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Bon voyage!  作者: 雛樹
第一章 レッドドラゴンの鱗一枚、持ち帰りでお願いします
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はじめまして。どうぞ、生暖かい目で見守っていただけたらと思います

 今日も世界は回っている。

たとえ誰かが苦痛にうめいていても。

たとえ誰かが幸運に狂喜していても。



たとえ、私が理不尽なこの現状に頭を抱えていても!!!




「なんでこんな依頼しか受けてこないのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」









テーブルに頭を打ち付け、そのまま夢であれと念仏のように呟く私の目の前には、朱印の押された一枚の紙。

そこには、あのチャラチャラしたギルドマスターが書いたと思われる、いい加減な字体で。




 レッドドラゴンの鱗一枚、持ち帰りでお願いね!と、一行。




「これって、Sランクの仕事じゃん!!うちらまだBランクじゃん!!持ち帰りでお願いって、うちはファストフード店じゃねぇよ!!つか、マジで依頼書じゃん!!」



くわっと鼻息も荒く依頼書をテーブルに叩きつけ、ビール片手に楽しげにこちらを見ている相棒に怒鳴りつけた。


「偽の依頼書だったら大問題でしょ?」

「そういう話じゃないし!!つべこべ言わず、依頼取り消して来い!」

「あ、それはムリ。だって、手付金受け取ってきちゃったもん。」


のほほ~んととんでもないことを言いやがった。

ギルドのルールで、手付金を受け取ったら契約は成立。

これを反故することは、ギルド追放を意味する。


「うがぁぁぁぁぁ!!この馬鹿!!どうすんのよ!?ドラゴンなんか近寄ることすらムリだって分かってるでしょ?!私に死ねと!?」


頭をかきむしって、涙目でわめき散らす私。

私のこの反応は至極まっとうだ。

なんせ、ドラゴン。

人間がおいそれと近寄ることすらできない、すべての生命の頂点に立つ、至高の存在だ。

その中でも、絶対に手を出してはならないとされているのが、気性の激しい赤、それとドラゴンたちの王たる黒。

今回は、そのうちのレッドドラゴンの鱗ときたもんだよ!!(涙目)



「そんなわけないでしょ?ラズの事こんなに大切にしてるのに。」

「言ってることと、やってることが違いすぎるんだよ!」

「大丈夫、俺とラズなら鱗くらいちょろいって。」

「クロ、あんた寝言は寝てから言ってよね。」


怒鳴る気力もなくして、目の前の少し温くなったビールをあおり、一気に飲み干して、私は目の前の男をじとーっと睨みあげた。







 目の前の男は、私の相棒でクロムヴェルグ。通称クロ。

歳は知らないけど、見た目で私よりも年上なのは確かだ。

憎たらしいほど綺麗な黒髪と、形の良い琥珀色の目。

背はこれまたむかつくくらいでかい。一見ひ弱な優男に見えるけど、それなりに筋肉あるってのも腹立たしい。

つまり、クロは私の欲しいものをすべて持っていて、私とは正反対ってことだ。



 私はラズリ。もうすぐ16歳。

銀の髪と、瑠璃色の目。

国一番の美人(父談)の母親のから生まれたはずなのに、平凡顔。というか、童顔。

身長は、女性としては可もなく不可もなく。

けど、冒険者としてはもう少し伸びてほしいと、毎日牛乳は欠かせない。

どんなに筋トレしても、一向につかない筋肉が悩み。目指すは綺麗に割れた腹筋!!


10歳の時、魔獣の群れに村を壊滅され、一人生き残った私は、父の友人だった王都の冒険者ギルドのマスターの養子になった。

そこで暮らし始めて間もなく、父とギルドマスターの友人と名乗るクロと出会った。

3人でこなした冒険話を聞くうちに、私も同じ道に進みたいと思ったのは、必然だと思う。


猛反対するギルドマスターを、クロとコンビを組んでの依頼を受けることを条件になんとか説得して、コツコツとランクを上げて、やっとBランクまで上がったのだ。




なのに、レッドドラゴンの鱗とってこいとか、ないわぁぁぁぁぁ!!(号泣)











