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83 理解し得ない夢

朝起きて一番に張り出された依頼板に、ざわめきが走る。


西の洞窟の小ダンジョンの調査及び踏破依頼。エリスからの直々の依頼だ。

洞窟の伸びる方角が大ダンジョンの根本の方面。洞窟の成長速度が速いと推測され、同一化前に小ダンジョンのボス討伐に懸賞金がかかった。

この街の者でないパーティーメンバーには住居や住民権の他、ギルド登録者ならエリックと同じ様に、地方地主としての出世を約束する。


大ダンジョンほど不可能ではないだろうが、ボスはボスだ。心してかかるべきだろう。



ミランダ達の手元に、物々交換を済ませたアイテムが届いた。


依頼に出したレイス系モンスターのペンダントは意外と早く交換が済んだ。

ネックレスを破壊、取り上げればレイス系の魔物は即死すると依頼書に書いたことがきっかけとなり、積極的に集める人間がようやく出たらしい。

魔物図鑑が改定される時からずっと書かれていたことだ。今までネックレスを壊して撃破していたのに、何をやっていたのやら。

誰も見知っている魔物の方は読み飛ばされていたと、ミランダは嘆息する。


スポンと人混みからシトリン達が出てきて、エリックのパーティーが勢ぞろいする。

「…西の坑道、見物に行きたいって言ってたっけね、シトリンちゃん。」

「もっちろん!」

エリックは満面の笑みで槍を構えるシトリンを横目で見る。ついてきていたラケルも苦い顔をする。

「マジでやるのか…」

「もっちろん!」

「え~っと…賛成の人…」

シトリンは元気よく手を上げ、ミランダは仕方ないという顔で肘から先だけを挙手する。サクソンも手を上げた。

「じゃあ反対の人…」

エリックとアナンタが手を上げた。最後に残ったラケルはどちらに手を上げるか悩む。彼女が反対すると意見が真っ二つに分かれることになる。

「ラケルさんはどっち!!」

顔をずいずい近寄せる。今までにない距離の詰め方にラケルは顔色を変えて数歩下がった。

「あぁ、いや、えぇっと…その前にパーティーリーダーが反対してる。決定権はリーダーが持つものだろう…」

「なんで!!!エリック!!!」

シトリンは方向を変えてエリックに詰め寄った。

「え、う、お…まず銃を手に入れたいし…実は出世が決まっちゃって…俺は名声的に大ダンジョンの方を攻略したいし…」

「私も少し魔術師ギルド側で相談事があって…まずそっちから片づけたいかなって…」

反対派が意見を述べるとシトリンはラケルの方に振りむき直す。

「で、ラケルさんは!!!」

「私は別にどっちでも…」


「ゆうじゅうふだ~~~ん!!!」


ポカポカとラケルにしがみついた。優柔不断の発言はラケルにぐっさりと突き刺さり、何も言い返せず彼女は真上を向いて固まってしまう。

まるで遠足に行きたがる駄々っ子の様だ。ミランダが彼女を引きはがす。

「恥ずかしいだろ止めろバカ。他が見てる。」

「いやだ~!私も冒険したい!全然暴れたりない!」

「な~もうすぐこれだ…テーブルマナー教えて貰ってるとは思えねえよ。」

「それとこれとは別だもん!みんな活躍してて羨まじ~~~!!」


一同と共に、周囲の人間も苦い顔をする。シトリンは割と有名人で人当たりもよく、いつも笑顔で接するシスターの見た目から穏やかで明るい子だと思われていた。

好戦的で功名心が極めて強い一面を知られるのは初めてだ。ミランダと共に穿鑿隊に並ぶ実力者。エリックとミランダと共に、ギルドカード無しのまま始めての探索に出て西の森を踏破している天才だ。

