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第九話

~前回までのあらすじ~

アプデにより、遂に新たな惑星[バグスター]と[フォレスト]が実装された。

早速双方からの襲撃が発生し、ホーム付近は沈静化したが、各地はどうなる事か…。


少しずつですが、評価も増えてきました。

とても励みになります。

ありがとうございます。

では、暇つぶしにでもどうぞ

 アプデから一夜明け、ログイン。

 襲撃の方は、敵の物量を上回る火力をぶつければ良いという、作戦とも言えない力押しでどうにでもなる事が判り、すっかり稼ぎイベントと化していた。

 [覚醒]以降の転生に関しても、因子の取得数の実質二倍と、パラメータの成長率二倍とスキルの強化が、かなり強烈な様で、炎上も自然鎮火した模様。

 俺も意を決し、チェストの中身を殆ど職人たちに預け、加工して販売する様に頼んだ。

 その後は治験を済ませ巡回に自主参加。ついでに暫く大幅弱体化するから、巡回時の戦力として期待しない様にウィル達に伝え、この日はログアウトした。


 翌日。

 すっかり空きができたチェストに、売れ残った加工品を突っ込み、所持品を全て収め、手持ちの金も、素材を買って、職人に渡した。

 教会に向かい、八回目の転生を行い、因子の[蛇使い]を取得し、パラーメータは、[装甲]を[障壁]に変え、[防護]を[体力]に戻し、完了させた。

 [障壁]は[装甲][防護]のスキル違い版で、スキルを強化すると確率で、[障壁]によって追加されるステータス、バリアの受けるダメージを半減するようになる。

 会社から、売上金を45万引き出し、Lvを一気に100まで上げた。

 この日はログアウトまで、[蛇使い]と[障壁]の検証を行った。


 更に翌日。

 昨日と同じように、九回目の転生を行い、因子の[パイパー]を取得した。

 パラーメータは弄らずに、転生を完了した。

 金を引き出し、Lvをカンストさせ、今日も検証に費やした。


 一週間後、貯めに貯めた売上金で、十回目の転生…[覚醒]後、一気に二回転生を行う。

 その前に、軽く一週間の出来事を振り返る。

 襲撃の頻度が下がり、これで落ち着いたかと思いきやそれは間違いだった。

 アースの未開の地や僻地に降り立った、[バグスター]や[フォレスト]の勢力は、その地で着々に地盤を築き、規模を拡大していたのだ。

 現在は、そうした根付いた外来種との勢力争いが激化している。

 治験は、相変わらず続けているが、科学者曰くゴールは近いと言っていた。

 [ジャックオーランタン]も、上層部の加点が入れば、特級の試験を受けれるだろうと、ベテラン勢が言っていたので、そろそろだろうと睨んでいる。

 [覚醒]を見越した、検証も有意義に行えた。

 能力が大幅に低下するのを考慮し、真っ先に取得する因子を見極めた。

 最優先は[聖人]で、強い柱になる使い魔の確保は最重要課題だ。

 次点で枚数の確保として最後に取得した、[蛇使い]と[パイパー]が候補に上がる。

 [パイパー]は因子自体の効果で、使い魔の移動速度が20%上昇し、スキル<群鼠>で鼠の使い魔を8体使役出来、スキル<誘導>で使い魔の移動速度をLv毎に1%上昇させる事が出来る。

 勿論鼠は羊と違い、ちゃんと戦ってくれるのは検証済みだ、しかも、単体ではかなりの雑魚だが、かなり小さい当たり判定、素早い動きで、数を活かした纏わり付きが中々強かった。

 パラメータは、取り敢えず変更するつもりは無いが、何か強力なパラメータが解放されたら、[装甲]を切り捨てようと決めた。

 さて、じゃあ[覚醒]…、そして一気に二回転生しましょうか。


 教会着き、[覚醒]を行う。

『あなたは幾度となく転生を繰り返し、肉体の限界を超越しました』

 アナウンスが流れ、因子とパラメータを覚醒させる項目に入る。

「さて、覚醒させる因子は勿論[獣人]だ、これで、転生するごとに勝手に重複される」

 覚醒後の転生で[獣人²]、二回目の転生で[獣人³]といった感じに、なる。

「覚醒させるパラーメータは[幸運]だな、素材が沢山手に入ればLvアップも早くなるし。<夫婦蛇>がどう強化されるかも気になるしな」

『覚醒させるのは、[獣人]と[幸運]で宜しいですか?』

「OK」

 そこからは従来通り、因子を選んで、パラメータを選ぶのだが、因子は問題無いが、パラメータの方は、[幸運]が固定化され、選択肢が六つに減っていた。

 …まあ問題は無いので、因子は[聖人]を選び、パラメータは変更なしで完了した。

 そのまま転生に即移行しても良かったが、少しだけ再確認。

「パラメータの上昇値は2、ポイントも2、覚醒させたパラメータの上昇値は4か」

 金を引き出し、Lvをカンストさせ、検証タイムへ移行。

「スキルLvは…、あーやっぱ上限は10に戻ってるのか」

 試しに[聖人]のスキルLvを50に上げて、初っ端から無双が出来るか試そうと思ったが、無理だった。

 ちなみに、<代行の剣>をLv50に上げると、やはり攻撃方法が変化し、斬撃が飛ばせるようになり、遠距離攻撃が可能になった。<代行の盾>はタワーシールドを地面に叩き付け、衝撃波を発生させ、範囲攻撃が出来る様になった。

 まあ仕方無いなと諦め、[幸運]のスキルを確認。すると。

 <象亀>が<鏡亀>に変化し、<錦鯉>は<鯉の群れ>に変化し、<甲虫>は<甲虫王>に変化した。そして<夫婦蛇>は<家族蛇>に変化していた。

 あまりに色々変わっていたので、この日は一日検証に費やした。

 <鏡亀>は、鏡餅の亀Verで、象亀の上に、亀が更に二段重ねになっていて、3匹の内どれかがやられても、1匹でも残ってたら、残ってるやつの場所に復活する。

 つまり、一番ちっこいのがやられても、大きいのが生きてれば、再び大きいのの上に復活し、大きいのがやられて、小さいのが残ってれば、小さいのの下に大きいのが、復活する。

 <象亀>は堅いが、移動が遅かったので、三体の内、1体でも残ってれば、その場復活してくれるのは、戦線維持を考えれば強力な変化と言える。只中くらいの亀とちっこい亀は若干弱いし、噛み付きのリーチは短いので、スキルLv50未満では、攻撃能力は期待できない。

