保護者ではあるかもしれません
「親子じゃありません上司と部下です」
間髪入れずに返した騎士団長。
小さな小さなヤシロのつぶやきを拾い上げた聴力は何処で鍛えられたものか。
きっと自由人の所為なのだろう、疑いようもない。
なんにせよ、スラギもアマネも騎士団長の子供ではない。
ていうかこんな三十路もそろそろ射程内の大きな息子は騎士団長はいらない。
謹んでご遠慮申し上げるくらいには、いらない。
大事なことなので二回言った。
七つしか変わらない息子がいて堪るか。
騎士団長は出来れば常識というものを分かち合える子供が欲しい。
些細で切実な願いだった。
平穏って尊いものだ。
平穏を失って久しい騎士団長はそれをよく知っていた。
ともかく。
「邪魔をしないでください魔王陛下。何度も繰り返し言い聞かせることが大切なんです」
いつか刷り込まれる日が来るかもしれないでしょう。
そう、真剣な顔で言い放つ騎士団長・ジーノ。
ヤシロは思った。
親子の教育的指導ではなく野生動物の調教のようであると。
そして願望系という成功の確率の低さ。
変なところで現実的だ。
しかしまあ、あながち間違ってはいないかもしれない、と、友人に対するにはどうにもひどいことを平然と思ったヤシロである。
そんな彼は己が同じ穴の狢であるとは露ほども思ってはいない。
なんであれ。
……それこそ、ぼそりと。
昏々とスラギとアマネを相手に恐らく無駄な努力と思われる説教を続けていた騎士団長の声に紛れて消えそうな軽さで、ヤシロは。
「……まあ、そうゆうところが、貴様が選ばれた由縁なのであろうな」
言った。それは。
「……」
「……」
「……」
異様に響いて、三人の注目をしっかりと集めたのであった。
「……ん?」
きょとん、こてん。
注目されて小首をかしげたヤシロに騎士団長はデジャヴを感じた。
美形など滅んでしまえと思った。
ではなく。
そうだった。今ここはヤシロに拠る騎士団長の拉致という不可解極まりない事態に端を発し、騎士団長がミコトのところに就職が決まったのきまらないのというそろそろ通訳が欲しい状況にあるはずの場所だった。
まさかの自由人の増殖に現実逃避をしていた騎士団長である。
現実逃避の結果が自由人の教育的指導なのはなぜだといわれると、それが日常に近い行為であったからとしか答えられないけれど。
七つしか変わらない、いい年した大人に何故日常からそんな指導をしなければならないのかと考えれば目の前がぼやけて見えなくなってくるけど。
グレン翁よ、多才なあなたは一体弟子に何を教えていたのか。
常識を置き去りにする方法ですか、そうですか。
まあいい。
それよりもだ。
さっ、がしっ。
「詳しく」
すばやくヤシロに近づいてその腕を捕えた騎士団長である。
本来の目的を思い出した彼の目はギラついていた。
過労と寝不足ゆえである。
ともかく。
そんな騎士団長の行動にヤシロは「ほら」、と。
「貴様は、相手が私だろうがスラギだろうがアマネだろうが、ミコトに対しても、引かぬ時はひかぬだろう」
引いたら会話にならないだろう。
言われた言葉に、騎士団長は反射的に思ったけれど口には出さなかった。
胡乱な目にはなったけど。
けれど、そんな騎士団長にさらにヤシロは、
「前にも言っただろう。……理解できないものを、恐れるのが人という生き物なのだと」