他の冒険者からすれば、獲物のボスを取られかねない。声には出せないが、そのまま安全な場所に居て欲しいと誰しもが思っている。


「はいはい…エリック。ウチらなら実力的に踏破出来っかもしんないけどさ。以前みたいな一発踏破は普通狙うもんじゃない。意味分かるよね?」

ミランダはシトリンを宥めながら諭す。西の森の小ダンジョンでは、ボスの力で迷い込み出られなくなった。脱出の為に不本意ながらも踏破を挑んだ形だ。

「まぁ…確かに。時間もあるわけだし、偵察の小手調べもアリだね。」

「そーだよ!踏破しなくてもいい!私は冒険したいだけ!留守番に飽きただけ!」

ミランダに両脇を抱えられて地べたに座る彼女はビシっとエリックに指さした。ラケルは手を添えてシトリンに辞める様に無言の圧力をかける。

「参考までに、姐さんはなんで賛成?」

「旧市街区に近いし、合戦の新しい出現場所になるかも知れないんだろ?なら、自分が踏破しないでも少しでも早くぶち壊せる様に助力するまでさ。」

「サクソンは…」

「今のところ、俺はいいとこなしだからな。今は少しでも実戦経験が欲しい。」

「判断は如何に、エリック。」

ラケルの問いに、彼は腕を組んだ。

「分かった。深追いはせず行こう。だけど、俺とアナンタの予定を改めさせて欲しい。」

「いよっしゃ!いつ行く!?」

エリックは大ダンジョンの様子を見る。

「近々合戦もある。火薬は輸入とかである程度は確保できてるらしいけど、冒険者のバックアップも必要だそうだから、その後かな。」

「大体3週間後ぐらいか。」

「絶対だからね!予定が入ったは無しだよ!」

「わかったって。それまで準備しよう。じゃあ、この辺で解散。」

シトリンは上機嫌になって歩く。

「いい気なもんだね。その前に合戦もあんだよ。そっちで暴れりゃいいじゃないかい。」

「え~どうだろ。フェクトのことだし、冒険者の出る幕は少なくしそ~。」

「そりゃ確かにね。」

「なんかもう待ちきれないしな~、どっかのパーティーに混ざって先行しちゃおっかな。ミランダも来れば安心でしょ?」

「…勝手はよしなよ。待ち伏せにかかってザコに囲まれて簡単に死なれちゃ寝覚めが悪い…。」

ミランダは言葉の途中で後ろから肩を叩かれた。

「ミランダ、シトリン。アンタらに用があったの忘れてた。」

パーティーメンバーのアナンタが話しかける。

「私達?」

「蜘蛛糸絹作ったの、他でもないアンタらでしょ。エリス様が魔術師ギルドと提携するからついてきて欲しい。」

「そういやしてたね、そんな話。」

2人はアナンタについていき、庁舎へと向かう。


既に魔術師ギルドが謁見の最中らしく、ドアを開けると重鎮とその他十数名が既にエリスに頭を下げて挨拶していた。

エリスの隣にはフェイルとルイーディアの姿もある。

「わぁお…」「意外と多いな。」

一斉に注目を集めるが、アナンタは動じずにハッキリとした声で頭を下げて言う。

「アナンタです。大変失礼ながら、飛び入りで参考人を連れてきました。」

彼女は魔術師ギルドの最後列に加わって頭を下げた。その姿をみて、ミランダとシトリンは思ったより大きなことだと驚嘆する。

「ミランダ姉さま、シトリン姉さま。丁度いいところに。」

エリスはニッコリと嬉しそうな顔で立ち上がる。

「姉さま…?」

魔術師ギルドの人間はざわついて顔を見合わせる。

「紹介しましょう。私の亡き実母、クレア・イオネスクの下で育ったのが、おふたがたです。目潰し勲章のことは知っていましょう?私がヴィシュテでの活動中、蜘蛛糸絹は彼女達が作業を引き継いでいてくれたのです。とても優秀で心強い方ですよ。」

