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81 ディミトリの義足

フェクトはチーリア港で武器屋に寄り、魔術師の杖を2本買ってから港町を脱出した。


塩の川の方へ進み、網漁用のソリの様な小さなカヤックを漁村で買って湖に出る。

魔術師の杖の先端を水中に着けて、風魔法を放ってモーターボートの様に水上を進み、夕日の中、単独で塩の川の沖合からディミトリの居るスタンツァへと向かう。





ルメリア王都、王城内。


エリス達は謁見に際して、エリック達護衛メンバーに口裏を合わせていた。フェクトからエリスに事前に通達されたことを伝えた。


【城内で出されたモノには一切口に入れてはならない。】


子宝に恵まれたルメリア公王、不出来の六男とはいえ子を誅殺されて黙っている訳がない。

しかし、王は支援をせず、帝国の盾である辺境の自領地を見捨てた上に増援を反故にしたことも事実。


王都とアメジストの街の仲は、腹の底ではかなり冷え込んでいる。


しかし、今後の政治方針上は仲間だ。関係を保つ為に、必要最低限のコミュニケーションだけ取って帰る。今回は、その挨拶だ。


王の護衛とフェイルを除くミランダ達は謁見の間から離される。いるのはルメリア公王と王妃、そして宮廷魔術師。

フェイルと魔術師は互いにひり付いた意識を感じていた。


エリスとフェイルは頭を下げる。

「本日は謁見を許可していただき、恐悦至極に存じます。」

「うむ。こちらもしかと、伝えねばなるまい。ヴィシュテでの防衛戦。ヴァルナの奪還にポモリー港の壊滅。大儀であった。面を上げよ。」

顔を上げて、エリスは仰々しく扇を開いた。

「ほう…それは?」

フェイルが箱を開いて、贈り物を献上する。

「帝国との停戦交渉の折、献上された扇。東洋から来たものを、我々の手で作ったものです。手で扇ぎ、涼を取る道具にございます。こちらを、お納めくださいませ。」

絹で羽が作られた西洋風の折りたたみ扇子だ。かつてフェイルが興味本位で買っていた扇子だが、蜘蛛糸絹の生産に当たって作られたもののひとつ。


扇は古くから東に存在していた。古代エジプトの様な熱帯地域ではファラオに葉っぱで風を送っている人がいる壁画がある様に、涼を取る扇は富を示すモノ。


現実では西欧に来たのは16世紀頃と言われている。丁度今のアメジストの街と同じ頃の15世紀半ば、コンスタンティノーブルがイスラム教に占領されシルクロードが潰え、海路の開拓が始まってからだ。

発祥は不明ながらも、折り畳み式の扇子は日本が元と言われている。携帯に優れ、開けば絵が広がる美しさは世界中に波及しデザインを変えて西洋にも波及した。


女性の持つ扇子の多くは大きな飾で富を示すものであるが、エリスの持つ扇子は彼女の安全の為にある。

彼女はまだ外交に不慣れだ。口元を覆い、表情を悟られにくくする為に作られたモノであると同時に、護身具でもあり暗器でもある。


鉄扇だ。


中世の武士も、今の彼女と似たようなシチュエーションに陥ることが度々あった。

対話交渉の場は、暗殺の意思を見せぬ様に武器を帯びることが出来ない状況だ。しかし、敵本陣故に敵に囲まれることもある。

そこで扇子に擬態した鉄の棒を携帯し、最低限、刀を受けられる鉄の棒として護身用に用いたのが鉄扇の開発経緯だ。

畳んだ形状のまま開かない完全な鉄の棒のものや、骨だけ金属のものなども存在する。


彼女の鉄扇には工夫が多い。絹布で出来た扇面の内側は編みこまれた鋼線で親骨と中骨を繋ぎとめてある。

殴打は元より、開いた扇の間で剣を受け止めるとワイヤーが引っ張られて扇が閉じ、内側の金具が刃を挟み込んで白羽取れる様に出来ている。


(…口元隠し続けるの…結構疲れてきますねこれ…)


