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知らぬ間にギャル達の様子が変わっていたのですが、俺はまだ気づいていません。  作者: プリンアラモード


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106

それから午前の授業が終わるまで、俺は一度も左後ろを振り返らなかった。


いや、正確には――振り返らないように必死だった。


斜め左後ろに原田さんがいる。


ただそれだけのことを、ずっと意識してしまう。


おかげで授業の内容は、ほとんど頭に入ってこなかった。



午前の授業がすべて終わる頃には、朝よりも疲れていた。


別に授業が難しかったわけではない。


余計なことを考えすぎたせいだ。


「……飲み物でも買ってこよう」


昼休み。


俺は財布を持ち、教室を出た。


少し頭を冷やした方がいい。


廊下の突き当たりにある自動販売機へ向かう。


購買へ向かう生徒が多いからか、自動販売機の前には誰もいなかった。


俺が財布から小銭を取り出していると、後ろから足音が聞こえてきた。


「何を買うの?」


「え?」


振り返る。


そこにいたのは、原田さんだった。


「原田さん」


「そんなに驚かなくてもいいじゃん」


「ごめん。別の人だと思ってた」


「誰だと思ったの?」


「誰ってわけじゃないけど」


原田さんは俺の隣に並ぶと、自動販売機を見上げた。


「何にしようかな」


「原田さんも飲み物を買いに来たの?」


「うん。優奈たちは購買に行っちゃったから」


そう言いながら、原田さんは財布から小銭を取り出す。


俺は先にボタンを押し、落ちてきた缶コーヒーを取り出した。


「白金、コーヒー飲めるんだ」


「微糖だけどね」


「ちょっと大人っぽい」


「高校生なら普通じゃない?」


「そうかな。私、苦いの無理だよ」


原田さんが選んだのは、ミルクティーだった。


ガコンッと音を立てて落ちてきたペットボトルを拾い上げる。


それから原田さんは、すぐには教室へ戻ろうとせず、その場でこちらを見た。


「ねえ、白金」


「何?」


「朝の話、本当はどうなの?」


「朝の話?」


「授業中、私の方を見てたって話」


やっぱり聞かれるのか。


「……少しだけ見てたかもしれない」


「やっぱり見てたんだ」


「ずっとじゃないよ」


「それは分かってるけど」


原田さんはミルクティーのラベルを指でなぞりながら、少しだけ視線を下げた。


「どうして私のことを見てたの?」


「それは……」


すぐには答えられなかった。


原田さんが何かをしていたからではない。


話したかったわけでもない。


ただ、気づくと原田さんの方を見ようとしていた。


その理由を考えると、思い当たることは一つしかなかった。


「昨日のことを思い出してた」


「昨日?」


「帰り道のこと」


原田さんの指が止まる。


「別れた後、原田さんが振り返っただろ?」


「……あれ、見てたんだ」


「目が合ったんだから、そりゃ分かるよ」


「そうだけど……」


原田さんは少し照れくさそうに頬をかいた。


「そこを思い出してたの?」


「うん」


「どうして?」


「それは俺にも分からない」


「分からないのに、何回も思い出してたんだ」


「……悪い?」


「ううん」


原田さんが小さく首を横に振る。


その口元には、うっすらと笑みが浮かんでいた。


「ちょっと嬉しいかも」


「嬉しい?」


「白金も、昨日のことを覚えてたんだなって」


「原田さんも覚えてるの?」


「もちろん覚えてるよ」


原田さんはミルクティーを胸元で両手に持った。


「私が振り返った理由、気になる?」


「……少しだけ」


本当は、かなり気になっている。


だが、それを素直に言うのは何となく恥ずかしかった。


「白金が、まだこっちを見てるかなって思ったから」


「俺が?」


「うん」


どうして、そんなことを気にしたのだろう。


その疑問が顔に出ていたのか、原田さんは慌てたように言葉を続けた。


