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5.帰路は賑やかに、帝国は動き出す

 ちょっと短いです。

 ストックが無いので、一度非公開にしてストック作りをするかちょっと作り直して再公開、という形にするかもです。

 兵達が龍の骨を荷馬車に運び終えたのは日が落ちて水平線に沈み終えた後のことだった。

 何せ大きさは相当なもの――ラウドが倒した個体は恐らく『破城魔猪』級だろう。

 骨だけとはいえ、一本一本の大きさと重量はかなりの物だ。

 ラウドを連れた一行は皇都までの帰路に付いていた。


「姫君、俺が手伝ってたら兵の皆を疲れさせることも無く、とっくに城に帰れてましたよ?」


 片方の肩を出した古代人の衣装(エクソミス)っぽい服装になったラウドが共に馬車に揺らされるトモエへ疑問を投げる。

 まさかラウドが裸に剥かれているとは思わなかったトモエ達は男物の替えの衣服を用意していなかった。

 皇国の誉ある騎士をいつまでも全裸で居させる訳にもいかず、唯一の手段として皇族専用の馬車に使用されていた最高級のカーテンを外しラウドの身体に巻きつけることでラウドの痴態からトモエを守る。

 

「構わん。其方にはどうやって龍を倒すまでの話を聞かねばならんかったからな。それに今の其方は龍殺しの騎士……ならばそれらしく堂々としてれば良いのだ。雑事は他の者に任せることも騎士の務めと心得よ」


「全裸で追いかけっこした後に堂々としてるの、控えめに言ってヤバくないですか?」


「ぬぐっ……! それを言うな……怒りで我を忘れるとは、妾はなんと未熟なのだ……っ!」


 真っ昼間に全裸で一物を振り回しながら走る騎士と国の交渉事を担う【皇国の才女】こと第二皇女。

 周りの兵達からはどういう目で見られていたのかを想像するだけでトモエは羞恥に顔を赤く染め、頭を抱えて悶絶する。

 

「まぁそれは良いとして」


「全然良く無いわ。皇族の威信を何と心得るか」


「俺を城に連れ帰る理由はなんですか? 三日も牛達を撫でないのは初めて何で手が震えてるんですが……」


 冗談では無く、本当に両手を小刻みに震わせるラウドが手をトモエに見せるように前に出す。

 「もう限界だ! 俺は村に帰って牛の乳を搾るぜ!」と言い放ち全裸で村へ帰ろうとしたラウドをトモエが引き止めたのだ。(何を言っても止まらなかったが、トモエが縋り付くことで何とか馬車に乗って貰った)

 ラウドを引き止めた理由をトモエは話始める。

 

「龍を倒した其方には色々と説明せねばならんのだ。それも早急にな」


「はぁ、そうなんですねぇ」


 ラウド気の抜けた声。

 その声を聞いたトモエは予想通り、ラウドが何も知らないことを察する。

 

「龍を殺す――これは皇国にとって、いやこの大陸に住む全ての国家にとっては非常に大きな意味を持つ。其方は龍と真正面から切り結び、壁に追い込んだと言っておったな」

 

「はい。すごいしんどかったです」


「まるで子供のような感想を言うな、力が抜けるわ。これは其方が倒した碧龍の爪を拝借してきたものだ」


 そういってトモエが懐から一本の龍爪を取り出す。

 傷一つ無い(・・・・・)爪をトモエは手の上で転がす。


「妾も龍の遺骨を見させてもらったが、腕骨や胸骨の大部分は切られてどれも傷だらけであった。しかし、爪だけは其方と死ぬまで切り結び続けたのに傷一つ無く、それらが全て皇国の物となった――この意味が分かるな」


「……めっちゃ硬い、ですね?」


「そうだが違うわ! 身体能力に特化した馬鹿力の騎士と龍鱗を断つ武器と切り結んでなお、傷一つ付かぬこの爪牙を武器に加工すれば……そしてそれを騎士が持てばどうなる、という話よ」


 龍とラウドの闘いは極めて近い身体能力の上で成り立つ、言ってしまえば脚を止めた殴り合い(ステゴロ)だった。

 そんな闘いでラウドはどうして勝利をもぎ取れたのか。

 それは偏にラウドと龍の技術の差が大きかったと言えるだろう。

 龍とは違い、人間の五指は生物の中でもトップクラスに器用なもので、関節の可動域も広い。

 重く、必殺になり兼ねない互いの一撃だったが、受け流し逸らせるのはラウドのみ。

 その差が勝敗を大きく分けたと、ラウドは考える。

 

 では、その技術を持った騎士(人間)が龍の爪を持てばどうだろうか――如何にラウドと言えど、想像するまでも無いだろう。

 

「あぁー、確かにそれはヤバそうですね。龍の爪を持たれたら"ダル絡みアイス"が相手でもちょっと嫌です。ってことは帝国連中からすれば……」


「今頃龍の討伐の話も帝国に渡っている頃だろう……クハハ、今頃連中はあわを食って大慌てだろうな! 良いぞラウド。良くやったラウド。帝国の連中のその姿を想像するだけで愉快というものよ!」


 隣接する領土を持つ皇国と帝国は長年領土問題を抱えている。

 特にラウドが騎士になってからのやっかみは酷い物だった。

 騎士という存在をどの国よりも敬う騎士発祥の帝国と皇国が保持する騎士の数は三人で同数だった頃は気にもならない小さな嫌がらせ程度だったが、ラウドが任命され四人になってからというもの。

