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今時のJCはDBなんて興味ないと思うんだけどなぁ

 そう、それは、いつもと何ら変わらないある放課後の出来事。私たち文学部のメンバーはいつもどおり、ただただ時間を浪費していた。あ、私は書いてたからね。部活動、してたからね。


「たいへんっ! 大変! たいっへんよ!」

 自慢の上履きグリップで余った勢いを殺しながら、リノリウムのはずの床で土煙を巻き起こして登場したのは雪歩だ。派手な登場。てか、そんなキャラだっけ? まだ物語の前半なんだからそっちのキャラが定着しちゃうよ。


「ん~、どうかしたの? 雪歩」


「大変、たいっへんなのよ」


「?? か、火事? 地震? それとも嵐? ももも、もしかして知らない男の人でも出たの……?」

 がたがたと美月が肩を震わせる。うん、美月ちゃん、大自然へのリスペクト半端ないね。あと、最後の一つを地震雷火事と同列に語るのやめよう? あ、でも、親父と同じようなものかな。ごめんね、お父さん。


「もう、そんなことじゃないわ。また、クイズ研究会の人たちよ」


「え? クイズ研? あの、う、う、うち……。同じクラスの男の子がいた?」

 内原くんね。覚えてあげなきゃかわいそうだよ。


「にゃはは? クイズ研究会ってあの内原たちだろ~。あいつアホだからまた適当にあしらえるんじゃないの?」

 覚えりゃいいってものでもないみたい。もう、なんだか宇治原くん、ごめんなさい。あ、間違えた内田、あ、いや、内原……くん?


「そんなこと言ってる場合じゃないの。クイズ研究会が、教頭の三橋(みはし)先生に相談したのよ! なんとか部室を確保してもらえませんか、って」


「ふんふん、それで」

 ここで、私までボケると話が進まないので、自粛する。


「それで、教頭先生に希望の場所を聞かれて、あいつらまたこの教室がいいって言ったみたいなの」


「ええっ? 教頭先生はこの場所をクイズ研の部室にしていいって言ったの?」

 美月が尋ねる。


「いいえ。ここを私たちが使っていることは先生も知っていたみたい」


「ほ……。じゃあ、今まで通り使っていいんだね?」


「あの、それが……」

 雪歩にしては歯切れが悪かった。


「さっき教頭先生が、どちらが部室を得るに相応しいか確かめないとね、って」


「ふ、相応しいか確かめる? どうやって?」


「それで、差し当たっては、一度みんなで職員室の私のところに来なさいって……」

 ああ、どうやら面倒なことになりそう。だって私たち活動しないで遊んでるもんね。


 *****

 かくして、私たち文学部の四人、以下面倒なので雪月花と私、とクイズ研究会の面々五人は職員室に集まった。向こうは、内原君と、辰巳先輩、他名前も知らない三人の男子生徒たち。以下面倒なので、タッチ―とモブさんと呼ぶことにして(タツミ、ウチハラと三人のモブ)。私たちは教頭先生と向かい合っていた。


「期末テスト平均点勝負はどうかなぁ、とふと思ったわけですよ」

 柔和な笑み、落ち着いた色調のカーディガン、見事な白髪、優しい声色。いかにも品の良さそうなおじいちゃん、といった風体の先生がさらりと言う。


「それで、勝った方が、例の教室を放課後使用する権利を得るという……」


「そ、そんな、でも一応あの場所は以前から私たちが使用して……」

 私の小さな反論に辰巳先輩が応戦する。


「先に使っていたものが優先なんてルールがあったら、今後新しい部活を立ち上げるのはほぼ不可能になるだろ?」


「それは、そうですが……」


「やっぱり、何らかの形で新しい部活が活動場所の権利を得るための方法がないといけないと思

うんだ」


「だとしたら、見るべきは活動内容ですよね。こいつらいつも遊んでます」

 くるくるぴんとはねたくせっ毛を指でいじりながら内原が言う。うわぁ、雪歩が怒ってるなぁ。当然か。私たちの活動をばかにされたんだもんね。


「私を指さすのやめて、気分が悪いから」

 ……。えっと、まあ、確かに指さされるのはね……。でも、もうちょっと部の活動が馬鹿にされたことについて考えてくれると嬉しいです。


「はぁ~。内原お前調子乗るなよ~。クイズ研も、何の実績があるでもないじゃん」


「花凛、それもそうだけど、まず私たちが遊んでるってところを否定しようよ……」

 確かに、花凛の主張は相手の弱点を見事についている。でも、このまままだと泥試合だ。先生もそう思ったのだろう。私たちのやり取りに口を挟む。


「確かに、私が二つの部の活動内容を評価してもいいですがねぇ。それだとどうしても、私の主観が入るでしょう? だから、期末テストの平均点で評価する。客観的で、公平だと思うのですが……」

