~夏のしらべ~6
研之介は木場へ来ていた。ざる屋入佐吉の店のそばである。
しばらく店を伺ってはいたが、客の出入りはあるものの、店主も子供も、店の者は誰も表へ出てこない。
研之介はひとつ大きく息をつくと、思い切ってのれんをくぐった。
「いらっしゃいませ」
愛想のいい女の声が出迎える。店はさほど広くない。ぐるりと見回せば商品がすべて見えてしまう。
「なにをお求めでしょう」
色の黒い、歯の出た女が揉み手しながら近づいてくる。
「ああ、その、」
研之介は手近にあった小さ目のざるを手にした。
「そちらでよござんすか」
「いや―――」
「もう少し大きめのものもございますが」
「いや、実は客ではないのだ。入佐吉殿はご在宅か」
「あら」
女は目をぱちくりさせた。研之介はざるを元に戻した。
「ちょっと、あんたぁ」
女が振り返って奥に叫ぶ。甲高い声に研之介は身をすくめた。
「なんだい、大きな声で」
店に出てきた入佐吉は、立っている研之介を見て「おっ」とのけぞった。
「あんたさんは、確か……」
「佐々木研之介だ」
「ああ、そうそう、佐々木さま。本日はなんの御用でしょう」
「いや、その、……子供たちは息災にしているかと思ってな」
「なんですか、それは」
入佐吉は嫌な顔をした。
「そのお話ならあのときに終わっているでしょう。あなた方は子供を引き取らなかった。あたしが子供を引き取った。それをいまさら」
「ああ、うむ……それはお主の言うとおりだがな、やはり気にはなっておるので」
「子供たちなら今いませんよ」
入佐吉は研之介の言葉にかぶせるように言った。
「いない?」
「遊びに出かけてるんですよ」
「もうじき暮れ六になるぞ?」
研之介は思わず外を見た。それに入佐吉は両手を広げて、
「夏ですからね、まだまだ日が長い。いつも晩飯時まで遊んでいるんですよ」
「そうなのか」
「子供たちは元気ですよ、お聞きになりたかったのはそのことでしょう?」
入佐吉は下からねめつけるように研之介を見て言った。
「う、うむ」
「だったらもう用はございませんね」
入佐吉はぷいと背を向け店の奥に入っていった。そうされればもう研之介は何も言えなくなる。
振り向くと、入佐吉の女房はきつい目で研之介を見ていた。その目が、幼い頃に投げかけられた義母の視線を思い出させ、心がひやりと冷たくなる。
研之介は小さく頭を下げると店を出た。
子供たちに会うことはできなかったが、元気でいるという。その言葉を信用するしかない。
研之介はしばらく店の前で辺りを見回していたが、子供の姿はなかった。