 <鯉の群れ>は、名前の通り錦鯉が群れになっていて、その数なんと10匹!水鉄砲がマジもんの弾幕になっていて、見ていて楽しかった。

 <甲虫王>は日本甲虫がヘラクレスオオカブトに変化し、単体での性能が飛躍的に上がった。サイズも相当大きくなり、リーチも大幅に伸びた。

 そして<家族蛇>はメスより一回り小さい大蛇が、8匹追加されていて、総数は10に増え、同じ獲物を全員で締め付ける、蛇団子は圧巻だった。

 安定性の向上した<鏡亀>に<甲虫王>、枚数が大幅に増えた<鯉の群れ>に<家族蛇>、覚醒により強化された[幸運]のスキルは、弱体化した分を十二分に補ってくれそうだ。


 検証を済ませた翌日。

 [覚醒]後初の転生を行い、更にLvをカンストさせ、二回目の転生を済ませ、Lvをカンストさせ、自身の資産と自分の使える会社の資金も底を突いた。

 これで、チェストの容量も600まで増え、Lvアップ時のパラメータの上昇値は6、ポイントも6になり、Lv10の現在のステータスはこうなった。

 名前:テツ。Lv100。祝福:[獣神²]。★。☆²(★が覚醒回数☆が転生回数)

 LP HP600 ARM:600 STA:600 COST:600/600

 因子:[獣人★][聖人][蛇使い][パイパー]。

 パラメータ:[生命]600[幸運]1200[持久]600[積載]600[体力]600[装甲]600[魔力]600[筋力]600[速度]600[傀儡]600。

 ここに、<生存本能>Lv30 <魔導人形>Lv10 <ゴーレム使い>Lv10 <家族蛇>Lv20 <鏡亀>Lv1 <甲虫王>Lv20 <鯉の群れ>Lv20 [ブリキ兵一号]~四号Lv1 <蛇壺>Lv1 <蛇笛>Lv1 <群鼠>Lv1 <誘導>Lv30 <代行の剣>Lv20 <代行の盾>Lv20 <速度上昇>Lv30を取得し、残コストは401になった。

 PAに戻り、ランタンを二つにポーションを取り出し、残コストを350にした。

 検証を済ませ、Lvもカンストさせ、スキルも揃えた。いよいよ覚醒後初の、本格的な冒険を始める。ある意味初陣ともいえよう。

 俺の変化を是非見ようと、マサとユキが一緒に来てくれる様だ。

 フィールドに出ると、一斉にスポーンする使い魔達。

「ウハッ、なんだこりゃ!?」

「これ全部テツ君の使い魔?」

 現在俺の使い魔の数は44体、もはや小隊規模である。

 周囲の人たちもあ然としてたが、直ぐにざわざわし出したので、目的地に向かった。


「アレが虫の巣か…マジでデカいな…」

 マサが見ているのは、先日アースに乗り込んできた[バグスター]の勢力が砂漠に築き上げた、巨大な巣で、砂漠の中心地に築かれたそれは、かなり遠くからでも見る事が出来る。

「山と樹海のせいで、戦車が配備出来ないのが、此処まで拡大した要因か」

「そうね、まさか数日、ゲーム内で十日ほどで、此処まで大きくなるなんて」

 軽く二十階建てのビルは有りそうな、巣の周りには、夥しい数の虫が蔓延っていた。

「それじゃあ行くか、使い魔の数こそ大幅に増えたけど、俺自身はかなり弱体化してるから、フォロー宜しく」

「おう、群がられても俺が押し返してやるよ」

「任せて、私も新技を引っ提げて来たから期待してね」

 相変わらず頼もしいマサに、ユキも切札があるのか自身タップしだ。

 巣に近づくにつれ、人が増え、拠点を作り維持する人や、田畑を管理してる人まで居て、出店も多数出店されており、活気が凄い事に。

「なんかもはや祭りだな」

「いやまあ、今[アース]で一番物資の需要が高いのは此処だからな」

「そうね、ホームとの距離が有るのも、緊急性が低くて気楽に参加出来る一因よね」

 プレイヤーが密集する場所は、即時最大戦力が展開され見る間に駆逐。僻地は在来種が凶悪過ぎて、プレイヤーが知らぬ間に消滅している場合が有ったりと、敵側も決して順風というわけではない。

 そんな中、絶妙な位置に此処まで大規模に拡大した、攻略し甲斐の有る敵拠点が出来たのだ。そりゃ盛り上がるのも無理ない話だ。

 俺達も早速祭りに参加する為、前線に向かった。


 最前線では、射程内に敵を近付けさせまいと抵抗する蟲の軍勢と、なんとしてでも遠距離攻撃を叩き込もうとする、人類側の軍勢が激しくやり合っていた。

「うーん、最前線一等地は無理だな、割り込む余地が無い」

「拠点まで一直線、平らで見通しも場所は、有名どころが占有してるな」

「まあ良いじゃな、私たちは私たちのやり方で行きましょう」

「じゃあ側面に回ってみるか」

 行列を抜け、大回りで巣と距離を取りつつ、側面に位置取る。

 ここにビルダーが居れば、色々と仕込みが出来るが、居ないんで仕方ない。

 マサが退路を確保しながら、巣に近寄ると。

「カチカチカチッ‼」

「ヴーーーン‼」

 即座に大量の蟲が応戦し、集団戦に突入した。

 因子[パイパー]の効果とスキルで、移動速度が50%上昇している使い魔は、瞬く間に虫達との距離を詰め、混戦に持ち込む。

「さて、鼠は…」

 手下の使い魔の中で、一番撃たれ弱い鼠が、虫の攻撃に耐えれるか注視する。

「…良し!一撃は耐えれるな!、あ、流石に二発は無理か、まあ上等上等」

 巨大な蟻の一噛みに堪え、その体に張り付いてみせた鼠。別の虫の一撃で止めを刺されたが、一撃耐えれるのなら、活躍は十分だ。

 敵側は、およそ30体の蟲を嗾けてきたが、俺の使い魔の総数は44、いい勝負だ。

 既に何度も使い魔がやられているが、復活し即座に戦線復帰を果たしている。

 移動速度が上がった分、穴が空き難くなったのは大きい。

「流石テツ君の使い魔、それじゃ私も良い物見せてあげる」

 言うやユキが前に出て、魔法を発動する。

「行くわよ、新必殺技<クラスティオーブ>!」

 杖の先端から発生した、真っ赤な火球が、敵目掛けてとんでゆく。

「パッと見は、<ファイアーオーブ>と変わらんが…」

「だな、俺には違いが分からん…」

「フフ、まあ見てて」

 火球が見事敵陣中央に炸裂し、爆風を起こす。そして溶岩溜を作る。

 しかし今回はこれで終わらず、更に小型の火球が、周囲に飛び散った。

「な!?」

「クラスティってそういう」

 飛び散った火球は、小規模な爆発を伴い、小さな溶岩溜を作る。

「これはエグイな」

「範囲が飛躍的に広がってるし、多段ヒットで火力もヤバい」

「どう?これが私の<ファイアーオーブ>が変化した、<クラスティオーブ>よ」

 先日、虫の大群に<ファイアーオーブ>を使い、もっと範囲が広ければと思ったら、クールタイムを無視して、<ファイアーオーブ>が使用可能になったので、使ったら変化したそうだ。

