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翡翠荘の殺人  作者: 山葵たこぶつ
第三問「首縛り」
11/16

首縛り 推理篇

※第三問前篇「密室の首縛り」の推理篇になります。先に問題篇をご覧下さい。

六.


 無理心中。相手を無理やり殺して、自身も死ぬ。


 密室における双子の姉妹の死の裏には、殺人という狂気が隠れている。そうアキラは主張した。


「無理心中……?」ヒカリは右手で口を覆い、考え込んでいる。

「まあ、本人の口から聞けない限り、百パーセントとは言えない」アキラが言った。「何せ、二人とも死んでいるんだから、真実は闇の中だ」


「けど、推理は出来る?」ヒカリが尋ねた。

「それだけじゃない。俺の仮説通りなら、奇妙な優衣さんの格好について説明がつくし、ある証拠も翡翠の敷地の中にあるはずだ」

「ねえ、私思ったんだけど」とヒカリ。「二人とも密室で死んでたんじゃない? コウジロの部屋には、鍵を開けて入ったって管理人さんが言ってたし、図書室では、舞衣さんが扉に背中を預けた状態で死んでたんだから。それについても説明できるの?」

「できる」アキラは答えた。

「おお、聞かせてよ」

「まず、簡単に二人の死について、おさらいしよう」アキラが説明を始めた。「夕食の時間、舞衣さんと優衣さんの姿はなかった。管理人さんは、あらかじめ優衣さんに午後七時半に部屋に訪れるように言われていたという。コウジロの部屋に行くと、優衣さんが首を吊って死んでいた。食堂にいる俺達に呼び掛け、もう一度皆でコウジロの部屋に行くと、ロープがちぎれて優衣さんは床に落ちていた。その後、舞衣さんの捜索が始まったな。図書館の二つのドアのうち、トイレに近い方のドアはロックされており、階段に近い方のドアでドアノブを利用した首吊り状態だった」

「うん」ヒカリが頷いた。

「次にハッキリさせておこう」アキラは腕組みをした。「無理心中を図ったのは舞衣さん。殺されたのは優衣さんだ」




七.

「俺はコウジロの優衣さんを見たとき、違和感を感じた」アキラが続ける。

「そりゃあ、誰だって不思議に思うでしょ」ヒカリが言う。「だって、ベッドのシーツで首から下をぐるっと巻いてたんだよ? 違和感どころの騒ぎじゃないでしょ?」

「まあ、確かに最初、違和感はそのせいだと思っていた。けど違ったんだよ。もう一つ、優衣さんの遺体でおかしなところがあったんだ」

「んん? 私は全然気付かなかったなぁ。ベッドのシーツに集中しすぎたかな」

「二度目にお前に連れられて現場を見たときだ。閃いた」

「だから、何を?」ヒカリが催促する。

「それは、ロープが優衣さんの髪の毛に巻きついていたことだ」アキラが答えた。

「全然わからないんだけど? どういうこと」


 アキラは自分の首の付け根よりやや下のあたりをなでた。

「ヒカリ、別にお前みたいに、このくらいの長さでも同じことが言えるんだ」


 ヒカリは首を傾げた。

「お前、ネックレスしたことは?」

「気付いてないの? たまにしてるじゃない、私」ヒカリは苦笑した。

「ネックレスを付けるとき、髪が邪魔にならないか?」


 うーんと、ヒカリが唸る。

「邪魔っていうか、まあ払うよね、基本的には」そう言ったのち、ヒカリは何かに気がついたような表情を見せた。

「わかったよ、アキラ」ヒカリが声を上げた。

「ロープも同じことが言えるんだ」とアキラ。「自殺する人間の心理は解らない。だが、彼女がもしも、いつもネックレスをするようにロープを首にかけたとすると……」

「髪の毛をロープの外側に払う」ヒカリが続けた。「けど、ロープは優衣さんの髪に巻きついていた」

「そう、優衣さんは自分でロープをくくったわけではないと推測できる」


 ヒカリは得心がいったようである。


「さらに、次の推測だ。これで密室の謎が解ける」アキラは言い放った。




八.

