そろそろ物語が動き出すってさ
王子争奪大戦争・・・ではなく
発展したのかしないのかわからない文化祭を無事に終えた
柴乃たち一向。
そんな中、空気は一変する・・・
「文化祭も体育祭も終わり、あっという間に皆さんはもう三年生に近づいています。そのためにも進学か就職か、将来に向けて考えないといけません。ご両親といっぱい話し合って、自分の目指す道について、考えてみてくださいね」
珍しく長めの終礼がやっと終わる。
配られた「進路調査書」に目を通した私は、とりあえず自分の名前だけ記入した。
学校の一大イベントともいえる二つの祭りを終え、私達二年生は三年生に上がる準備を始める時期となった。
といっても実感がわくわけもなく、どうしていいか分からないのが本音。
まだ二年生だ。そんな余裕がみんなあるようで、真剣に考えているような人なんて、いなかった。
もちろん私も、その一人だ。
といってもそんな余裕なこと、言ってる場合じゃないんだけど。
「柴乃。帰らないの?」
「うーん、進路どうしようかなあって思って」
「珍しいね、柴乃がそんなこと考えるの」
「私をなんだと思ってるのよ。あんちゃんは進学するの?」
私がそう言うと、彼女はびくっと肩をあげる。
その時私は、あんちゃんが何かを胸に抱えているのに気が付いた。
教科書か何かだろうか。本をつかんでいた手に、ぐっと力を増したように見えた。
「わ、私は、特に何も考えてない……かな」
「嘘くさぁい。絶っ対何か隠してるでしょ!」
「隠してなんかないよ」
「じゃあその手に持ってる本は何!? みせなさいっ!」
「ああ、だめっ!!!!」
あんちゃんが拒むのを気にもしないように、本をさっと抜いて見せる。
そこにあったのは、お店で売っているようなスイーツのレシピ本だった。
思わず声を失ってしまった私は、答えを求めるように彼女を仰ぎ見る。
あんちゃんは少し恥ずかしそうに、顔を背けてみせた。
「甘いもの、好きだから。自分で作れるようになったら、楽かな~って思って。似合わないことは、わかってるんだけどやめられないっていうか……専門学校か就職かは、まだ決めてないけど……」
そういうとあんちゃんは返してと、顔を赤らめて私に言う。
意外だな、あんちゃんがそんなこと考えていたなんて。
あんちゃんは自分の名前を気にするように、自分が他人にどう見られているかをすごく気にする。
だから甘いもの好きだったり、器用だったりする面を隠そうとしていた。
そんな彼女が、少しずつ殻を破ってやりたいと言えるように……
ったく。こんなんじゃ、私もうかうかしてられないな。
「よぉし! 私もあんちゃんに負けないようにしないとね! 色々考えてみる!」
「もう、調子がいいんだから。そういえば柴乃、知ってる? インフルエンザ警告」
その話なら、聞いたことがある。
この時期にはやりだしてもおかしくない、インフルエンザ。
インフルにかかって休む人が、文化祭が終わった疲れからか続出していた。
私のクラスでもちらほらいるし、いつか学級閉鎖にでもなるんじゃないかなって思ってたけど。
「インフルエンザって自分がかかるのだけは嫌よね~せめてかからないまま、学校がお休みになってくれればいいんだけどっ」
「気にならないの? かかってるのが全員、男子だってこと」
言われてみれば、確かにそう。
私のクラスで休んでいるのは、全員男子だ。
まあつるんでいたら、感染しやすいってのはあるんだろうけど。
ん? 待てよ、ってことは……
「しかもその男子は全員……」
「ねぇ! それって、馨君までインフルエンザにかかってるってことないよね!?」
「……え」
「あいつまでかかってたら、私達にうつる可能性もあるじゃない!」
「あ、問題そっちなんだ……」
「勝手にインフルにかかったことにしないでもらえませんかねー渕脇氏」
ぽんっと何かで、頭をたたかれた気がする。
振り向くとそこには一冊のノートを持った馨君が、こちらを見据えていた。
彼はいとも元気そうに、よっと片手を上げてみせる。
「あ、あんた! 平気なの!?」
「一応? これでも体調管理は万全な方でな」
「そうなんだ……ならよか……」
「お前、俺のこと心配してくれたのか?」
「なっ!!! するわけないでしょ!!! あれ、そういえば寺濱君は?」
「あいつならいねぇよ。インフルにかかったらしいから、配りもん届けに行くとこ」
寺濱君が、インフルエンザに?
なんというか、想像ができてしまう自分がいる。
確かにあの人いかにも弱そうだし、かかってもおかしくないとは思うけど……
「休みと言えば、お前の妹? なんでこねぇの? インフルでもないのに、文化祭以来姿見てないって噂になってんぞ」
「へ?? 姫野?? あいつなら、私より先に学校に来てるはずだけど……」
「来てねえから言ってんの。ほら」
よくよく見ると、姫野の席には何も物が残っていない。
今日の日直に書かれてはいるものの、もう一人の女子が友達に手伝ってもらっているように見えた。
あれ? じゃああいつは家から出た後、何を……?
「柴乃、さっきの話の続きなんだけど……。インフルにかかったのは、男子ってだけじゃない。それも全部、姫野ちゃんが好きな人なの」
「まさかっ! あいつが下僕とか言って従えてた人全員!?」
「その渕脇のお世話係になった直樹もカウントされ、当の本人までも欠席……疑うのも無理はないな」
馨君とあんちゃんが、分析するように話している。
私はどうすることもできず、ただ立ち尽くすばかり。
姫野が、この件に関係している?
ありえない。でも、あの子ならやってしまう。
男の子は全部、自分の思い通りになるって思っているからー
「柴乃ちゃん」
そこにまた、声が聞こえる。
顔を上げると、何かを迷っているような表情を浮かべた隼人君がいた。
彼は少し迷ったように顔をそらすと、思い立ったように
「ごめん」
と、頭を下げてきた。
「はぁ? ちょっ、何よいきなり!」
「聞いてほしい。渉さんにも、浅沼君にも。こうなってしまった以上、黙っているわけにもいかないから」
「海藤……お前、何か知ってるな?」
馨君の問いに、浅くうなずく。
隼人君の目はまっすぐでおびえているような顔つきで、ぐっとこぶしを握り締めていて。
同じだ。あの頃の、隼人君と。
「オレが引っ越してきてすぐ……姫野ちゃんに会ったんだ。竹馬駅って、わかるよね? みんなで旅館に泊まってるって聞いたけど」
「それ、むぎちゃんの旅館に行った時! 隼人君、そこにいたの!?」
「もっとも、彼女はオレが引っ越してきたことは前から知っていたみたい。その時に頼まれたのがここへの転入と、柴乃ちゃんのー……」
その時、会話を遮るかのように彼の携帯が鳴る。
隼人君は着信主を見るとたちまち顔色を変え、すぐにまた笑顔を浮かべて見せた。
「ごめん、オレちょっと行くね」
「ちょっ! まだ話は終わってない!!」
「続きは後で、ちゃんと言うから。今は許して」
そういうと彼は笑顔のまま、私達の前から姿を消したのだった―
(つづく・・・)
ここにきて、一気に雰囲気が変わります。
私から言えるのは、それくらいですかね・・・
次回ー・・・




