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Bon voyage!  作者: 雛樹
第二章 丁度良い所にアレが居たので、利用してみた
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お久しぶりです。

この章は、第一章のクロ視点となります。

思い立ったが吉日。

前から考えていた計画を実行に移そうじゃないか。







「は?なにこれ?」

「依頼書だよ。もうボケ始めたの?」

「依頼書ってのはわかるわ!じゃなくて、この依頼主だよ!なんでお前がギルドに依頼するんだよ!しかもドラゴンの鱗って、自分の剥いでりゃいいじゃん!」


心配してやったというのに、この男、ギルドマスターにして、元冒険者仲間、現ラズリの養父であるディルクがバンバンと机を叩いて喚いた。

三十路も過ぎた割に、こういう所は昔と変わらない。

もう少し落ち着きと威厳というものを持った方がいいんじゃないかと、義娘のラズリが嘆いているが、まぁこれは一生変わらないだろう。


「ん~。ラズと一緒に・・・・・・ドラゴンに会いに・・・・・・・・行って来ようかと思って。」

「・・・・・・ああ、なるほど。」


腐ってもギルドマスター。頭の回転はそれなりに早い。

挙動はアホだけども。


「いきなり話しても、ラズが混乱するだけだろうし、丁度良いのが近くの山に移り住んできたから。」

「丁度良いのっていうけどさ、レッドドラゴンじゃん。」


レッドドラゴンといえば、気性が荒いで有名みたいだけど、あれなら大丈夫。

俺に逆らうことは絶対ない。

誰が上位かって事を、骨の髄まで叩き込んであるからね。


「俺が育てた奴だから問題ない。」

「このレッドドラゴンに心から同情する。」

「失礼な。立派に成長したよ?」

「それ奇跡だからな?お前、ラズリ以外はいてもいなくてもどうでもいいだろ。」

「いや、ドラゴンなんて適当に魔獣の巣穴に放り込んで鍛えさせておけば、それなりに成長するし。」

「ほんっとぉぉぉぉに!そのドラゴンに同情するよ!!」


大袈裟な奴だな。






「まぁいいや。レッドドラゴンの鱗一枚ね。依頼発注書作るから、ちょっと待ってて。手付金30万、報酬は300万って所が妥当かな。それくらい出せるよね?」

「問題ないよ。」

「しかしまぁ、ついにかぁ。ジークが草葉の陰でギリギリしてそうだね。親馬鹿の代表格みたいな奴だったし。」

「きっと喜んでいるよ。娘の幸せは父親の幸せでしょ?」

「そのポジティブ思考尊敬する」

「ありがとう。」

「嫌味も通じない!!」


何故か頭を抱えるディルクを放置して、窓際に置かれたソファに座る。



「ラズの成人まで待つ約束は守ったもん。」

「若干フライングしてんじゃん。あと、いい歳した男が、もんとか言うな。」

「ディルクにだけは言われたくないからね?」


ぎゃんぎゃん喚くディルクを、目を閉じることでシャットアウトする。

思い浮かぶのは、懐かしい戦友の姿。

「あれから、もう六年も経つのか。」

思わず漏れた言葉に、一瞬黙ったディルクが早いもんだなと答えた。

200年以上生きてきたけど、ジークと出会ってからの時間の方が色濃く感じるなんて不思議だ。







 ラズリが生まれる少し前、暇を持て余していた俺は、気まぐれで人間のふりをして冒険者として生活していた。

とある依頼でたまたまチームを組むことになり、目の前にいるディルクと、ラズリの父ジークと出会った。

その時すでにAランクだった二人は、他の人間と一線を画する存在だった。

冒険者というのは、他者を足蹴にしてでも上に這い上がろうとする人間が特に多い。

また、強者には諂い恩恵を得ようとする。

そいつらとは違い、真っ直ぐな心根のジークとディルクを気に入らない筈がなかった。

ジークの大雑把且つ猪突猛進な性格には、何度か手を焼かされたが、それでも俺は気に入っていたんだ。


 行動を共にするようになって数年が過ぎたある依頼で、俺たちは小さな村を訪れた。

依頼自体は魔獣の盗伐で、あっさりと片付いたのだけれど、ジークがその村の娘に一目惚れをした。

あの大雑把で豪快を絵にかいたようなジークが、顔を真っ赤にしてぎくしゃくと動く様は面白かった。

紆余曲折あったものの、ジークと娘リディアが結婚し、その翌年の夏ラズリが生まれた。



 見た瞬間わかった。

ラズリが俺の番だと。

ドラゴンが番うのは一生に一度。

出逢った瞬間、本能で感じる。

