いざ脱出
第十四話です。
投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。
最近手に入れた獺祭を、今日がお休みということで頂いたのですが、そのまま寝落ちしてしまいました。
お詫びといっては何ですが、明日は2話投稿を考えております。
何卒、ご容赦くださいませ。
それでは、お楽しみいただければ幸いです。
人さらいの犯人たちが拠点にしていた遺跡の一室。
そこには5人の女の子たちが囚われていた。
歳のほどは、十歳くらいの子が一人、私と同じくらいの子が二人、さらに小さい五歳くらいの子が二人。
全員、手足を縄で縛られた状態で座っている。
少女たちは部屋の入り口に立つ私を見ると、どうやら自分たちと同じように連れ去られてきた被害者だと思ったのか、つらそうな表情を浮かべるもの、泣きそうになるものがいた。
しかし、少し経っても私以外の人間が現れないことに気が付いたのか、十歳くらいのこと私と同じくらいの子の二人が困惑したような表情になった。
「男たちがこないね?」
「白色種?もしかして」
二人はそんなことをそれぞれつぶやいている。
一方の私は、部屋の中をのぞいた直後、部屋の中にいた存在に目を奪われていた。
(猫耳だ!!)
そう、いわゆる猫獣人。
囚われていた女の子たちのうち、私と同じくらいの年の子のうちのもう一人がそうだったのである。
獣人という表現がこの世界で同課は知らないけれど。
初めて見たし。
この子の獣具合は頭に猫耳がついている以外は、ほぼ人間と同じように見える。
耳は黒色で、毛が長いタイプなのだろうか。
少し汚れているせいか毛が張り付くようにヘタレてしまっているが、洗って乾かしてやればふわふわになりそうだ。
是非触らせていただきたい。
よくよく見てみれば、瞳は金色で瞳孔が縦長になっている。
尻尾はあるんだろうか。
ここからは見えないが、非常に気になる。
後で見せてもらえないか聞いてみよう。
じっと見つめていたせいか、おびえた表情がさらに泣きそうになっている。
怖がられているようだ。悲しい。
何を頼むにしても、まずはここから連れ出すのが先決だ。
そう思って女の子たちに声をかけようとすると、
「貴女、なぜここに来たのか分かりませんが、早く逃げたほうがいいですよ」
女の子の方から声をかけられた。
私に声をかけたのは、どうやら私と同じくらいの年の、猫耳でないほうの子。
周りの子の着ている服よりも上質そうな服を着ているので、少し気になっていた子だ。
身に着けている服装のデザインは見覚えがあるものだし、言葉遣いも年の割に丁寧に思える。
これはもしかするともしかするかもしれない。
「貴女はここから出たくはないのですか?」
面倒が増えそうな予感にため息をつきたい気持ちを抑えつつ、私は女の子に尋ねた。
「出たいに決まってます。でも、逃げようとしても私たちを攫った男たちが来て、また捕まってしまえば同じことです。そうしたらあなたも捕まってしまいます」
そこで女の子は一度言葉を切り、私の目をまっすぐに見てきた。
「男たちが話していました。最近街に白色種の女の子がきていて、とても見た目が良いから高く売れそうだと。貴女も狙われているんです。だから、男たちが来ないうちに早く逃げてください」
女の子はそういうと、視線で私の背後を示す。
この女の子は、なかなかに胆力のある子のようだ。
自分たちがどうなるかを理解しつつも、私を逃がそうとするなど、十歳にも満たない女の子ができる決断だろうか。
私は思わず内心でとても感心してしまった。
しかし、他の子たちは違った。
私とその女の子の会話から、今なら逃げられると思ったようだ。
特に小さい子が、私も連れて行ってと、大声で叫び始めてしまった。
私に出ていくように促した女の子は、騒ぎだしてしまった女の子たちを何とかなだめようとしているが、上手くいっていない。
最年長らしい女の子も、逃げたい気持ちと騒いではいけないという気持ちに揺れているのか、騒ぎこそしないものの、どうして良いか分からないというようにおろおろしている。
とりあえず騒がれていては話もできないので、手をぱんぱんと打ち鳴らす。
その音に、女の子たちはいっせいにこちらに注意を向けた。
騒いでいた女の子たちも突然なった音に驚いたのか、静かになった。
「みんな落ち着いて。私は、みんなを助けに来たの」
そう声を上げれば、騒いでいた子たちは表情を明るくして、身なりのいい子は何を言うのかという様子で声を上げようとするが、私はその前に言葉を続ける。
「貴方たちをさらった男たちはしばらくここには来ないから、今は早くここから出ましょう。ですが、私の言うことを聞けない子は置いていきます。みんないい子にできますね?」
私は女の子たちを見渡す。
