第二十八話
~前回までのあらすじ~
『ジャックオーランタン』からの依頼で、俺を含めた16人だけで渓谷を浄化。
色々あって、暫くエルフィンでも行動に制限が掛かってしまう。
だが見返りは大きく、うちのクラフトには大きなアドバンテージが齎された。
そして二度目の再誕を済ませ、更にピーキーなビルドとなった。
さて、無意味に時間を浪費した分、実りある行動を採らねば。
斧やシャベルにつるはしを携え、ホーム周辺の資源を根こそぎ採取していく。
数時間掛け、比較的近場の資源を取り尽くしたので、今度は干潟と樹海と渓谷を巡る。
「ふう、やっぱ金稼ぎには[速度]は重要だな」
これだけあちこちと走り回っても、大して時間が掛からないのが実に良い。
二時間ほどで採取を終え、再びユキ、マサ、サーモンと合流。
「どこか行きたいとこは?」
3人に行き先を募る。
「俺は二度目の再誕をしたんだが、皆は?」
マサのこの問いに。
「私も済んでるわ」
「俺も」
「お陰で弱体化著しいぜ」
ユキ、サーモン、俺の順で答える。
どうも俺が二度目の再誕をした時に、他のメンバーも合わせて再誕してくれた様だ。
「となると激しいロケーションには厳しいか…」
「なら地底湖の哺乳類ゾーンはどうだ?」
再誕前に、臭い息で総崩れからの敗走を喫した難所だ。
「却下」
「無理」
「誰かさんと違って匂いには敏感なんで」
3人に猛反対され、提案は棄却された。
「そうなると現状で金稼ぎが出来そうなところは…」
という事でやってきましたのは[バグスター]。
「何も無理にダンジョンを攻める必要も無いしな、適当に野を歩いて狩れば良いでしょ」
4人でホームを出立し、獲物を目指して行軍する。
ただ、周辺の蟲は駆逐済みなのか、一向に敵に遭遇する事は無く、諦めて南のダンジョンに向かった。
「ここなら最初の分岐路に居れば敵には困らないしな」
「そうだな、少々厳しいが成果を求めるなら仕方ないな」
「まあ、再誕も二回目を迎えれば何とかなるっしょ」
楽観的な気構えでダンジョンに入り、分岐路に陣を構える。
周囲には同じような、先に進むには地力不足だけど、キャンプしながらの狩りなら何とか、といった感じのパーティーも多く、どうにかなるだろう。
「折角だしギフトの情報交換でもするか、俺は二回目も同じ[生への執着]を重ねたけど皆は?」
「俺は一回目は[ゴリラの力]で二回目は[ミノタウロス]を取ったぜ」
[ゴリラの力]は[筋力]が150%乗算される[獣人]の4つ目のギフトで、[ミノタウロス]は因子[ミノタウロス]の10個目のギフトで、効果は他の因子やパラメータの10個目のギフト同様、因子なら覚醒済みの因子を取得したことになり、転生時の因子選択で同じ因子を取得した場合、そのスキルを強化する効果がある。
「私は[生命の泉]と[獣人]よ」
ユキは兎に角生存率を高める選択をしたようだ。
「俺は[確かな顕現]と[先ずはその身から]だ」
それぞれパラメータ[召喚]のと第一と第二のギフトだそうで、効果は従魔のLPが100%乗算になるものと従魔がHPとバリア3種を得るものだそうだ。
しかし一つ目のギフトが従魔のLP二倍か。道理でゴブリンが堅い筈だ。
コストが全然足らないと言ってたし、それを補う為に従魔の堅さ重視でギフトを選択した様だ。
「へ~、マサは火力と更なる範囲増大を目指してるのか」
「ああ、最初はこのまま火力を突き詰めようと思ったんだが、やっぱ持ち味のリーチも大事だと再確認してな。二回目で初心に帰ったのさ」
確かに。幾ら火力を上げたところで、一撃で斃せない敵はごまんといるからな。そういった相手には、一方的に殴れる距離の延長の方が強いかもな。
「ユキは打たれ強さと継戦能力の向上目当てか」
「ええ、[獣人]のスキルが強化されるからLPとSTAに凄い余裕が出来るし、LP自動回復のお陰でポーションの節約にもなるわ」
確かに、[生命の泉]だけだった以前に比べ、大分強気の位置取りをするようになったと思う。
「サーモンは従魔のローテーションを厳守する為か」
「おう、何しろ時間いっぱい生き残ってくれないと、段取りが崩れるからな」
目の前で蟲の進行を防ぐゴブリンを見せられると、説得力が増すな。
しかし、改めて仲間のビルドをしっかり確認するのも大事だな。
お陰で3人に何が出来るのか、しっかりとイメージできるようになった。
「これからは、全部晒す…かは兎も角、ある程度はビルドの詳細を共有した方が良いな」
どこかが崩れたのか、一層激しくなる襲撃を捌きながら、そんな結論に至った。
「オラァ!!」
大型の敵にはやはり大型の武器が良いのか、マサが以前使っていた大斧で蟲を押し返す。
「やっぱ手斧より大斧の方が、ノックバックも怯みも強いのか?」
「全然違うな。敵が小物なら手斧二刀流のが取り回しが利いて良いんだが…大物相手ににゃやっぱデカい一撃だな」
ギフトのお陰も有るのだろうが、以前とは比較にならない程リーチとノックバックが強化されたマサ。
非常に素早い蟲も、余裕を持って迎撃出来るので、安定感が抜群だ。
「[旋風][ダークニンバス]<クラスティオーブ>!!」
ユキも<岩の体>を展開しつつ、前に出て魔法を3連発する。
「やっぱ設置系の魔法は少しでも前に置いておきたいわね」
「確かに少しでもダメージソースになるなら越した事はないもんな」
「それに、前に出れれば射程も補えるし、当てやすくなるしね」
これも、キャスターだけど十分な[生命]を確保したからこその立ち回りだよな。
「[獣人]の重ね取りとスキルの強化で、毒も耐えれるしな」
いつだかの<岩の体>お披露目時の醜態を引き合いに揶揄うと。
「はいはい、そんな事言ってるとテツ君の危機には魔法を出し惜しみするわよ?」
