ここに来て知った事実です
「これで人間と神のことはわかっただろう」
「分らなくちゃいけないんだろうということは理解した」
時間にして数分という驚きの短さに数億年の人間史をまとめ切ったミコトが当たり前のように言うので真顔で返した騎士団長である。
なんて慣れてきてしまったことだろう。着実に対自由人の精神構造及び思考回路が確立している。泣きたい。
ともかく。
話を続けようという点において騎士団長とミコトは一致していたのだ。だからミコトは口を開き、
「そうか。次は、」
が。
「ミコトと俺の話だよ~」
「ミコトと俺の話、の間違いだろ」
「何を言っている、ミコトと私の話だ」
ミコトの言葉をさえぎって、はいはいはーい、と金と赤茶と白の自由人どもが挙手をした。
しかし騎士団長は一瞥もせずに死んだ瞳でミコトを見ていた。
「違う。黙れ。縊るぞ。俺の話だ」
ミコトは間髪入れずに両断した。
それと同時に三人の自由人は何処からともなく湧いて出てきた黒く禍々しい何かに捕まって強制的に静かになった。
この間騎士団長はやっぱり死んだ瞳でミコトを見ていた。
とりあえず三人を静かにさせた黒く禍々しいものが何なのかとか考えることは放棄しているからいい。
いや、本来多分あんまりよくない気がしないでもないがミコトの暴挙は今に始まったことではないしどうせ被害者が自由人ならば命に別状はない。
むしろミコトのお話が終了するまでそこで大人しくしていてくれたらいいなというのが騎士団長のささやかな願いだ。
きっと叶わないけど。仕方がないからあきらめてるけど。
それよりも。
騎士団長的にあんまりよくなかったのは暴言を吐いた時のミコトの視線。
何故ってミコトさんは騎士団長から一切目を離すことなく無表情に暴言をお吐きになったからです。
なんでだ。
キシダンチョウヲミナイデクダサイ。
騎士団長は一瞬目を離したからといって消滅したりしないので、ぜひその美しい瞳に自由人の仲間を映してあげてはいかがだろうか。きっと喜ぶ。自由人は、喜ぶ。
騎士団長は何にもうれしくないけど。
むしろ騎士団長に言ったんじゃないとわかっていてもとても傷つくんだけど。死んだ瞳にジワリと涙が浮かぶんだけど。
が。
「俺の話だが」
「どうしよう何事もなかったかのように話を続けようとしてるこの人」
すぐわきでは自由人には珍しく、三者三様に黒く禍々しい何かの中でもがき苦しんでいる人たちがいるし目の前の騎士団長は頑なにそれを見ないようにミコトに視線を固定しながらも落涙寸前の涙目なのに。
しかし。
「どこに思慮すべき要素がある」
真顔で黒髪の麗人は返したので思わず騎士団長は言いました。
「うわあ人でなしがいる」
死んだ瞳の無表情だった。
のに。
「だからそうだといっている。あんた頭は大丈夫か」
すごく真面目に返されて挙句案じられた。
そうだけどそうじゃないんだミコト。
そう言いたかった騎士団長である。できなかったけど。なぜって、
「がふっ!?」
いざ口を開いた瞬間目にもとまらぬ動きで何かを口に詰め込まれたからである。
だがしかし大変美味だったうえに犯人がミコトであったために食に対する刷り込みに基づいて騎士団長は素直に嚥下した。
嚥下してから聞いた。
「これは……なんだ?」
「『馬鹿に効く薬』だ」
嚥下する前に聞けばよかったと騎士団長は心底思った。
すごい変化球来た。
とりあえず薬を使用せねばならないと判断されるほど記憶力に欠陥があるかのように見えてしまう脳の回転が鈍い阿呆で申し訳ありません。
でも騎士団長的に騎士団長はそれほど『馬鹿』のつもりはないのでいつも通りに『あんたは阿呆か』と言ってほしかった。
……いやでも今ミコトに詰め込まれたからって正体も知らない物体を何の疑問もなく嚥下した直前の己がいた。
……うん、どうしよう。
自分、……馬鹿だった!