小さな二人はぶんぶんと音がしそうなほど激しくうなづいている。
猫耳の女の子は私と目が合うと、コクンとうなずいてくれた。
その様子がかわいらしくて、つい笑みを浮かべると、ひっと声を上げて目をそらされた。
解せぬ。
身なりの良い女の子は何やら言いたげであったが頷き、年長の子も同様に頷いた。
その様子に私は一つ頷いて、
「では、まずはその縄を切りますから、じっとしていてくださいね」
女の子たちを戒める縄を解きにかかった。
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縄は手持ちのナイフですぐに切れたので、解放するまでにそれほどの時間はかからなかった。
女の子たちに聞けば、ここに連れてこられてからずっと縛られたままだったらしいので、まずはその手足を解しておくように言った。
ここからしばらくは森の中を移動することになる。
私が魔法で周囲の様子を探りながら移動するから、走ったりというようなことはできるだけさせないつもりだ。
だが、森の中というのは普通の道を歩くことよりもはるかに体力を使う。
つまずいて転んで動けなくなられても困るし、解さずにいるよりはましだろう。
そして、縄を解いている間に、身なりのいい女の子に話を聞いてみると、やはり彼女はフリウスの街の領主の娘さんらしい。
何やら護衛を連れて街に出ている間に攫われてしまったとか。
街で人さらいなど大騒ぎになりそうなものだが、おそらく領主が口止めでもしていたのだろう。
そうでなければ噂では済まない。
「街に戻ることができたら、必ずお礼をします」
そう言って笑みを浮かべる彼女。
フラグになるので余計なことは言わないでほしい。
もちろん直接言いはしないけれど。
全員の手足のしびれが取れ、ある程度自由に動かせるようになったところで、私たちは移動を開始した。
遺跡で倒した男たちは、女の子たちが捕まっていた場所に集め、ひとくくりにして土魔法で拘束しておき、入り口の扉も元のように施錠したので、彼らが追ってくる心配はない。
他に仲間がいるなら別だが、ここにきているものは全員遺跡に集まったと言っていたし、もしそれ以外の人間が来たとしても、土の魔法がなければ解放は容易ではないはず。
一週間程度街で過ごした時に見た様子では、魔法を使っている人はほどんど見かけなかったから大丈夫だとは思うけれど。
もし万が一私のように土魔法を操れる人が来てしまうと困るので、できる限り早く移動しよう。
私たちは、私を先頭に小さい二人、領主の娘さん、年長の子、猫耳の子という順番で、私と小さい女の子は手をつないでいる。
本当は森の中では手を放して歩き、繋ぐなら縄などにすべきなのだが、ここでは激しい高低差のある場所は避けるし、転ぶのを避けたいので直接手を握っている。
ちなみに猫耳の女の子は、耳がよく聞こえて周囲の様子がよくわかると、後方の注意をするのを買って出てくれたので、一番後ろを任せている。
足元のおぼつかない森の中でも、女の子たちの中で一番身軽に歩いていて安心感がある。
猫獣人は運動神経がいいのかもしれない。
急いでここを抜けたいとは言え、私や猫耳の子はともかく、他の女の子たちはまだ幼い子供だ。
歩き通しはどう考えても無理なので、途中何度か休憩を挟む。
お腹もすくだろうから、携帯していた干し肉を分け、水分補給は魔法でする。
この世界での魔法の扱いがはっきりするまでは、あまり人に見せびらかしたくはないが、この際そうもいっていられない。
女の子たちは魔法を初めて見たらしく、それまでの疲れが嘘のように大はしゃぎしていた。
勝手な印象ではあるが、魔法を見ていそうな領主の娘さんでさえ、はしゃぎはせずとも心なしか目を輝かせて、食い入るようにこちらを見つめていた。
魔法の存在は、この世界では主流ではないのかもしれない。
休憩の度に見せれば、それだけでみんなが元気を取り戻してくれるので、大した不満が出ずに進むことができた。
それだけでも魔法をさらした甲斐があったというものだ。
そうして森の中を歩いていると、私の風魔法はついに森の中とは違う音をとらえた。
風がさえぎられることなく、自由に吹き抜けていく音。
街道が近づいたのだ。
しかし、私はそれを素直に喜ぶことができなかった。
街道に複数の気配があり、その会話が小さいながらも聞こえてきたからだ。
「受け取るはずのガキがいなかった。しかも拠点の奴らは全員閉じ込められてやがった。誰かが連れ去ったに違いない」
「もう予約が入ってるやつもいたんだぞ。絶対に逃すな。子供の足ではそう遠くへは行っていないだろう。探し出して取り返せ」
どうやら運搬役がいたらしい。
さあ、どうするか。
十四話、いかがでしたでしょうか。
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