一度話したことは覚えています
後半少々シリアスが顔を出します。
しかし騎士団長が大人しくなったのもつかの間だった。
だって。
「生まれた後の流れは、あんたにも多少話しただろうがな。結局予想通り、母親は俺を手放した」
「他人事のように言う内容じゃない」
何てこと予想してんのその幼児。真顔で話すミコトに思わず切り込む騎士団長。
が。
「俺はそれを賢明な判断だと思った」
「冷静に批評してんじゃねえよ」
何この子、その母親の行動のどこらへんに褒められるべき要素があったの?
幼児! 幼子! 幼気さをどこに捨ててきたの? そんなもの存在しなかったの? 実は子供って誰しもそんなしたたかさと達観した価値観を隠し持ってるの?
そんなはずないよね、そんなはずないって言って。少なくとも騎士団長自身の幼少期はそんな感じではありませんでした。洟をたらして乳母と母親にビビりあがる毎日でした。
駄目だ、幼少期までもミコトさんがミコトさん過ぎる。
しかし。
「阿呆か。器が足りんと自覚があったが故の行動だろうが。自分が出来もしないことを無理にやろうとすることの方が迷惑だ」
「何という合理的思考」
その確立した思考はいったいいつどこで培われたの? 備わってたの? その母親の所業はミコトがミコトだったからこそ大事に至らなかっただけだからね? 成長結果がこんなことになっちゃった時点で大事に至っているともいえるけど多分そのような遍歴がなくともこのように成長したのであろうからそれはいいとするけど。ていうかその言い草、ミコトの母親はまさかのミコトの同類臭が仄かに漂う感じなの? 現実主義を極めてるの? 幼子のミコトとのわかれは実は合意だったの?
そんなまさか。
「別に俺は母には似ていない」
「どうしようその一言によって俺の中でミコトの母君が一気に人間に近づいた」
いや、別にミコトが人間離れしてるとか言ってない。自由人だと思っているだけだ。
そしてミコトはミコトなだけだ。それ以外の何者でもない。彼は『ミコト』という生き物である。
しかしやはりそのミコトを先に知っている身でその母親を考えると。
ミコトの母というだけでも中々なあれだが、子供をあろうことか奴隷として売ったという衝撃の事実が当のミコト本人から語られていることによって残念ながらその印象は決していいモノではなかったのだ。
しかしここに至るまでの話で。
生まれた瞬間から始まったミコトさんのミコトさんに拠るミコトさん節にもしやその母親、合理主義も過ぎる息子にちょっと病んでた説が急浮上してきた。
……その所業が正しいとも許されるとも思わないけれども。
良くも悪くも、その母親は『普通』だっただけなのかもしれないとは思えた。
彼女に葛藤があったのか、やむを得ない他の事由があったのか。弱さなのか酷薄さなのか。
そんなことは知りえないし追求するつもりもない。
追求することに意味はない。
それが人として許されない事だったとしても、騎士団長はその母親でもミコト自身でもないのだから。
その行動を嫌悪することは出来るけれど。非難することは簡単だけれど。
それをするくらいならばミコトの今が満たされていることを、騎士団長は願いたい。
怨みも嫌悪も、ミコトからは感じないことが、ミコトの中での母親への答えであるのだろうと思うから。
ミコトのそれを無関心ととるか優しさととるか。そして残酷さと思うか正しさと思うか。
そんなものは所詮はミコト自身ではない騎士団長に図れはしないし、図ろうと思うことがおこがましいのだろう。
ミコトの母親も、ミコト自身も。
判じられるほどに騎士団長は賢くはない。
だから圧倒的に、自分はミコトの味方。彼の意志を支持する。
ミコトが気にかけることでもないと切り捨てるならば、騎士団長もなるほど、倣おう。
だって安い同情をしたところで心の底から愚かなものを見る目で『あんたは阿呆か』と吐き捨てられる未来しか騎士団長には見えません。
ので。
「あ、うん。それで?」
先を促した。
すると。
「なんやかんやあって俺たちはグレン爺さんにであったわけだが」
「一気に四年間ほど端折った」
「端折ったことが分かるなら問題ない」
「ごもっとも!」
騎士団長は、頷いた。