とまあ、じゃれ合いも程々に、サーモンの戦いぶりを眺める。
「オーク召喚!!突っ込め!!」
「フゴ――!!」
「ゴブリンは前衛を務め状況に合わせて戦え」
「戦い方が更に変化しているな」
出会った当初は、後方から従魔を嗾けるスタイル。つい最近までは従魔と一緒に前線に立って戦うスタイルだった。
だが現在のサーモンのスタイルは、どちらかと言うと前者にウェイトが傾いている。
「オークやコボルドを特攻要因に充て、ゴブリン2体を前衛に、自分はゴブリンの背後を守るのか」
「これでもまだまだ発展途上だけどな。いずれはコストを増やすギフトも取り入れて、頭数も質も高めたいんだ」
現状でも、非常に堅く汎用性に富んだ活躍を見せるサーモンの従魔達だが、今後はもっと軍隊の様な感じになってくんだろうな。
「ってか俺はあの毒蛇の凶悪さが一番気になるんだが」
「そうね…何であの嵐のような猛攻の中、突っ込んで行って蟲を毒殺できるの…?」
「おかしい…あんなちっこい蛇が俺のオークと同等に堅いんだが…」
と俺の毒蛇ちゃんが一番印象に残る様だ。
「まあ、重複数11だからな、それのスキルLv120だから、強化率も半端ないぜ?尤も、堅さだけならシルクの<代行の剣><代行の盾>の方が上だろうけどね」
「そりゃあっちは、シルクの主力で、しっかり覚醒させてるからなぁ」
「寧ろテツ君の、必要に駆られてちょっと強化してみた風の毒蛇が、あんなに強いのがおかしいのよ」
「それも使い魔に特化したパラメータ構成の成せる業って事か」
4人で分岐路に居座り半刻程。
「流石Lvが少々低くても、ギフトが二つってのは強いな」
「思ってた以上に普通に戦えてるもんな」
流石覚醒9回分のLvと費用を無に帰す見返りたるギフトだ。
ギフトの有無以外同条件で戦えば、100回中100回ギフト持ちが勝つと言われるだけは有る。
そんなスペシャルな能力を二つも持ってれば、多少のLvの低さなど問題にならん。
…俺のような特殊なギフトを選ばなければ…だが。
「お、どうやら下に繋がる全ての部屋を抑えたみたいだぞ」
従魔を先行させ、下層の状況を探っていたサーモンが、今なら下からの蟲が来ない事を報告する。
「へ~途中で何ヶ所かに集中してる階層が有るのか」
何しろ蟻の巣型だからな、分岐が無数にある以上、ただ適当に通路を抑えたところで、他所から来た蟲にしゃぶられるのがオチだ。
「ああ、かなり下層だけど、下からの通路が三部屋に集中してる階層が有るな」
という事で、折角だしその階層まで降りてみる事にした。
「しかし螻蛄がウザいな」
蟲が上層へ這い上がるのを、阻止してるだろう部屋に向かう際中に、何度も螻蛄の襲撃を受ける俺達と、その他大勢のPCNPC。
「これだけ地形を無視した襲撃が頻発しちゃ、下層の連中は無事なんだか?」
「今の所、螻蛄以外に襲われないし、急げば大丈夫でしょ」
それに、俺達より先行して援軍に向かった連中も多そうだしな。
それから糸塗れ、粘液塗れの糞地形をイライラしながら下る事十数分。漸くダンジョン最前線へとたどり着く事が出来た。
「うっわぁ…なんじゃアレ…蟲が脱皮して自己回復してるのか?」
部屋の出入り口から、そっと前線を覗くと、大勢の戦士と蟲が死力を尽くして戦っており、その中でも驚くべき光景として、弱った蟲が後退してから脱皮を繰り出して、前線に復帰するという光景を目の当たりにする。
「ただでさえ強い速い、リーチも糞長いわ[速度]デバフまで引っ提げてる蟲が、回復手段まで持ち始めたのかよ…」
「とんでもない話だけど、それを抑え込んでる前線の人たちも凄いわ」
前線を支える戦士たちに敬意を表しつつ、俺達も後方で戦い始める。
取り敢えず<鍬の一振り>を使い、菌類の栽培に勤しむ。
仲間も付かず離れずの距離で、各々好き勝手に戦いだした。
「ああもう‼また逃げられた!」
「ちょこまかちょこまかと…脱皮の為に逃げるようになって余計に面倒になったな」
これまでの、死兵となってなりふり構わず突っ込んできたのと違い、ある程度追い込まれると後ろに下がろうとするので、止めが差せずにイライラが募る。
「まだ、前に出る蟲と下がる蟲とで、おしくらまんじゅうするなら兎も角、天井すら歩けて飛行型も居る蟲には無縁だからなぁ…」
それどころか、まるで流れるプールの如く前進路と後退路を管理する蟲共。
「ただでさえ下層で敵の増援が多いのに、ダメージローテまでされちゃ堪らないわよ」
そんな、敵の数は中々減らない中で、着実に増え続ける蟲の大群。
同時に、こちら側の増援も刻々と下層に到着し、戦闘に参加しているので戦況は膠着状態に突入した。
「こうなると、Lvの低い俺達に出番は無さそうだな」
前線を精鋭が固めてるこの状況では、中途半端なステータスでは邪魔なだけだ。
「まあ、下層の空気も判ったし、帰ろうか」
4人で相談した結果、帰還する事に決め巣穴を登り始める。
何度か螻蛄の襲撃を受けた後、出口が目の前というところで、下の方から怒号と悲鳴が聞こえてくる。
「前線が決壊した!!」「助けてくれーー!!」「メディーーック!!」
これは良いタイミングで帰路に就いたものだ。喧騒をBGMにしつつ、そのままダンジョンを後にした。
PAに戻ると、都合よく全メンバーが揃えったので、さっき考えてたギフトの情報交換を行事にした。
「丁度良かった。さっき4人でギフトの情報交換をしたから、皆とも共有したいんだけど良いかな?」
これに対し全員が了承し、かつ全員二度目の再誕も済ませていたのでそのまま進める。
どの程度を公表すれば良いかを、さっきまで組んでた4人で見本をみせて順々に発表していった。
