すでに受け入れていますが、なにか
「……現身が必要?」
それは、いったい、
騎士団長が眉を顰めれば、いっそつまらなそうにも見えるほどにぞんざいに、ミコトは答える。
「神もまた死を迎える生き物だ。とんでもない寿命の持ち主だが、不死ではない。……世界は神を核に存在している。神失くしてはその存在を維持しえない。この世界を作った神の寿命は近づいていた。――次代が必要だった」
騎士団長は瞬く。
それはつまり、『ミコトが次代』という事か。
……嘗て人は、神の現身の出来損ないで。
その阿呆さのせいで『力』を神に剥奪された。
けれど神の現身は必要で。
……。うん。
騎士団長は、重々しく。
「先代『神』は……阿呆なのか?」
聞いた。
「阿呆だよ~」
「あれは阿呆だぜ」
「阿呆以外に何があるのだ」
「阿呆としか言いようのない奴だ、あれは」
四者四様に同意されて騎士団長はぼろくそ言われた先代の『神』なる存在がわずか哀れになったが、あまりにもその行動が阿呆なので仕方がないだろうと思ってしまった。
だってあれだ。
自分にとって必要な存在を自分でデリートしてどうするの。馬鹿なの? 『両性体』という『神の現身』たる存在が必要なら、それを滅ぼさずに戦争を治める方法だってあっただろう。
極端な話、現在と同じ『男女』を保護するように思考誘導できるなら戦争をやめるように誘導だって出来たろうし。人間として、思考を操作されるというのは気分がいいものではないどころか嫌にもほどがあるが、神に人間の倫理は当てはまらないとするならばできない相談じゃないはず。
そうすれば今になってミコトやスラギといった『特別』を生むこともなかったのに。
いろんな意味で、あれだ。顰蹙を買うやり方だ。
つまりそれをやらかした神は阿呆だ。
うん、阿呆なんだろう、否定する要素が今のところない。
……ていうか。否定する要素はないけれども、ふと。
「……阿呆が決定した、さっきから言ってるその『神』だが」
多分、そうなんだろう。思いながら騎士団長は聞く。
「唯一神・リゼのことか?」
唯一神・リゼ。
この世を作ったとされる、この世で最も信仰されている神だ。全知全能、慈悲深く人類を導いたといわれている。世界中に教会がある。神殿もある。子供のころからおとぎ話で刷り込まれる。世界最古の遺跡にして自由人にまさかの一週間で読み解かれた人類の謎だったはずの『リゼの遺跡』の名の由来でもある。
リゼライア・グレミリオ・ディ・オロスト。
実在したのかどうだか知らないが、御名がそう伝わっている。
まあ恰もミコトたちはあって来たかのように話してますのでいたのでしょう。割と最近まで、そのへんに。そんでもって実際彼らは会っていたのでしょう。
なんてことだ。
「ああ。そうだな。もともと人間が勝手につけた名だが」
「あははっ、そもそも名前とかいう概念なかったからねえ~」
「腐っても神だもんなあ。まあ神のくせにその名前気に入って名乗ってたから別に間違いじゃないけどよ」
「私が初めて会ったときには『リゼちゃんって呼んでね!』とポーズを決めたからあまりの不愉快さに張り倒した記憶があるな」
なんてことだ。
やっぱり会ったことがあるうえに名前の由来とかまで親しげに話してるけどそんな神話の真実騎士団長は知りたくなかった。そんな阿呆の評価をこれでもかと不動のものにする昔話はやめてくれ。
ていうかそのフランクさは何? お前らもうちょっとこう……ないの?
友達かよ。
いや、騎士団長の記憶が確かなら、基本的に『リゼライア神』って男神だったはず。ミコトやスラギを見ていればまあ限定されていないのかもしれないが、多分基本男神の姿だったんだろう。
それが『リゼちゃんって呼んでね!』とポーズを決めたら騎士団長でも回し蹴りを放つからある程度仕方ないのかもしれない。
そんな神は敬う気が失せる。
それなら騎士団長は麗しの黒髪麗人ミコト様を拝みます。
そこまで考えて気付いた。あ、ミコトさん黒髪麗人じゃなくて黒髪麗神だからなにもまちがってないや、と。