エリスは目を細め、会話を続けた。



そして後日。


塩の川の町、スタンツァ。


ディミトリは邸宅で義足を貧乏ゆすりをしながら仕事をしていた。ドアがノックされると、衛兵が屋内の衛兵に耳打ちした後、ディミトリに耳打ちする。

「ディミトリ様、見知らぬ旅人が謁見を求めているそうです。」

「どんなヤツだ?」

「その…えぇと…魔術師の杖を2本を持った、中量級の甲冑を着た…顔を包帯でぐるぐるまきのガタイのいい男の戦士…だそうです。」

聴くだけでもあからさまに怪しい男だが、ぐるぐる巻きの包帯顔は大団長に擬態していた頃の容姿と似ている。彼はしばらく考えた後にフェクトかも知れないと思い、確認することにした。

「…通せ。退屈だったし、面白半分で見てみたい。」

「はっ!」

ドアを開けると、衛兵が言った通りの姿で彼は思わず笑ってしまう。見覚えのあるキュイラスは間違いなくフェクトだ。


「んぐふふ…!下がっていいぞ。ハイドゥクの知り合いだ。」

ディミトリは笑いをこらえながら、人払いをして衛兵は出て行った。

「よう。それで、今度はどこに行ってきたんだ?」

砕けた口調で話しかけると、フェクトは顔を上げて握手を交わした。

「ステパン公爵と会ってきた。あの手紙、やはりライドウ公爵が出したものらしい。」

「チーリアまで行ったのか?!街出たの、昨日の今日だろ!?」

ディミトリは思わず声を荒げた。単独で歩いても3日はかかる距離だ。

「丸3日ってところだ。まぁ土産話も色々ある。座ってくれ。」


フェクトはチーリアまでの出来事を話した。

今回は不干渉のままでいいこと、ステパンはライドウ公爵を裏切り、ルメリア公と結託していること。

マルドーネは、重税を課すロルサーグとは決別するが、塩の川を通じて必要になる対帝国戦線の為には、ルメリアを通じてアメジストの街は友好関係でいたいこと。

自分達のやることは変わらず、今は内政を拡大させて、もう一度、帝国の撃退とダンジョンを破壊できる力をつけることだ。


「ぶっはははははは!通りがかりにガーラットの盗賊ギルドを皆殺しかよ!バカげすぎてて腹痛い…!」

ディミトリは彼の話に大笑いする。フェクトは大声を出されて苦い顔をした。

「路銀の為に仕方なかったんだよ…準備する時間もなかったからな。」

「い~や。壊滅させたんなら、別にそれでいいさ。あそこの盗賊ギルドは追放された冒険者の吹き溜まりで有名だ。過去に親父も、王命で部下の衛士も派遣したことがあってな。結構根深い問題で、何度も未解決のまま帰還したのさ。」

「重税やらなんやらの問題があると闇市ってのはどうしても出現する。俺らの手の届かない場所だ。半年もすればまた似たような組織が現れる。解決には至ってないと思う。」

ため息交じりのフェクトだが、ディミトリは機嫌を良くする。

「それはそうだが、今も死人が良く出る悩みの種だ。正体を気取られずに一息で全部終わらせたんだろ?武力衝突で殉職する騎士や衛士の補償を考えれば、一体いくらの黒字やら。」

「…口封じの為に、更生も出来そうな非戦闘員にも余計に死人を出したんだ、褒められたことじゃない。俺の様に必要だから悪事を働くヤツもいる。景気が良ければ善人として生きれたかも知れない人間だって居たろうに。」