 さて、ユキの新魔法のお陰で、敵集団にかなりの損害を与える事が出来た。

 しかし、少々目立ち過ぎたか、巣の警護をしている連中まで参戦してきたので、後は他に任せて退散するとこにした。

 かなり執拗に追われたが、力を合わせ樹海まで逃げ込み、PAに帰還した。


「お疲れ」

「お疲れさん」

「お疲れ様」

「一応鼠が一撃耐えれたから、戦力としては、ボーダーラインを超えたな」

「流石に一撃死はきついわな」

「敵目線では悪夢よね、40を超えるユニット数に、最少の鼠すら一撃で倒せないし、無限湧きしてくるとか」

「それに、以前に比べて遠距離攻撃が格段に増えたな、鯉の水鉄砲が弾幕化して、毒蛇も毒を噴射してたから、前衛後衛の概念が、使い魔の中にもでき始めたな」

「ああ、ここに[羊飼い]を導入すれば、囮と遊撃も加わって、更に安定するな」

 無くして気づく強さというか、羊も犬も便利だったんだな~と改めて思う。

 スキルLvを上げれば、兎に角堅くて異常なノックバックで敵を翻弄する羊。

 羊を追い回せる素早さに、当たり判定が小さく中々のスペックを誇る犬。

 この両者が一つの因子に、納まっている[羊飼い]は優秀だ。羊毛も取れるしな。

 他にも、気になる因子が幾つも有ったので、今後の転生が楽しみで仕方ない。

 そのためにも金を稼がなきゃならんから、次の行き先を考える。

「今一番需要が有るのが薬草とかポーションか?」

「ああ、布や糸も相当キテルようだ」

「建材も凄いみたい、逆に木材はあまり需要が無い様だけど」

「いや…、その内木材も高騰するだろう、代替品として急場を凌ぐのに使えそうだし」

「木のバリケードとか防柵か、確かに無いよりはマシだな」

「じゃあ前に作ってた、ガラス質を染み込ませた木材、今の内に用意しておけば、儲かるんじゃないかしら?」

「そうだな、耐火板材なら量産出来るし、やってみるか」

 こうして、先を読んで主力商品の量産に取り掛かる。


 耐火板材、又は耐火合板を作るには、当然ながら木材が必要で、他には粘土や灰、若しくは硝子が必要なので、採取する必要がある。

 一応木材は大量に確保してあるので、粘土を中心に集める事にした。

 粘土はランクや質を気にしなければ、基本何処でも取れるので、ホーム周辺で草木と一緒に根こそぎ集めていく。

 周囲にはさぞシュールな光景だっただろう。覚醒まで済ませたプレイヤーが、今更初期エリアの素材を必死に集めているのだから。

 流石に何処でも取れる素材なだけあって、短時間で沢山採れたのでPAに戻る。

「という事で、板材や合板の量産をお願いします」

「「「「了解!」」」」

 職人衆に丸投げし、追加の素材を集めに再び外出する。

 今度はつるはしも持って南山に向かい、時間いっぱい採掘に勤しむ。

 お陰で、粘土を始め金属もそこそこ手に入ったので、ついでに加工をお願いする。

 明日は早起きして遊ぼうと思い、早めにログアウトし、就寝した。


 翌朝。

「おはよう、どう?売れた?」

「おはよう…、ああ、予想以上に売れてるぜ、ヒヒ」

 既にインしていたマッドに挨拶し、売れ行きの確認をする。

「おお、完売か、そこそこふっかっけてたんだがな~」

「リーダーがログアウトして、少ししてから出品したんだが…、直後から順調に売れていって、二時間ほどで完売したよ、ヒヒ」

「…急場凌ぎ用の建材すら既に高需要か、どんだけ魔境なんだ新惑星は…」

 マッドが作業に戻ると言うので解放し、俺も行動を開始。


「こんばんは、ギル」

「こんばんはテツさん、このタイミングで来たって事は?」

「ああ、俺も条件を満たしたみたいだな」

 そう言い、テツは自身の真っ赤に発光した十字架を取り出す。

「では、僕と一緒に特級の試験を受けてくれるんですね?」

「勿論、こちらからも宜しく頼む」

 ギルも数日前に、十字架が発光し、特級受験の条件を満たした。

 特級は、二人以上で試験に臨め、数に応じて難度が上昇するらしい。

 ウィルやカイル達が、二人で受ければ間違いないと進めてきたので、俺が条件を満たしたら一緒に試験を受ける事になっていたのだ。

「では行きましょうか」

「おう、タンマリと物資も満ち込むから、消耗戦になっても大丈夫だ」

「それは頼もしいですね」

 二人で教会に向かい、道中作戦を決める。

「基本的には今までの試験と同じようですが、物量と質が更に底上げされている様で、相当厳しいみたいですよ」

「この試験内容で思ったが、[ジャックオーランタン]って個じゃなくて、多をどうするかに主眼を置いたライセンスなんだな」

「そうですね、象徴たるランタンがそういった方面に強みを持っているので、そういう感じの立ち位置になるのも仕方無いですね」

「そうだな、でもギルは対個を意識しているな、なんで?」

「滅多にないそうですが、英雄と呼ばれるような方や、ボス級の生物がアンデッドになった場合、対多の人員だけだと、鎮圧が困難な事があるそうで、そういった事態を想定して、今のスタイルに行きつきました」

「ボス級のアンデッド…確かにウィルの様なスタイルだと辛そうだ、でもカイルやミーチャにルーカスのスタイルも、相当変わっているよな、ミーチャは対多を想定してるけど、カイルは完全に対個特化だよな、ルーカスは近接と対レイスを捨てた代わりに、対個対多のスペシャリストだし」