一斉に魔女たちは頭を下げた。

「ミランダお姉さま、実は今後の方針でして、ここでお話させていただければと。」

2人も謁見に参列し、外貨獲得の為に蜘蛛糸絹の製品化を最優先にすることが決定されたことを伝えられる。


雷魔法剣を使った最初の作業者がミランダだ。魔術師ギルドに教える魔技に関しても、クレアの縁者の3姉妹が最もよく知っている概念だ。

不覚にもシトリンは、冒険反対派のアナンタに付き合わされる形になり、予定を合わせざるを得なくなってしまう。

アナンタの方も教えを乞う立場になり、エリックのパーティーでは後輩の扱いだったシトリンには頭が上がらなくなってしまう。ギクシャクしながら2人は話し合う。


「という訳で、魔術師ギルドとの提携に際して、フェイル様と共に最初の実技ガイダンス役をお願いします。」

「分かった。」「…。」

シトリンは不服そうな顔をして黙る。

「シトリン様?」

「わ~りゃっした~。」

ミランダの真似なのか、露骨に面倒臭そうな返答をすると、同席していたルイーディアとフェイルは小さく笑う。解散を告げると、フェイルが先導して案内を始めた。


ミランダは退室前に振り返り、微笑んで手を振るエリスに手を振った後、周囲を見渡した。


フェクトの姿が見えないが、こんな状況でひとり地下室で事務仕事をしているわけがない。必ずエリスの護衛についているはずだ。

全体を見渡せる場所は当然上だ。明暗差で一番見えにくくなるのは、光の差し込む場所。日差しが差している天窓の横の逆光の影だ。

彼女は立ち止まってじっと見つめた。すると透明化していたフェクトが銃口を上にして姿を見せ、手を振った。


ファーティフはこんな風に狙撃したのだろう。ミランダは苦笑いしながら後ろ手に手を振り返し、謁見の間を去った。


「アンタら、そんな偉かったのね…」

アナンタは2人から距離を取る。英傑エリスと姉妹関係で、フェイルとルイーディアの補佐官とも殆ど知り合いなのだから驚きだ。ラケルが有名人と釘を刺した理由が、今になって良く分った。

「そーだよ。貧困街区時代はミランダも大変だったんだからね。」

シトリンは退屈そうな顔で不服を垂れ流す。

「アナンタさんが街に来たのはエリス様の政権下になってからでしたっけ?」

先頭を歩くフェイルが聴くと、彼女はハキハキとして答えた。

「はい。エリックのパーティーに参加したのは、その時からになります。」

「では知らなくて無理もありませんね。実を言いますと、ミランダさんが合戦でインフェクテッドアーマーを倒したのは二度目なんですよ。私が特別功労賞を貰った時、ルイーディアと一緒に援護役をしてくれまして。」

「い~、マジで!?じゃあ3人はパーティーだったの!?」

「その場限りの臨時ですがね。貧困街の復興も全てはクレアさんとミランダさんを中心に始まったんです。それも二年前ですか。早いものです。複合魔法なんかも、その時から実践し始めましてね。」

後列で話を聞いていた魔術師ギルドの人間達はざわつく。フェイルと肩を並べる様な人物なら、いつでも騎士になれたっておかしくない。

「なんでアンタら冒険者やってんの…」

「ウチは現場で街を守りたいのさ。出世するとこういう要らん仕事がくるからね。そうだろフェイル。」

「えぇ、全くです。公務に携わると、罪人の裁判だとか専門外の別の仕事が横から忙しなく入って来ますから。自分の打ち込みたいことばかりではなくなります。今は少し、ミランダさんが羨ましいですね。」

庁舎の中庭で、フェイル主導の下、派遣された魔術師ギルドの人間のガイダンスが始まった。


複合魔法や魔技について研究する者、産業分野に携わる者、それぞれを決めて共通して教えるモノや各分野で教えるモノを分別する。

魔術師達は、活動拠点になる私室に案内されて中庭から、それぞれ去っていく。

「ねぇ、私って神官職なんだけど、この場にいる必要あるのかな?」

シトリンがフェイルに耳打ちして聞く。

「えぇ、それはもう重要ですよ。実は蜘蛛糸絹の産業側には落雷撃が必要でして…」

「あ~そう?塵雷使うならしょうがないな。」

「そうなんですよ。雷迅裂刃に対する重要な技でもありますから…実は神官職で魔技や複合魔法を使えるの、シトリンさんしかいないんですよ。」

「エリス様は?」

「魔技のある程度は使えますが領主の立場ですし…塵雷を実戦で成功させたシトリンさん以上の適任はいませんよ。アナタ、超貴重なんです。」

「えぇ~それほどでもぉ~。」

彼女は照れ笑いする。

「特に、10層以降の攻略には必須になる技能ですからね…我々としては、使用者を増やさなければ未来はない。」

「…。」


フェイル達は誰が踏破するでもなく、地下茎をなくすことを最優先に捉えている。いつかは自分が踏破出来ればなと考えているシトリンにとって、少しギャップを感じた。

先ほどの小ダンジョンでも、ミランダは『誰でもいいからダンジョンを破壊して欲しい。だから調査として冒険に賛成』と言っていた。

少しシトリンには距離感が出来て残念に思う。偉くなると、指導する立場になり自分の命を大事にしなければならないことも理解している。

だが、西の森の小ダンジョンの時の様に、危険と理解出来たならば自分で即座に破壊しようとした、かつてのミランダが見せていた気概を感じない。


しかしながら、悪い事ばかりでもない。複合魔法について印象は良くないとラケルに釘を刺されたが、王都の偉い人がこぞって聴きに来てくれている目の前の光景にシトリンは嬉しく思った。

