始まってしまったようです
「俺が現在の神――ってのはわかってるだろう。先代の神はもういねえ。さっき俺は『己の現身は必要な存在だった』といったな」
「ああ。そして、あんたが……ミコトが、『神の現身』で『神』なんだろう」
『神の現身』としての存在は『両性体』で。……って、うん?
騎士団長は首をかしげた。
それを心得たようにミコトは軽く頷き、続ける。
「……ただ『両性体』というならば、スラギだってそうだ。だが、『神』は俺だ」
そうだ。『次代の神』の条件が『両性体であること』ならば、なぜ、スラギではいけなかったのだろう。
いや、逆か。
ミコトがそうである、理由は何だろう。
それに、もう一つ。
『かつての両性体とミコトたちは違う』と、ミコトは先ほど言わなかったか。
それはいったい、何を根拠に言うのだろう。
『神』であるミコトがただの『神の現身』たちと一線を画す存在であるのは確かだろう。彼は『現身』ではなく『神そのもの』なのだから。
では、スラギは?
彼はいったい、何が違う。
はた目に言えばミコトは神聖魔法の使い手で、スラギは全属性魔法の使い手だ。けれどそれがいったい何を意味している?
そしてそんな彼らの傍にいるのはスラギだけじゃない。
アマネに、ヤシロ。彼らの、存在は?
「だからまあ、あいつらの言っていたことも間違いじゃない。初めから話すが……基本的には『俺』の話だが、総合的には『俺たち』の話だ」
四人の話。その始まりは、どこだろう。
「まあ、お前たちの出会い方とかは大体聞いたけど。もっと昔の話、になるのか?」
ミコトとスラギの出会いって四つかそこらの話だったはずだけど、と思いながら騎士団長は聞く。
が。
「俺が生まれた時からの話だ」
「まさかの『初めから』」
「だから初めからと言っている」
「さようでございました」
ちょっと自由人を甘く見ていただけだ。
ていうかなに? 赤子のころから記憶がある系なのか、そうなのか。だってミコトの両親ってなかなかにアレだったらしいから生まれた時の思い出話なんかしていないだろう。
ミコトの脳みそはどうなっているのだ。
騎士団長はその記憶力をうらやむべきか、それをほかの自由人どもに分けてやってはくれないかと懇願するべきかつかの間悩んだ。
不毛な悩みはすぐに放り出したけど。
ともかく。
「まあ俺は普通に生まれた。その時から父親はいなかったようだな。生まれる前に死んだか出ていったか。その辺りは知らん」
「興味がないにもほどがある」
仮にも己のルーツだろうに。ミコト、超冷静。
「遺伝子の元なんぞ気にしてどうする。俺は俺だ」
ミコト、超冷静。その声音、むしろ冷製。
「いさぎが良すぎて素敵に思えてきた自分が大いにどうかしていると感じているよ俺は」
「そうか。どうでもいい」
「ばっさり!」
「まあそれで生まれた俺だが」
「あ、はい」
ミコトが生まれたばっかりってどんな子供だったのか。想像できない。むしろ騎士団長は、ミコトやスラギは今の姿そのまま発生した驚異の生命体だと言われた方がしっくりくる。幼少期の話は割かし聞いているのでそれはないと理解はしているけれども。
いや、置いておこう。
今は静かに耳を傾け……
「とりあえず俺をこのまま育てていくには少々器が足りないだろうなと母親を見て思った」
「まって。何その超理智的なベビー。そんな赤子存在するの?」
速攻口をはさんだ。
だって驚きの語彙力。そして上から目線はどういうことだ。何て可愛くない冷静さ。ミコトさんっぷりが留まるところを知らないんだけど。絶対美乳児だったくせに。
騎士団長は内心あらぶった。
が。
「いる。俺だ。それがどうした。話をつづけるぞ」
「あ、はい」
本日何度目かの一刀両断されて騎士団長は大人しくなった。