12 樹海に差す、一筋の光
「....え、?」
分かっているはず、なのに口から呪いのように言葉が吐き出された。
「それって、どういう....」
「ルルの首輪....設計図に載ってたの。外さない前提で、作られた首輪....
だから、無理やり壊したら、致死量の電気が...流れて....」
それ以上は聞かなくてもわかる。
聞きたくなかった。
「死んじゃうの。」
(ははは、)
乾いた笑い声が喉から漏れる。
(ただの無駄足だったのか....)
外さない前提で作られた。
致死量の電気。
その単語が頭の中で反芻する。
(.....そうだな。そうだ。よく考えれば分かったじゃないか。
彼女に逃げる隙なんて与えるわけがない。)
「ごめん。レイ。無理なお願いしてたっぽい。
ごめんね、ルル。ごめんね。」
懺悔のように、彼女の口から言葉が零れる。
(俺だって無理だって分かってる。
それでも
______ルルを助けたい。)
「メイナ。約束は守るよ。」
少し苦しそうな声だった。
それでも、笑ってみせた。
――安心させるためか。
それとも、自分に言い聞かせるためか。
分からないまま、言葉が先走っていた。
俺の胸に当てたクロの頭が少し動いた。
そこから、ずっと考えている。
ルルを救う方法。
壊せない。
外す方法がない。
無理やり壊したら死ぬ。
光の届かない樹海に迷いこんでしまったみたいだ。
静音に包まれた夜の中。
メイナの寝返りをうつ音だけが響いていた。
朝。
まだ結論を出せないままでいた。
一晩中考えていたせいで寝不足だ。
メイナの方も寝不足らしい。起きそうになかったから置き手紙だけ残してきた。
クロはいつも通りといった感じか...
暗い雰囲気の中で、クロの明るさだけが少し浮いて見えた。
クロが斜め右を指さす。
「ああいう甘いやつってさ。食べたら少し楽になるんだって。どう?」
俺は無言で頷く。
俺が何かをする間もなく、飴を買ってきた。
そのまま俺の手を握ってどこかへ行く。
手を引かれるままに歩いていく。
気づいたときには見慣れた、
時計塔まで来ていた。
クロが俺の口に飴を突っ込む。
「ここなら、何か思いつくんじゃない?」
口に突っ込まれた飴を一舐めする。
さっきまで頭の中を埋めていたものが、ほんの少しだけ、遠のいた気がした。
クロのもってる飴を自分で持った。
口から出す。
「....そうだな」
クロは俺の手を強く握る。
そのまま、空に向かって駆け昇った。
時計塔の頂上。
ルルと2回戦った場所だ。
ここの床、真っ赤だったよな...
視界にあの時の景色がフラッシュバックする。
時計塔から乗り出して座る。
一つ、大きく深呼吸した。
出口は見えない。
それでも、樹海に一筋の光が差し込んだような気がした。
街が足元に広がる。
(俺も寝不足だったな...)
横にいるクロの肩に頭が乗る。
抗う間もなく、意識が沈んでいった。
懐かしい歌声が頭に響く。
俺も歌声に続くように口ずさんだ。
「レイ、まだ起きてたの?早く寝ないといけないじゃない。」
うっすら目を開ける。
「母、さん...」
「なあに?悪い夢でも見たの?」
頭がすっきりしたような感じがする。
ヒューッと冷たい風が通り抜けた。
夢だったのか...
夢、だったのか?
あの歌声がまだ響いていた。
少し右を向く。
クロが歌っていた、あの歌を。
「あっ、起きた?」
頭をクロの肩から起き上がらせる。
空は赤く染まっていた。
「ごめん、少し寝すぎた。」
(無駄にしてしまった時間を。何でこんな時間まで寝てしまった?)
空をもう一度見つめる。
(もう夕方じゃないか。寝すぎだ。俺。気を抜いたらだめだろう。)
強張った足に力を入れる。
立ち上がろうとした。
その時、
視界が横向きになる。
頭がクロの膝の上に乗せられた。
「自責しすぎたらだめだよ。
それに、落ち着いてから考えないと出口はみつからないよ。」
クロの指先が俺の髪を弄る。
(クロの言う通りかもしれない。焦ってても、答えは見つからない。)
目を閉じて、また開ける。
ゆっくりと街を見渡した。
(上側にスラム。路地裏があった場所。
あそこで、クロと仲違いしそうになったりした。
正面に門。
俺達がこの街にくる時に通ってきた。
下側に対悪魔部隊支部。
昨日、潜入してた場所だ。あの時はほんとにクロに助けられた。
シールドの応用方法。反撃や移動に使えるのは意外だったな....)
そんな事を考えていたら、
ふと、脳がクリアになった。
世界が一瞬にして静まりかえる。
(挟む。
首と首輪の間にシールドを挟めないだろうか。
もし成功したら、壊したとしても....)
無意識に俺の顔から笑みがこぼれた。
「何かひらめいたみたいだね。」
顔を上向きにしてクロの方を向く。
「クロのおかげだ。ありがとう。」
クロは優しく笑っていた。
一瞬、ここにリツがいると錯覚するほど。




