変な人に君は変だといわれた時の衝撃は大きすぎます
そのようなことを、とつとつと語った騎士団長である。
すると。
「やっぱり団長って馬鹿なの~?」
「馬鹿っていうか……鈍感なんじゃね?」
「馬鹿で鈍感なのだな、かわいそうに」
馬鹿で決定された挙句憐れまれたんだけれどもこの憤りを騎士団長は何処にぶつければ。
壁か。床か。駄目だ全部ハベリさんの一部だ、漢らしくキレられる。
仕方がないので畜生とばかりに己の膝を打った。
痛かったのでもう二度としないと誓った。
過労につき、彼等の言う通り騎士団長は少々馬鹿になりつつあるらしい。
過労の原因は何をどうしても自由人だから蔑まれるいわれも憐れまれるいわれもないけど。
とりあえず。
「……詳しく」
疲れた声で、懇願した。
すると。
「あのねえ、団長みたいになるまでさ、俺たちの近くにいるってすごい珍しいんだけど~」
自分で言うかスラギよ。
そして団長みたいになるって何。手遅れみたいに言わないで。
「そうなる前に完全に消えるか、折り合いつけて距離取ってくるよな」
もしくは敵意を向けてくる阿呆もいるけど、と続けたアマネはなんで笑顔なの? なんで爽やかに寂しいこと言うの? そして「そうなる」ってやっぱり騎士団長が可笑しいみたいな言い回しはやめて。
「私の臣下も、私はともかくミコトらには貴様のように出んからな。貴様は稀有だ」
自分はともかくにしちゃっていいのかヤシロよ。自分じゃなくてミコトが絶対的強者として君臨している現状を打開する気は相変わらず皆無なのかヤシロよ。そして騎士団長を珍獣みたいな扱いホントやめて。
「……傍にいたのはやむを得ない事情からだし、意見をいうのは大体自分の為なんだが」
「やだな、やむを得ないって、普通は嫌なら国王なんて無視して逃げるもんでしょ~」
「それはお前の普通であって世間一般の普通じゃないんだぞスラギ」
「でも本気で嫌なら逃げるよな。マジで、国から消えたりとか」
「待ってアマネさん国から追い出したことあんの? どんだけ奔放さを発揮してその人の心に負担を与えたの?」
「大抵の者は自分のためにと言って逃げるのだ。だから逃げないお前は珍しいしおかしい」
「おかしいって断定された! そして逃げられるという現象が普通になっている現実を平然と受け入れて受け流していますねヤシロ様」
「「「だって、あんたはおかしい」」」
とても悲しいのに、君はおかしくないよって慰めてくれる人が一人もいなかった。ここには敵しかいないようです。
本当にやむを得なかったし己の平穏の為という理由は揺らがないんだけれども反論の無意味さを知っている騎士団長は飲み込んだ。
ともかく。
そんなこんなでちょっと根気と面倒見が良すぎたせいで目をつけられた、ということは理解した。
それがミコトと世界さんなるものの意志によるということもとりあえずはわかったことにしておく。
そこで、次なる質問だ。
「……わかりました。あなた方にとって俺はおかしい。そうですね。じゃあそれでいいんで、そんなオカシイ俺に紹介する新たなる就職先の、具体的な仕事とは、いったい」
普通『おかしい』と感じる者を同僚に積極的に加える気にはならなくないか。
積極的どころか承諾もしていない強制イベントで騎士団長はイマココなんだけれども、いかに。
すると。
「あれっ、まだそれ話してなかったの~?」
「段取りわりいぞ、ヤシロ」
「説明しようとしたところでお前らが来たのだろうが」
何やらグダグダと三人でもめだしたので、こめかみを押さえた騎士団長、強く、もう一度言ってみた。
「具体的な仕事とは、いったい」
それに、くるんと振り向いたスラギは超笑顔。
そして。
「ミコトと一緒に生きるんだよ~」
キラキラしていた。
それに眩しげに目を細めた騎士団長は一言。
「謹んで辞退申し上げたい」
二度目の丁重なお断りだった。