熱きパトスをぶつけあえっ!
新しく転入してきた青年、それは昔の知り合いである
海藤隼人だった。
彼からのアプローチに困惑する中、
自分は柴乃の婚約者だと発言し・・・
『ぴぴっ、ぴぴっ』と目覚ましが鳴る。
右手で音を止め、妙に重たい体を起こす。
「あ、おはようございます。柴乃さん」
もはやいることに違和感さえ感じなくなった彼―寺濱君が、部屋のカーテンを開けながら笑う。
そんな彼を眺めながら、私はおはようと返した。
「今日は待ちに待った体育祭、ですね。僕、今まで以上に頑張ってお弁当作ったんですよ!」
「あんた、すっかりお世話係が板についたわね……」
「あはは……姫野さんに色々教わった影響かもしれないですね」
日付が過ぎるのは早い。
今日は秋のイベントの一つでもある、体育祭だ。
うちの高校は美男美女コンテストをやるってことで名も知れていて、それなりに人も来る。
結論から言って、私が嫌いな行事の一つだ。
「確か八時半集合だったわよね……くしゅんっ!」
「柴乃さん、風邪ですか?」
「ん~……最近寝不足で……」
「聞きましたよ、姫野さんから。大変ですね、色々」
彼が言うのはもちろん、あのこと。
「柴乃ちゃんの婚約者だから」といった、隼人君の発言だ。
あの後隼人君に聞いても答えてくれないわ、あんちゃんにどういうことと詰め寄られるわで大変だった。
どういうことって、それはこっちのセリフ。
婚約者? そんなのいるわけないじゃない!
そう思っていたのに、その日の夕方くらいに郵便がきて、「柴乃の婚約者は海藤隼人できまり」と書いてあった手紙が届いた。
ていうか、こんな形できまるのおかしくない!?
直筆ならともかく、パソコンで打った書面なのよ!?
お母さん達もお母さん達だわ! 本人の許可も取らずに、なんで勝手に!
絶対あいつだ。姫野が何か言ったに違いない。
なんとかして誤解を解かなきゃ。このままじゃ、婚約者ってことが認められて馨君とのことが白紙になっちゃう!
「それも大事なことだけど、あんたも姫野なんとかしなさいよ。うまくいってるんでしょうね?」
「いやあ……あはははは……」
「お姉ちゃ~ん? 直樹く~ん? 早くいかないと、遅刻しちゃうよ~?」
リビングの方から、姫野の声が聞こえる。
苦笑いを浮かべる寺濱君を見ながら、私は仕方なく立ち上がった。
蛍雪高校第三十二回体育祭という看板が、でかでかと入口に掲げられている。
赤、青、白の三色で分けられた鉢巻きを巻いている人達が、次々に競技でぶつかり合う。
「今日がいい天気で、よかったね。柴乃」
同じ赤い鉢巻きを巻いているあんちゃんが、隣で微笑む。
そうだねといいながら、私は一つ咳をした。
その間もたくさんの人たちが、応援したりして体育祭そのものがデッドヒートしてゆく。
「残念なんじゃない? 浅沼君と違う組で」
「別に、そんなことないしっ」
「ほんとに彼、運動神経いいんだね。三年生相手にも圧勝だったし」
蛍雪では組分けは基本クラスで分けられる。
だから馨君とも姫野とも、ついでに寺濱君とも分かれる結果になる。
ちなみに馨君はというと、競技のほとんどに参加しつつすべて圧勝という結果を残している優れもの。
うちの高校の女子はもちろん、他校の女子からも歓声の中心だ。
ほんと、イケメンってよく言うものね……
「でも生徒多いと、出なくていい競技ばっかで正直つまんないわよね~」
「代表制で決めるからね。私達が出るのは、全員競技の玉入れくらいかな」
「玉入れって……すごい先じゃない。それまであいつの一人勝ちを見てろと?」
「ほんっと嫌になるよね~あそこまで見せつけられると」
そこに、聞き慣れた声がする。
顔を上げると、いつの間にか隼人君がいた。
彼もクラスが同じため、紅組として一緒である。
あ、でも確か隼人君は何かの代表だったような……
「海藤君は、何か出てるの?」
「百メートル走。学年で走るから、あの人が隣のレーンかな」
「紅組負けてるんだから、あんたまで負けたら承知しないんだからね!」
「そのことなんだけどさあ。オレ、柴乃ちゃんに提案があるんだけど」
いきなりのことに、つい顔がこわばる。
相変らず彼は、何かたくらんでいるような笑みを浮かべていた。
その笑みが姫野と重なるように見えて、余計警戒してしまう。
「何よ、提案って」
「ん~その前に……浅沼く~ん、今ちょっといい?」
競技が終わって戻っていたのか、水筒を手に馨君がこちらを見る。
そばには寺濱君もいて、タオルを彼に差し出している。
「……海藤、だっけ? 俺になんか用?」
「へぇ、名前覚えてくれたんだ?」
「そりゃあんだけ衝撃発言かませばな」
「話が早くて助かるよ~次の百メートル走、一緒だよね? もしそれにオレが勝ったら……今後一切柴乃ちゃんにかかわるの、やめてくれる?」
びっくりして、声も出なかった。
私抜きで話を進めないで、そういいたかったはずなのに。
彼の目は本気で、まっすぐ馨君をとらえている。
はっと我に返った私は、やっと思っていたことを口にできた。
「ちょ! 何勝手なかけやってんのよ!!」
「ん~自分のものを他人に触られたくないってやつ?」
「私はあんたのものじゃ……っ!!!」
「そぉんなこと言ってないで、かけてみようよ~気にならないのぉ? どっちが勝つか❤︎」
また嫌な声がする。
隼人君の後ろに隠れるようにのぞき込んでいるのは、姫野だ。
彼女の企んでいるような笑みに、私は鋭い眼光を向ける。
「なんでもできちゃう完璧な浅沼君とぉ、イケメン転入生隼人君。こぉんな見どころある勝負なんて、絶対ないよぉ❤︎」
「だ、だから勝手に……!」
「いいぜ、別に」
「ちょ! 馨君!!!」
「売られたけんかは買うのが礼儀、だろ?」
そういう馨君の目はすでに闘志に満ち溢れ、何かを覚悟をしたような顔だった。
二人ともまっすぐお互いをとらえている。
百メートル走の選手は集まるように、と放送が聞こえると二人は足早に去っていってしまう。
何よこれ、なんでこんなことに……
これで馨君が負けたりなんかしたら……もう二度と、一緒にいられないってこと……?
「心配しなくても大丈夫だよ、お姉ちゃん❤︎」
そんな考えを壊すように、姫野が私の口に何か入れる。
それはオレンジ味のあめで……
「って、いきなり何いれて……!」
「陸上大会のエースだった隼人君が、負けるわけないもん❤︎ それともお姉ちゃんは……馨君の方を、応援する?」
姫野の不気味な笑みとセリフに、思わず寒気がする。
彼女の笑みが私の頭の中でずっと、こびりついたように駆け巡っていた―
つづく・・・
13日に投稿をいじってたのですが
どうやらその際予約更新されていなかった
みたいで・・・
今日こちらに来た方々はすみません。
今回だけ特別に二話分読める!
ということで多目にみてくださいませ
次回、男同士の戦い勃発!