「それじゃ私からね。私が選んだギフトは[狩りの友]と[ゴリラの力]よ」
「フムフム、[ゴリラの力]は解るけど[狩りの友]とは?」
「[狩りの友]は因子[ケンタウロス]の4つ目のギフトで、弓と矢のコストを50%カットする効果よ」
「武器と弾薬のコストを50%カット!?それはまた破格の性能だな」
「伊達にギフト枠じゃないって事ね、コンセプトは弾持ちと継戦能力の強化ね。コスト軽減で長時間戦えるようにして、火力アップで消耗を抑えるわ」
確かに。弾数が増えて必要数が減れば、かなり長い時間戦い続けれるからな。
「ん?でもライセンスで弓のコストって減らせないのか?」
「『弓類取扱管理者』の事ね。確かに上級で弓のコストは0に出来るし、特級以降の特典も良かったんだけど…やっぱ矢のコストもカットできる[狩りの友]の方が便利で、こっちを優先した代わりにライセンスは別のものに変えたわ」
「そうなんだ、ちなみに[狩りの友]って重複出来るのか?」
「現時点では選択肢になかったわ、ただ色々情報を漁ってみると、同じギフトでもLv1が選択肢に出る人と出ない人が居るみたいだから、条件次第で今後重複できるかもしれないわ」
おっと…ギフトの重複にも何かしらの条件が存在するのか…。
これは皆と情報交換の場を設けて正解だったな。
「それじゃ次は僕ですね」
アコに続き、今度はベルが選択したギフトを紹介してくれる。
「僕が選んだのは[届いた祈り]と[神のお膝元]です」
[届いた祈り]は、因子[神官]の一つ目のギフトで、ヒール系の魔法の効果を15%加算させる効果らしい。
そして[神のお膝元]は、ヒール系の魔法が、解呪等に因って無効化されるのを、ある程度防ぐ効果が有る様だ。
「ヒーラーって、必要な時に確実に回復出来てこそだと思うんですよ。なので、[神のお膝元]が有れば、融通も効くし、<フューチャーヒール>系ももっと使いやすくなると思ってこれにしました」
確かに、いざって時に、解呪やジャミング等で回復魔法に制限が掛けられてたら、ヒーラーの仕事が出来ないもんな。
「[届いた祈り]は単純に強力ですが、選んだ理由は今後を見据えての事です」
「と言うと?」
「ギフトに依っては回復量が下がるデメリットが有ったりしますので、それらを取得する事も視野に入れて、今の内に取得しておきました」
まあ、ギフトを一個取るのに100回の転生が必要だから、ある程度計画性が無いと、その時その時で他に目移りして、何時までも目当てのシナジーを実現できないとか有りそうだもんな。
「ちなみになんだが[神のお膝元]はどの程度の妨害まで防げるんだ?」
「つい最近、ユキさんと検証した時には、[魔力]5万の<ディスペル>に<フューチャーヒール>が耐えて、<マジックジャマ―>有効下で<ライトヒール>が使えました」
「うん…うん?それって凄いのか?」
正直イマイチピンと来ないぞ。
「充分よ、少なくともPVPではね」
此処でユキが補足してくれる。
「現状[魔力]を5万以上…10万だ15万と確保しようとすると、ギフトでブーストするか、余程パラメータや因子、スキルやライセンスを偏らせる必要が有るから、そこまでしたプレイヤーは何処かに必ずしわ寄せがいってる筈だから、そこは相性と割り切れる問題だわ」
「フムフム、逆にユキみたいに前に出たりと、融通が利く様にしたビルドのキャスターの妨害を、ギフト一つで貫けるって訳か、確かに強力だな」
後はPVE…MOBやBOSS相手にどこまで効くかは未知数てところか。
「その辺も含めて、今後のゲームシーンの展開次第で対応しますよ」
とベルが締めくくり、次の人の発表に移る。
「じゃあ、次は私です。私は[多重縫い]と[獣王の威光]を選んだです」
ベルの次は、シルクの番だ。
[獣王の威光]は、以前俺のギフト選択にも出てきた[獣人]の二つ目のギフトで、効果は範囲内の敵から受けるダメージを20%カットするものだ。シルクはこのギフトの為にパラメータを[体力][装甲][防護][障壁]と防御力の恩恵を受けない防御系で固め、ギフトの恩恵を最大限生かす様だ。
まあ、以前からパラメータを防御系で固めてたシルクなので、ビルド自体はほぼ変化無いそうだ。
そんで[多重縫い]は、糸布系クラフト時の素材の消費量が増える代わりに、クラフト品の質を大幅に高める効果だという。
「ある程度の自衛と、クラフト能力を目指したのね」
「はいです。[多重縫い]はデメリットが大きい分、効果も強力で補正の弱めな[手芸]で作る投網もかなり強力になるです、現地調達の繊維は余りがちなので惜しくもないです」
成程、因子の効果で手に入る繊維なら、元手はタダだし大盤振る舞いしようが懐は痛まない。それどころか投網が強力になる分、戦闘でも優位に立てる分収入アップも見込めるわけか。
「お次は私ですね」
シルクの後はパミルの番だ。
「私は[強靭な肺]と[剣にも劣らない]を選びました」
[強靭な肺]は因子[鉱夫]の一つ目のギフトで、鉱物系からの状態異常を無効化するらしい。
[剣にも劣らない]は、つるはし系の武器にパラメータの[穿孔]で、攻撃力に補正が掛かるようになる効果だという。
「なんと言うか…[強靭な肺]はまあ解る、鉛とか石綿とかウランとか…危険な鉱物って多いからな。でも[剣にも劣らない]は…ただでさえ物理防御を無視する[穿孔]で、攻撃力補正まで乗るとかぶっ壊れだろ」
防御力無視に、攻撃力上昇とか実質二倍の補正じゃん。
「ええ、実際[剣にも劣らない]を取る前と後では破壊力がダンチでした」
「うーん?確かに強いけど、単純に[筋力]を2.5倍にする[ゴリラの力]の方が強くないか?まあ、ビルドの関係上覚醒数を稼げなくて解放できない事とかも有るだろうけど」
