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18話

 思いのほか早く綴じ終わり、机の上にファイルが積まれていった。

「これで終わり。ありがとう。はい、依頼料」

「ありがとう」

 依頼料を受け取り、懐にしまった。

「では解散。棚に戻すのは私がやっておくから」

「見ていていいか?どこにあるのか覚えたい。そしたら次はもっと手伝えるだろ?」

「また手伝ってくれるの?」

「多分」

「多分かあ。でも嬉しい。いいよ、見ていて」

「あ、いきなり全部は覚えられないかもしれないけど…」

「大丈夫、最初は大体で」

 サウィンは机の上に目を向ける。どれから行こうか考えているのだろうか。

「そうだ、左端に積んだファイル持っててくれない?」

「これか?」

「それそれ。私が棚に戻すから、私についてきて持ってきてくれない」

「ああなるほど。分かった」

 ファイルを持ち、サウィンの後について持ち運び、本棚と本棚の間に入った。狭い通路、人が1.5人通れるくらいといったところだ。

「ここにあるのは生産量関連ね。そしてヒエはこのあたり、トウモロコシはこっち、葉物はこの辺り、山羊はちょっと離れて…ここ」

 サウィンはファイルを手に取って場所を示しつつ本棚に差し込んでいく。手に持っている分が全て終わる。向こうの壁には何かあるな、勘に近いものだが。どこかに仕掛けが…。

「…あの、先に出てくれないと出られないんだけど」

「…え?ああ、ごめんごめん」

 考えるのは今度にするか。とりあえず配置を覚えよう。

 本棚の間から出ると、サウィンは本棚の留め具を足で跳ね上げ、本棚を横にずらし、踏んで再び固定した。

「次は…手前、右から二番目の。道路のこと書いてあるやつ」

「これか、分かった」

 再び持ち上げて本棚の方へ持っていき、説明を受けながら戻していった。


 そして全て戻し終わり、改めて解散となった。サウィンは部屋を閉めて鍵をかけた。

「何か飲もっと。ファイルの位置をずっと喋ってて喉乾いた」

「ごめん」

「ちょっと!謝らないで。恨み言じゃなくて、ただ思いついただけ。私の口を塞ぐ気?」

「それは困るな。次は気の利いた返しをしよう」

「フフ…楽しみ」

 廊下を抜け、玄関へ着いた。

「じゃあ俺はこれで」

「今日はありがとう。また気が向いたら、その時はよろしくね」

「ああ」

 玄関を開けると冷たい風が肌を撫でた。キリッとした空気が伝わる。

 村長宅を出て、帰路につく。日は傾きだしていた。


 家について報酬を金庫にしまう。そういえば、農具セットのオマケで釣り竿があったな。港町の生まれだけど釣りは下手なんだ。離島育ちだけど釣りは下手なんだ。高地暮らしなら…下手でもいいか。…いや、三度目の正直。上手とまではいかないまでも下手は嫌だ。