フェクトは立ち上がり、持ち帰った荷物を漁りながらぼやく。

「こういうのは為政者側に責任がある。」

「だから、魔物バレのリスクがあっても産業を推し進めようってか。実にお前らしい考えだな。」

ディミトリは立ち上がった。

「明るいところで見ると、そのちぐはぐな服は悪目立ちするな。ナリを整えようか。座り仕事も飽きたし、気晴らしにお前と外に出たい。」

フェクトは経費を落とす必要はないと、パンパンに張った銭袋を手に取った。

「飯、奢るぞ。公費はカツカツで火の車だろ。ついでに街の様子を色々見て回るか。」

「是非頼むよ。ついでついでで仕事させて悪いな。」

「構わない。その為に来たんだからな。」


フェクトとディミトリは着替えて、スタンツァの町に視察にでる。アメジストの街の皮鎧に装備を改めて、よく見る冒険者の戦士らしい装いに変えると、町の視察を始めた。


塩田の建築計画に繋がる、人力動力にも出来る風車の設営などの査察だ。


今後はアメジストの街から送られる水晶のブロックの圧電素子が産業の肝になる。現状、木炭や石炭は支配地域全ての町の需要を満たせるほど供給がない。唯一安定して熱源の供給が期待できている電力装置だ。

既にディミトリは丘の上で風車の施工に着手しており、アメジストの結晶も運び込まれている。

進捗は早く、建物部分は既に7割が終わっている。内部構造も発注が済んでいるが、大きな風車の組み立ては大仕事になり、一番に完成してもまだ数か月は先だろう。


フェイルの発案通りに構造は極めてシンプル。


使われる素子は、奥行きと高さ25センチと幅10センチの直方体に削りだされた大きなアメジスト結晶。それを100個以上、銅板のスロットに挟み本棚の様に縦にして円形に並べる。

車輪の径は人の身長をベースに、直径170センチ程度を目安に、重さ80キロに調整して4方向に設置する。


銅板で挟んだアメジストの結晶の上に、大きな重たい車輪を転がす。絵としては、円形のピアノの上にタイヤを転がす様に発電する。


圧電素子の発電圧は極めて高いが、発電は一瞬だ。雷の様に一瞬で放電されるため、電流量は極めて小さい。産業機器のアンペア数の確保には大量の数が必要だ。

1回辺りの発電量を多くするために素子のサイズを大きくするのは当然ながら、変形することで電位差が生じて発電することから、水晶が歪む押し付け方向の高さの量を多く取ることで、少しでも発電の時間を長く取れる様にする。

素子間の幅を狭めて大量に敷き詰め、数を増やす。その結果が本棚の様な直方体の縦置きだ。径の大きな車輪を複数用意して、踏み付けと解放の繰り返しを短くする。


発電した電気は銅パイプのコイルに通電させ、鉄の棒を熱する電磁誘導装置として扱われる。


現代でも電磁誘導熱は高周波焼き入れとして包丁の刃先やギアの歯だけピンポイントで熱する装置に使われている他、製鉄所では膨大な電力で金属を溶かす超大型の誘導炉として使われているもの。

この時代でも、剣の刃だけをピンポイントで素早く焼き入れできる様にするなど利点が多い。実装の優先度は高さは推して知るべしだ。


スタンツァにおいては製塩設備の為に実装を急いでいる。伝達させた熱で海水を沸騰させ、工業的に塩の生産を加速させようという狙いだ。

腐食しにくく、熱変換の効率が高いニクロム電熱線よりも効率は劣るが、既存の天日干し方法などに比べれば生産効率は雲泥だ。

海水の過熱は食塩だけでなく、蒸発した水分を蒸気としてボイラーを回転させることもできるし、蒸留水の恒久的な確保にも期待が出来る。




海辺のレストランから浮かぶイカダの上で漁をする領民の姿を見つめながら、フェクトは木の彫り物をしていた。開いた時間で、ディミトリの義足のパーツを作っている。


作業がてら、フェクトは小ダンジョンに貝の魔物がいる話を伝えた。食糧自給と農業の為に貝の養殖をスタンツァでは始めているが、炭酸カルシウムの供給の貝殻においては競合する商売敵だ。