イマイチピンと来ていないマサが、疑問を呈す。
「確かにパッと見、[筋力]だけで完結する[ゴリラの力]の方が、パラメータ選択の観点からスマートで強力に見えるかもしれないな」
見る角度次第では、その様に感じるのも自然なので、マサの意見にも同意する。
「だろ?」
だがこのギフトの真価は多様性にこそある。そこを踏まえて説明する。
「相手がHPやバリア三種持ちだった場合も不利になるな。だがもし、相手がデバフ持ちで攻撃力を下げてきたら?[筋力]を0にしてくるデバフ持ちだったら?」
「!!…成程、火力デバフなら防御貫通が、[筋力]デバフなら[穿孔]の貫通と補正が生きて来るのか。確かに[筋力]一本より遥かに柔軟性に優れてるな」
そうなのだ、[筋力]お化けは確かにスマートで効率的だが、ピンポイントメタにあっさりと無力化されてしまうのだ。
ちなみに、これらの考え方は常日頃PVPを研究されてる方々の努力の賜物である。
彼ら有志の研究により、対人戦の熟成ばかりか、今後来るであろうMOBやBOSS敵の行動パターンや能力の考察にも一役買っている。
実際[速度]メタも、大分前からPVP勢は予見していて、彼らの中では[速度]鉄板説は早々に崩れ去っていた様だ。…話を戻そう。
「まあ一長一短ですよ。テツさんが言った通り、[穿孔]の意味がないバリア系パラメータに弱いですし、攻撃力だけならもっと強いギフトも有ります。ただこのギフトのお陰で、[穿孔]だけ採用しても火力が得れるようになる上に、スキルは[筋力]より[穿孔]の方のが欲しい人なら、[筋力]を切ってその分他のパラメータを選べば、更に戦術の幅が広がります」
「私の番ね」
パミルに続いてお次はサチの番だ。
「私は[ワイルドハンター]と[ダイアモンド加工]を選んだわ」
[ワイルドハンター]は以前にも触れたが、あらゆる攻撃に[出血]と[疲労]の状態異常を付与するもので、効果は攻撃力に依存するので、まきびしでは一回当たりの蓄積値は非常に低い。しかしそれを補って余りあるダメージ頻度を叩き出せるので、蓄積値の低さなど全く問題にならないだろう。
そして[ダイアモンド加工]は因子[罠師]の三つ目のギフトで、まきびしに斬撃属性無効の耐性を付与するらしい。
「これのお陰で[バグスター]の蟲相手に、まきびしがかなり耐えるようになったわ」
無効なのに破壊されるのか、とサチに聞いてみると。
「そうね、最近知ったんだけど、このゲームって単一属性の攻撃って殆ど無いみたいで、比率は兎も角何かしらの複合属性で構成されてる事が殆どの様だわ」
「へ~、それで斬撃以外の属性にやられるわけか」
しかし、まきびし限定とはいえ、物理の中の一つの属性を完全無効化はかなり凶悪な効果だな。
「それでも、ギフトはどれもこれも超強力な効果を持ってるから、これを選ぶ時も相当悩んだわ」
「解る。目先の強さを取るか、将来のシナジーを取るか究極の択だよな」
サチに続き、今度はベッタラの番だ。
「俺は[ゴリラの力]と[剣の声を聞く]だ」
大人気の[ゴリラの力]。まあ条件が比較的緩い上に効果が強力だからな。
もう一つの[剣の声を聞く]は、刀剣類の耐久値減少を75%カットするものだという。
「ゴリラは兎も角、もう一個は結構地味な効果だな」
「単体で見るとそうかもな。だが刀剣類は、耐久値が異常に低い代わりに、攻撃力が馬鹿みたいに高い武器が多いからな、それらを四倍長く使えると思うば、十分強力だと思うぞ」
「ほうほう…って事は、今の曲剣二刀流を崩してでも使いたい武器が出てきたのか?」
「そうだ。[大型メス]っていう、短剣に属する武器なんだが、これがまた耐久値がゴミレベルな代わりに、攻撃力が頭おかしいんだよ」
ベッタラによると、現在使ってる曲剣の攻撃力が大体850程で、一撃に特化した大槌の最高峰で12000程だそうだ。
そして、市販のプレーンな[大型メス]の攻撃力は、なんと2300にもなるという。
しかし、10回程攻撃すれば壊れてしまう程の耐久値しかないという。
「うーん…ギフト込みでもたったの40回で全壊はきつくないか?」
「まあな、だが曲剣を短剣に換えるから、隙を消すための[連係]を切っても問題無いし、その分を火力系パラメータにすれば、より少ない攻撃回数で済む分、40回も切れれば十分だと踏んだんだ」
成程、短剣故に既に十分な攻撃速度と、隙の少なさを兼ね備え、火力まで十分な[大型メス]なら、過去に見ないレベルのリビルドが可能になるのか。
「それに、メスの耐久値も、強化したり付加OP次第で、ある程度克服できるからな」
どうやらベッタラの、リビルドへの決意は固い様だ。
ベッタラに続き、今度はマッドの番だ。
「ヒヒ…俺は[厳重管理]と[散歩の神]を選択したぜ」
[散歩の神]は、どんな場所にも徒歩で行けるようになるので、素材の確保に役立つし、何より戦闘で有利な位置取りが出来る様になるのはデカい。
そして[厳重管理]は、薬品使用時の失敗を防ぎ、死んだ場合のロストを防ぐという。
「失敗ってアレだよな、ポーション自体が攻撃を受けて破壊される場合も含めてだよな?」
「ああ…だからビルド次第じゃ、無敵から無敵に簡単に繋げられるな」
「マジか…コストの続く限り最強なのか」
「ヒヒ…ところがどっこそうもいかなくてな…薬品に対するダメージ無効化は、あくまで使用時に発揮するから、所持品に直接攻撃されるとかなり厳しいんだ」
なんかサラッととんでもない情報が出たぞ。
「所持品に攻撃出来るのか!?」
「ああ[盗賊]とか[工作員]とかの因子にそんな効果だかスキルだかが在るらしいんだ」
おいおい…所持品に対して攻撃出来るとか、無策だとやられ放題じゃねーか!!