 先生は顎をさわさわ撫でながら、ふっと一息つく。


「僕たちとしては、それでいいと思います」

 クイズ研の内原君が真っ先に答える。一回転して一歩前に出ながら、きれいに反らした五本指で、自らの胸を指している。ミュージカルじゃないんだから……。


「うんうん。では、文学部の方はどうですか?」

 う~ん。これは弱った。確かに公平な内容の争いだけど、あちらには学年一位の内原くんがいるというのに、こちらには学年で下から二番目の花凛がいる。クイズ研のモブさんについては実力が定かではないが、クイズ研究会に所属しているという時点でまるっきり勉強ができないということはない気がする。


「あの、それなんですけど、」

 私がやんわりと期末考査勝負を却下しようとしたのだが、その言葉を花凛は遮った。


「にゃははは。私はいつ何時、誰からの挑戦でも受けるぞ」

 だから、その台詞、どこの惑星のなんて戦闘民族の受け売りよ……。


「ちょ、ちょっと花凛? あなた自分が何言ってるか分かってるの?」


「へ? 分かってるよ。期末で平均点高かった部が、あの場所を使えるんでしょ?」

 流石に、雪歩はことの重大さに気付いているみたい。ちなみに、美月は、モブさんと教頭先生という普段顔を合わせない四人の男性がすぐ目の前にいるということで、例によって例のごとく戦闘不能状態である。ただのしかばねのようだ……。教頭先生はさすがに大丈夫なんじゃ……。


「そりゃそうだけど。あんた、自分がテストで点とれないこと分かってるわよね?」


「知ってるよ。でも平均点なんだから、みんなが頑張ればいいんだよ~」

 うん。中学時点で落ちこぼれてたんじゃ、そのあたりの概算はできなくても仕方ない。そもそも平均点の概念を勉強させなくては。はぁ~、と大きくため息を吐く雪歩。私は教頭先生の方へ向き直った。


「あ、あの~、今のはこっちの話でして。なんとか期末考査以外の選考を……」

 しかしまたもや私の言葉は遮られ、内原くんが高らかに宣言する。


「ふっははははは。問答無用。二言はないな? 期末テストで平均点が高かった方が部室を使う。先生、いいですよね?」

 ふぁさーっと、全く軽量感の無い剛毛くるくる前髪を、無理やり右手でなびかせている。そのあまりのうっとうしさに気をとられ、つい内原くんの言葉を否定するタイミングを逃してしまった。くっ、これはわざとうっとうしいキャラを演じることで、注意力を奪う相手の巧妙な罠ね……。違うか。


「そうですね。いいんじゃないですか」


「あ、ちょ、まだ話が」


「さあ、期末考査は間もなくですよ。皆さん勉強に励んでください」

 では、一服してきますので、とだけ言い残して教頭先生は職員室を出て行った。その場には、たった今死闘の開幕を告げられた気まずい集団が、ぽつぽつと二つ。


「おい、お前らまさか今更、勝負を降りるとか言い出さないだろうな?」


「も~う。しつこいな。私たちがそんなことするわけないだろ~。なぁ梅乃?」

 いらっ……。


「……う、うん。そだね」

 今からでも降りられるなら降りさせてください。お願いします。


「んじゃ、期末のテスト返却を楽しみに待ってるぜ」

 おい、そろそろ行くぞ、という辰巳先輩の言葉に引っ張られて、彼らも職員室を後にした。と、同時に、私と雪歩、ついでに知らない男性という抑圧から解放された美月が深いため息を吐いた。一方、勝負ごとが好きでたまらない花凛だけが、わくわくが止まらないと言わんばかりに胸を躍らせているように見えた。


「やれやれ、今度も壁をぶち破っててやるかぁ~」

 なにその限界突破サバイバーしそうな台詞! と突っ込む元気はもはや私には残されていなかった。


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