 やけ酒も進んでお腹もいっぱいになったところで、改めて依頼書を読み返してみると、さっきは気にもしなかった報奨金が目に飛び込んできた。


「うっそ・・・。なにこの金額。」


手付金30万ルキア。成功報酬300万ルキア。

ちなみに、Sランクの報酬は大体100万ルキアが相場。

今回の対象がどれだけの物なのかが、金額に表れているようで、目の前が真っ暗になる。


ドラゴンだもんなぁ。しかも赤と来た。

一番凶暴で有名じゃんよ。

ああ、私の人生終わった。


「ラズ、顔色悪いよ?飲みすぎたんじゃない?」

「私の顔色が悪いのは、アンタが原因だ!なに、この途方もない金額!!今私の死亡フラグが間違いなく立ったわ!!」


勘弁して、ホントに。ああ、まだまだやりたいことたくさんあったのに。


「やりたいことって何?」


アリスのケーキ全制覇でしょ?モッズ食堂のメニュー全制覇、それから、グクログのとこのメニューもまだ全制覇してない。


「全部食べ物か。そんなに食べてるのに、全然肉が付くべきとこに付かないのが不思議だよね?」


あとは、世間一般の女の子らしく、恋とか結婚とかしてみたい。この前見かけたお兄さんとかかっこよかったなぁ。勇気を出して声をかけてみれば良かったよ。


「ふーーーん。」

「え?」


目の前から冷たい空気が流れてきて、私は我に帰ってクロを見た。



「かっこいいお兄さん、ね?」

「・・・もしかして、口に出してた?」

「うん。もう、バッチリ。」


な、なんでそんなに怖い目してんの?

つか、なんで前のめりで睨んでくる?



「ラズには俺がいるでしょ?」

「は?」


何いってんだ?

言われてることが理解できなくて、でもって顔が近すぎるのに落ち着かなくて、私はのけぞ・・・・ろうとしたが、クロに頭を鷲掴みされてできなかった。


「何で逃げるの?」

「いや、顔が近すぎるんだけど。」

「あ、照れてる?」


そこでにやける理由がわからん。


「アンタ、頭に虫でも湧いたんじゃないの?私、虫大っ嫌いなの知ってるよね?駆除するまで近寄らないでよ?」

「ひどい。」


わざとらしく傷ついたような顔をするクロを冷めた目で見るくらいには、落ち着きを取り戻した。


「手付金受け取っちゃった以上、依頼を受けないわけにはいかないんだから、せめて1%でも生存確率が上がるように、準備しないと。」


はぁぁぁぁっと盛大なため息を一つ吐いて、よいこらしょと立ち上がる。

ラズが冷たい!と泣き伏すクロは無視だ。



何だかんだ言っても、クロが大丈夫だと言えば大丈夫だということを、身をもって何度も体験してきているんだ。

今回も大丈夫な・・・・・はず。・・・・たぶん。


そう思わなきゃやってられんわ!!












 旅の必需品を馴染みの店で購入してから、養父であるギルドマスターの家にほど近い場所にある、冒険者向けのアパートメントの自室に戻ると、購入したものをテーブルの上に並べて、買い忘れがないかをチェック。


ちなみに、クロの部屋は私の部屋の隣だ。


 空間魔法がかけられた、ギルド謹製のヒップバックにそれらをすべて詰め込む。

手のひらサイズのカバンに、ほぼ無尽蔵にものが収納できるこのバック。

うちのギルドの研究員が開発したらしいんだけど、これのおかげで冒険が何倍も楽になったとギルドマスター大絶賛の一品だ。


ただし、整理整頓して収納しないと、ただのカオスボックスになるので、取扱いには一定の注意が必要。






さて。次は武器の手入れ。

直接武器を持って戦うよりも、魔術を使った後方支援が得意な私の武器は、護身用の細身の剣とナイフ、それから魔術を安定させるための黒い宝珠が埋められた腕輪だ。

ギルドマスターやクロ曰く、私の魔力は人よりも多すぎて、うっかりすると暴走してしまうらしい。

それを防いでくれるのがこの腕輪で、これなしに魔術を使うことは禁じられている。




刃こぼれや、不具合がないかを確認し、鞘と提げ紐もチェック。


「よし。こんなもんかな。」



荷物よーし、武器よーし、明日着る服よーし。


風呂入って、さっさと寝よう。







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