表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン嫌いの元英雄は裏方仕事に徹したい ~うっかりA級攻略者をワンパンしたら、切り抜き動画が世界中に拡散されてしまった件~  作者: 厳座励主(ごんざれす)
第1章 ダンジョン嫌いニキ、バレる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/36

第20話 新ゲート出現

 ドルヴァノと会ってから一週間。

 俺の生活は、拍子抜けするほど、平穏そのものだった。

 会社の研究室は相変わらず散らかり放題で、締め切られたカーテンとモニター群の青白い光が、昼夜の区別を曖昧にしている。


 そんな、不健全極まりない部屋の中央。

 ぷすぷすと煙を上げる人間が一名いた。


「――ぷじゅー……っす……」


 愛沢は机に突っ伏し、完全にオーバーヒートしている。

 俺は自販機で買ってきたエナジードリンクを、愛沢の頭の上にコトンと置いた。


「ほら」

「あ、ありがどっす……」


 愛沢は震える手で缶を受け取り、プルタブを開ける。

 そのまま一気にあおり、ぷはあっと大きく息を吐いた。


「うひーっ、生き返るっすぅー!」


 カフェインによって無理やり覚醒させられた愛沢を見て、俺はため息をつく。


「……上手くいかないのか?」

「そっすねえ……実用一歩手前ってとこっすか」

「そうか、そりゃ大変だ――……一歩手前ぇ!?」


 思わず声が裏返る。

 愛沢が今いじっているのは、『ダンジョンゲート』に関する研究だ。

 

 ダンジョンの出入り口であるゲート。

 そこに使われているのは、現実世界(こちらがわ)とダンジョンを繋ぐ、完全な空間転移技術である。

 もし、ゲートの解析、また流用が成功すれば、輸送、災害対応、軍事、物流、etc……あらゆる分野で革命が起こる。

 まさに、世界を変える大発明だ。

  

 だからこそ、これまで多くの科学者が原理の解明に挑んできたし、ことごとく散ってきたのだ。

 ……それをたった数ヵ月で、実用一歩手前?


「お前っ……ま、マジか!?」

「アリスの研究で魔力理論は大分掘ったっすからね、応用効きまくりっす。……お、これうまー」


 チョコをひとかけ食べながら、さらっと言ってのける。

 嘘だろ? と思うけど、こんなところで見栄を張るような奴でもない。


「……でも、成功率がイマイチなんすよねえ」


 愛沢は椅子の背もたれに体重を預け、唇を尖らせた。


「せ、成功率? お前……まさかもう試験段階まで……」

「いってるっす」

「マジか……」


 こんな天才が、こんな小さな会社にいていいだろうか。

 俺はそんな言葉をグッと呑み込んだ。


「試験用に、手のひらサイズの小型ゲートを作ったんすよ。物体が行き来できるように2つ」


 愛沢はそう言うと、デスクの上の書類の山を指さした。

 積み重なったノートの切れ端や裏紙の上に、小さな四角い金属製の枠があった。

 おままごとに使う人形の家の窓枠、といった見た目だ。


「おまっ、世紀の大発明をこんなとこに置いとくなよ……」

「いいんすよ。それ失敗作なんで」

「失敗作って、物体が全然別の場所に転移しちまうとかか?」

「いや、場所は大丈夫っすよ。10回やって10回とも、ちゃんとその2つが繋がるっす」


 成功してんじゃん……。


「じ、じゃあ何がダメなんだよ?」

「木っ端みじんになるっす」

「……大失敗だな」

「だからそう言ってるっす……!」


 愛沢はバン! とデスクを力強く叩く。


「ブロック肉で通過試験したんすけど、10回中4回ハンバーグが出てきたっす」

「ミンチになったうえ焼かれてんじゃねーか」

「加熱は想定外っすね。空間摩擦か魔力圧縮か……」


 人間で想像すると、R18じゃきかないな。


「もうあと一歩、どっかの凡ミスな気がするんすけどねえ」


 愛沢は腕を組み、うーんと唸った。

 確かに彼女はドが付く天才だが、かなりの直感型。

 理論を飛び越えた発想で、思いもよらない角度から案を出し、一気にゴールに近づいたかと思えば……中学生でもわかる単純な計算ミスで、三日三晩悩むこともある。


「この道に詳しい人に見てもらって、間違いを指摘してほしいっす。切実に」

「そんな人に心当たりは……あるな」

「えっ!? ホントっすか!?」

 