「チーリア近くの小ダンジョンで巨大な貝の魔物か。産業化が叶ったら、こっちでの養殖はどうなるだろうな。」

「継続すべきだ。食糧としての政策でもあるのだから止める理由はない。次は養殖場の建設だな。増水対策もあるから、逆止弁状に河川整備しなきゃならん。大規模になるぞ。」


今回の大規模工業化計画は、アメジストの街のアンモニア生成機よりもスケールが更に大きい。

公害を防ぐため、無駄なエネルギーロスを出さない様にするため、鉄工業以外にも、農業や水産、運輸に建築と幅広い知識が折り重なり、一つの施設が出来上がる。

フェクトなくして成り立たない計画だ。


貝は流れに弱く、黒海ではなく川となっているこの世界では、養殖場に一工夫必要になる。陸地を削って、流れを制御する大掛かりな生け簀を作る計画も立てなければならない。


熱量の保存についても考えなければならない。電磁誘導装置の冷却の為に使った水を直接塩の川に流すと、水温が上昇する。

水温は養殖において極めて重要だ。飼育している生き物に適しているかは当然のことながら、周辺環境にも影響が出る。

高温の方が貝類の餌のプランクトンは繁殖しやすいが、低温でないと水中の酸素量は減り獲量に影響が出る。かといって、水温を上げ過ぎて赤潮や貝毒が発生して、食べた人間に死なれては元も子もない。


養殖場と排水場所は近い方が都合がいいものの、排水も一度施設で貯めて減温させてからにするなど、養殖場付近の富栄養化・貧栄養化の折り合いをつけて実装する必要がある。


排水貯水設備も、また水の流れる場所になる。そうなると水車の配備も視野になり貴重な動力になるため、水車で何を回すかなど、建設回りで考えることはかなり多い。


ディミトリはかつて帝国の技術供与などを受けて、火砲回りの配備の為にアメジストの街の中央街を重工業化させてきたが、石炭の精錬で酸性雨を発生させるなどの公害も発生した。

自分の政治方針で妻を殺めた彼は、産業に関して熱心に勉強していた。

クレアの養子のミランダを助ける。その一点に拘るフェクトと目線を同じくして、彼のことを大きく信頼している。


フェイルやエリスは、2年前に旧市街区にいた頃に書いた書物上で索引しながらの仕事だ。書かれていない分からないところはフェクトに質問して追記する。

それを更にディミトリやカイルがまた聞きしてスタンツァやヴァルナに実装する、という形を取っていた。

彼本人が肉体を得て自由に歩いて現場に口を出せるテンポの良さたるや、仕事の快適さは雲泥である。彼が体を得ることに前向きなのは、ディミトリも同じことだった。


視察の最中でディミトリは彼の横顔を見る。

(ひとたび肉体を得れば、外交回りにおいても必要に応じて単独で暗躍し、戦闘をさせれば殆ど負けなしと来た…。)

フェクトの最も恐ろしいところは、任務遂行を高い知能の下、目的意識を極めて強く持って行動することだ。

基本的に説得や命乞いが通じない。帝国や盗賊ギルドの様な、明確に敵と判別した相手は効率よく徹底的に潰してきた。

障害を見つけ次第に排除する殺戮マシーンの様な挙動は、オリジナルのインフェクテッドアーマーに共通するところがある。

(存外、オリジナル共も何かを守っていて10層にいるのかもな。)



養殖予定のホタテガイのバター焼きが出てくると、フェクトは嬉々としながら自前の箸を出す。

「うっひょ~!これよこれ!エリスと視察に来た時から、食べたくて仕方なかったんだ!」

「ホタテがそんなに好きだったのか。」

ディミトリは意外そうな顔をした。ホタテはヨーロッパでも馴染み深い食料だ。ギリシア神話のビーナスの絵や人魚のブラにも描かれている。豊穣の象徴であり、一般的な食糧だ。