「父たちは当時から変わり者扱いだったようですね、でも実績があったので、尊敬はされていたと父は豪語してますが」

「そこは素直に受け取っておこうぜ。話を戻して、質が上がると言うが、具体的にはどういったアンデッドが出るんだ?」

「そうですね、象のレイスや熊のゾンビとか、人型以外のものがふえるそうです」

「ヤバそうだな…」

「ええ、精一杯頑張りましょう」

 教会に着き、エントリーを済まし、会場に入った。


「ではこれより特級試験を始める」

 試験管の宣言を合図に、各所のジェネレーターから大量に湧き出すアンデッド。

「じゃあ手筈通り、俺は中央に陣取るから護衛宜しく」

 テツはランタン二刀流で、会場の中央にでんと構える。

「任せて下さい、テツさんへの被害は致命傷以下に抑えて見せます」

「ダメじゃねーか!」

「死ななきゃ安い!死な安です!」

「どこで覚えたんだそんな言葉…」

 軽くジョークを交えながら、ちょこちょこ前線へ聖水を投げ込む。

「流石に物量がヤバい!」

 テツの使い魔の総数は44体、ギルと合わせて総ユニット数は46もある。

 しかしアンデッドの数は、優に倍はあり、無限湧きしてくる。

 圧倒的物量差に、次々と使い魔が沈められ、敵が押し込んでくる。

 だが、俺の使い魔は、個の能力では負けておらず、移動速度が大幅に上昇しているので、前線復帰も早く、使い魔の壁は未だ健在だ。

 レイスに対する攻撃手段の増加も大きく、<鯉の群れ>の水鉄砲が前衛を抜けようとするレイスに刺さり、その歩みを鈍らせる。

 そして、その厚い壁を抜けて来た個体は、ギルが即座に切り捨てた。

「む、ギアが一段上がりましたね、テツさんウェーブ2になりました」

 ギルが、敵の攻勢が増した事で、ウェーブ2に移行した事を教えてくれた。

 先程までそれほど多くなかった、前衛を突破するレイスが頻繁に来るようになり、ギルの仕事量が格段に増えた。

「テツさん、物資の量はどうですか?」

「まだ十二分あるぞ」

 生命線の物資を切り崩しながら、中央を陣取る。

 この位置取りは、周囲を取り囲まれる代わりに、ある程度の空間と、ギルが手持無沙汰になり辛いという利点があった。

 前後左右に余白が有れば、攻撃を避けるという選択肢が取れ、物資の消費を抑えられる。

 ギルが常に敵と戦えるなら、リソースの運用上好ましく、これまた必要以上の物資の消耗を抑えるのが、狙いだ。

 一方から大量の敵が迫るのを、狭いスペースで、迎え撃つ。

 周囲から、散発的に敵が迫るのを広いスペースで迎え撃つ。

 両方を天秤に掛けた結果。後者を選んだのだ。

「パオーーン!」

「グオーーッ!」

 ウェーブが進んだのか、件の象と熊のアンデッドが出始める。

「ギル!どうする?」

「テツさん下がりましょう、流石に囲まれたらマズイです」

 ギルに従い、壁を背に陣形を組みなおす。

 これで逃げ道が無くなり、スペースも減ったが、敵の攻撃は一方向に絞られた。

 途中象と熊が壁を突破し。

「パオーン!」

「グオーー!」

「うおおおおおお!」

 二体の攻撃を俺が身体でもって受け止める。

 大ダメージを受けたが、ランタン二刀流が火を噴き、ギルの手早い攻撃で、処理は速やかに完了した。

「テツさん大丈夫ですか!?」

「はあ…、大丈夫だ、まだイケる」

 ポーションをがぶ飲みし、ピンチを耐え忍ぶ。

「もうこりゃ出し惜しみは無理だ。聖水をじゃぶじゃぶ使うぞ!」

 温存しておきたかった聖水も積極利用し、使い魔の壁を前に押し出す事に成功。

 これで、若干だがスペースが生まれ、動き易くなった。

 ランタンの有効範囲に敵を収める為に、ギリギリまで前に出る。

 そうする事で、使い魔の壁がグッと厚くなり、使い魔もより早く戦線復帰できる。

 束の間の安定期を迎え、飲食を手早く済ませ、いよいよ大詰めだ。

「ギル、今の内に物資を渡しておく」

 今までは、必要な時にギルが傍に来て渡していたが、そんな暇は直に消える。

 ギルが持てるだけの物資を渡し、最終ウェーブに突入した。

 序盤中盤の、定位置で戦う戦法を変え、会場を逃げながら粘る。

 ギルが、行く手を阻むアンデッドを袈裟切りに伏せ、道を切り開く。

 俺はギルの後を追って、ギルの進路に聖水を投げ込む。

 こうする事で、俺達が敵の攻撃に晒されるリスクは格段に上がってしまう。

 だが、敵の中を移動する事で、使い魔を敵の集団にねじ込む事が出来、これによって、使い魔1体辺りの隣接する敵の数が飛躍的に上昇し、稼げる時間が大幅に増える。

 アンデッドの、LPが高い者を優先的に狙う習性も利用し、より多くのアンデッドが、使い魔にぶつかるように誘導、ギルの被弾リスクが下がるのも美味しい。

 何度か壁際に追い込まれるが、聖水で、道をこじ開け、追い付いてきたり、復活した使い魔に押し付け脱出した。

 当然こんな事を繰り返せば、物資も消耗し、遂に聖水が底を着いた。

「…聖水が切れた」

「あと少しです…ポーションで凌ぎましょう」

 ギルの後を追い、全身を叩かれたり噛まれたりしつつ、逃げまくる。

「こっちだって色々備えてきてるんだ、切り札を使わせて貰う!」

