料理がどんどん並べられていく。


その中の一皿を見て、


「あっ」


と、アウロが小さく声を上げた。


実はターロたちへの”品定め”は、銛による奇襲で終わりではなかった。


そう、”生魚”だ。


別に食べられないからといって、協力を拒むわけではないが、所謂、”お約束”である。


外の国から来た客人にはこれを出して肝の座り方をみるのが恒例となっている。


躊躇している様を笑って酒の肴にしよう、というだけの事だ。


本当に食べさせようとは思っているわけではない。


勿論、食べて気に入ってくれればそれが一番嬉しい。


が、長い時間のなかで、それは諦めてしまった。


連邦国では盟主国ケパレーと山岳国プースは、内陸に位置し海がない。


樹海国ケイル、砂漠国オステオンに、平野国スケロスは海に接する部分はあれど、首都は内陸にあり、やはり生魚を食べる文化は沿岸部にしかない。


流通が発達していないので、この国ですら海岸沿いの町に住む者しか文化的に生魚を食べることは無いのだ。


内陸部の人々は、塩漬か干物を食べる。


特に塩漬は、かなり日持ちがするので定番の食材だ。


ライン王子の故国ホーフエーベネも北側が海に接していたが、帝国と聖教皇国に挟まれていた関係で漁業自体あまり盛んではなかった。


実際、ライン王子は生魚を口にしたことはない。


しかし、今はラインではない。


ターロだ。


そしてターロは、元大田太郎(日本人)である。


生魚ドンと来い、である。


よって、


「うっほー! うっっまっそーっ!」


歓喜している。


何かおかしいぞ?


漁師達は、予想と違う反応にざわつき始めた。


「せ、先生。生ですよ。お腹壊したら、、、」


そう小さく言うアウロ。


「だーいじょーぶ、大丈夫! 新鮮だし、見た所、寄生虫がつくような魚いないし。心配?」


「はい、、、正直」


「しょうがないな〜」



スキャン(精細探査)



(また魔法の無駄遣い、、、)


「やっぱり寄生虫なんていないよ! これ、どなたが(さば)いたのですか?」


「儂だが」


隅っこに座っている初老の男が応える。


「大した腕ですね! 頂いても?」


「、、、ウム」


困惑気味なその返事を聞くと同時にターロはパクリと一口。


「美味い!」


それを見て、メトド達も恐る恐る食べる。


「!」


いい意味での海の香りと、後からくる繊細な甘みに、そして肉とも違う不思議な歯触りに目を見張った。


「ね? 美味いでしょ。捌いた人の腕が良くなきゃ、こうはいかないよ」


「分かるのか?」


これらを捌いたという初老の男が驚いたように尋ねると、


「分かるのかって? これだけ角がたってるんだ、新鮮で刃物の切れ味と捌く者の腕が良くなきゃぁこうはいかないっすよ。筋が口に当たらないよう考えて切られているし、脂の多い魚とそうじゃないので、切り方も変えてある。あなた、さては名のある料理人ですね?」


「料理人ではないが、、、よ、よく、見抜いたな、考えて捌いている事を、、、、。今までほとんどの奴は気付きゃしなかったのに。コイツラときたら、食えればいい、腹が脹れりゃそれでいい、って連中だからな」


そう言って漁師達を睥睨(へいげい)すると皆、バツが悪そうにしている。


「ターロ殿と言ったか。お主たちを歓迎しよう。儂の名はガレオス。この国の代表権を持つ五人の評議員のうちの一人だ。今後いかなる協力も惜しまんと約束する」


と言ってターロに向かって盃を掲げる。


意外にも大物で、メトド、アウロは驚くも、ターロは気にした様子もなく、


「こちらこそ宜しくお願いします」


と言って同じ様に盃を掲げた。


その後、宴は盛り上がる。


生魚だけでなく煮魚、焼き魚、それから前の街で食べた、大蒜オリーブオイ(アヒージョ)ル煮。


他にも樹海出身のメトドやアウロが見たことのない料理の数々。


(醤油が欲しいな)


と思うターロだったが、口に出すほど野暮ではない。


どれも美味しく頂く。


ドーラは基本草食よりの雑食なせいか海藻サラダが気に入ったようで、大きなボールの中身を一人で全て平らげて、周りを驚かせていた。


「ところでこの譲ちゃんは、娘さんかい? そこの少年もそうだが、こんな小さい子たちを連れての旅は危ないだろう?」


酔もまわってきて、漁師の一人が遠慮もなく訊いた。


「ああ〜。その子を甘く見ないほうがいいですよ。ここにいる全員、その子に腕相撲で勝てないですから」


少しの間を置いて爆笑が起こる。


「うははは! 兄ちゃん! 冗談下手だなあ! いや上手いのか?」


「いいえ、冗談じゃありませんよ。試したらいい」


笑いもしないでそう言うターロに、まさかそんな事はあるまい、と漁師見習いの男の子とドーラを対戦させると、、、


ドン!


「痛ってっ!!」


あっさりテーブルに手の甲を打ち付けられて痛がる男の子。


「おいおい、マジかよ」


少し年嵩の男の子が出てくるが、やはりあっさりとドーラが勝つ。


この辺から大人達が異常に気付き、


「では俺が、」


と、大人が出てくるが、誰も勝てない。


「どどどどうなってんだ?」


宴は腕相撲大会となってしまった。


しかし、ドーラは何人と対戦しようと疲れた様子すら見せない。


結局誰もドーラに勝つことは出来なかった。


「お嬢ちゃん、、、いやお嬢ちゃんなんて言っちゃぁいけねーな。ドーラちゃん。つえーんだな」


(つい)に負けを認めた漁師達。


「ん。どーら、つおい!」


褒美に貰った貴重な蜂蜜入り果汁水を、両手で抱えて満足げにコキュコキュ飲んでいるドーラ。


「ここにいる二人は巫覡(シャーマン)ですから、ドーラのように腕力はありません。でも、強いですよ。試しますか?」


「い、いやいや、もういいよ。ターロさんとドーラちゃんで、よっく分かったから」


と、慌てる漁師達。


だが、


「なんだか今回はいけそうだな!」


今までの討伐は失敗続きで海賊に漁場を荒らされても諦めていたが、四人の頼もしさに希望を持った一同だった。

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