11話 迷いの森
スギノルリ、いよいよ竜退治に出発です!
「よし、パンと水、スープも十分に入れたし。いざ、出発!」
超級魔導書があるかもしれない。
迷いの森を超えた先の山にいる竜が。
麓の森まではさほど遠くはない。
レベルアップ中に近くまでは行ったことがあるし、[風使い]になってから、空を飛んで移動ができるようになったから楽に行ける。
暗闇に紛れるように、なるべく低く飛んだ。
途中魔物も倒したが、回収はしなかった。
明けの三日月が輝く頃、ようやく森の入り口に着いた。
私は、風を使って空高く舞い上がった。
―探索―
探索魔法を使った。
レベル40になって使えるようになった上級魔法だ。
近くの範囲内にいる魔物や人の場所を知ることが出来る。
「広い森だな…。魔物もけっこういる。団体パーティーと…」
「いた!」
私は探索で見えた人の場所へ滑空した。
倒れ込む一人の男性。
全身傷だらけだ。
「よかった、間に合った」
こんな森に、一人で来る変わり者なんて私くらいだ。
それに、この服装…
「回復!」
青白くなっていた顔に赤みが戻る。
よかった、大丈夫そう。
意識が戻る前に、お城の転移門までとばそう。
パンと水を袋に入れて、胸の上置いた。
「転送!」
「……ありが…とう」
とばす直前に一瞬、手を握られた気がした。
魔力に限りがある魔法使いは、長期の遠征には連れていってはもらえない。
パーティーメンバーに入ることは難しそうだな。
一人でやっていくしかない。
その為にも、超級魔導書を必ず手に入れるんだ!
私は、強く感じる気配の方へと足を進めた。
「なるほど」
しばらく歩いたところで足を止めた。
「迷ってる」
歩いても歩いても、山に近付くことができない。
これが迷いの森か。
今自分がいる場所も、方向感覚すらもわからない。
「右にあったはずの太陽が、左にあるし」
この世界にコンパスとかあるのかな?
旅をするなら、いろいろと準備が必要かも。
「なーらーばっ!」
軽く跳ねた後の高くジャンプ。
私は再び森の上空へと飛んだ。
「やっぱりこの方法が一番か」
そのまま山の方へと向かおうとしたけど、ふと、一つ思い出したことがあった。
「そういえば、さっき探索した時に、団体パーティーらしきのがいたな」
―探索!―
「場所が変わってない。迷ってるのかな」
このまま知らないふりも後で気になるし、様子を見に行ってみよう。
団体パーティーを見つけると、私は高い木の枝に降り、[隠密]を使って気配を消した。
そして、ここに来たことを後悔した。
「一体どういうことだ!」
「いつまでこんな薄気味悪い場所にいなくちゃならないんだ!」
人を見下す、高慢的なあの態度。
「勇者様、落ち着いてください」
「うるさい!無能ども!早くこの俺を竜の場所まで案内しろ!」
「しかし、食料も尽きています。ここは一度退きましょう」
「ならば魔物を倒してこい!」
自分では何もしない。
人に命令ばかり。
傷付き、疲弊している兵士達にかける言葉とは思えない。
あれが、魔王を倒しこの世界を救う勇者の姿なの?
このまま何も見なかったことにしてこの場を去ろうとした。
けれど、ここにいる大勢の兵士達と、さっきの魔法使いの姿が重なって見え、立ち止まった。
「迷いの森から出れればいーのよね」
私はアイテムボックスからウサギを一匹出した。
そしてそれを風を使って、パーティーの近くにやった。
「…ん?あ、ウサギ!」
[祈り子]がウサギに気付いた。
あの子…。気が弱そうだったけど、あの勇者と一緒でちゃんとやれてんのかな。
「食料だ!捉えよ!」
勇者の掛け声が響くが、すぐに動ける兵士はわずかだった。
―範囲回復―
「あれ?」
「動けるぞ!追え!」
範囲回復もレベル40の上級魔法だ。
範囲内にいる人全員に一斉に回復をかけることができる。
森を抜けたところで、ウサギを動かすのをやめた。
「よし、倒したぞ!」
「やったー!森を抜けたぞ!」
「おぉー!!」
これでもう大丈夫だろう。
私は、山へと向かった。
「さすが祈り子様!傷が癒ってます!」
兵士達が祈り子に感謝している。
「えっと…、私は…」
「おい!誰だ!魔石とったやつは!」
「ウサギの魔石なんてとるやついないだろ!」
「いやでも、ないんだって」
「よく探せよー」
「あのウサギ…初めから血が出ていたように見えたけど…」
スギノルリ、迷いの森脱出です!
 