「故郷じゃホタテは北国の高級食材でなぁ!か~~~これよこれ!塩味とバターのハーモニーが堪らねえ~!」

ここ一番フェクトは笑顔を見せる。

「枝2本だけで器用な食い方するんだな…」

箸の使い方を見て、ディミトリは本当に彼が異国人ということを改めて理解する。

「生はないのか?水揚げしたてならホタテは生で行けるだろ。刺身も行きたい。」

「生は流石に悪食すぎるだろ…」

「なこたぁねえ!フグだって生で食ってやれるぞ。」

「えぇ…死んでも知らないぞ。」

フェクトは指を鳴らす。

「ホタテを出汁にしてミルクもあれば、シーフードヌードルもいけるな。やる気出て来たぞ。この国は酪農や肉食もあるから最高だな。」

「お、おう…頼むからフグは入れるなよ。」

「…タコはダメか?あとカニだ。」

「タコって食えるのか…?」

「食えるぞ。岩に1000回叩きつけまくれば噛み切れるようになる。」

「お前の元居た世界、バイオレンスだな…。」

フェクトには少しついていけなさそうだ。



建築物の調整を終えて、持ち帰った魔術師の杖を加工してフェクトは宝玉砂を作る。シトリン達の協力は決して無駄ではなく、ディミトリの義足作りに生かされることになった。

彼も神官職の一派で、土魔法を扱えるため、全く同じ原理で流用できる。

ヒトの足を模したことは勿論だが、最大の特徴はふくらはぎの筋肉を再現したことだ。車輪裂刃と同様に回転を用いて紐を引っ張れる。

クルブシの部分に、コンパウンドクロスボウに使われる巻貝の様な楕円形のカムに魔法砂を仕込み、回転させることでグラスファイバーを引っ張って足首を伸ばす運動が再現できる。

これが精密に操作出来れば、馬の鞍にまたがり、もっと安定してあぶみで踏ん張ることが出来る。

「器用なもんだ。あっという間に作っちまいやがって。」

ディミトリは義足を装着する。

「さ、どうだ?」

彼は足裏を見せる様に膝を延ばした。履いた瞬間から足の五指がぐーぱーと自在に動いた。

「動いた!?」

フェクトは思わず驚いた。足の指でモノを摘まむなど、かなりの高精度で指先まで動かせている。

「…!」

本人すら驚いた顔で足を動かしていた。

「感触がないのに違和感があるが…だけど、動いている…俺の足が…」

「凄いな、俺でもマネキンで立ち上がるのがやっとだったのに…」

フェクトは呆気に取られた。これは義足の性能ではなく、ディミトリ本人の操作精度だ。


ディミトリは幻肢痛に悩まされていた。ずっと無い足を動かす感覚があるのに、感触が帰ってこない。その度にもどかしくズキズキと痛むのを貧乏揺すりで誤魔化していた。

ミランダの胸にいた頃、鎧の姿では人間の体がなかったフェクトも同じく体のギャップに悩まされていた。それが魔術的な器用さに繋がっている。


欠損した肉体のイメージが魔法の精度に直結している。


(機能代償が魔法の精度に関わるのか…)

モノの数秒で彼は椅子から立ち上がった。義足側で片足立ちしてバランスを取り、更につま先立ちまでした。その姿にはフェクトも圧倒される。

「…はは。ありがとう!フェクト!やっぱりお前は英雄だよ!」

彼はフェクトに思わず抱き着いた。その目元からは少し涙が滲んでいる。

「あ、あぁ…」

当のフェクトは、余りの操作精度に驚いていた。これほどならば、フェクトと同様に足での魔技もかなりの精度になる。

(いや…足自体が魔術師の杖、武器のアンプとして働いているのだから、俺やエリスの様に生身で足から魔法を放つよりも強力になるはず…。)

