父の心
第十八話です。
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また感想もいただけていまして、とてもうれしく思います。
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それでは、どうぞ
あれは私がまだ若い頃に参加した、王家主催の舞踏会でのことであった。
既に社交界へのデビューを果たして久しい私は、その日も父と母とともに参加していた。
我が家の家格が高く、派閥としても大きかった私の家は、社交の場においても必ず多大な注目を浴びていた。
そして、この家の長男であり、世継ぎである私の下には、我が家の恩恵に与かろうとする家の令嬢たちが毎度押し寄せていた。
デビューしたての頃には、ちやほやとされることに決して表面には出さずとも、良い気になっていたこともあった。
しかしそれは毎回のように続く。
私が成長するにつれ、彼らの関心は全員がそうではないにしても、私自身ではなく私の家に向けられているものであると気づき始めた頃には、社交の場は私にとって、ただ押し寄せる人を捌き続けるだけの場所となっていた。
その日も例外ではなかった。
これから起こるであろう人の波をいかに上手く、無難に躱すか。
そんなことを考えていた。
会が始まり、いつものように寄せる人を受け流していると、何やら入り口のほうが騒がしいことに気づいた。
その日は珍しく、遅れたやってくるものがいたらしい。
なんとなく興味を引かれて、人を裁きつつもそちらの様子をうかがっていれば、入り口に現れた人を認めた瞬間に、私の中に衝撃が走った。
一目ぼれであった。
その人は、柔らかく光を放つ波がかった薄金色の髪に、太陽に照らされる深い海のように光をたたえた碧い瞳をしていた。
この国において、金髪に青の瞳という組み合わせは珍しいものではない。
けれど、彼女の持つそれらは、私の中でひときわ輝くものに見えたのだ。
私はそれまで話していた人への挨拶もそこそこに、この舞踏会に現れた彼女のもとにまっすぐに向かっていた。
「お初にお目にかかります。私はディオール・フォン・ライゼンと申します。以後お見知りおきを。美しく麗しい貴女のお名前をお聞かせください」
そう声をかけた私に、彼女は
「ご丁寧にありがとうございます。私はアイシア・フォン・フローレンと申しますわ。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」
そう答え、微笑んだのだった。
それからの私は、アイシアと共に生きるために努力したといっても過言ではない。
政治も、軍のことも、人の教育のことも、領地の経営のことも。
自分の力となりそうなものは片端から学んでいった。
そして私は両親に自分の能力を見せつけ、アイシアに婚姻を申し入れることを認めさせた。
だが、アイシアには幾度となく断られた。
体の弱い私に、貴方の妻は務められないと。
だが、私はあきらめなかった。
彼女が私を好いてくれていることを知っていたからだ。
そして、ついに彼女は折れ、私と婚姻することを承諾してくれた。
結婚してからというもの、私は幸せの頂にいた。
仕事は順調に進み、王城にて王に使えるまでに上り詰めた。
彼女との間に子供もできた。
生まれてきた子は白色種であった。
私とアイシアは驚きこそすれ、世間のように恐怖などという感情は一切沸いてこなかった。
子には、マーガレットと名付けた。
この子はまさに、私とアイシアの宝物だった。
だが、その幸せにも、影が差し始めた。
出産の後から、アイシアが体調を崩すことが多くなった。
彼女は小さなころはよくある事だったと、私に気にしないように言った。
私は仕事が忙しくなってきていたこともあって、その言葉を信じ、アイシアを領地へ残し王都へ向かった。
だが、彼女の体調は悪化の一途をたどるばかりだった。
私は忙しさを増す仕事の合間を縫って、彼女の様子を見に行った。
訪れるたびに、彼女は弱っていくようで、私はそばにいてやれない自分を恨んだ。
それでも彼女は言うのだ。
「どうか、貴方は貴方の成すべきことを。私は、そうして尽力するあなたが好きだから」
と。
私はそれからも仕事を続けながら、できる限り領地へ戻ることを繰り返した。
少しでも長く、アイシアとマーガレットとともに過ごしていたかった。
だが、それからほどなく、ちょうどマーガレットが二歳になって少し経つ頃、アイシアは息を引き取った。
私は王都へ戻ると、アイシアを喪った悲しみをごまかすように仕事にのめりこんだ。
領地へ置いてきたマーガレットは、新たに妻に迎えたジェシカとその娘のジェニファーに任せた。
時折マーガレットのことが心配になることもあったが、マーガレットを思い出すたびにアイシアを連想してしまって、会いに行くことすらできなかった。
仕事は確かに忙しかったが、会いに行こうと思えば行けたはずだった。
だがそれもできないほどに、アイシアの死は私に深い傷を残していた。
そうして自らの心に折り合いをつけられずにいるうちに五年が経ち。
私は、宝物であったはずのマーガレットさえも、喪ってしまった。
「何をしているのだ。私は」
この五年間、いったい何をしていた。
ただただ、分別のつかぬ子供のように感情に流されるまま、怠慢に日々を過ごしていただけだった。
己の弱さが、幸せのすべてを失わせたのだ。
領地に戻らねばならない。
王にはすでに報告が行っており、喪に服す期間を与えられた。
「だが、どの面を下げて戻ればよいのだ」
アイシアにも、マーガレットにも顔向けできぬ。
うなだれた私の目に、ジェシカからの手紙が映り込んだ。
「この手紙を受け取った時に戻っていれば……。む?」
この手紙、書いてあることがおかしい。
私の領地から王都まではかなりの距離がある。
だが手紙を届けるのに何週間もかかるほどには離れていない。
その時間を加味しても、この手紙が書かれたのは、おそらく調査員が赴く数日前のはず。
手紙を書いたときに、マーガレットが体調を崩していたとしても、医者に診せて数日で亡くなることなどあろうか。
ましてや、調査員が到着するまでの間に葬儀、埋葬で終えているとは。
「これは、何かある」
心にあふれ出る違和感。
調べなければならない。
「もしやマーガレットは、殺されたのか」
手際が良すぎる。
明らかに何者かの作為を感じた。
しかも、その何者かは、おそらく。
「まずは、話を聞いてみなければなるまい」
感情に任せて行動してしまっては、これまでと何も変わらなくなってしまう。
追求するならば、言い逃れの隙も与えず、徹底的にだ。
私は領地へ帰還する旨を指示し、準備を始めた。
第十八話、いかがでしたでしょうか。
別視点は一度ここまでとし、次回から主人公マーガレット視点へと戻ります。
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