 俺はマッドに作って貰っていた、切り札のポーションを地面に叩き付けた。

 直後、甲高い音が響き、巨大な氷柱が聳え立つ。

「っ!?テツさん、これは?」

「氷柱ポーション、切り札の一つだ」

 これにより、ゾンビやスケルトンの類は、止める事が出来る。

「しかもレイス対策もしてるから、すり抜けられる事も無い、今の内に立て直すぞ」

 流石に攻撃を受けすぎたせいか、[出血][打撲][呪い][感染症]と、複数の状態異常を受けてしまっていて、かなり追い込まれていた。

 藁人形で呪いを逸らし、毒消しポーションで感染症を直し、軟膏で出血と打撲を治癒する。

 ギルも武器防具の応急処置を済ませ、立て直す。

「良し、まだまだ奥の手はある、何処まで追い詰めてくれるのかな?」

『そこまで!試験を終了する。おめでとう合格だ』

 折角立て直したというのに、試験が終わってしまった。


「これでお前達は[ジャックオーランタン]の特級だ。どのような力に目覚めたかは、こちらでは把握でき無い故、自分で調べる様に、以上解散」

 試験官の元を辞し、受付に向かい、ライセンスを更新して貰った。

「ああ、遂に僕も特級に」

「長かったな…」

「さて、早速購買を見に行きましょう」

「感慨に耽る時間が短ぇ!」

 ギルとしては、それはそれ、これはこれ、だそうです。

 受付に頼み、特級の商品展示室に案内してもらう。

「ではごゆっくりどうぞ」

 案内人が下がり、俺とギルは展示品の物色を始める。

「流石特級、色々とヤバそうな物がズラリとまあ」

「そうですね、初心者にこそ必要じゃ?と思う品が多くありますが、無暗に流通させるわけにはいかない物ばかりですね…」

 [死人の香]:死人の腐乱臭を焚く事で、ゾンビに狙われなくなる。効果時間30分。コスト5。

 [幸福のランプ]:生者の幸せな気配を出し、レイスをおびき寄せるランプ。コスト20。

 [ゾンビキャプチャ―]:ゾンビに投げつける事で、ゾンビを操れる。コスト5。

 等々、幾らでも悪用出来そうな品々が目白押しだ。

「ランタンの改造も大幅に増えたな」

「ええ、テツさんは今まで無改造でしたよね?」

「そう、しっくりくるのがなくてな」

「どうですか?何かピンときましたか?」

「この[魔力]の値で効果が増す、魔道派生は気になるな」

「テツさんは、魔力が結構高い割に、一切魔法を使ってませんもんね」

「まあ…使い魔の為だしな」

 でも魔道派生にすれば、ランタンの効果にも影響する様になるから、ビルドとのシナジーは爆発的に上昇するんだよな。

「ギルはどうだ?」

「[信仰]値に応じて、ランタンブレードが、全防御力に対して貫通力を持つようになる、裁き派生が、目を引きますね」

「それはまた凄まじいな、物理、魔法、属性、全ての防御を抜けるなら、どんな相手にも有利に戦えるじゃん」

「いえ、代わりにコストが非常に重くなってしまうんですよ、今僕が使ってるランタンが、コスト二五なんですけど、裁き派生にすると、十倍の250になってしまうんです」

「重すぎる!」

「いずれは使ってみたいですが、現状はもっと己を高めないと無理ですね」

「流石になぁ…、ん?ギル、鉄球があるぞ!なんだコレ!?これもランタン!?」

「初めて見ました、コスト500?攻撃力1700!?」

「更にぶつける度に、対象を大幅に弱体化か、決戦兵器だな」

「ここから改造したらもはや運用だけで手いっぱいですね」

「ロマン感は半端無いがな」

「ですね」

 鎖で繋がれた、発光する鉄球を眺め、二人で笑う。

「お、これは便利そうだ」

 [聖水散布機]:聖水のみならず、液体の薬品等を広範囲に散布できる。効果は元の65%に低下。コスト40。

「なんかこれを使って、レイスに聖水を浴びせてはしゃぐテツさんが思い浮かびます」

「ギルの中の、俺のイメージがどんなかなんとなく分かった」

 その後も便利そうな道具に心躍りながら、吟味していく。

「素材も良い物ばかりだ、この[聖銀]なんて色々使えるぞ」

「こちらの[ホーリーシルク]も逸品ですね、対アンデッド、闇属性耐性が付いたアパレルを作れれば、色々と捗るでしょう」

 暫くラインナップを堪能し、結局は何も買わずに外に出た。

「特級に昇格した事で、自分がどう変化したか、分かってからで良いですね」

「ああ、もしかしたら発現した能力と、同じ商品を買ってしまって、無駄になる可能性も有るしな、暫くは自分と向き合うのが先決だ」

「そうですね、ではお疲れ様でした。また巡回でお会いしましょう」

「お疲れ様」

 こうしてギルト別れ、PAに戻る。


「ただいま~…ってなんだ!?」

「おかえり、どうしたテツ?」

「おう、おはようマサ、なんかランタンとチェストが凄い牽き合うんだ」

「?まあなんだ、状況が分からんが、頑張れ」

 取り敢えず、ランタンがチェストの中の何かに反応しているようなので、中を確認してみると[昇華された骨]が点滅していた。

 [昇華された骨]:所有者が資格を得た事により加工が可能に。骨から「我らを防具に加工せよ、しかし、それは汝の防具に非ず、我らは器なり」と意志が伝わっている。

(なんだ?防具にしろ?以前はこんな説明文なんて無かったぞ?)

