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12話魔王様の初恋?

「睦月―――――!!!!!!」


魔王はあらんかぎりの声で叫んでいた。

観客席の眼下に見える闘技場に降りようとその身を翻すが、側近のアージダハーカや近衛騎士達に取り押さえられる。


「魔王様!!いけません!!」


アージダハーカの言葉にも耳を傾けず、魔王はひたすらに叫んでいた。


「いやじゃ!!いやじゃ!!睦月が…睦月が死んでしまう!!」


魔王は必死で側近達から逃れようとするが、全く動けなかった。今の魔王は冷静さに欠けて力も魔力も上手く放出できないからだ。


「試合を…試合を中止にしてくれぇ…」


魔王はとうとうか細い声で泣きながらアージダハーカに乞う。だが、アージダハーカは「それはできません」そう言うと首を横に降った。


「なぜじゃ!!このままでは睦月が死んでしまう…」

「彼は敗けを認めておりません…試合は続行します」


魔王の涙ながらの懇願にもアージダハーカは首を縦には降らなかった。彼には睦月の本気が痛い程に理解できたからだ。






「誰…が…死ぬって…?」


闘技場の舞台で、睦月は呟いた。身体中に出来たたくさんの傷からは大量の血を流し、呼吸をするのもきつく、立っているのもやっとの状態だ。

それでも彼は倒れなかった。どれだけ辛かろうと、苦しかろうと彼は諦めない。

それは彼が勇者だからなのか…それとも魔王を愛しているからなのか…。誰にも分からない。ただ、分かる事は傷つき、苦しみながらも今あの場に立っている青年は誰よりも輝いていた。


「俺は死なない…アンタを嫁に…するんだからな…」


そう言うと睦月は剣を構え直し、目の前に立って睦月を嘲笑う吸血鬼サルーワを睨みつける。


「魔王様を嫁に…だと?よくもよくもよくも!!あの高貴なお方に口付けおって―――貴様だけは許さん!!貴様はこの私が灰塵にしてくれる―――!!!!!」


サルーワから発する殺気に闘技場の舞台にヒビが入る。サルーワの周りの空気も痛い程にビリビリとしていた。


「貴様だけはぁぁぁぁ!!!!!!!!」

「俺は…死なない――!!!!!」


二人を中心に白く大きな衝撃が響くのだった。






☆☆☆






「馬鹿者がぁぁぁぁ!!!!」


第四次審査での対戦後、医務室のベッドに横になっている睦月に対して魔王はあらんかぎりの声で叫んだ。

すかさずやって来た医務官に静かにするようにキツク言われ、魔王は憮然としながらも拗ねたように口を閉ざした。


「五月蝿いなぁ…結局俺が勝ったんだから別にいいじゃねーか…」


ベッドに横になり、魔法治療を受けながら睦月が口を開く。

その横柄な態度に魔王はますます怒りがこみ上げてくる。


「お主…あれ以上出血していたら死んでしまっていたかもしれなかったのだぞ…それなのに試合を続行させるし…」

「あぁ…悪かった悪かったよ…」


怒りながらも泣きそうに自分を見つめてくる魔王に睦月は素直に謝った。

これ以上魔王に何かを言われるのが耐えられなかったのだ。

自分が思っている以上に魔王に惚れてしまっていたのか…と睦月は内心で笑うしかない。魔王に泣かれるのは困る…惚れた弱味とはよく言ったものである。


「しっかし…魔王さんがこんなに心配性だったとは思いもよらなかったよ…魔族のトップなんだからもっと平気なツラしてろよ」

「う…五月蝿いのぅ…普段の儂はもっと冷静だし落ち着いておるわい…お主だったからああも取り乱してしまっただけじゃ」


睦月の言葉に魔王はますます拗ねた口調で言い返す。その言葉に睦月は呆気にとられてしまう。


「ちょ…それって…え!?アンタ…それって…俺の事…え!?」


睦月の慌てように魔王は自分が何を口走ったのかを思い出し、みるみる顔を赤くしていく。


「なななななな何でもないわぁぁぁぁ!!」


魔王はまたしても大声を張り上げると、脱兎のごとく医務室を逃げ出すのであった。


その場に残された睦月はこっぴどく医務官に叱られるのであったが…。






☆☆☆






「儂…儂…あやつの事が…好き…なのか!?」


御年22になって、やっと魔王にも初恋という名の春がやってきたとかどうとか…。




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