「コウジロの部屋の優衣さんの死体は奇妙だったよな。ベッドのシーツで身体をぐるっと巻いていた。管理人さんは首を吊った状態を見ていたのなら、優衣さんの死体を『てるてる坊主』と表現するのも頷けるだろう」

「多少優衣さんに悪い気がするけどね……」ヒカリが苦笑する。


 アキラは廊下にあるランドリーカートを指さした。


「この中に、シーツが詰まっている」

「うん。そうだね」とヒカリ。

「絶好の隠し場所じゃないか」アキラは言った。

「隠し場所?」

「いいか? 舞衣さんは、この中に優衣さんを隠したんだ」

「死体を隠してた?」ヒカリが首を傾げた。「それって、いなくなった時間からずっとってこと?」

「そうだ。ただし、俺達が死体を見つけたときは、コウジロに戻されていたけどな」


「あ」ヒカリが声を上げた。「入れ替わりトリック……」

「そうだ。舞衣さんは優衣さんと入れ替わっていたんだよ」アキラが結論を言った。「まず、舞衣さんは優衣さんの死体を、ランドリーカートに隠した。それを廊下のコウジロのすぐそばに置いておいたのさ」


 アキラは一拍置いた。


「次に、舞衣さんはロングヘアのカツラをかぶり、優衣さんになりすました。これは、七時半に訪れる管理人さんを騙すためだ。更に部屋の鍵を閉め、ロープで首を吊ったふりをしたんだ。ベッドのシーツの役割は、二つのものを隠すことだった」

 人差し指と中指。二本の指を立てるアキラ。

「一つ目は自分の衣服。舞衣さんと優衣さんでは、当然着ているものが違ったからな。衣服を隠すためにベッドシーツを使ったんだろう」


 アキラは中指を畳んだ。


「そして、もう一つは椅子だ。首吊りで死んだ風に見せかけるためには、自分は高い位置にいなければならない。そこで、舞衣さんは椅子の上に乗り、ベッドのシーツを床まで届かせて椅子を隠したんだ。管理人さんが言ってたよな。『ベッドのシーツが床まで』と」

「ああ、あのシーツを身体に纏ってたのは、そんな意味があったんだ」ヒカリが納得する。

「そして管理人さんが、頼まれた通りコウジロの部屋を訪れたら、舞衣さんのことを優衣さんと見間違え、密室の中の死体が出来上がる。管理人さんが俺達を呼びに行っている間に、最後の仕上げだ。まずはシーツを脱ぎ、ロープを首と梁から外す。あらかじめ手に持っていただろう、ロープの切れ端を梁に結び付けた後、椅子から下りて蹴り倒しておく。ランドリーカートを室内に運び、本物の優衣さんの死体、おそらく首にロープの切れ端のもう一方を縛りつけておいた死体を、床に転がして、ベッドのシーツで身体をくるんだ。後はランドリーカートを元の位置に戻し、自分は図書室に隠れれば密室の完成だ」


 ああ、喋り疲れた、とアキラはため息をついた。


 ヒカリは何かを考えているようだった。


「優衣さんを自殺に見せかけた理由は、自分が人殺しだと思わせないようにするためだろう」

 ヒカリは沈黙している。


「だが、俺の推理が正しければ、翡翠の敷地内、おそらくコウジロの部屋から、ロングのカツラが見つかるはずだ。以上」




Solution to a crime……


「ねえ、アキラ」ヒカリがアキラの顔を見た。「私、その推理間違ってると思う」

「え?」




九.

「俺の推理が間違ってる?」アキラは尋ねなおした。「何かおかしかったか?」

「うーん」ヒカリはまだ考えが言葉に還元出来ていないのか、言いづらそうである。

「何でもいいから言ってみろ」


「うん、わかった」ヒカリが口を開いた。「まず、アキラの推理だと、舞衣さんは死んだふりをして密室を作ったのち、自分も図書室で自殺した」

「そうだ」アキラは頷いた。

「……何で?」

「何でって、何で?」ヒカリの意図が読めず、アキラは思わず聞き返した。

「何でわざわざ、そんな密室トリックを使ったの?」

「そりゃあ、より自殺の印象を強める為に決まってる」アキラが答えた。

「いや、そうじゃなくってさ」ヒカリが抗議した。「何でわざわざ、そんなトリックまで使って別々の部屋で死んだの? 心中の印象を強めたいなら、自分もコウジロで自殺すれば良かったじゃない」


 アキラは目を見開いた。確かにその通りだ。


「それにさ。今のトリックを完成させるには、管理人さんが身体に触らないで、すぐに部屋を出る必要があるよね? だったら、わざわざ死んだふりなんてしなくても、優衣さんを吊った後に、バスルームにでも隠れてればいいだけの話じゃない」


 ヒカリの言う通りである。アキラは言葉が出なかった。


「で、極めつけなんだけど」

「まだあるのか……」アキラは眉間を指で押さえた。

「優衣さんの死体を見つけてから、私達、結構早くに舞衣さんの死体を見つけたよね? アキラの推理では、かなりのスピードで舞衣さんは自殺したことになる。人間って、ドアノブ自殺でそんなに早く死ねるかな? アキラの推理には時間的な問題があるよ」

「……」アキラは次の言葉が出ない。ヒカリの指摘は、すべて正しかった。


 自分の推理が間違っている?


 だったら、優衣の死体の格好は、何を意味しているというんだ。


<後篇へ続く>


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