8 救世主
休日が終わり、今日からまた1週間が始まる。
「おはよー!キモオタ!」
「おはよう!キショオタ!」
「おはよう!キモオタ君!」
小林さん続いて島崎さんと原田さんが上機嫌に俺の背中を叩いた。
さぁ、始まった地獄の一週間。
「うわ!キモオタ君また、エロ本でも読んでいるの?!」
小林さんが本を取り上げた。
「ちょ、ちょっと返して……」
今日はラノベ小説ではない。
れっきとした小説である。
だから、ページをめくっても挿入絵がなく、字しかない。
小林さんはペラペラとページをめくるがつまらなそうな顔をしている。
「はぁ……つまんなぁ……」
小林さんは本を床に捨てた。
こんなこと良くあることだから、俺はなんとも思わない。
けれど、本が可哀想。
本は喋らないけどきっと痛がっている。
その証拠に、一ページ目の端が折れている。
少し、幼稚な想像かも知れないが、物を大切にしていく上ではこう言う想像も大切になる。
俺は本を黙って拾おうとした。
そんな時だった。
「ちょっとあなた達!いい加減そう言うことするのやめたらどうですか!」
そこに現れたのは、風紀委員会を務める、末永 優樹菜さん。
小林さんさん達に嫌がらせを受けている俺を毎回のように助けてくれる恩人だ。
「チッ、またお前かよ……」
「せっかく、楽しくなりそうだったのにー」
「しらけたわー」
末永さんは風紀委員。
下手に手を出せば、風紀を乱すものとされる可能性がある。
仮に風紀を乱すものと認定されれば、風紀委員の目が厳しくなり小林さん達の楽しい学校生活が苦しくなる。
そうなれば小林さん達は好き勝手なことが出来なくなる。
それが分かっている小林さん達は末永さんには手を出さない。
小林さん達は俺と末永さんの前から消えた。
「はい、結城君。怪我とはない?」
「は、はい……」
原田さんが落としていった本を拾ってくれた末永さん。
俺の前には末永さんの微笑んでいる顔がある。
まるで、天使だという感想と同時に、俺は緊張してしまう。
なんだか、ドキドキと心臓の音もうるさい……
「結城君?大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です」
「そう、それなら良かった。もし、何かあったらまた言ってね」
俺は本を受け取った。
そして、末永さんに「ありがとうございます」と俺を告げ、末永さんから、距離をおくことにした。
「緊張した……」
学校の自販機で飲み物を買い、心を落ち着かせようとしたが、未だに心臓の音がうるさい。
その理由は自分でも薄々気づいている。
俺は、末永さんが好きだ。
だが、俺みたいなのが、末永さんの事を好きなってはいけない。
末永さんはとても可愛いし、頭の良い。しかも、周囲からの信頼もある生徒。
勿論男女から人気がある生徒。
だから、俺みたいな陰キャラが好きになってはいけない子なんだ。
「はぁ……」
俺にもっと力があったりしたら、末永さんみたいな子と付き合えたかもしれないのに……
そう思うと、俺が余計に情けないと感じてしまう。
――教室――
教室に戻ってみると、楽しそうに友達と会話をしている末永さんが目に入った。
けれど、俺みたいな奴が、末永さんを意識をしてしまうなど図々しいことだ。
それが分かっている。
なのに見てしまう。
あの可愛い末永さんの顔を。
どうかしているよ俺は……
すると、末永さんと目が合ってしまった。
やばい、どうしよう……
俺はすぐに視線を反らしたが、末永にばれたかも知れない。
チラッと末永さんを見た。
すると、末永さんが俺に気づき、笑顔で手を振ってくれた。
その顔がまた、たまらないほど可愛い。
つい、顔が緩んでしまった。
「おい、何ニヤニヤしているんだよキモオタ」
「あれれ~もしかして……」
「まさかの~……」
小林さん島崎さん原田さんだ。
なんだか三人とも俺を見てニヤニヤしている。
もしかして……
島崎さんが俺に近づく。
そして、俺の耳に囁く。
「キモオタ。お前、末永のこと好きだろう……」
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