「他にも、範囲内に強制的にルールを科すスキルや魔法にも、弱点が多いな」
マッド曰く、範囲内の存在全てが被ダメージ二倍とか、食品が腐りやすくなるとか、ポーションなどの消耗品使用にSTAを消費するようになるだとか、大なり小なりデフレインフレを引き起こすものが多数存在するとの事だ。
「更に、例え完全無敵でも、攻撃以外でダメージの発生しない現象の影響は受けるから、補助系スキルや魔法等の絡め手にも弱いんだ」
現に、全員が無敵化に特化したパーティーが、PVPで猛威を振るっていたが、そういった耐性の穴を付いた戦法が確立されると、補助魔法の<突風>で弾き飛ばし、ビルディングで閉じ込めて、食料を腐らせて餓死されるという、エゲツナイ戦法で完封される事態にまで至った様だ。
「…まあ、勿論無敵ビルド側も、更にメタを張ったみたいだが、そういう鼬ごっこになった時点で、数あるビルドの一つに落ち着いた形になったな」
確かに、メタにメタろうとすればする程、器用貧乏化するしで、瓦解は目に見えているか。
「俺の場合は、PVPとか関係なく、ロストしないってのが魅力で取ったからどうでも良いがな」
最近のPVP事情の一端に触れつつ、次は盾剣トリオのラークの番だ。
「その前に質問、3人別々って事は、それぞれ別々のビルドなのか?」
「そうですよ?確かに俺達は同じスタイルでやってますが、ビルドは結構違ったりします」
との事なので、大人しくラークのギフト講座を拝聴する。
「では…俺のギフトは[百獣の王]と[強靭な肺]です」
「ず、随分と渋いチョイスだな…」
[百獣の王]は、首から肩までを完全無敵化するギフトで、まあ防具に幅を持たせられるという意味では確かに強力だ。
なんせ、このゲームは全ての要素がコストで管理されているから、当然防具も数値上の性能は勿論。体を覆う面積にも応じてコストが跳ね上がる仕様だ。
では防具の面積がどれ程重要かと言うと、それはビルド次第としか言えない。
防具で覆われている箇所もそうでない箇所も、防御力そのものは変わらないが、部位ダメージに対する耐性は大きく変わる。
例えば同じ防御力100のプレートメイル一式と、ヘルム無しの重装で、頭への部位ダメージを比較すると、ヘルム無しの方は気絶や昏睡、眩暈や盲目等の致命的な状態異常が簡単かつ数多く発生してしまうのだ。
少々長くなったが纏めると、[百獣の王]が有れば、部位ダメージのケアの為に、コストの重い全身アーマーを着ける必要が無くなるし、首から肩までの防御を放棄出来るので、コスト面から立ち回りまで幅広く恩恵を得られるのだ。
というのをラークから力説され、俺も他の皆も[百獣の王]の強さを理解した。
「はえ~、確かにそう考えると頭部と胴体の防具を、相当吟味できるようになるな」
「そうなんですよ。俺達は盾もあるんで、胴もブレストガード等の中装に抑えて、頭部と脚部を重層化すれば、部位破壊の脅威をかなり防ぐ事が出来ます」
「成程、じゃあ[強靭な肺]はどうしてなんだ?パミルは採掘をやるからそういう耐性が必要なのは解るが」
正直、近接メインのラークが態々対策を取る必要があるほどのものなのか、甚だ疑問だが。
「大いに在りますよ。まあ、これはじゃんけんの世界になってくるんですが、相手が水銀や石綿を加工したアイテムを使ってくると、対策してない時点で負けです」
俺らの中で、一番PVPに熱を上げてるラーク達が言うんだから、そうなんだろうな。
「そんなにか…ちなみに状態異常の効果は?」
「先ず石綿で呼吸困難や気管支炎になると、STAが回復しなくなったりSTAが0になります」
エッグ!!
「水銀中毒は[筋力][魔力]50%低下を筆頭に、かなり弱体化します」
うーん…パラメータ構成自体では、被害を免れそうだがそれでもヤバいな。
「なんか知らぬ間に、状態異常の対策がPVPのカギになってたんだな」
全体のLvが上がり、ギフトの登場も相まって、強力な毒とそれの対抗策が生まれた事で、戦術も多様化してきたのだろう。
「次は俺ですね」
ラークのPVPを意識した、為になる話を聞いた後は、同じくPVPを意識したビルドを組んでるワイドの番だ。
「俺は[神獣の加護]と[真祖]にしました」
[神獣の加護]はSTAゲージを二本追加し、[真祖]は[生命]を二倍にするギフトだ。
双方とも覚醒一回で解放できるので、お手軽と言えばお手軽だ。
「随分と堅実な選択をしたんだな」
「ええ、この二つはビルドの構成上、寄り道しないで解放出来たので、流れで選択しました」
うんうん、ある程度情報が手に入ってくると、「あのギフトが欲しいからあの因子、パラメータを…」ってなるが、中には現状のビルドを崩してまで…って人も多いだろう。
そんな中、近接ビルドならごく自然に取得するであろう[獣人]、解放されてればこれまた自然に取得するであろう[吸血鬼]。
この二つの因子の一つ目のギフトで在りながら、強力なギフトである[神獣の加護]と[真祖]。
確かにこの二つなら、ビルドを崩すことなく確実な強化を望めるだろうな。
「STAゲージを二本追加って、実際の使い勝手はどんな感じだ?」
「滅茶苦茶便利ですよ。仕様としては元からあるゲージ…一本目が最優先で消費されます」
「ふむふむ」
「一度に一本目のSTAを使い切ると、不足分が二本目から引かれます。当然二本目でも不足していたら三本目から引かれます」
成程、後はギフトの説明文通り、個別に回復判定を持ってるから、滅多な事ではSTA枯渇には至らない様だ。
「ん?ってなるとゲージ三本分以上の…一度に400%とか使うと?」
「そうなると、一周して一本目のゲージが100%超過になりますね」
「そういう事ね、超過分の負担も100%区切りの分担って理解で良いのね?」
「そうです。だから[獣人]のギフトいうのもあって、<生存本能>と相性抜群ですね」
ただでさ、STA消費を分担出来るのに、回復も個別に行うので<生存本能>の恩恵も実質三倍。
これなら滅多な事ではSTA不足には陥らないだろう。
「お陰で大半の攻撃には盾で耐えれらるようになりました」
「しかも盾を貫通したダメージも、二倍になったLPで補えると」
纏めると、ワイドの選択は汎用性とビルドの効率を優先したものだという事が判った。
「それじゃ次は俺ですね」
ワイドに続き、トリオのトリを務めるのはショーだ。