 よくわからないので、骨を持って再度教会に向かった。

「すみません、用途不明の品について聞きたいのですが」

「はい、では研究室に案内いたします」

 係の者に連れられ、理科室と工房が合体したような部屋に案内される。

「先生、御用がある方をお連れしました」

「そうか、入ってどうぞ」

 係の者が引き返し、俺は「失礼します」と入室した。

「フム、私はここの責任者、ギブンだ。どういった要件で?」

 俺は、[昇華された骨]を見せ、経緯を説明した。

「ほー、戦士の魂に気に入られた様だな、どれ、左手に持ってるランタンを見せてみろ」

 言われた通り、初期からずっと使っているランタンを渡す。

「思った通り、とんでもない霊力を感じるぞ、行き場の無い魂を相当数受け入れているな」

「確かに、なんか吸い込む現象は何度も見てきましたが、分かるようにお願いします」

「どうやら、不完全燃焼で、死に絶えた戦士の魂が、お前に賭けた様だ」

「増々分からん」

「ようは、お前の何かに惹かれて、再び戦場に立つ機会を求めてるのだよ」

「…まさか骨を依り代にするって事ですか?」

「その様だな、普段はお前の防具に擬態して、戦闘時には骨を依り代に戦うのだろう」

 もしかして、俺が使い魔の運用をしているのが要因かな?。

 [ジャックオーランタン]は、特級になると、個人の資質によって、特典が変わる様だし。

「そうなると、防具と言うより、スケルトンを身体に装着する感じか」

「…、どうやらそれが正解のようだ、ランタンの霊力が肯定を示している」

「ふーん、その場合、加工に適した人材ってどうなりますか」

「それならば私に任せておけ、最適な形に加工してやるぞ」

「なら、是非お願します」

 俺は、ランタンと骨を十100個預け、採寸をしてPAに戻る。

 魂の器は、現実時間で、数時間で完成する様だ。


 休憩後、教会に向かい、器の受け取りをする。

「待っていたぞ、ほれ、身に着けてみろ」

 作業台に置かれた器は、骨で出来た鎧で、ぱっと見は、防具として機能していない。

 [骸の鎧]:戦士の魂の器。ランタンに宿った魂は、骨を依り代に主が死するまで、決して引く事は無く戦い続ける。コスト20。

「防御力は一切無いのにコストは20もあるのか」

「そん位は許容しろ、[昇華された骨]を依り代にした、戦士の魂入りのスケルトン何て、相当高位の魔物だぞ?それを使い魔として連れれるなんて、大変名誉な事だ!」

 先生の熱弁に気圧され、取り敢えず鎧を着る事に。

 思いの外簡単に着脱出来、嫌な感じもしない。

「ありがとうございます、料金は?」

「いい、貴重な物を見て触れさせて貰えたのだ、それで十分だ」

 嬉しい事に、タダで済んだので、お礼を言って退出する。

「引き続き骨と魂が集まるようで、数が増えたらまた来るがいい」

「ありがとうございます、失礼します」


「よし、早速スケルトンの検証をするか」

 西門から森に向かう為、フィールドに出ると。

 パキャン!、と鎧がバラバラになり、直後、散らばった骨がカタカタと揺れ、一瞬でよく見るスケルトンの形になった。

 但し、スケルトンは首なしだった。

 すると、ランタンから青白い鬼火の様なものが飛び出し、首なし骸骨の頭部へ収まった。

「おお!かっけえ!」

 武器は、鋭い骨を、ショートソードとして代用する様だ。

 おっと、周りの視線が激しく刺さる。さっきも鎧で目立ってたし、これは絡まれないうちに森に入り、スケルトンの戦いぶりを見る事に。

 しかし。

「ありゃ?全然前に出てくれないな」

 他の使い魔が、敵を補足し、向かう中、スケルトンは、武器を構え、警戒こそすれど、俺の傍を離れる事は無かった。

 これでは検証にならないので、一気に最深部へ向かい、熊の群れと遊んでみると。

「お、何とか一頭抜けて来たな」

 そして、先程まで動かなかったスケルトンが、すっと俺を庇うように前に出て。

「グオオ――グギャアアアア!」

 バッサァ‼と見事な体捌きで、熊の首を撥ね、絶命させた。

「ほぼ無傷の熊を一撃か…」

 しかし、前線には向かわないで、再び俺の傍で、動かなくなってしまった。

「完全に護衛タイプの使い魔って事か、良しこれから[ガーディアン]と呼ぼう」

 こうして、使い魔の域を超えた、[ガーディアン]を手に入れた。


「ってな事が起こったのさ」

「それはまた…無駄に目立つな」

「そこかよ!、まあその通りだ、クッソ悪目立ちしてたな」

「最近は当たり前のように、空を飛んで戦う奴が居たり、余程の事じゃ目立てなくなってきてたのにな、流石テツだわ、使い魔一筋は伊達じゃないな」

 最近じゃ俺の様な、ビルドも再評価され、ビルドそのものでは目立たなくなったんだが。

「骨もそうだが鼠。あれも相当目立ってたぞ、相当難解な条件で解放されるのか、お前以外居ない様だぞ?」

「マジか…まあ時間の問題だとは思うけどな、初期に嫌煙されたビルドな以上、研究が遅れてるのは致し方ないさ」

「まあな、妬むなら、初期の不当な扱いを味わってみろって話だよな」

 あれ?なんでこんな話になったんだっけ?。

「まあこの話良いとして、さっきギルドで面白そうな依頼を見たんだ、行かないか?」

 って事で、ユキと樹海の先にある海に向かっている。

 え?マサはどうしたって?めんどいからパスだそうだ、薄情者め!

 代わりにユキが、「可哀そうだから私が付いて行ってあげるわ」といってついてきた。

 暇だったんですね?分かります。

 まあ、そんなこんなで浜辺に出て、目的の場所に向かう。

「新プロジェクトの実験会場はこちらです!」

 ギルドの職員が、拡声機で、呼びかけている。

 俺ら以外にも、結構人が居て、百人くらいは集まってるのかな?。

 幸い、奇抜な格好をしたのや、妙なムーブを繰り返す奇人のお陰で、俺の目立ち具合は程々に抑えられている。

「それでは、説明に移ります」

 職員が、ポーションらしき物を掲げ、説明をする。

「この薬は、服用者の能力を著しく低下させる代わりに、水中内で地上と同じ動きが出来る様になる、[水中順応薬]という薬です」

 へー、デメリット付きで、水中で行動できるのか。

「中々面白そうな薬ね」

「一部のビルドの特権だった、水中での活動の敷居が下がるな」

 俺とユキが、話してる最中も、職員の説明は続く。

「皆さんも知っての通り、他の惑星から襲撃が発生し、アース各地に外来種が居着いています。放っておくと、取り返しのつかない事態に陥るかもしれません」

 戦力が送り辛い砂漠で、既に巨大な巣だもんな。

「なので、速やかにアース全土を調査しなければなりませんが、空の移動は手段は未だ少なく、港は完成していないので、このままでは大規模な調査は相当先の話になってしまいます」

 成程、話が見えて来た。

「そこで、皆さんには、この新薬を使い、海底を伝って別大陸に上陸できるかを試して欲しいのです、無論、いきなりは無理でしょうから、薬の評価や近海の調査など、段階を踏んでステップアップしていきましょう」

 一通り説明が終わり、参加者に薬が配布される。

 薬は二種類で四つ渡された。

 二つは、[水中順応薬]もう二つは[順応解除薬]だ。

 もし、そのまま別大陸や、離島への上陸が叶ったら、解除薬を呑んで、調査してから帰還できるように、二つずつ寄越した様だ。


「それじゃあ、飲んでみましょ」

「ん、…糞不味いな」

「歯磨き粉に豆乳とバリウムを入れたような?」

「うわ…パラメータやスキルLvが半減か、デメリット重すぎ」

「取り敢えず海に入ってみましょう」

 ユキに促され、海中に突入。

 海の中は、澄んでいて、綺麗な光景だったが、今はそんな事はどうでも良かった。

「呼吸は問題無いな、それに…、なんだ、泳いで浮こうと思えば浮けるんだけど、基本は海底に足が付く感じなんだな」

「そうね、重力が軽減された感じ?」

「うん、しっくりくる表現だ」

 なんとも言えない感覚に、周囲もテンション高めに動いていた。

「問題は攻撃が機能するかよね」

「問題無いだろう、使い魔にも俺らと同じルールが適応されてる様だし」

 俺は、周囲にいつも通り控える、使い魔を指して言う。

「まあ…、そうなんだろうけど、<クラスティオーブ>が海中でドカーンって、なんか違和感凄くない?」

「凄いな」

「でしょ?まあもうちょっと人同士の間隔が空いたら、試し撃ちしてみるわ」

 そいうわけで、人目のない所に移り、怪しいものは片っ端から、試してみた。

「どうやら問題ないようね」

「ああ、違和感はあるけどな」

「海中を進む火球」

「シュールだったな」

「ええ」

 取り敢えず、能力の低下以外は、問題無い事が判明し、調査を続行する。

「じゃあ薬の効果がしっかりしてるのが分かった以上、海中散策に移りましょう」

「そうだな、[積載]も大幅に下がって、戦利品には期待できないし、情報を優先しよう」

 そうして、海中の生態や地形を調べながら、散策していると。

「むっ!、ロブスタータイプの大海老だ!」

「向かって来るわ!先制するわね<クラスティオーブ>‼」

 ユキが、先手必勝とばかりに、オマールっぽい海老に<クラスティオーブ>を放つ。

 しかし、危険を察知したか、海老特有のバックで回避した。

「速い!」

「これぞ海老って動きだったな、デカいし身も沢山取れそうだ」

「え?テツ君アレを食べる心算?」

「食べるかどうかは分からんが、今更じゃないか?」

「そうだけど…、海老があのサイズだと…結構キテルわよ?」

「昔の人は、あのわしゃわしゃした節足動物を、味も知らないで食べたんだ」

「…」

「タコもな、タカアシガニもな、味を知らなければ、食べようとも思わないだろ?」

「…」

「でも、昔の人…」

「分かったから!、美味しいかもしれないし、高く売れるかもしれない、でしょ?」

 なんか、ユキが俺のテンションに引き気味だが、海老なら期待するよな?