 漁に苦手意識があるんじゃないのか。家業は継げなくなったから、あっても問題ないのだが…。

 とにかく、釣りをしよう。何が釣れるか、何を餌に使うか話を聞こう。


「…それで、俺に聞きに来たのか。なるほど、釣り竿を渡したのは俺だし、釣り具のコーナーも小さいながら店にある」

 ヒュークの店を訪ねて質問する。店には野菜や肉を買いに来た人々が見られる。

「だが俺は釣りをほとんどしないのでよく分からない。そうだ、ワイス!」

「どうした?」

 ワイスは呼ばれてこちらへと近づいて来た。

「釣りが趣味だったよな?」

「なにッ!新情報でもあるのか?」

「いや、何か魚を見つけたとかじゃなくてさ。ライドがここでの釣りを知りたがっているようだから」

「なんだライド、釣りに興味があるのか?」

「少々。それでどこで何が釣れるのかと」

「色々。言い出したらキリがないな。でもこの時期だと…そうだ、そこの川に釣りに行こう、今日はもう遅いから明日の昼過ぎに行けるか?」

「大丈夫だ」

「よっしゃァ!じゃあ階段の所で待ってるぜ」

「分かった」

「あ、雨降ったら中止な」

「分かってる」

 ワイスは買い物に戻った。

 ついでなので卵と野菜を買って家に帰り、調理して食べ、記録をつけてから寝た。


 翌日の午前は、畑の手入れをして、魔導書の手入れをして過ごす。ページの汚れを取り、乾燥させる。

 魔導書を開いていると途中で脳に話しかける声が聞こえてくる。

『主様よ、新しい所に来たのだから一度は出て外を見たいのだが』

『レッドタイガー…、君の召喚コストは高いからな…』

『呼べないことは無いだろう』

『まあ、そうだけど…。魔力を節約すればいいか…』

『そう来なくては。あらかじめ地形慣れすれば後で役立てられるぞ』

『それもそうだな。村の中を見て回るか?』

『それでもいいが、それより山の中や川の中に興味がある』

『川にはこれから釣りに行くから気を付けてな』

『近くに来たら外に出るとしよう』

『じゃあ呼び出す準備をするか…』

『待った、それと』

『?』

『魔導書を通じての念話が出来るが人語は話せない。誰か喋れる奴呼んでくれないか、害獣と間違えられたら困る』

『君は巻物読めないもんな。ブライトハイロゥでも呼ぼうか』

『あいつやシャインカラーは目立ちすぎ。人語が喋れるとはいえ天使と猫だ』

『抱呪組はだめか。じゃあソーンプリンセス』

『いいんじゃないか?』

『茨で相手の足を止める秘術も使えるから、万一の時もいけるな。巻物も使いこなすし』

『俺の方が強いぞ』

『分かってる。搦め手に対しての時だ』

『ソーンプリンセス、レッドタイガーと共に山を探索して来てほしい、頼めるか?』

『探索?何をお探し?』

『探すというより、地形の把握や慣れ』

『なるほど。いいわ、受けます。でも覚えるならもっとたくさんいた方が良くない?』

『魔力は残しておきたい』

『そう、分かった。さ、早くそっちへ呼んで』

『まあ待て。今から準備する』

 レッドタイガーのページを開く。


 赤虎。水の中、森の中に潜む敵の場所を正確に察知できる。また、それらを住処とする生物に対して強い牙を持っている。相手の素の攻撃力に応じて体毛が硬化し、赤味が増す。


 栞を挿しこみ、ソーンプリンセスのページを開く。


 茨姫。長い時の中で茨の魔法が宿った姫君。遠く離れた相手でも茨で足止めが可能。高等言語も身に着けており、巻物の威力を高めることもできる。


 栞を挿しこみ、魔導書の手入れに戻る。

 少し経ち、栞の模様が上限まで赤く染まった。家から出て庭先で呼び出す。

「召喚、レッドタイガー、ソーンプリンセス」

 炎が宙に表れ、中から赤い虎が飛び出した。ペロペロと毛づくろいしだす。

 土が盛り上がり、裂けた闇の中から茨の姫が飛び出した。乱れた髪を手で梳き正す。

「家の前の通りから中央通りに出て右に進めば森や川がある。左に進めば山道で隣の町や村までの道へと出る。右の森や川の方へ行ってくれ」

 2体とも頷いて歩き出した

「さてと…これだけ終わったら昼食にするか」

 魔導書の手入れを終え、風に当てて置く。昼食を食べて少し休み、魔導書と釣り具を持って出かけた。天気は白い雲が見られる晴れだった。

 

 階段に着いたが、誰もいないので階段横の崖の前に立って周囲を見渡す。あいつらはどうしているかな。こんな時に限って、あいつらが必要な状況にならないよな…。いや、戦力はまだまだいるから大丈夫だろう。恐れることはないはずだ。喧嘩してないかな、喧嘩するようなことは無いと思うが、思いもよらないことが起きて喧嘩別れしていたり…。いや、だとしたら考えるだけ無駄無駄。終わった後のフォローが大事。何かあっても幻界経由で戻せるのだから、何とかできるさ。

「何を物思いに耽っている?」

 ポンと後ろから肩を叩かれた。

「あっ、来たか」

 ワイスは竿や籠を持ち、籠の底に何か入っているのが見えた。

「待たせてすまん。行こう」

「ああ。さて、何がいるかな…」

 森の方へ歩き、川へと釣りに向かった。

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