「俺は[生命の泉]と[原初の農耕牛]を選びました」
「…?なんて?」
「え?[生命の泉]と[原初の農耕牛]を選びました」
聞き間違えじゃなかったか…。
「最初の[生命の泉]は解る。盾と剣で堅実に戦うなら、自動回復はこの上ない武器になるからな」
「危なくなったら盾構えて下がるだけで、生存率もかなり上がります」
「それは解るんだ…何で[原初の農耕牛]を?」
[原初の農耕牛]は、因子[農家]の一つ目のギフトで、使い魔のオーロックスを使役し、開墾範囲が四倍になるという、完全にファーマー向けのギフトの筈だったが…。
「別にファーマーに転身したわけじゃないですよ、単純にオーロックスがぶっ壊れ使い魔だからです」
「ん?ギフトの効果自体じゃなくて、使い魔がって事?」
「はい、基本は非戦闘系の使い魔と同じで、特性は[酪農家]牛と一緒なんですが、その堅さがマジでおかしいんですよ」
聞くところによると、どうもオーロックスは、パラメータの反映率が異常な程高く設定されている様で、そこそこ[生命]を上げているファーマーのオーロックスが、アッシーのブレスでも全く溶けないという異常事態を起こし、話題になってる様だ。
「それで、そこに目を付けた農業に全く触れてない近接メインのプレイヤーが、思い切って[農家]を取得して、貴重なギフト枠を消費してまで選んだそうで…その結果PVPで大暴れしました」
ではどういった活躍かと言うと、味方の使い魔は数舜程接触判定が発生するが、構わずぶつかっているとそのまま透過出来るので、一方的に通過できる壁として利用できる。
これを使い、自分だけが安全地帯を確保しつつ戦える状況を作り出したという。
「オーロックスは象とまではいかないまでも、比肩する程大きくて、犂を装備してる分更に広い範囲をカバーするので、回り込む側より透過する側の方が、当然早いので[速度]等で余程移動速度に差がない限りは、追い付くのは至難の業です」
「成程、でもそれって範囲攻撃と貫通攻撃には意味ないよな?」
幾ら使い魔が堅くても、それを超えてプレイヤーが攻撃されちゃあ猛威を振るう程とは思えないが…。
「そうですね、でも脅威になる程の範囲攻撃や貫通攻撃を使えるという事は、何かしらを犠牲にその火力を出してる筈なんですよ」
「まあ…範囲貫通は求めると火力も落ち気味だしな」
これはマサが身をもって示してる事実なので、ひどく納得がいく。
「それで、これはオーロックスの特性も関係してまして、牛と同じで逃げないんですよ、オーロックスは」
「うん」
「なので、仮に驚異的な火力であっても、オーロックスを壁にして距離を取れば、それだけ避けるのも簡単になります」
頭で、迂回を諦めて、オーロックス越しに攻撃を試みる様を想像する。
「確かに距離が開けば、それだけ命中率は下がるわな」
「仮にその状況で、躱せない耐えられないような飽和攻撃を相手が出来るなら、それはもう相性からして詰んでるので別として、先ずクールタイム等が発生するのでその隙に立て直して攻めるも良し…」
更に続けて。
「又は、反撃出来ないフリをして、相手をこちら側に誘き寄せて、オーロックスと挟み撃ちも出来ます」
確かに相手が逃げようとしても、再びオーロックスを迂回するか飛び越える必要があるからな。
「相性差はかなり出そうだけど、ギフト枠を使ってでも取る価値は有りそうだな」
自分にだけ有利な鬼堅い壁だもんな、それ前提にビルドを組んで立ち回れば確かに強そうだ。
「それでは私の番ですね」
続いておりょうさんの番だ。
「私は[防虫処理]と[二重染め]を選びました」
[防虫処理]は、因子[紺屋]の一つ目のギフトで、染めた糸や布が丈夫になるという。
[二重染め]は、アパレルを直接染められる様になり、染色の恩恵を多重に受けれるようになる。
「おりょうさんは完全に染め物特化なんですね」
「そうですね。戦闘系のギフトも魅力的なんですが、自前で強力なアパレルを用意できれば、それはそれで戦闘面でも強くなれるので、金策も兼ねてこういった選択肢に成りました」
購入なり、製作依頼をすると兎に角金が掛かるからな。
その点自作できるのなら、素材費と労力で強力な装備が賄えるので、戦闘面の強化に繋がるので、良い選択だろう。
「[二重染め]は何度も染めれるんですか?」
「はい、なので素材の段階から何度も染めて、仕上げにアパレルも何回も染め上げれば、アパレルとは思えない程の防御性能を得る事が出来ます。(コストから目を逸らしながら)」
サンプルとして、おりょうさんに最高傑作のアパレルを見せて貰う。
[上質な牡丹柄の金糸刺繍着物]:重ね染めされた良質な布を用い金糸で牡丹柄の刺繍が施された着物。 [魔法ダメージ耐性:極小][耐久度上昇:神][耐久度減少軽減:虫][保温][保冷][LP上昇:虫][聖水効果:大][アンデッド特効:大][アンデッド耐性:中] 物理防御力320 魔法防御力670 属性防御力970 コスト583。
といった感じになっている。
成程、OPの数が半端ない上に素の性能も凄い事になってるな。おまけにコストもだが。
「物理は兎も角魔法と属性防御が凄いな。ユキの今の杖ってどんなもんだ?」
「え?今のだと魔法が1020で属性が880ね」
「って事は杖だけアパレルだけなら、魔法は六割属性は無効化って感じか」
まあ、魔法攻撃力で四割貫いてる時点で、大半のプレイヤーにとっては致命的な火力に違いないが。
「言っても今の杖は再誕の関係でかなり性能は落ちるわよ?尤もアパレルの着物だけでこれ程の堅さを出されるとキャスターとしてはかなり応えるわね…」
「そうだな。それにしてもOPの数も質も半端ないですね」
「シルクちゃん、パミル君、マッド君との試行錯誤の結晶ですよ」
「最近よく合同で作業してましたもんね」
ちなみにこの着物、原価だけで2000万近くするそうだ。
「最後は俺の番ですね、俺は[クラシカルゾンビ]と[ミイラ]を選択しました」
[クラシカルゾンビ]因子[亡者]の三つ目のギフトで、頭部以外への攻撃のダメージを30%軽減するものだ。
ゾンビ映画などで、ゾンビの弱点が頭部な事が多いのに起因した効果だろうか。
[ミイラ]は同じく[亡者]の八つ目のギフトで、移動速度を99%低下させる代わりに、LPを100万加算するという凄まじい効果を持っている。
「移動速度99%…重すぎるデメリットだけど…ダメージカット30%にLP100万か」
