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傍観者ではいられない!  作者: ぽぽりんご
第二章 レオ編(シリアスあっさり風味)
20/51

B-2 交流

 

 

「ところでレオ。お前、どうやってこの洞窟を見つけたんだ? 人間にゃまず見つけられないはずだったんだが」

 

 洞窟の周囲を覆う森に入ったところでバヤールがレオに話しかける。

 周囲は人が入るには困難を極めるほど深い森だ。おまけにクレーター状の地形となっているため、洞窟がある事は周囲から見えはしない。仮に近くを通り過ぎる事があっても、クレーターの淵となる斜面を避けて通るだろう。結果、洞窟が見つかる事など無い。

 つまりは、バヤールのいた洞窟を目標にして移動しようとしない限りあの洞窟にはたどり着けないのだった。

 

「それはほら、あれよ。鳥のような視点で、空中からこう……」

 

 レオは身振り手振りでバヤールに説明を始めたが、バヤールには全く理解できなかった。

 腕を挙げて手首を直角に下ろしているのは、何を意味しているのか。微妙に片足が浮いているのには意味があるのだろうか。

 

「すまん。変な踊りを踊っているようにしか見えない」

 

 レオはバヤールを手近にあった木の幹に軽く叩きつける。

 ゴチンと音がして、バヤールは「痛ぇ」と声を上げた。篭手に痛覚があるかどうかは怪しいものだったが。

 

「怒るなって。今のお前の説明で理解しようなんてのが土台無理な話だ。よくわからんが、スカイウォークでも使ったのか?」

「違うわ。視点だけ飛ばすイメージを持って、こう……」

 

 再び体が泳ぐレオだが、すぐに止める。

 レオは、澄ました顔でこう言った。

 

「そう、スカイウォークを使ったのよ」

「おいこら。お前説明するの諦めただろ」

「そんな事ないわ」

「ならなぜ顔を逸らす」

 

 はぁー、と溜息をついたレオは、バヤールの方をまっすぐ見つめて素直な気持ちを告げる。

 

「正直に言うと、説明するのが面倒くさい」

 

 そのまんまな意見だった。

 あまりに率直すぎて、バヤールは口を開く事ができなかった。

 

「私としては、あなたの方が不思議だわ。なんで目が無いのに目が見えてるのかしら……口も無いのに喋ってるし」

「うん? そりゃあ、おめぇ」

 

 今度は逆に、レオからの質問だ。バヤールも今まで考えた事の無い事柄だった。しかしあまりに適当な扱いを受けている事への抗議の意味も込めて、バヤールは真面目に考える事にした。

 

「それはだな……」

「それは?」

 

 バヤールの思考回路が激しく働く。

 長く生きたため大量に蓄積された情報を引っ張り出し、まとめ、分析する。伊達に長くは生きていない。知識量なら人間なんかに負けはしない自信があった。

 そうして、バヤールは結論を出した。

 

「わからん!」

 

 レオは、バヤールを近くの木の幹にゴチンとぶつけた。

 バヤール再び悲鳴を上げた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「おっと」

 

 不意に。

 レオが木の陰に身を隠し、荷物を地面に放り出す。

 

「どうした?」

「黙って」

 

 感触を確かめるように、指を開いたり握ったりを繰り返すレオ。

 やがて満足したのか、背中に付けた矢筒から矢を取り出して弓に番えて引き絞る。

 狙う先は、森の奥。生い茂る木々で視界が塞がれている。少なくともバヤールの目には何も見えない。通常であれば、弓を使う事など考えられない状況だ。

 

 だが、バヤールは口を出さずにレオの様子を伺った。

 綺麗な姿勢だ。乱れぬ体幹。まっすぐ射抜く視線。引き絞られ力を溜め込んでいるにも関わらず、矢は微動だにせず狙いを違えない。

 弓を扱う技術も、弓を扱うための体も一級品だ。素直に美しいと思えた。

 

 やがてレオは、ごく自然な動作で右手を離す。引き絞られた弓が弾け、弦に乗せられた矢は森の木々や枝葉を避けるように奥へ奥へと突き進み、矢が通過する直前に木陰から顔を出した巨大なリスの頭を打ち抜いた。

 

「よし、晩飯ゲット」

「え、ちょっと待って。何今の。どうなってんの?」

「……何か問題があった?」

 

 バヤールの疑問に、レオはうっとおしそうに返答を返す。

 あ、こいつ真面目に答える気ないなとバヤールは思ったが、しかしながら聞かざるをえなかった。

 

「いや、おかしいだろ。あんな所にいるリスが見えるわけないし、そもそも矢を撃った後に軌道上に顔を出してきた感じだったぞ」

「無警戒に歩いてる獲物がいたから、タイミングを見計らって撃っただけよ」

「それが何でわかったのかを聞いているんだが」

 