「んでも、ちゃんと評価してくれる人っているんですね。」

「教会とは余り仲良くない人達ですけどね。雷魔法で蜘蛛糸絹の製造を手伝ってくれる条件で教えるって取引なんですよ。」

「大丈夫なの?それ。仲悪いと困るんじゃないっけ。」

「私が魔術師ギルドと共に開発した、これからそういうことにすればいいのです。彼もそう望んでいる。」

原案者であるフェクトの意向だろう。魔術師ギルドを隠れ蓑にするつもりの様だ。

「あ~…なるほどぉ、ふっふっふ、賢者さんも悪よのう。」

「はっはっは。私は昔から悪ですぞ。」

2人は互いに茶化し合う。シトリンはかぶりを振るってハッキリと自分の言葉を伝えた。

「でも、私はヤだな。自分の功績を誰かのにしちゃうなんて。本人の前でも言ったけど。」

「気持ちは分かりますよ。ですが、彼自身が選んだことです。こうも言っていましたよ。」

彼はメガネをかけ直して笑って言う。


「いずれは、自分以外の天才の誰かが見つけて使い出す…とね。現に人間の中で流星火を最初に使ったのは私だったのですから。私の功績でいいと。彼には、技や知識は、街を守る道具でしかありませんからね。」


「…そっか。」

フェクトの芯は座っている。クレアのやり取りや今までの策謀劇を含め、改めて凄い大人だと感じさせられた。


「…ですが…彼のことを言いふらしたいのは私も同じですよ。」


「え?」

意外な一言にシトリンは思わず彼を見た。

「彼を知るには、人類はまだ早すぎる。今から数百年もすれば、この街で生まれた産業は世界中で当たり前になり、より大きな土地の国が、この街の技術で世界の覇権を握る時がくるでしょう。」

フェイルは遠い目をして空を見て言う。

「世界中の人間が、彼の知識を知ってて当たり前になった時…その時、人はきっと魔物の事を、馬や牛と同じただの生き物としてしか見なくなる時がくる。その時になら、安心して彼のことを言いふらせるでしょう。」

「どうやって?」

「本でも石板でも。実は今まで起きた出来事、しっかり書いてるんですよ。」

彼は、しーっと人差し指を口にあてがい、シトリンに微笑んで顔を寄せた。

「それが私の夢なんです。内緒ですよ?」

長い沈黙の後、シトリンは頷いて答えた。

「……凄いね、フェイルさんは。自分がいなくなった時のことを夢にするなんて。」

「…そうですね。自分が絶対に成果を知れない願いは、叶うことが決してない。そんな願いは本来無意味です。私は、最も現実を直視できない愚かな男なのかもしれません。」

「うん。おろかだと思います。私はそんなの嫌です。」

「はは、手厳しい。」

「けど…でも…私からすれば凄いです。その…あの人やフェイルさんから言わせて貰えば、私じゃない誰かでも、強ければダンジョンはきっと踏破出来る。そんな目先のやりたいことばかり叶えたいなんて、ちゃっちいなぁって…」


シトリンには思うところがあるようだ。どうにも表情が曇っている。先輩冒険者として聞いておくべき悩みだろうと、彼は答えた。


「私も2度挫折して鑑定屋になるまでは、そうでした。今は、壮大な夢を計画した自分に酔っているだけです。アナタが凄いと言ってくれて、私はとても満たされていますよ。」

フェイルはメガネを拭き直して続ける。

「夢や目的に殉じる人々の生き様は、やはり輝いて見えるモノです。シトリンさんは、憧れているそんな人達と似た様に、立派に生きたいのでしょう。」

「…うん。」

「断言します。それはやっている内に後から見つかるもので、必ず自分以外に理解されないものです。」


「自分以外に…理解されないもの…」


なんとなく言いたいことはシトリンにも理解出来た。フェイルの言った夢は、確かに存命の内に叶うことのない壮大な夢と。それをシトリンはハッキリと愚かと思った。確かに本人以外、納得も理解もできないことだ。

「守りたい大事な人が出来たとか、どうしても倒したい相手が出来たとか。自分の命を天秤にかけて、やめろと言われても絶対に止めない、止めたくない。」

シトリンの中で何かが引っかかる。

「きっと憧れているなら、誰かの背中に見て来たはずです。シトリンさんの反対を受けながらも命懸けで行ってきた、自分には理解し得ない行動を。衝突して言い争いになったこともあった。」