そりゃ常軌を逸した堅さも納得だ。
「確かに重いペナルティですけどね、実のところ[亡者]のスキルを伸ばせば自然と移動速度は絶望的にまで下がるんで、鈍足覚悟でなら実質デメリットは0ですよ」
確かに出会った当初からカメキチさんは匍匐移動で遅かったし、今でも遅いままだな。
「一応スキルのデメリットを消すギフトも有るんですが、折角なんでこのまま突き抜ける事にしたんですよ」
解る。拘りのビルドはそのまま続けたいもんだよな。
さて、全員のギフトも把握し、有意義な情報交換も出来たし、今度は実戦だ。
メンバー全員でパーティーを組み、東の大陸の森ダンジョンへ向かった。
今の戦力ならば、例えLvが足りてなかろうと[バグスター]のダンジョンでも良かったのだが、全員の今の実力を測るのなら、此方の方が都合が良さそうなので足を運んだのだ。
とはいえ、此処も奥に進めば進む程魔境と化す難所だ。
驕らずに慎重に浅い場所だけで動くとしよう。
「それじゃ俺からお披露目といくか」
皆に実戦での具合を披露し合おうと言った手前、俺が先陣を飾るのが筋であろう。
「その前にちょっと仕込みを…」
おもむろに懐から毒薬(酸)を取り出し呷る。
そしてLPが27万程になったとこで[生への執着]が発動した。
「それじゃいこうか」
ダンジョンに入り少し進むと、早速十字植物が飛来。豚の判定に張り付いてもぞもぞと蠢く。
そんな感じで周辺を彷徨いつつ使い魔に戦い続けること十数分。
「テツさんの[生命]は幾つです?」
「凄いですね…俺のオーロックスにも負けない堅さですね…」
俺と同様長い事使い魔を運用してきたシルク。つい最近、現状での最硬を誇るオーロックスを使役するワイドが喰いついた。
「諸々発動中の今は…約5900万だな」
『!?』
これには流石に全員が驚いた顔をする。
「えっと…元の[生命]は…」
「90万程だな」
「それは…豚がオーロックスに比肩するわけですね…」
ひどく納得した様子のワイド。
今も色彩豊かな花の魔物を、蜂の群れが袋叩きにしているが、蜂の被害は僅か数匹に留まっている。
「今後どうするかは判らんが、[蛇使い]同様使い魔系因子を覚醒させて、更なる火力アップを図るのも良いと思ってる」
最後に今後の展望を述べて、二番手のマサにバトンを渡した。
「それじゃ俺の番だな。といっても方向性は原点回帰だからな、真新しさは無いけどな」
そう言いながらも既に装備からして変わっているマサ。
これまで大斧から手斧二刀流、そして使い分けと経てきたわけだが、今日の斧はこれまた違ったもので、柄の長いバルディッシュ…三日月斧に変わっていた。
「威力は大斧に劣るし、取り回しは大斧並みで手数も手斧に遠く及ばないが…」
そこまで言い、おもむろに前方に向かい三日月斧を横一閃。
前方から「ザシュッ!!」「ドガッ!!」といったヒット音が響き渡る。
「リーチと範囲は折り紙付きだぜ?」
コチラを振り返り、これっでもかとドヤ顔を晒すマサ。
確かにこの攻撃にはそれほどの価値が有るのは、否定しようのない事実だ。
なんせ俺のヘルメットですら索敵出来ない植物を、その攻撃範囲を以て強引に間合いの外から蹴散らしてしまったのだからな。
しかし…一体どれ程のリーチが有るんだこれ?どう控えめに見ても軽く100mは先に届いてるぞ。
そして、そんな理不尽な攻撃にも耐えて間合いを詰めて来る敵もザラなDIYの現状がヤバいな。
「これだけの通常攻撃を実現するには代償も大きいだろうな」
「まあな、これで先手必勝出来れば良いが…タイマンだとラーク達の様な王道近接にはまず勝てないからな」
このリーチと[ゴリラの力]込みの火力でも、特化した盾持ちをどうこうするには至らないのか…。
「どうしても盾で防がれるとノックバックも大して効かないからな、じわりじわりと詰められて嬲り殺しがオチだな」
PVP環境どんな魔境だよ。
続いてユキの番だ。
「私の場合は安定を取ったから派手さは無いけどね」
マサ同様前置きをしつつ、<岩の体>を発動し前に出るユキ。
「来たわね、[ダークニンバス][旋風]!!」
飛びついて来た植物や蔦の殴打を<岩の体>で防ぎつつ、持続の長い魔法を展開。
酸や毒などの防御を貫いてくる攻撃も、高い[生命]と自動回復で対応。
次から次へと寄って集って来る植物を一手に受け持つ。
「仕上げね、<アイススピア>!!<クラスティオーブ>!!」
<岩の体>が砕け散るのと同時に主力の魔法を使い、群がる植物を一気に殲滅してみせた。
「とまあこんな感じね、ギフトを生存率と継戦能力に充てたからこうして前衛も可能になったけど…残念ながらキャスターとしての火力は三軍落ちしちゃったわ」
「いや、これから幾らでも挽回出来るだろ」
「多分無理ね、純粋に[魔導士]とか[賢者]とかを覚醒させてきた人たちにはもう追い付けないわ」
手元では、たった1°の角度差では違いは見分けが付かないが、離れる程差が出るのと同じ現象か。それだけ火力職の世界は厳しいのか。
「でもその代わりの利便性なんだろ?」
「勿論。見てて分かったと思うけど、[兵士]を切ったうえでだからね、それだけ今の私の[生命]は高いわよ」
確かに<岩の体>を貫いて入る毒や酸のダメージをものともしない様は、頼もしく感じるな。
「私は火力が上がっただけだから、直ぐに済むわ」
サッと前に出て、遠くのキノコの化け物を射抜くアコ。
「おお…この距離でこの火力を出すのか」
「まあ火力ギフトを取ったんだもの、この位はね」
そりゃギフト枠を火力に割けばそうだが、それを込みでも今のLvでこの火力は凄いぞ。
「ところで気になってたんだが、飛び道具の数を増やすスキルってあったよな?」
以前マッドが投げたポーションが複数に増えた事に触れる。
「[器用]のスキルね、確かに全部Lv100にすれば矢の発射数も五発になるんだけどね…散弾になって精密射撃に向かないのよ」
「ああ…薬品の投擲みたいな、至近距離かつ大雑把な攻撃には向いてるが、狙撃には到底向かないな」
マッドからも補足が入り、納得。
「逆に言えば至近距離でぱなす分には火力も五倍で強いという事か」
「そうなるわね、元々精度の悪いピストル系でそういうビルドにしてる人も居るらしいわ」
「それは楽しそうだな」
