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調査報告

第十七話です。

昨日中に投稿の予定でしたが、日付を過ぎてしまいました。申し訳ありません。

次回の投稿ですが、一度全体の流れを見直したく思いますので、16日の朝とさせていただきます。

何卒、ご容赦くださいませ。


今回は視点が変わっております。

それでは、どうぞ。



「ライゼン卿。奥様よりお手紙が届いております」


執務室で仕事をしている私のもとを王城の兵士が訪れた。


「わざわざすまないな。そちらに置いておいてくれ」


兵士は手紙を机の上へ置くと、一礼して退室していった。


仕事がひと段落した私は、置かれた手紙に手を伸ばした。

この手紙は一月に一度程度、妻のジェシカから届くものだ。

王都からは遠く離れた私の領地にある屋敷の様子をこうして伝えてくるのだ。

もっとも、これは私が指示したことであるが。


私はこの手紙に記すように指示している、私の娘であるマーガレットの様子が書かれたところを読む。


「マーガレットの体調がよくないだと?医者にも診せ、薬もやっているからすぐに良くなるだろう、か。だが心配だ」


私はこの国の政務を請け負う立場故、王都に出来るだけ居なければならない。

王都の屋敷に連れてくることができればいいのだが、領地の屋敷で生まれたマーガレットに、王都までの何日間も旅をさせるのは憚られた。

しかも近頃は特に多忙で、しばらく領地には戻れていない。


「最後に会ったのはいつであったか」


確か、マーガレットの母、アイシアの葬儀の時だった。

その時、マーガレットはまだ二歳だったはず。


「もう五年になるか。陛下がも少ししっかりされていれば、私ももう少しは領地に顔を出せたものを」


私は鮮明にマーガレットの顔を思い出せるが、マーガレットは覚えていないかもしれない。


「ようやく立て込んでいたものは片付きそうだ。これを済ませたら一度領地に戻るとしよう。マーガレットももう七歳になる。王都への道程も越えられるだろうし、王都の屋敷に連れてくるとしよう。私の顔を、覚えてくれているといいが」


