えぴろーぐ:R15。やっぱり彼女は十三歳でした
整頓された勉強机。かわいらしいクマのぬいぐるみ。ピンクのクッション。いつ足を踏み入れても、かすかに石鹸の香りがする、大事な教え子のかわいらしい部屋。あれからさらに彼女との心の距離は縮まって、ずいぶん信頼し合える関係になれたとは思うのだが。
物理的な距離がいつもより少し縮まっただけで、やっぱり心臓はうるさいほどに暴れ回り、両手は緊張で微かに汗ばむ。こんなのは絶対おかしい。だって相手は中学生なのに。
「えっと……、その、こんな感じでいいのかな?」
俺は問いかけた。
「だめ、それだと……上手く入りませんよ」
梅乃ちゃんが俺と視線を合わせる。その大きな瞳で覗き込まれると、俺はどうしても気恥ずかしくなる。いままでにこういう経験がないのも災いした。誤魔化すように、謝罪の言葉を口にする。
「ご、ごめんっ……えっと、どうしたら、いい?」
「もう……。仕方ないので、私の方が、動きますね。……んっ、」
ぎし、とベッドが軋む。さらに彼女の身体が近づいて、いよいよ俺の器量は限界を迎えそうになっていた。
「だ、だめだっ、梅乃ちゃん。だって、その、当たってる」
「だから、こうしないと入らないんですってば」
「どうしてこんな……」
すると、梅乃ちゃんはうるうる瞳を潤ませて、困ったように眉尻を下げた。
「だって、先生、今度のテストで平均九十点以上だったら、なんでも言うこと聞いてくれるって、前に言いましたよね。だから、いい、ですよね?」
「~~っ」
確かにそんなことを言った記憶があるな。そしてそれだけ本編で書き損ねたんだよな。
「先生、早く。もっと、こっちです」
「いや、だから、写真撮るのにここまで密着しなくても」
はい、R15展開はここまで。良くない想像をした読者の皆さんは大いに反省してください。
「だから、上手く画面に収まらないんですってばぁ」
空中にスマートフォンを構えて、未だに梅乃ちゃんはその角度を試行錯誤していた。
「でも、なんで写真? そんなことでいいの?」
「なんでも。これがいいんです」
平均九十点のご褒美として、梅乃ちゃんは俺の写真が欲しいと言い出した。何故にピン写? と訝しんだが、この様子だと、ツーショットということらしい。初めはさっぱり意味が分からなかったが、どうやら以前花凛ちゃんに、何枚か講義中の写真を渡したことが関係しているようだった。
そうこうしているうちに、俺はぎゅっと左腕を掴まれる。
「よしっ……。あ、今いい感じです。先生。動かないでくださいね?」
「え、あ、うん」
彼女的にベストな構図が分からないので俺はもう、されるがままだった。内カメラになったスマートフォンの撮影ボタンに親指を置きながら梅乃ちゃんはぼそりと呟く。
「ねぇ、先生?」
「ん?」
「これからも、ずっと私の先生をしてくれますか?」
結局俺は、ただのアルバイト家庭教師にすぎない。翠さんに契約を切られたらその関係はそれきりだし、あくまで本分は学生だ。大学のコミュニティこそが俺が大事にすべき帰る場所で、そちらが忙しくなればいつだって家庭教師は辞めることが出来る。けれど。
「うん。そのつもりだよ」
そんな表情で問われたら、この関係だけは。梅乃ちゃんを教え導く役割だけは失いたくないと心からの思いが溢れてくる。それは彼女が文学部としての活動場所を守ろうとしたことに似ているのかもしれない。そんなことを考えてしまう俺は、無責任なのだろうか。
「やった」
けれどもそんな梅乃ちゃんの返事を聞けるのであれば、少なくとも俺たちにとっては、その返答は間違いではないのだろう。
彼女が言って、その勢いでシャッターを切る。そこにはきっと、梅の花が綻んだように笑う梅乃ちゃんと、驚きで目を見開く俺が、収められていることだろう。
囁くように梅乃ちゃんが告げた、そんな一言のせいで。
「先生、ダイスキ。これからも、ずっと私のこと見ててくださいね」




