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Thebes:「車窓」  作者: エンリコリート・ヴァシュタール
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Thebes:「車窓」-第五回


 装甲客車は出発した。

 雪に覆い隠された辛い記憶を残して。

 ランスの街を発ち、国境の山岳地帯を超えて北の街、シュヴァイツへ。


 少女に差し出された小皿には桃や梨まで有ったというのに

 バナナは無いらしい。

 本当に未開の北方領にまで行かなければないと言うのか。

 いやあるはずだ。






 その日、珍しく雪が降った。


 ここは国境の街、シュヴァイツ。

 大陸中央部において最大規模を誇るセレクトリア王国領最南端の街。

 これより南は中央の人間に言わせれば"人の暮らすべきでない場所"シルヴェリア自治領。


 セレクトリア人には耐えがたい寒さ。

 早朝には畑の野菜に霜が降り。

 それなりの防寒着が無ければ平気ではいられない。

 それでも雪が降る事などここ数年なかった。


 雪など。

 シルヴェリアとの国境である南の山岳を超えなければ、どんなに寒くともセレクトリアで見かけるものではない。


 しかしながら本当に稀なことに。

 その日、珍しく雪が降った。



 街は、ここ数年で急激な発展を遂げた。

 中央とシルヴェリアとを繋ぐ、国交の証たる鉄道の開通によって。

 物流は其れまでと一線を隔し、物に乗せて人や情報も行きかった。



 しかしながら、人の出入りが増えたことでそれなりに治安も悪くなった。

 短い、白髪交じりの黒髪、咥え煙草。コートを羽織り中折れ帽を目深に被る男。

 日も明けきらぬ早朝にたたき起こされ現場を訪れた。



 郊外の農地。

 害獣除けの柵の内側。

 寒々しく霜の降りる作物の合間。


「またか」


 "それ"を見下ろし、呟く。


 被害者は年端も行かぬ子供で。

 外傷は少なく、ただ、抵抗むなしくこと切れたことを思わせる、絞殺痕。


「警部」


 中折れ帽の男の部下と思しき刑事が、足早に駆け寄る。

 中折れ帽は返事の代わりに、帽子の下から気だるげな眼を向けた。


「詳しく調べて見なければ分かりませんが、十中八九、同一犯でしょうね」

「見りゃわかるよ」


 雪のちらつく早朝に、煙草の煙が音もなく靡く。


「詳しく調べるのもいいが。……それよりお前ぇ、隠してやんな(・・・・・・)

「はい?」


「そんなでもご婦人だ(・・・・)

「そりゃ犯人(ホシ)にとっちゃ"女"だったのかもしれませんが」


「殺し以上に胸糞の悪い野郎だ」

「警部、悪い知らせです」


 別の刑事が駆け寄る。


「この上なんだってんだ……」

「明朝八刻、国家間鉄道車両ランス・ザ・レイン号到着予定です」


「まんまと高跳びされる、か。……くそ」


「それまでに何とか逮捕(アゲ)てやりましょう」

「当然だ」




 その日、珍しく雪が降った。



 被害者は年端も行かぬ子供で。

 外傷は少なく、ただ、抵抗むなしくこと切れたことを思わせる、絞殺痕。

 他に外傷がない事がわかるのは、被害者が一切の衣服を身に着けていないからで。



 それゆえに性差の区別もあやふやな子供ながら、誤魔化しようもなく女性で(・・・)






 その亡骸は、ひどく汚されていた(・・・・・・)





Thebes:「車窓」エピソード

 第5回 


 キャスト


    中折れ帽の警部 クライン・ハークランド

         刑事 アールジョン・マテロ

    後から来た刑事 ミシェロ・サト

       "ご婦人" 中央通り13番地のメアリ

        語り手 "誰か"

 


 胸糞の悪い話。

 って奴だ。

 ニンゲンは何でこう、ニンゲン同士で殺し合うのかね。

 そういうお前はニンゲンじゃないのかって?

 いやぁニンゲンだったかもしれないし。


 まぁでも、今回はオレ、ここに居なかったし。

 其処にバナナは有ったかもしれないが


 おっと、フキンシン。


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