~鬼灯の夢~17
「きさまっ、きさまが本当のおいはぎか!」
研之介は商人の前に滑り込んだ。提灯の火が足元を明るく照らしている。
「きさまのせいで俺は余計な心配をしてしまったではないか! 責任をとってもらう」
「なにをわけのわからねえことを」
おいはぎは刀をギラリと光らせた。
「仕事の邪魔をするな、刀の錆にするぞ」
「何が仕事だ、それが仕事なものか」
研之介も刀を抜いた。
「仕事とは世のため人のため、自分の信念のためにするものだ。きさまにはそれがない」
「うるせえっ!」
おいはぎ浪人は刀をしたからすりあげ、研之介の鼻先をかすめた。片足で飛びすさり刀を右に引き上げる。チャリ、と鐔が鳴った。
「望月どの、その方たちを頼む」
研之介が声をかけたときには、すでに望月は小僧を抱き起こし、商人の腕を取っていた。
「こちらは大丈夫、存分になされよ」
「おう」
研之介と浪人はじりじりと輪を描いて回った。
「きさまには縛についてもらう」
「ふざけるな、きさまを殺してそいつらも殺す」
提灯の火が小さくなる。消えてしまえば敵は逃げるかもしれない。
研之介は契機を待った。
火がメラメラと提灯をすべて飲み込み、今にも消えるその瞬間、研之介は相手の間合いに飛び込んだ。
「おおっ」
浪人が正眼のかまえのままあとずさる。そこに激しく打ち込んだ。二度、三度、鉄同士がぶつかる硬い音がして、夜の中に火花が散る。
炎が最後の光を放った。
相手の姿が残影として残った。その影に斜めに刀を振りおろした。
「ぎゃあっ」と叫ぶ声と、どさりと倒れる音がした。
手には固い骨の感触があった。肩の骨で止めたはずだ、命はとっていない。
研之介はふうっと大きく息を吐いた。
「お見事!」
望月が叫んだ。
研之介は刀を納めると振り向いて言った。
「さて、一番近い医者はどこでしょう」
翌朝、研之介は伊丹屋へ行き、与ノ助に財布を渡した。
「お主の知り合いの油屋は嘘つきらしいぞ」
そう言って望月から聞いた話をする。与ノ助は呆れた顔をした。
「親切に拾ってくれたのに怖がって逃げてあげくに盗まれたなど、なんて酷いんでしょう」
「そこで、だ。財布を拾って返してくれたのだから些少なりとお礼をしてやってもらえないかな」
「そうですね、あたしが言って話をしましょう。なに、いやだなど言わせませんよ、恥ずかしい話しですからね」
与ノ助は請け負った。
その言葉通り、油屋の主人は望月の寺子屋にまで来てお礼をのべ、些少どころではないお礼を寄越した。
望月は困惑したようだが、押し切られる形で金を受け取った。意地を張るより妻と子のことを思い、実をとったのだ。
また、危ういところを助けられた商人も、望月にお礼として金子を渡したというので、少しばかり潤ったらしい。
研之介もお礼をもらったがそれは望月に授業料の前払いとして渡した。
望月は今もまだ夜の仕事を続けている。「罰」ではなく「糧」として。
それでも望月が罪悪感を無くすことはできないかもしれない。だが、赤ん坊は、子供は光だ。その光が望月の影を消してくれるだろう。
町を歩く研之介の横を子供たちが走りすぎる。なにが楽しいのかきゃあきゃあと笑い声をあげている。足元には強い日差しに焼き付けられた、黒々とした濃い影がもつれあっていた。
太陽を跳ね返して輝く子供たちの顔。
(子供が生まれ、育ち、生きているということは、それだけで奇跡のようなことなのだなあ)
研之介はそんなことを思いながら、子供たちの影が走って行った道を歩いていた。




