81話 アスワドとエレ
スギノルリ、どうなるシュヴァルツ!?
遡ること少し前。
千代姫のはじめの攻撃、毒液が四方へと散らばって被害を出していた頃。
緑の綺麗なエルフの里が、赤黒く染まっていった。
眠りから覚めたばかりで、混乱するエルフ達。
セヤとヒタムが、必死に避難指示をしていたが、その全てを見ることは不可能だった。
転んだ子供を庇う男性。
その背後を、毒液が襲う。
セヤが叫んだその時、
その場を覆う、大きな青い魔法陣の障壁。
誰とも目を合わせることなく、無表情で言葉を発する。
「早く逃げろ」
立ち上がった男性が、青い髪の男に問う。
「竜族がなぜエルフ族を助ける?」
「……ここでまた誰かが犠牲となれば、悲しむヤツがいる」
その偽りない男の横顔を見て、男性は驚き、それ以上は何も言わなかった。
そうして、エルフ達は無事避難することができた。
そして、他にも影響を受けている場所があった。
それは、先程はりなおしたばかりの里の結界にも影響を与えていたのだ。
シュヴァルツからそれを託されたアスワドが苦悶していた。
「ぐおぉぉーーーー……」
押し潰されそうな重圧の魔力に、腕の血管が浮かび上がる。
補佐をする為に駆けつけた他のエルフ達の魔力は、既に底をついていた。
「くそ…このままでは結界が…」
そんな時、アスワドに邪険にされ、側でただ見ていただけだったエレが背中を支えた。
「貴様っ…!ええぃ!近寄るな!!」
尚もエレを邪魔扱いし、手を振り払うアスワドに、エレが言った。
「アスワド様の仰る通り、私はただの木偶の坊です」
「魔力質は3しかありません。私には結界をはることは出来ないんです!これは、アスワド様にしか出来ないんです!」
「けれどその私は、魔力量9なんです。アスワド様より多いんです!」
「だから、私の魔力をつかってください!!」
エレがアスワドに魔力をおくる。
「ふざけるな!お前如きが偉そうに命令するな!!」
どうしても、アスワドはエレを受け入れようとはしない。
「なぜですか?なぜダメなのですか?互いに足りていない部分を補うことの何がいけないのですか!?」
「補う…だと?」
「アスワド様の魔力質6に、私の魔力量9、足したら15です!この里で、一番高いのですよ!!」
「………!!」
「ふ、ふはははははっ!!」
アスワドが笑った。
「どんなに努力しても、シュヴァルツ様には届かない。あの方達は特別なのだと言い聞かせていた」
「それが、こんな形で超えられる日が来るとはな」
眉間の皺が少し薄くなる。
アスワドがエレの手を振り払うことはもうなかった。
エレから送られてくる魔力を感じつつ、アスワドは思った。
魔力量が多いとは、こんな感覚なのか。
どんなに魔法をつかっても、全く無くなる気配がない。
本来の自分の魔力では出来なかったことまで出来てしまう。
それが、こんなに気持ちの良いことだとは…
背中から、エレの声がした。
「姉様が、いつも言っています」
『シュヴァルツの魔法の才能は私より上だ』
『魔力質と魔力量、共に補い合い、支え合うことで、エルフの里を一つにしたい』
「姉様とシュヴァルツ様は、お互いを認め合い、高め合える存在なのです。私は、そんなお二人をとても尊敬しています」
「そして、アスワド様のことも、尊敬しているのです」
アスワドとエレにより、結界は無事保たれた。
そして、その後千代姫が倒されたことにより事は収束した。
「ふぅ…」
アスワドが手を下ろしたのを見て、エレも背中に置いていた手を離した。
「あの…アスワド様…。さ、先程は、偉そうなことを言ってしまい…申し訳ありませんでした…」
か細い声で、いつも通りに戻ってしまったエレがアスワドに萎縮していた。
「………」
アスワドが黙ってエレを見る。
「アスワド様…?」
「………」
黙り続けるアスワドを怖くなったエレが、その場を去ろうとすると、
「アスワドでいい」
「え?」
振り返りアスワドを見ると、少し照れたように言った。
「様はいらない。………エレ」
【木偶の坊】ではなく、初めて名前を呼ばれた。
「はいっ!!」
満面の笑みのエレを見て、さらにアスワドの顔が赤くなった。
結界を護り抜いた達成感と、エレとの距離を少し縮めたことにより、アスワドはこの上ない高揚感に包まれていた。
しかしその後、その気持ちは絶望へと叩き落とされる。
事態の終息に安堵し戻った先で見たものは、誰よりも尊敬してやまない、シュヴァルツの倒れた姿。
怒りと悲しみに声が荒ぶる。
そんな時、その怒りが更に膨らむ。
憎しみ、その感情を向ける人物が目の前を通り過ぎて行く。
スギノルリ、今度こそどうなるシュヴァルツ!?