 直接は無いが、そういう人を知っていそうな人は知っている。

 羽生田(はにゅうだ)社長だ。

 彼女は元・政府直属のダンジョン攻略部隊の総指揮官を務めていた。

 今はしがない零細企業の社長だが、そのコネやら人脈を使えば、ゲート研究の第一人者に会うこともできそうな気がする。


 だが社長は、ドルヴァノとの一件以降、姿を見せなくなった。

 行方不明というほどではない。

 チャットを送ったら即レスだし、通話も普通に繋がる。

 ただ、どこかに行ってしまった。


「……いや、今はムリだな。すまん。忘れてくれ」

「はぁ~? 何なんっすかぁ~? 上げて落とすなんてサイテーっすよぉ~?」

「わ、悪かったって!」

「せんぱぁ~い? 乙女を弄んだ罪は重いっすよぉ~?」

「近いってば! コラ! 離れ――」


 ――ブブブブブブ


 言葉を遮るように、ポケットが震える。

 俺はスマホを取り出して、着信画面を見た。

 姫宮(ひめみや) 美空(みそら)の文字。

 相沢がひょいと覗き込む。


「げ……先輩、JKと連絡先交換してるっすか……?」

「撮影とかあるからな」

「アラサー独身男性が、自らの社会的立場を利用し、世間を知らない女子高生を」

「言い方! やめろよ、今そういうのスグ炎上すんだから!」


 愛沢を諫めつつ、緑に光る通話ボタンを押す。


「もしもし」

『あっ、黒野さん! すぐニュース見てください!』


 いつもなら、まずは挨拶から入る礼儀正しい姫宮が、いきなり叫んできた。

 俺は愛沢と顔を見合わせる。


「ニュースだってよ」

「なんすかね? 先輩がまた何かやらかしたとかっすか?」

「怖い事言うなよ……」


 悪戯っぽく口角を上げる愛沢。

 そのままデスクにあったリモコンを掴み、テレビを点けた。

 画面には、緊急速報のテロップ。


『――本日未明、アメリカ合衆国コロラド州にて()()()()()()()()()が確認されました。現在、アメリカ軍が現地を封鎖し、攻略作戦を開始しています――』

「な……!」


 映像が切り替わる。

 そこは山岳地帯。

 少し開けた空間に、ぽつんと佇む巨大な漆黒のゲート。

 周囲には米軍の装甲車両と兵士が取り囲み、せわしなく動いている。


「おー、もうそんな時期っすかー」


 愛沢は呑気にエナジードリンクをあおる。


「二~三年に一回くらいは出るっすよねえ。どーせまたすぐ踏破されるっすけど。しかもアメリカ軍とは……恨むなら自分の運の悪さを恨むんだなっす」


 確かに、これまではそうだった。

 だが、しかし……。

 俺の脳裏に、自信たっぷりのドルヴァノの顔がよぎる。


 40億機。

 世界がこのままであれば。

 奴の言っていた言葉を無意識のうちに反芻(はんすう)し、心臓が嫌な音を立てる。


『見てくれましたかっ? これ、次の勉強動画のネタにどうでしょうか……?』

「……悪い、姫宮。少し切るぞ」

『へっ? く、黒野さ――』


 ポロン。

 俺は姫宮の返事も待たず、通話をやめた。

 申し訳ないとは思うが、今はとても他のことを考えられそうにない。


「せ、先輩? どしたっすか?」


 愛沢が心配そうに俺を見る。

 しばらく黙ったあと、俺は口を開いた。


「……もし仮に、意のままに魔物を出現させようとしたら」

「はい?」

「仮の話だ。魔物の発生をコントロールしたいとき……お前なら、どうする?」

「魔物をっすか……」


 愛沢は一瞬きょとんとしたが、やがて真面目な顔になる。


「うーん……むむむ」


 腕を組み、天井を見上げる。

 そのまま数秒。

 やがて、納得したように視線を落とした。


「ボスを使うっすかねえ」

「……ボスを?」


 問い返す俺に、愛沢は首を縦に振る。


「魔物を発生させるためには、ダンジョン内の魔力濃度の管理が必要っすよね。内部の魔力濃度を高め、魔物の発生を促しつつ……でも暴走はしちゃわないよう適度に弱めもしなきゃいけないっす」

「……そうだな」

「魔力をゼロから生成する技術は、現状ほぼ不可能。既存の出力源を利用する方が早いっす。つまり――」


 愛沢は人差し指をピンと立てた。


「――ダンジョンボスを、生かさず殺さず、飼いならす……っす」

「なるほど……」


 淡々と恐ろしいことを言う。


「魔物を増産したい時はボスを活性化させて、抑制したい時はボスを弱らせるってことか……すげえな、お前」

「え、いや、仮定の話っすよ? それにボスを飼いならす装置なんて、そうやすやすと作れるもんじゃないと思うっすし……へへ」


 愛沢は少し照れたように視線を逸らす。

 そのとき、テレビの中のアナウンサーの声量が、急に大きくなった。


『――速報です。()()()()()()()()()()()()()()()()しました』


 その声は明らかに緊張を帯びている。


『投入された第一陣部隊は、内部で壊滅的な被害に合い撤退。どうやら、これまでに無い強力な魔物たちが観測されており――』

「……え?」


 愛沢がテレビの画面を見て固まる。


 俺の背中を、冷たい汗が伝った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