 条約無視は数知れず、もはや見逃せないものばかりでトモエは腸が煮えくり返っていた。

 ライバル視する皇国に騎士の数で負けていることが帝国人には許せないのだろうが――それもここまでだろうと判断したトモエは笑いが出たのだ。

 龍殺しの騎士が居ることで帝国の嫉妬はより増幅するだろうが、騎士の数で負け、それも龍殺しという騎士最大の誉を為した者がいる状態で手を出す訳が無いのだから。

 

 手の平で転がす龍爪をトモエがラウドに手渡す。

 受け取った爪をラウドが指に力を籠めるがびくともしない。

 

「でもこんなもの加工できるんですか?」


 ラウドが当たり前の疑問を口にする。

 硬い物ほど加工が難しいのは当然だからだ。

 それも龍のものだけあって熱への耐性は尋常では無さそうだった。

 

「時間は掛かるが可能だ。我が国一の鍛冶師である鉱人(ドワーフ)は四百年前に龍の素材で武具を作ったことがある凄腕の職人だからな……龍の素材とドワーフの技術が合わさった武器は龍の力を持った凄まじい武器や防具になるという。楽しみにしておれ」

 

 龍の武具は龍殺しを為した騎士に与える――各国で逸話として残る龍殺しの騎士達全てが受け取って来た最大の名誉だからだ。

 どうせまた要らないといって受け取っては貰えないのだろう――諦め半分に出たトモエの予想は半分は外れることとなった。

 

「……そうですね。なら俺以外の三人に龍の武具を贈ってください」


 ラウドの返事はトモエが予想したものとは異なっていた。

 

「む? 要らんと言わんのか?」


 素直に驚いたトモエが目を丸くして驚き、ラウドにその真意を問う。

 

「実際に戦って感じましたが、俺と龍は比較的に相性が良かったんだと思います。騎士でも至難とされる龍鱗も比較的容易に断てましたが、あれは恐らく俺の筋力とこの頑丈な槍があってこその勝利だったのでしょう」


 トモエから向けられた視線と問いを受けたラウドは傍に立て掛けた赤槍へ視線を送りつつも話を続ける。


「あの三人も素晴らしい一芸を持っていますが、龍鱗を前に彼等の特殊な力もどこまで通用するのか俺には分かりません。少なくとも、龍の武具があれば困った時に使えそうです」

 

「ふむ、たしか龍は適応能力が凄まじく住む所を選ばぬと言う。同じ龍でも氷山や火山、湿地や海底とあらゆる環境と事象に適応するのであれば、確かに純粋な身体能力以外とは相性が悪そうよな」

 

 ラウドからしても、龍に勝てたのはその適応能力とやらが活き難い純粋な筋力と技術、そして姫君が用意してくれた武器の御蔭だと考えていた。

 これまで使ってきた既製品の槍では勝負にすらならなかっただろう。

 恐らくたった一度の打ち合いで壊され、その後は逃げるしか出来なくなっていただろうな、とラウドも身をもって実感したからだ。


「おぉ!! では次の謁見ではちゃんと受け取ってくれるのだな!?」


「いや俺の分は要りませんね。……代わりになんか良いものくださ――そうだ! あのチーズの製法を教えてくださいよ!!」


「しつこい奴だなラウドは! その件は二週間待てと言うたであろう! それにせっかくなら晴れ舞台で龍殺しの功績を世に知らせるべきだ!」


「さっきもう帝国には伝わってるって言ってたじゃないですか! ならもう別にいいでしょう!」


「そういう話ではない! 大々的に広めるからこそ国の益に繋がるのだ!」


「じゃあ適当に宴でも開いてその時に教えてくださいね」


「適当とか言うな馬鹿者! 其方はまったくもう、どうして――」


 

 都までの長い道のりは馬車でも相応の時間を要する。

 皇族専用の馬車の中から漏れる二人の声に警備に努める兵達は苦笑いを浮かべながらも、皇都へ歩をゆっくりと進めていく。

 行きは心労で一言も発さない皇女だったが、帰りはなんとも賑やかなものだと、兵の一人が顔を綻ばせる。

 この時間を楽しんで頂ける(・・・)よう、いつもより歩幅を緩め、野営を挟みながら進めること二週間と少しの後。

 "帝国の才女"と"豪傑の牛騎士"が皇都に戻った知らせは、すぐに大陸各国に知らされることとなった。


 各国が皇国の動向を見守る中、帝国もまた残り二週間を切った交渉の席に向けて慌ただしく動き出した。

 余談ですが、龍に勝ったラウドが龍に勝てない他の騎士より強いのか。と言われると実はそうではありません。

 何事にも"相性"というものは、勝敗に限らず大きく左右するものです。

 例えば、帝国の氷結の騎士こと"ダル絡みアイス"は現状龍には勝てません。必死に凍らせようとしてもすぐに寒さに適応されて氷結能力の一切が無効化され、大きな氷柱を作ったところで氷の硬度には限界があります。というか龍の炎で氷を解かされる以上、むしろ相性は最悪でしょう。

 ですが、氷結という能力は強力なものです。

 もし、草木を操る騎士が居たとすれば、凍てつく寒さの前に植物は抑制され、普段の半分も力を使うことは出来ないでしょう。

 つまり、ラウドの身体能力を無効化する、もしくはある程度抑え込める力を持った存在と戦えばラウドも厳しい戦いを強いられる――ということです。

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