感じ方はそれぞれらしく、俺の場合は匂いだった。

脳が痺れる様な、甘い匂い。

ああこれがそうなのかと納得するのと同時に、今まで何にも興味関心を持てなかった俺の感情すべてが、目の前の小さな赤子に向けられる。

ジーク曰くの、一目惚れをしたのだ。


 それから、時間さえあればラズリを訪ね、できうる限り一緒にいた。

ジークは娘は嫁にやらん!とか、まだ早い!とか俺より200歳以上の義息子なんて嫌だ!!とか言ってたけど、ジークの許可なんか必要ないし。

ラズリが頷いてくれればいいだけだ。


 俺が尋ねる度に、「くりょ!くりょ!」と駆け寄ってくるラズリの愛らしさに、何度鼻血を吹き出したか。

「じょーぶ?いちゃい?」と、泣きそうな顔で手当をしてくれるラズリに、下半身が暴走しかけてジークに殴り飛ばされたこともあったな。

とにかく、ラズリは可愛かった。いや、可愛いなんて言葉じゃ足りない。

ほっぺにちゅうとかされた日には、三つ向うの国まで飛んで行って、悶絶したものだ。


 ラズリは生まれた時から魔力の量が多かった。

大分薄れてはいるが、リディアがエルフの血統を継いでいるからだろう。

泣くなどの感情が乱れた時に、魔力が暴走して周囲に影響を与えることも増えてきた。

もしやと思い、俺の鱗を握らせてみると、案の定暴走は抑えられた。

ブラックドラゴンの鱗がラズリの魔素を吸収したことで、魔力の生成を抑えたのだろう。

こんな鱗じゃなく、きちんとした物を贈ろうと決めた。



 だが、幸せな日々はそんなに長くはなかった。

ラズリが10歳の時。長閑な村が魔獣の襲撃を受けた。

数匹ならジークの敵ではない。

数十匹を超える魔獣の群れは、容赦なく戦い方など知らない村人を襲った。

緊急の知らせを受けた、俺とディルクが駆け付けた時にはもう、すべてが終わっていた。


濃密な死の魔素。

穏やかな時間が流れていた村は、見るも無残な屍の山となっていた。

ラズ、ラズリは・・・?

生まれて初めて感じる恐怖に震えながら、ジークの家へと走る。


見慣れた青い屋根の家の前に、ジークはいた。

剣を手に持ち、背にした家を守るようにして、事切れていた。

叫ぶディルクの声が遠い。


家に入ってすぐの所に、リディアが倒れていた。

腹の辺りが噛み千切られている。

首筋に触れてみたが、すでに冷たかった。

ラズリ?ラズリはどこだ?

血のにおいで鼻が効かない。

ドクドクという音で耳がよく聴こえない。

体が思うように動かない。


そう広くはない家の中、ラズリを捜して彷徨う。

そうして、漸く、クローゼットの中、血まみれで蹲るラズリを見つけた。

全ての感情と言葉を失い、虚ろな眼をした人形となった、ラズリを。








「一時はどうなるかと思ったけど、人間生きてりゃなんとかなるもんだよね。」

感傷を振り払うようなディルクの声に視線を向けると、紙をひらひらさせていた。

「ほら発注書。ラズリの怒り狂う姿しか浮かばないけど、上手くいくといいな。」

「ふふ、大丈夫。俺のラズへの愛は不可能を可能にするから。」

「俺はお前のその笑顔に、不安しか感じないんだけど?」


発注書を受け取って、そこにサインをする。

ふふふ、楽しみだなぁ。



 あの村で唯一生き残ったラズリは、ディルクの養女として引き取られた。

無理にでも食べさせなければ食事も水分も採ろうとしない。

心があの日死んでしまったのだろうと、医者が言った。

だが、俺は諦められなかった。

ラズは俺の唯一だ。ラズリが死ぬなら、俺も死ぬ。

身の回りの世話は、すべて俺がやった。

番の世話が苦である事なんかある筈がなく、嬉々としてやったよ。

まぁ、入浴とかはディルクに断固却下されて、渋々ギルドの女性に任せたけど。


沢山話した。一方的に俺が話すだけで、反応は何も返ってこなかったけど、兎に角沢山話しかけた。

その甲斐あってか、徐々に反応を返すようになり、声を取り戻し、笑顔も取り戻した。

医者は奇跡だと言った。

違う。奇跡じゃない。ラズリが頑張った結果だよ。



俺の話を聞いて、ラズリが冒険者になりたいと言い出したことで、またちょっとした騒ぎになるんだけど、まあそれは割愛ってことで。
















【補足】

ラズリは10歳よりも前の記憶が曖昧です。いつも一緒に遊んでくれたお兄さん=ディルクと勘違いしています。クロもその事を知っていますが、敢えて訂正していません。

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