 バヤールの言葉にレオはうーんと考え込む。

 数秒ほど考え一応の結論は出たようで、レオは首を傾げつつ返答した。

 

「……勘?」

「お前に説明を求めた俺が馬鹿だった」

 

 レオに説明など求めても無駄だという事を、バヤールはようやく理解した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 高さ四メートルほどの防壁を超えて、街の中へ。

 街の門の前には多数の商人たちと馬車が並んでいたため、街に入るのに相当時間が掛かってしまった。さすがは商業都市といったところか。おかげでレオの腹の虫が悲鳴を上げる羽目になっている。

 

 街の門を潜った先、メインストリート脇には露天が立ち並ぶのが常だ。レオは適当な店で手軽に食べられる肉串を購入し頬張りつつ足早に進んだ。

 本来ならきちんとした店で食事をしたかったが、まずは宿を取って風呂にでも入るのが先決だろう。何しろ、二週間ほど森の中をうろついていたのだ。たまに水浴び程度はしていたが、やはり暖かい湯にゆっくりと浸かりたかった。そして宿をとる前には、鞄の中を整理しないといけない。

 レオの持つ鞄は多数の魔法が掛けられているため外に臭いが漏れる事もないが、魔物の体の一部なんて持ったまま宿に入ったら嫌がられるに決まっている。

 レオは、やけにはしゃぐバヤールに若干イラッとしつつも冒険者組合へと歩みを進めていた。

 

「なあレオ! あれは何だ? なんで顔面にパイをぶつけてるんだ? パイをぶつけられたほうは何で呆然と固まってるんだ?」

「……さぁ。ドッキリだとか何とか言ってたけど、私も意義は理解しかねているわ」

 

 レオも昔はバヤールのように目をキラキラさせて街を眺めていたはずなのだが、バヤールにはしゃがられると何故かイラついた。

 それはレオが苦手とする説明を強要されているからなのだが、レオはその事に気づかなかった。

 

 

 数分も歩けば、一際大きな建物が目に入る。この街の冒険者組合本部だ。

 バヤールが説明を求めてきたので、レオは冒険者組合について言及した。

 

「ここが冒険者組合よ。魔物の討伐証明部位を持ち込めば相応の報酬をくれるわ。あとは、有用な物があれば買い取ってくれたりするわね。薬草やら、魔物の皮やら」

「冒険者組合! ちゃんと結成できてたんだな。300年前は、やたら元気なアホが組合を設立しようと頑張ってた時期だったが……あのアホも、立派に仕事をやり遂げたってわけだ」

「バヤール、昔話をするのはおっさんくさい」

「おっさんだからね、こればっかりはしょうがない」

 

 レオが扉をくぐって冒険者組合の中に入ると、中にいた者達がピリッとした視線をレオに向けてくる。

 そんな緊迫した状況を、レオはどこ吹く風とばかりに受け流し受付カウンターに向かった。受付カウンターで受付嬢と談笑していた若手の冒険者がいたが、レオの姿を見るなりその場所を譲り渡す。

 レオが受け付けカウンターの上に鞄を置いて魔物の討伐証明部位を取り出し始めると、受付嬢は慌てたようにカウンターの奥から先輩であろう受付嬢を呼んできた。

 

「……お前さん、なんか怖がられてないか?」

「そう? よくわからないけど、スムーズに事が運ぶならいい事だわ」

 

 しばらく待っていると、清算が済んだようだ。後から現れた受付嬢が、金貨が山のように入った皮袋をレオに手渡してきた。

 心なしか受付嬢の手がブルブルと震えているように見える。手が震えているのは重さだけが原因ではないだろう。相当の重量が詰まった皮袋は、重さに違わぬ価値を持っているようだった。

 

「レオ様、お待たせしました。Aランクが八体、Bランクが十五体、その他諸々の魔物討伐報酬と買い取り品を加えまして、計3800シリングとなります」

「ありがとう。二週間分をまとめて持って来たから、面倒をかけてしまったかしら」

「いいえ、とんでもありません。Aランクの魔物を狩って下さるなんて、大歓迎ですよ」

 

 レオは感謝の気持ちを述べ、1シリング銀貨をチップとして受付嬢に渡しつつ続けた。

 

「ごめんなさい、先に言っておくべきだったわね。現金の持ち合わせは十分あるから、それは組合で預かっておいて」

「あ、失礼しました! 確かに、お預かりさせていただきます!」

 

 本来ならいきなり現金を手渡したりはしない。そもそも買い取り品の値を聞いて売るかどうかを決める場合だってあるのだ。現金を渡すのは、買い取りや貸金庫の利用有無を聞いた後にするのが正規の手順だった。あまりの金額に、受付嬢も普段どおりの対応ができなかったのだろう。焦る受付嬢に対し、レオは気にするなと伝えた。

