黒歴史を掘り返します
「あんたには、そうだな。『人』の起源から話した方がいいか」
「え、これそんな壮大な話?」
「あんたが聞かなくても分かるというなら省くが」
「申し訳ございません拝聴させてください」
「……まあ、分ってんだろうが、この世界には『神』がいる。で、『人間』を作ったのもその『神』だ。――あんた、俺たちが『両性体』だってことは知ってるな。で、それが滅びた話はしただろう」
同意を求める視線に、繁殖行為を怠ったせいで自滅したとかいう残念過ぎる人類の黒歴史は聞いた覚えがある騎士団長は頷く。
「あはっ。あの話ってねえ、嘘じゃないけど~」
「本当でもないのか!」
希望が見えた気がした。
「ううん、はしょっただけ~」
一瞬で砕かれた。
「はしょんな!」
とりあえず叫んだ。
が。
「やだな、だって聞かなかったでしょ~」
確かに聞きませんでしたが何か? あの時はミコト美女化の衝撃にそれどころじゃなかったのが大きいというのは考慮されないのでしょうか。
ていうか畜生、聞き飽きた定型句をのたまいやがって。
騎士団長は内心荒んだ。
しかしそんな二人をじとりと見つめたミコトは一刀両断。
「おい、黙れ。それでだ。『両性体』っつうのは、そもそも『神の現身の出来損ない』だ。神が己を模して作り上げた生物。いうなれば神の劣化版。力を持ち長く生きた」
「待って待って。話が壮大。は? 『人』ってそうなのか?」
「そうだといっている。黙って聞け。大昔、まだ『人』が『両性体』だったころ、魔族は人の奴隷だった」
「は? いや、確かに前にも『両性体』なら魔族より強いかもとか、その力溝に捨てたんじゃないの人間阿呆かとか思ったが」
「話を聞く気があるのかあんた。いちいち口をはさむな鬱陶しい。……圧倒的な強者が人。弱者が魔族。……けれど世界はそこで安定しなかった。過ぎる力を持った人は争いを始めた」
「争い……戦争か。分らなくもないが。『神の現身の出来損ない』だっけか? それがどうして。それにミコトやスラギはと同じ両性体って『安定した存在』だったんだろ?」
「作った神が阿呆だったからだ」
「神が阿呆だったからだよ~」
「なんて斬新な答え」
『阿呆』の一言で結論付けたことに騎士団長吃驚した。
「俺たちは『先祖返り』とは言っているが、かつての『両性体』とは少し違う。そしていつの時代も『為政者』はいるものだ。強いて言うなら、『両性体』だったかつての『人』は力がある分顕示欲や征服欲を持っていた」
「そう言われたらわかる。なんで最初あれだったんだ」
「最初のでわかれ」
「分らなければならないほどの確定事項?」
「揺らがん事実だ。続けるぞ。……戦争は終わらなかった。利用され迫害され、数を減らした魔族は結束し、混乱に乗じて逃げ出した。行き着いた先が未開の地だった現在の魔大陸だ。だがそれでも人は争いをやめん阿呆だった。だからそれを見ていた神が、人を作り直した。己の現身、劣化版ではなく、只の生物としての『人』に」
「……『作り直した』?」
色々と言いたいことはあるが、とりあえず黒歴史は何処へ?
「ああ。性は別れ、寿命は縮んだ。……寿命が長く、生存欲の薄い両性体は繁殖行為がそもそも多くはなかったが、産まれてくる子は現在と同じただ一つの性を定められた人間だ」
「ああ、黒歴史は黒歴史で存在してたのか」
「そこは別にどうでもいい。ともかく、か弱いそれを当時の両性体――先人は『庇護すべきもの』と認識した。だから争いに巻き込まれることなく、現在の『人間』は生き延びた」
「……それは偶然に?」
「さあな。その思考に自覚的な神の介入があったかは知らん。――少なからず影響はあったのだろうがな。……そうして急速に、『両性体』の先人は滅びた。現在の男女の性を持つ人間だけが残った。神の思惑通りにな。それらが織りなす社会が今だ。強者が魔族、弱者が人。立場は逆転したが、人の立ち入らない魔大陸で魔族は独自の社会を作り上げ文明をなした。両性体ではない、只のか弱い人に対する怨嗟は、最初はあったかもしれんが、長い時間をかけて魔族の中で恨みは消えたらしいな。怨むには、かつての力を失った今の『人』はあまりに脆弱だった。だからこそ、今人が魔族を恐れ、うらやみ、馬鹿な争いを仕掛けようするのを魔族はあしらうが、魔族から人への手出しはない。それをするほどの価値が『人』にはないし、利益が魔族にはない。そうして、世界は一応の安定を見せた」
「それが、今の時代?」
「そうなるな」
なるほど。なんてダイジェスト人間史。突っ込みどころがいっぱいだ。
……だがまあ、話として、理解はした。
ただ、
「……それが歴史の真実として、なんでミコトが関係してくる? 当時の神はあんたじゃないだろう」
見てきたように語っても、ミコトは当時の『神』ではないはず。
それに、わずかミコトは皮肉気に、笑った。
気がした。
「――それは、神にとって『己の現身』が必要な存在だったからだ」