もし忘れられてしまっていたとしても、また覚えてもらえばよい。

王都へ連れてきたら、アイシアの分まで私がマーガレットを愛そう。


「む。もう七歳か。ということは今年の調査の対象にマーガレットも含まれているということか」


この国では年に一度、その年に七を数える子供を対象とした調査が行われる。

調査とは、その子供に魔法を扱う素質があるかどうかを図るものだ。

魔法を扱えるものは数が少なく、どんなに些細な程度のものであっても、魔法が使えるとあれば、それなりの待遇をもって国に迎えられる。

その素質は血によって受け継がれるといわれているが、定かではない。

時には市井から、抜きんでた素質を持つ者もあらわれる。

それでも、貴族たちはその血を欲しがるし、悪用をもくろむものも出る。

そういったものを掬い上げるため、この調査は例外を除いて国民全員を対象として行われている。


マーガレットはどうだっただろうか。

もしかしたら魔法の才があって、喜んでいるかもしれない。

もしそうだったら、盛大に祝ってやろう。

そして褒めてやるのだ。

流石は私の娘だと。


はたまた、才がないとされて落ち込んでいるかもしれない。

そうであれば、気のすむまで共にいてやろう。

そして言ってやるのだ。

私はどんなお前であろうと、お前の味方であり、お前を愛していると。


そんなことを考えていると、不意に扉をノックする音が響いた。


「誰か?」


「ルミレス調査団長官殿です」


「入れ」


訪れたのは今年の調査を担当しているルミレス卿だった。


「ルミレス殿。ちょうどよいところに来てくれた。いつ戻ってきたのかね?」


「ライゼン卿もお変わりないようで何よりでございます。王都に帰還したのは昨日です。卿にお伝えしなければならないこともございましたので、少し急ぎで参りました」


そう言う彼の表情は緊張しているようにぎこちなかった。


「そうか。もう少しゆっくりしてからでもよかったのだぞ。どうせ私はここから動けんからな」


私と彼とでは家格が離れている。

家格が上の私に委縮しているのだろう。

彼が調査に赴く以前は何度か顔を合わせたこともあったから、多少は慣れてくれたものと思っていたが。

中には家格でしか人間を見ない愚か者もいるから、仕方ない事か。


多少緊張がほぐれればと軽く冗談を言えば、ルミレス卿は少し表情を緩めたが、すぐにまた硬いものへと戻ってしまう。


「浮かぬ表情だな、何かあったのか?」


「ええ、ライゼン卿とアイシア様のご息女のことで」


「マーガレットか。魔法の才がなかった、という程度のことではないな?」


魔力がなかった程度では、そう深刻なことにはならない。

無くて当たり前、あったら儲けもの。

それ程度の認識なのだ。


「それが……」


妙に歯切れが悪いな。

手紙にあった体調が悪化してしまっているのか?

とはいえ聞かねば始まらぬ。


「なんだ?気になるであろうが。早く言わぬか」


「報告によれば、調査員がライゼン卿の屋敷を訪ねた際、マーガレット嬢は姿を見せなかったと」


「なんだと?やはり体調が悪化しているのか?」


「いえ、そうではなく」


思わず心配に声を漏らせば、そのつぶやきは彼に否定された。


「では何なのだ」


そう先を促せば、彼の口から出たのは、思いがけない言葉であった。


「それが報告では、マーガレット様は、すでに亡くなっていたと……ひっ!」



彼の言葉を理解するより早く、私の手は腰の剣へと延び、直後にはその切っ先が彼の首を向いていた。


「冗談にしては、いささか配慮に欠けるのではないかね。ルミレス殿」


「じょ、冗談ではないのです!報告では、ご息女は以前から病に侵されており、調査員の到着する数日前に容体が悪化し、亡くなられたとの説明が奥方のジェシカ様からあったと!そう書かれていたのでございます!」


彼は突き付けられた剣におびえながらも、そう言い切った。


「あれが、そう言っていたのかね?」


「報告を上げた調査員にも確認しています。間違いありません」


彼の目を見れば、震えながらもしっかりとこちらを見返していた。

嘘を言っているわけではないようだ。

私は剣を下げた。


「すまない。取り乱した」


「いえ、ライゼン卿のお気持ち、お察しいたします」


「その調査員は、娘の姿は見ていないのか」


「ええ、どうやら葬儀が素早く行われたらしく、その者は墓前で祈りをささげるしかできなかったと」


「……なんだと?」


葬儀は確かに、死後時間をおかずになるべく早く行われるのが習わしである。

いつまでも放置しておくと魔物化してしまう場合があるからだ。

死後の魔物化を抑制する清めの儀式の後に、定められた墓地に埋葬されるのが流れだ。


とはいえ、死んですぐに魔物化するわけではない。

一般的には、死したものの身内はどんな事情があれ、最優先で葬儀に参加するのが普通。

たとえこの国の端から端まで離れていたとしても、十分間に合うくらいの時間はある。

故に、身内が集まってから葬儀を行うのが常識なのだ。


それが、葬儀はすでに行われたという。

私に知らせもなく、だ。


「それは本当なのか」


「はい。その者も疑問に思ったようなのですが、ライゼン卿はもう何年もご領地に帰ることができないほどにご多忙であるから、その妨げになることはできないと、マーガレット様が遺言をされていたと、ジェシカ様が仰っていたとのことで、父思いのお嬢様でいらっしゃるといたく胸打たれたと申しておりました」


「わかった。もうよい、報告感謝する」


「は、ライゼン卿、此度は誠に残念でございました。私もマーガレット様のご冥福をお祈り申し上げます」


そう言ってルミレス殿は退室していった。



第十七話、いかがでしたでしょうか。

もしお気に召しましたら、評価、ブックマークをお願いいたします。


次回は16日の朝6:00の投稿予定です。

お付き合いいただければ幸いです。

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