 そしてレオが振り返ると、再びレオの進路上にいた者達が道を空ける。混雑した冒険者組合の中を、レオは誰にも遮られる事なく進み出て宿探しへと出かけた。目星はつけてあるので、宿について組合で聞くこともしなかった。

 そうしてレオが冒険者組合を出て宿場の方へ移動していると、バヤールが再び口を開き始める。

 

「なぁ、3800シリングって今だとどれぐらいの価値があるんだ?」

「そうね。一般的な食事つきの宿に一年泊まれるくらいかしら」

「大金じゃねぇか! もしかして、お前って結構すごい?」

「どうかしら。Aランクの魔物を狩れるパーティなら、この街にもあと三組ほど居るらしいけど」

「レオ、パーティ組んでないじゃん。一人でAランクの魔物を狩れるって事は、この街で一番……」

 

 冒険者組合でのあの扱われ方はそういう事かと、バヤールは納得した。

 しかし無愛想とはいえレオは美少女だ。もっと持てはやされてもいいのではないかとも思った。

 

 あんな扱いをされているのにも当然、理由はある。

 レオが始めてこの街の冒険者組合に来た時にトラブルがあったのだ。

 ガラの悪い連中が新顔のレオにちょっかいをかけてきたのだが、レオはそれを一人で叩きのめした。

 それも、最初から最後まで終始無言で、だ。

 その後何事もなかったかのように受付カウンターに向かい大量のAランク魔物討伐証明部位をばら撒いたレオを見て、周囲にいた連中は「こいつはやべぇ」と意識に叩き込まれたのだった。

 

「レオはパーティ組まないのか? 一人だと何かと危険だろう」

「信頼の置けない仲間と一緒に仕事をするぐらいなら、一人の方がマシよ。あと格上の魔物と戦う時は罠で足止めするから、パーティで戦ってるのと大差ないわ」

 

 堂々と一人で問題ないと言い張るレオ。

 信頼の置けない仲間云々の下りはバヤールも同意するが、罠があるからパーティで戦うのと大差ないというのは同意しかねた。

 

「お前、寂しい奴だな……」

「篭手に哀れまれるとは思って無かったわ。貴重な経験ね」

 

 パーティを組まないのか、なんて事は今まで散々言われてきた事だ。レオはバヤールの言葉を軽く受け流す。

 篭手にまで哀れまれるというのは微妙に何か感じる所はあったが、それでも今までずっと一人でやってきたのだ。わざわざ自分の生き方を変える必要もないと、レオは思った。

 

 ……ずっと、というには。二年という時間は短すぎるかもしれないが。

 レオは久しぶりに昔を思い出して、少し切なくなった。

 二年前までは、大切な者達がいたのだ。家族と相棒。ずっと、一緒だった。彼らと離れることになるなど、想像もしていなかった。

 

 わずかな機微からレオの心情を察したのか、バヤールが一念発起してレオに発破をかける。バヤールとしては最高の提案だと思えた。客観的に見てどう思われるのかはわからない。

 

「……よし。喜べ! 俺がお前のパーティメンバーになってやんよ!」

「いらないわ」

「あ、そうですか……」

「いくら私でも、篭手がパーティメンバーですとは堂々と公言できないわね。どんだけ寂しい奴なのよ」

「今でも大概だと思うが」

 

 レオは街路樹にバヤールを軽くぶつけて黙らせた。

 早くもお決まりのパターンになりつつある突っ込みを入れつつ、レオはこの後のことに思考を巡らせる。

 

「そんな事より、宿を取りにいくわよ。早めにいかないと、ご飯が美味しい所は満室になっちゃうからね。あんたは何か食べる?」

「お前、俺が食事できるように見えるのかよ」

「目が無いのに目が見えるんだから、口が無くても物が食べられる可能性もあるんじゃない?」

「言われて見れば、試した事はなかったな。試す気にもならんけど」

 

 レオとバヤールは、とりとめもない話をしながら街を進んだ。

 レオが無口なのもあって森の中では大して会話も弾まなかったが、いろんなものがある街中だと状況も変わる。

 会話の種はそこら中に転がっていた。日が傾き始めると早めに店を畳んだ連中が街に繰り出し始める。商業都市というだけあって他の街より行きかう人々も多く、またその種類も豊富だった。何かの催し物の帰りなのだろうか、変な蛙の被り物をかぶった男……おそらく魔物の扮装をした男が、安っぽい勇者風の格好をした酔っ払いを抱えて移動しているのが見えた。

 

 レオとバヤールは目に付いたものに対して語り合った。最初こそ一言二言で会話を打ち切っていたレオだが、慣れてきたのか徐々にに口が軽くなってくる。レオがこんなに喋るのは、久しぶりの事だった。

 

 レオは、もう少しぐらいバヤールに優しく接してやってもいいか、と思った。

 

 


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