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80話 撃退

 

 スギノルリ、とどめをさせるのか?



 大地が揺れる。


 地震?


 立っている石柱が大きく揺れ、場所によっては崩れていく。



 まさかまだ、千代姫が何か!?


 皆が警戒する中、


 その揺れの正体が毒液の沼から勢いよく現れた。





 樹だ。



 とても大きな樹。



 

 空高く伸びた樹の枝が、千代姫を絡め取った。



 太い幹に、根が張り巡らされる。



 そして、その根が、沼の毒液を吸収し始めた。


 ドクドクと、飲み込むように、波打つように、毒液が根から枝へと伝わり、やがて葉を枯らす。


 黒に近い、赤茶色の落ち葉が地面を覆う。


 残ったのは、里の毒液を全て吸い尽くし、枯れ果てた一本の巨木だけだった。



 そして、その巨木の枝と蔓に縛られた千代姫。


 浅く速い呼吸で、苦痛の表情を浮かべていた。


 この様子だと、この樹は千代姫のものではないようだ。



 私達は、千代姫へと近付いた。


 力無くうなだれるその姿を見て、この争いに決着がついたのだと安堵した。


 エルフの里の被害は甚大だか…


 それでも、死者は出ていないはずだ。



 ノワールが千代姫を睨みつけた。


 「里をめちゃくちゃにした報い、受けてもらおう」


 紫色の魔法陣が光る。


 ノワールは千代姫にとどめをさすつもりだ。


 

 

 「待て」


 そこへ、ラピスがやってきた。



 ん?ラピス今までどこにいた?


 途中から存在を感じなかったような…

 

 「聞きたいことがある」


 そんなラピスが、千代姫を見た。



 「赤竜は今どこにいる?」



 赤竜、つまり魔王のことだ。


 その質問に、ノワール達も反応した。




 「くすくすくすくす」



 この状況でもまだ笑う千代姫。


 長い黒髪の隙間から、ラピスの方を見た。


 「青竜め。魔王様を気安く呼ぶでないわ」



 そして次に、私を見た。


 「アイテムボックスに、精霊王を超える魔力量…、青竜の力。妾が望んでいた物を、全て持っているというのか…」



 そう言って服の胸元から石を取り出すと、それが眩しく光った。


 

 「次はこうはゆかぬからの」



 「今日はこれでヨシとしよう」



  千代姫から眩しい光が放たれ、その光に皆が目を眩ませた時だった。


 鋭い矢が千代姫から発射された。


 その速さに、行き先がどこなのか分かったのはノワールの叫び声がしてからだった。



 「シュヴァルツ!!」


 シュヴァルツの胸に雷槍が突き刺さっている。


 倒れるシュヴァルツを支えるノワール。



 そしてその間に、千代姫は光に包まれ消えてしまっていた。



 しまった、油断した。


 今のはなんなの?


 石が光って…


 まるで転移の時のような感じだった。



 私は里中を見回した。



 「無駄じゃ。もうこの里にはおらん」


 ウィスタリアが遠くの空を見て言った。


 千代姫を逃してしまった悔しさは、ウィスタリアも同じだった。


 

 「さっきの石は何ですか?」


 「さぁ…魔力を感じたが、ウチやエルフ達が使う物ではないのじゃ。人族の道具じゃないのか?」


 人族の道具…。魔道具だろうか…。




 それよりも、シュヴァルツが回復しない。


 ノワールが必死に回復魔法をかけているが、意識が戻らない。


 あんなに取り乱すノワールを見るのは初めてだ。



 そこへ、無事結界を守ったアスワドとエレがやって来た。


 毎度の事、アスワドは怒り狂っている。


 そして、エレも加えシュヴァルツの回復にまわった。



 それでも、状態は一向に良くならない。



 私とウィスタリアも加わろうかとした時だった。



 紫色、桔梗色の髪をしたエルフの女性が横を通り過ぎて行った。



 そのまま倒れるシュヴァルツの元へ行き、ノワールにこう告げた。



 「大丈夫。死なせはしない」


 その言葉に、その人の存在に、ノワールが涙を流した。


 「……お母様!」




 スギノルリ、どうなるシュヴァルツ!?


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