「その……昨日は白金と話しながら帰るのが楽しかったから」


「…………」


「別れた途端に一人になって、急に静かになったから、ちょっと変な感じがしただけ」


そう言う原田さんの頬は、ほんの少しだけ赤くなっていた。


「白金は?」


「え?」


「どうして、私が振り返るまで見てたの?」


「俺は……」


言われてみれば、どうしてだろう。


別れたのだから、そのまま帰ればよかった。


それなのに、俺は原田さんの後ろ姿を見ていた。


振り返った原田さんと目が合った瞬間、なぜか胸がざわついた。


そして、今朝まで何度も思い出していた。


「俺も、原田さんと話しながら帰るのが楽しかったから……かもしれない」


「かもしれない?」


「そこは自分でも、まだよく分からない」


「何それ」


原田さんは少しだけ不満そうに頬を膨らませた。


それからすぐに、小さく笑う。


「でも、そっか」


「何?」


「じゃあ、私たち、お互い様だね」


「お互い様?」


「私も白金も、昨日のことを気にしてたってこと」


「ああ……」


そういう意味か。


そう納得したはずなのに。


『お互い様』という言葉が、なぜか妙に嬉しく感じた。


「へぇー。何がお互い様なの?」


「っ!?」


突然、背後から島崎さんの声が聞こえた。


俺と原田さんは同時に振り返る。


そこには、パンと飲み物を抱えた島崎さんと小林さんが立っていた。


「優奈!?」


「何でそんなに驚くの?」


「いつからいたの?」


「たった今だけど?」


島崎さんは俺と原田さんを交互に見る。


「二人で何の話してたの?」


「何でもないよ!」


原田さんが慌てて答える。


「何でもないにしては、随分楽しそうだったけど」


「普通に話してただけ!」


「ふーん」


島崎さんがニヤニヤしながら顔を近づける。


「朝まで白金のことをからかってたのに、その白金と二人でこそこそ話してたんだ?」


「こそこそしてないから!」


「じゃあ、何がお互い様だったの?」


「それは……」


原田さんが言葉に詰まる。


「ほら、やっぱり何かあるじゃん」


「優奈、その辺にしておきなよ」


小林さんが島崎さんの制服の襟を後ろからつかんだ。


「えー、楓だって気になるでしょ?」


「気にはなるけど、今聞いても二人とも答えないでしょ」


「じゃあ、後で美玖だけに聞く」


「それもやめて!」


原田さんの声が廊下に響く。


島崎さんは楽しそうに笑いながら、小林さんに引っ張られて教室へ戻っていった。


その後ろ姿を見送った後、原田さんが小さくため息をつく。


「もう……優奈はすぐああいうこと言うんだから」


「大変だね」


「他人事みたいに言わないでよ。白金のことでもあるんだから」


「俺のことでもあるの?」


「あるでしょ」


原田さんはそう言うと、俺より先に歩き出した。


俺もその隣に並び、教室へ向かう。


教室の前まで戻ったところで、原田さんが足を止めた。


「白金」


「何?」


「さっき話したこと、優奈には内緒にしてね」


「言わないよ」


「絶対だからね」


「分かってるって」


「……ちょっと恥ずかしいから」


そう言って、原田さんは逃げるように教室へ入っていった。


俺も後を追い、自分の席へ座る。


原田さんも斜め左後ろの席へ戻った。


これで、ようやく落ち着ける。


そう思った直後。


後ろから、俺の肩が軽く叩かれた。


振り返る。


原田さんが、教室の前を指差していた。


「午後の授業は、ちゃんと前を見てないとダメだよ」


「誰のせいで集中できないと思ってるんだよ」


「私のせいなの?」


「……知らない」


「ふふっ。何それ」


原田さんは楽しそうに笑う。


俺は再び前へ向き直った。


二、三日もすれば、元に戻る。


朝はそう思っていた。


けれど、このままでは元に戻るどころか――。


原田さんのことが、ますます気になってしまいそうだった。

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