 俺らがそんなやり取りをしてる最中、眼前では、オマールと使い魔の壮絶な激戦が繰り広げられていた。ステータスが軒並み半減してる影響で、使い魔も弱体化著しいのも、拍車をかけている。

 それでも、47対1という、覆し難い差の前に、海老が呑まれたのは、想像に難くないだろう。

「[大オマールの身]と[大オマールの甲殻]か」

「どんな感じ?」

「身の方は、美味しい様だな、甲殻も薬にしたり建材に加工出来たりと、使い道は多そうだな、身は売って、甲殻は職人に渡そう」

 ちなみに、大オマールがどの位大きかったかというと、人間サイズだった。


「今回はこれくらいにして、そろそろ戻りましょう」

「そうだな、浅瀬で採取して戻るか」

 こうして、浅瀬で、サンゴや貝殻を採取し、報告に戻った。

「ご苦労様、君たちのフィードバックは無駄にしないよ」

 証書を受け取り、帰る前に現在のレポートを見る事に。

「へ~、既に結構な地図が出来てるのね」

「完全にリアルタイムで更新されてるからな」

 レポートの横に掲示されてる地図が、刻一刻と緻密になる様は、見ていて楽しい。

「思っていたよりも、陸地が近かったのね」

「そうだな、直線なら十分程の移動で、上陸できそうだ」

 他にも遭遇した生物などの情報も多く、巨大なアザラシや、人食いザメといった、危険生物の情報もあり、ある程度の戦闘力が把握できた。

 採取出来るものは多岐に渡るが、狙い目は、サンゴに昆布辺りか?。

 まあ、稼ごうと思ったら、数人で役割分担しないと、効率が悪そうだ。

 帰り道は、樹海でコストがいっぱいになるまで、素材を集めて帰還した。


 疲れたのでユキと解散し、休憩後。

「さて、砂漠の様子でも見に行くか」

 職人も含め、皆出払っていたので、ソロで砂漠に向かった。

「なんか更にデカくなったな」

 砂漠の巣は、以前みた時より更に多くなり、既に十0mは超えてそうだ。

「周辺の祭り状態も健在、と」

 現在アースにおいて、砂漠の巣の周辺が最も稼げるとあって、その人口密度は非常に濃く、様々なビルドがそれぞれの方法で、金稼ぎに奔走している。

「随伴歩兵募集中」「畑の護衛募集中」「誰か輸送車の護衛をしてくれ」と、様々な役割を募集した文言が飛び交っている。

「そこのジェネレーターのお兄さん」

「ん?俺の事か?」

「そう、お兄さん、うちの屋台の護衛やってくれないか?」

「屋台?」

「おう、最前線で飲み食いを提供して金を稼ぐのさ」

「へ~、儲かるん?」

「そりゃお兄さんの活躍に掛かっとるよ、売り上げの折半でどうだ?」

「面白そうだな、やろう」

「そう来なくっちゃ、俺はタロウっちゅうもんや」

「俺はテツ、宜しく」

「は~、兄さんがあのテツさんか」

「あのテツ?」

「初期から使い魔一筋って言えば、有名よ」

「そうなんだ、まあ害が無ければいいか」

「それで良いさ、じゃあ行こうか」

 タロウと最前線に赴き、屋台を展開する。

「マジで、誇張無しの最前線か」

「まあな、んじゃあ手筈通りたのんます」

 料理は基本、俺が倒した生物や魔物の素材、客が持ち込んだ食材で作る。

 幸い砂漠には、飲み水をドロップするカエルがポップするんで、飲料もカバーでき、料理の幅も広く保てる。

 常に屋台を視界に入れ、離れすぎないように、在来種と外来種の双方を狩る。

「水とカエルの肉と蛇の肉を置いてくぞ」

「サンキュー、さあ調理開始だ」

 タロウが調理を始めたことで、周囲にたんぱく質や還元糖が、焦げた匂いが漂う。

「おー旨そうな匂いだ」「丁度腹減ってったとこだ」「カエルステーキ一つ」

「毎度~」

 少しずつ客が増え、持ち込みで素材の目途が立ったので、俺は護衛に専念。

 途中から人が増え過ぎたせいか、敵が屋台周辺にこぞって群がり、屋台を起点に前線基地が築かれてしまった。

「あっという間に陣地が構築されたな」

「こんな心算じゃなかったんだけどな~」

 タロウの屋台を中心に作られた事で、後から来た人が、陣地の増築に、タロウの許可を取りに来るなんて場面もあった。

 まあ、なんだかんだで規模が大きくなったので、飲食の屋台も増え、どさくさに紛れて屋台を端っこに移動させ、何時でもとんずら出来る様に動いたタロウの手腕は見事だった。

 いつの間にか畑や井戸が出来ていて、食材の供給が更に安定していたり、宿泊施設や診療所も出来た辺りで、流石に引いた。

「なんだか大事になり過ぎ!?、テツやん!バックレるで」

「あ、ああ」

 丁度夜になり、視界が悪くなった瞬間を狙い、姿を眩ます事に成功した。

「今回はありがとうな、これがお礼だ」

 タロウから4万円受け取った。

「結構儲かったんだな」

「ああ、んじゃさいなら」

 こうして、屋台が拠点になってしまった騒動に幕が下りた。(俺とタロウの中では)


「って事があってさ~」

「ほ~、最前線で拠点か」

「途中までは。計画通りだったんだがな~」

「そうか。ところでこの依頼、その拠点の事じゃないか?」

 夜、マサとギルドで駄弁りながら依頼を物色中に、マサが一つの依頼を指す。

『砂漠に在る、対バグスター用の拠点が孤立中、至急救援を求む』

「?この拠点はプレイヤーメイドだから、依頼に載るのはおかしくないか?」

「言われてみればそうだな、しかも出来たのがついさっき、ゲーム内でも一日位しか経ってないしな」

 二人でどういう事だ?と詳しく見てみると。

「ん?どうも、拠点を見たギルド職員が、拠点を買い取りたいと申し出たみたいで、責任者不在だから、現場のプレイヤーの判断で、拠点の権利がギルドに移譲されたみたいだな」