ミランダとクレアの背中が思い浮かぶ。自分も冒険に連れて行け、ずっとそう反発し続けていた過去の自分だ。

「…私とルイーディアが死なせたカイルの息子、騎士ヴィクターも、そうでした。大ダンジョンを踏破したい。ゴールの形は、どの冒険者とも同じでしょう。」

シトリンは黙って頷く。

「ですが、彼にはカイルのひとり息子としての矜持があったのですよ。弟のドイネルの領地で、ぬくぬくと暮らしていたことが許せなかった。ドイネルに対する嫉妬でもあり、父カイルが真に優れていると彼は証明したかった。ですが、親心というのは得てして同じ。分かるんじゃないですか?」

「クレア…お義母さん…」

「ドイネルも、兄に幸せに平和に暮らして欲しい一心でこの街に呼び、カイルも息子には危険を冒して貰いたくない。しかし、ヴィクターは父の誇りを何としても取り戻したかった。父親には理解されない命懸けの拘り。それこそが夢だったんですよ。」

「…でも…死んでしまったんですよね…」

「はい。私の力が未熟だったばかりに。ルーイとカイルは溝がまだ少々ある様ですがね…こんな事を言うと、カイル様の気を悪くしてしまいますが…私はヴィクターとは、ずっと仲が良かったんですよ。私は彼の死を無駄にしたくないのです。」

彼女は聞き入った。フェイルは、大きな大きなため息をついて続ける。

「私はヴィクターを死なせた後もダンジョンに挑んでいましたが…ずっと自分のことを強いと思い込んでいたし、彼の敵討ちのつもりで挑んでいた。だから、強くなりきれず再び10層で挫折したのでしょう。」

「それでも諦めきれなかったんですよね。」

「…何としてでも10層を超えたい。そう思ってインフェクテッドアーマーの攻略の為に魔法の解明を続けるうちに目的がすり替わっていった。知識に酷くコダワる偏屈な鑑定屋の探究者。今のフェイルという生き様に変わったのですよ。」


そして、複合魔法を見出した頃、彼の前に、始めて現れた理解者が自我を持つインフェクテッドアーマーそのものだった。フェイルは何か運命の様なものを感じ、彼に続くことにした。


「コダワリ…ですか。」

「そう。コダワリです。カッコイイと思ったものを、ダサいとか要らないと言われてムッと来る。あのコダワリです。それが、夢に最も近しいモノなんですよ。でなければ貶されても、何とも思わないでしょう?」

シトリンは笑った。思い当たることがひとつある。

「もしかして、この間の戦車の話ですか?」

フェクトの体のパペットを作った時のことだ。年甲斐にもなく作りましょうと大きな声で言っていたことは記憶に新しい。賢騎士と呼ばれていても、男の子らしいところがまだ残っているのだと。

「ふふふ!正解です、良く分りましたね。」

「あはは、茶化されちゃいましたけど…でも、凄く参考になりました!ありがとうございます!」

「それは何よりです。」

フェイルは微笑んだ。シトリンは少し自分を省みてみるが、拘っているものはパッと出てこない。

「でも、やっぱり後にならないと見つからないものってなると、思い返すとありそうで、見つからない。難しいですね。」

「そうですね。ですが、見つかるその時までは深く思い詰めなくてもいいってことなんですよ。自分でも気づかない内に、いつの間にか没頭してるものですからね。」

「…凄く気が楽になりました!」


遠くでミランダとルイーディアが、それぞれを呼ぶ声がする。


「おっと、長話しすぎましたね。怒られてしまいます。」

「ですね!」

「それでは、この辺で。」

2人は手を振って別れた。ミランダがシトリンに話しかける。

「何話してたんだい?」

「ん~…夢、かな!」

「へぇ、あるんかい?」


「見つかってない!」


ミランダは肩透かしを食らって転びそうになる。

「いや、ねーのかよ!」

「いーの、まだ見つかってなくて。」

「そうなの?」

「そうなの。」

シトリンの顔は晴れやかだった。普通、夢について語らう時は自慢話をする様な時だろうと、ミランダは首をかしげる。

「…変なの、なんか毒されたんじゃないかい?大丈夫か?催眠光線とか食らってない?」

「ん~…かもね!」

「…アンタ本当に大丈夫…?」

「だいじょーぶ!私達、教師ってガラじゃないけどさ、頑張ろっか!」

「あ、あぁ…急に真面目に打ち込んで、マジでどうしちゃったのさアンタ…」

ミランダはその後、何度もシトリンの様子がおかしくないか顔色を窺い続けた。

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