彼は想定していなかった効果に気づく。考えてもみれば、納得がいく。


クリスタルゴーレムの素材による魔法付与あるいは付呪とも呼ばれるエンチャントは、魔法を増幅できない金属に宝玉の機能を後付けさせるもの。呪術的で化学的な証明の出来ない儀式で非常に高価になるが、見返りは大きい。

ドイネルの鎧は魔法防護の単一機能のみを持たせていた。レイス系の魔物から手に入る指輪やペンダントといったアクセサリーにも、彼の鎧と同様に魔法防護や炎の軽減などの機能を持たせたものが複数存在する。


フェクトは固まり、全身から冷や汗を流した。


エリスのハンドスピナーのペンダントは、その真逆だ。恒常して発動する単一の効果を持たせず、ただの宝玉が付いたペンダントに、自分の意思で魔法を発動させる杖同様の武器にしている。

魔術師が隠し武器として指輪から魔術を放つこともある様だが、宝玉の大きさを持たせられないことから威力は大きく杖に劣る。武器を持てるなら攻撃は杖にして、アクセサリーには防御効果を持たせる方が遥かにいい。


そういう先入観があった。


エリスの編み出した宝玉砂はそれを覆すもので、車輪裂刃が威力を持つのは宝玉砂を一か所に集めることで杖と同じ大きさのアンプとしての効果を発揮したことにある。

それだけでも発見ではあるが、最も重要なのは回転して動くこと。


稼働して【運動エネルギーを発生】出来ることだ。今に始まったことではないのだが、道具は用途以上になれない先入観が気づきをなくしていた。


義足は身体機能に直結する為に、ディミトリは高い精度で魔法の操作精度を発揮できている。それもまた先入観だ。




当然だが、甲冑にも義足同様に関節は存在するのである。




アンプになる宝玉砂の部分が、内か外かにある違いだけ。作ろうと思えば、甲冑の具足をベースに義足にすることだって最初から出来たはず。


(これは単なる認識や解釈の違いによるものだ。甲冑に伝達する魔力を扱うこと出来れば、外付けの筋肉、パワードスーツに早変わりする…。)

フェクトは目が泳いだ。

(この宝玉砂、更に人間の身体能力の底上げに期待できる。より魔無しの人間との差を広げる要因になるが…)

今までは、人間が人間の身体能力を超えることはあり得なかった。4層のリザードマン以降、魔物に対して人間はフィジカル負けをする。

フェクトを筆頭にミランダやシトリンは風魔法を足で操る加速によって、その差を覆して来た。

この発見は、純粋に筋力を底上げするもの。不遇だった戦士職だが、それを覆し人以上の力を身に着けた攻撃を出来るかも知れない。

(エリスめ…君は自分が思うより天才だぞ…)

パワーバランスが変わるかもしれない。フェクトは、自分自身が鎧の魔物でありながら、本体にダメージを食らうことを許されない生き物だ。

自分以上の強度の鎧が魔法のアンプになり、外付けの筋肉になる。ある意味ではフェクトのアイデンティティの喪失でもあった。

「…ディミトリ。その義足、多分エリスにも引けを取らない強力な武器になるかも。」

「本当か!?」

「あぁ…俺もウカウカしてられないな…。」

神官職は回復の光や建築にも用いれる土魔法によって文化的に影響力が強い。教会が幅を利かせていることもあり、騎士貴族の大部分も神職で組織されている。

ドイネルやディミトリ、シトリンやラケルがそうであるように、西側の人間に神官職の魔術師の割合が多いのは、その為だ。

魔技が周知されれば、筋力を底上げする土魔法がより力を強めることになる。


…後日、フェクトは木簡に必要なことをまとめて書き、ディミトリに手渡した。


そろそろアメジストの街にエリス達やミランダも帰ってきている頃だろう。カイルにも挨拶しに行かねばならず、フェクトはアメジストの街へと向かう。

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