「そんな事が有んのか、てかそれでギルドのものになった途端孤立したって」

「最早フラグだよな、ギルドが関わると大概囲まれる」

 あまりにアレな状況に、笑いが漏れる。

「で?実際拠点として、どうなんだ?」

「巣も近いし、必要な施設は大概揃ってたからな、完成度50%のベース位か?ただ時間制限が有るから、維持できる人材が残ってるかだな」

「確かギルド職員は全員建築関連を習得してるよな」

「そうだったな、初期はお世話になったぜ」

 ほんの数か月前を思い出し、二人で懐かしむ。

「まあせっかくだし様子でも見に行くか」

 マサのこの一言で、現地に向かった。


「おお?意外としっかり残ってるぞ?」

「そうだな、あれだけの拠点の維持が出来るのは凄いな」

「それは違うわよ、ギルドが拠点を接収した事で、正式なオブジェクトになって、時間制限が撤廃されたからよ」

「「サチ!」」

「やっほ~、二人とも拠点の救出に?」

「いや実時はさ…」

「フフフ、流石テツ君、斜め上過ぎるわ」

「いや今回俺は何もしてないぞ?周りが勝手に盛り上がった結果だ」

「そうね、それでも中心に居たのがテツ君って時点でね、フフ…、フフフ」

「なんにせよ、拠点がしっかり機能してるなら、思ってたよりは、状況は良いな」

「それがそうでもないのよ、なんと巣には蟻の女王が居て、この短時間で、一気に戦力が上がってきているのよ」

「流石ギルドクオリティ」

「マジでギルドが出張ると、トラブルが舞い込むんだな」

 流石は、安心の一級フラグ建築士、ギルド様だ。

「それでどうするの?」

「みた感じ、援軍は沢山居る様だし、おこぼれのつまみ食いで良いんじゃない?」

「賛成、遠巻きに動いて、釣れた雑魚だけ美味しく頂こう」

「そう、私もパーティーに入るけど、良いわね?」

 こうしてサチを加え、拠点救援をそっちのけで、周囲をうろつく事に。


「なんか矢鱈とこっちに来るぞ?」

 当初の予定と違い、沢山の蟲に追われる一行。

「おこぼれの摘み食いどころか、俺達が掴み食いされそうなんだが」

 全くの想定外に、俺もマサも絶賛混乱中。

「在ったわ、きっとこれのせいよ」

 サチが依頼の文言の一部を抜粋し、見せてくれた。

『なお、拠点の周辺に、拠点の建築に深く関わった人物が居ると、最大級のヘイトが向くので、ご注意ください』

 こんな文言が、これでもかと小さく記載されていた。

「「通販かっ‼」」

「つーかそれでこっちに来るって事は、俺か!?俺は建築には関わってねぇからおかしいだろ!その場にいただけでアウトとかふざけんな!」

「あー、きっと貢献度が高かったから、中心人物判定を喰らったんだな」

「そうね、流石テツ君、運営もしっかりと見てくれてるわ」

「嬉しくねぇ…」

 それから三人で、距離を取りながら、様子を見て、ギリギリ捌ける数を引き寄せる距離を弾きだし、その場で迎撃する。心算だったが…。

「なんでこんなタイミングで[ゲートキーパー]が出るんだよ‼」

「ハサミが六本に頭も三頭で、毒針も三本のサソリか」

「まるで阿修羅ね」

「感心してる場合か!」

 正に前門の虎後門の狼状態だ。

「マサ、頼む」

「応よ!ここだっ!」

 マサの弾き攻撃で、[ゲートキーパー]と虫を纏めて吹き飛ばす。

「やったわ、在来、外来で戦い始めたわ」

 上手い事外来種の群れに、在来種である、[ゲートキーパー]を突っ込ませたことで、俺達へのヘイトは、格段に薄れてくれた。

 こうなってしまえばこっちのものだ。サチがダメージゾーンを張り、マサが備え、俺は使い魔を嗾け続けるだけだ。

「そういえば、サチのまきびしが変化しているんだが?」

 さっきから気になっていたので、訊ねる。

「なんと私の[罠師]のスキルも変化したのよ」

 サチによると、[罠師]の<ばら撒き>という、<まきびし>のダメージをLv毎に0.5上昇させるスキルが、<放電>というスキルの変化し、電気ダメージが追加され、こちらもLv毎に0.5上昇する様だ。

 実質火力が二倍だ。勿論電気ダメージも、防御無視だそうだ。

「更に他の因子の効果で、毒と酸のダメージも乗ってるから、私の前では、防御力は無意味よ」

 パチパチと音を立てる、放電するまきびしが、もの凄いで、近寄る虫のLPを削る。

「向こうは決着が着いたようだな[ゲートキーパー]がこっちに来るぞ」

 外来種を駆逐した[ゲートキーパー]が、ボロボロの状態で、向かってくる。

 既に拠点とは十分距離を取っているので、今更横槍は入らないだろう。

「一気に決めちまおう」

 俺はランタンの範囲内に、[ゲートキーパー]を収めるよに移動。

 マサも傍で待機し、サチは敵の近くにまきびしを撒いて、下がって来た。

 あとはもう見ているだけで、決着が着いた。

 元々、大量の外来種と、俺の使い魔に集られ続け、這う這うの体だったのだ。

 最早[ゲートキーパー]は、万全の状態で迎え撃った俺達の敵では無かった。

 こうして、無事[ゲートキーパー]の阿修羅スコーピオンを討伐した。

 [阿修羅の甲殻][阿修羅の針][阿修羅の核]をドロップ。

 更に、周辺の素材がレア化したので、目一杯採取して。PAに戻った。


「いや~大漁大漁♪」

 会社で、戦利品の仕分けを上機嫌で行う三人。

「[砂漠の花]に[レッドサボテン][猛毒の胆嚢]は高く売れるぜ」

「私は、[大王サソリの核]が嬉しいわ、これも一つ数十万で売れる代物よ」

「俺は僅かだが、[紫硝子]と[黒硝子]も採取出来たから、かなり儲かる」

 結局良く分からないうちに、[ゲートキーパー]の乱入を喰らってので、何処の区画でどんな条件かも不明だが、十分な戦果を得れたので、そこは良いだろう。

 色々あったが得る物が多く、結果良ければ全て良しだ。

 時間も時間で、疲れたので、解散してログアウトした。

次も2週間位を目途に頑張ります。

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