何時だか『ジャックオーランタン』の購買でみた[聖水散布機]で、通常の五倍の量の聖水をばら撒くさまを想像し、やってみたい衝動に駆られてしまった。
「火力の話に戻るが、弓は[筋力]が乗る分、弾系では最強の火力って言うが実際はどうなんだ?」
「勿論単発に限れば最強ね、でも強さの定義によってはダイアグラムも変化するから、そこは個人の好み次第ね」
弓と一口に言ってもショートボウやロングボウ、銃も片手で扱える拳銃や両手で扱う小銃など、飛び道具と言っても様々な種類が存在するからな。
其処に投げナイフやグレネード、地雷や投網まで含めれば、ひとえに火力と言っても易々と答えなど出ないか。
ベルの番になったが、彼の場合敵のディスペルやマジックジャマ―が無いと真価を発揮できないので、軽く回復のお披露目に止めた。
それでも[届いた祈り]のお陰で、これまでより回復量が15%加算された<ヒール>は凄まじく、アビリティと併せて<ライトヒール>ですら40%ものLPを回復してみせた。
「かなりの回復量だな、ベルは<ヒール>系の魔法って幾つ使えるんだっけ?」
「今の所四つですね」
「クールタイムは変わらず五分?」
「ええ、なので結局はポーションなどの回復も必須なのは、このゲームの不文律のようですね」
個別にクールタイム管理をしているので、四つもあれば上手い事ローテーション出来そうだけど、やっぱ戦闘中はそうも言ってられない状況ってあるからな。
魔法だけ、スキルやアーツのみだと、どうしても回復に隙間が発生してしまうのは、致し方のない事なのだ。
まあ、非戦闘中なら時間を掛ければ良いので、やはりパーティーに1人はヒーラーが欲しいのは変わらないか。
「さあ、私の出番ですね!!」
自分の番になり、気合タップリで前に出るパミル。
先ずは[強靭な肺]の性能をと、胞子を撒き散らす花に近づくパミル。
「見ての通り、鉱物系ばかりでなく、粉状の物質を吸い込んでも咳込みません」
と言いつつどんどん顔色の悪くなるパミルが続けて。
「とは言え、状態異常はしっかり喰らうので過信は禁物ですね」
ポーションを飲んで解毒し、一息つくパミルにトレントが突っ込む。
「丁度いい獲物ですね、フン!!」
ゴウッ!!と、ロケットを吹かしたマトックを叩き付け、一撃で爆散するトレント。
その後もトレントやキノコの化け物が襲い来るが、その全てを軽々と粉砕してみせたパミル。
「最早細工師の火力じゃねーぞコレ…」
再誕間もなくLvも低い筈なのに、以前より明らかに火力が上がっている。
「これが[剣にも劣らない]の恩恵ですよ」
「確かに凄いな、防御貫通と火力補正は伊達じゃないな」
「まあ[穿孔]のスキルの恩恵でもありますけどね」
「確か…斬撃打撃刺突属性に掛かる[穿孔]の効果を上げるんだっけ?」
「そうです、マトックは打撃と刺突の混合なんで、スキル二つ分効果が乗るから威力が凄いですね」
仮に今のパミルの[穿孔]が5000だとして、スキルの効果がLv1毎に1%で…スキル二つをLv120で取ってると、計22000の物理防御貫通か…。
「成程、余程身の丈に合わない場所じゃなきゃ、確実に攻撃が通るな」
「私の番です」
下がるパミルと交代で、前に出るシルク。
そして直ぐに囲まれフルボッコにされるシルクだが、HPARMSHIBARのお陰で、毒や酸以外のダメージがLPに届かない。
なおも続けられる猛攻も、回復し続けるバリア三種に阻まれ、LPはおろかHPにすら届かない始末。
挙句の果てに[体力]のスキル、ポーションのHP回復を上昇させ、余剰分でLPを回復させる<好反応>の影響か、一番効き目の弱い筈のタブレットポーションでLPが全快し、敵にとっては悪夢のような光景が繰り広げられる。
しかも、シルクもただやられるだけでなく、投網で敵の行動を制限し、<代行の剣>と<代行の盾>による攻撃をサポートし、確実に敵の戦力を削る。
「おお…防御パラメータが多いから使い魔が矢鱈堅いな」
非戦闘系の蚕や家鴨ですら、一撃又は二撃程耐えるので、シルクへの攻撃も分散される。
その間にもシルク本人と主力の使い魔による連携で、敵の一団を殲滅してみせた。
「お疲れさん。俺の使い魔とはまた違ったしぶとさだな」
俺のと違い、しっかり防御力が有るので、正攻法な攻撃に対しては非常に堅牢だ。
「はいです。でもテツさんの使い魔に比べてLPが大分低いので…」
「毒と酸に弱いと」
うん、と首肯するシルク。
「まあそこは一長一短だな、何処かを優先すれば何処かにしわ寄せがいく。仕方ない事だ」
勿論使い魔のLPと防御力を確保する事は可能だが、そうした場合の他の分野は…ってなるしな。
シルクは裁縫職人だから、これ以上はビルドを根本から見直さなければいけないだろう。
「よーし!私の番だわ!」
主に、<まきびし>の攻撃力と耐久性に注力してギフトを選んだサチ。
「ちょっとここでは[ダイアモンド加工]の恩恵は薄そうだから、[ワイルドハンター]の威力を見せてあげるわ」
少しだけ前に出て、<まきびし>をばら撒いて下がり様子見、直ぐに敵が迫って来たので観察する。
直後、<まきびし>の範囲内に入った十字植物が、次々と墜落し地面で藻掻きやがて力尽きた。
遅れてトレントや花やキノコの化け物も、範囲内に入った途端ビクビクと硬直を繰り返しながらも、<まきびし>を狙うが、力及ばず消滅した。
「どうかしら?<まきびし>本来のダメージに電撃と毒と酸、そして出血と疲労の六種混合ダメージは?」
「凄いな、今までとは明らかにダメージの入り方が違うな」
「でしょ!今回はあんまり疲労ダメージは意味ないけど、これがもっと大型の相手になると真価を発揮するわ!!」
確かに、疲労以外の五種(出血の状態異常も固定ダメージ)が固定ダメージだから、疲労で敵のステータスや動きにデバフを掛けても、短時間で殺し切れる相手には意味は無いか。
「逆に長期戦や回復持ちには疲労が大活躍するのか」
「ええ、だからこその<まきびし>自体の耐久性が鍵なんだよね~」
サチ曰く、少なくともギフトで打撃無効も付けれるそうなので、伸びしろはまだまだある様だ。
「まだ[罠師]のギフトを全部解放したわけじゃないからね、更に耐性を付与するギフトが在るかもしれないわ」
「マイノリティな[罠師]は情報も少ないから、ある意味ワクワク出来るな」
「そうね、だからこそ面白いし、今後も頑張って解析していくわ」
次回は十日位かな




