使用言語が違うかもしれない可能性について
とりあえず『ミコトのところ』に就職とはいかなる意味であろうか。
あれか、ユースウェル王国王都のはずれにてミコトさんが経営しているこぢんまりした雑貨屋さんのことか。雑貨屋さんの事なのか。
何が悲しくて騎士団という一応仮にも公務員であり一般的には華もあるといわれる職を辞して自由人の配下で商店の店員をしなければならないのでしょうか。
そしてどうしてその決定をヤシロが行うのでしょうか。
ヤシロは彼の店の店員ではないと騎士団長は理解していたが、実は違ったのだろうか。
ヤシロは魔王としての職務を放棄してミコトの指揮下に入っていたのか。
それが事実であるのならばガイゼウス達はそろそろ主君に見切りをつけてもいいと思う。
ていうかヤシロがたとえ勝手にミコト経営の雑貨屋店員としてはしゃいでいたとしてもそれはそれでこの場にミコトがいないのはおかしかろう。
店主はミコトでミコトに全ての決定権は掌握されているはずだからである。
つまりここで先ほどのアスタロトと同じ状況が出来上がる。
決定権を持つものがいないにもかかわらずヤシロの一存で決めることは出来ない。
思いのほか白の自由人の権力が弱いのかもしれないという悲しい事実が浮上しそうであるけれどもそれはとりあえず横に置く。
でだ。
これらから導ける答えとして、『ミコトのところ』で就職とはいかなる意味であるのか、騎士団長には想像しえない。
だって情報が圧倒的に少ない。
ミコトさんは雑貨屋以外に何か事業でも起こすご予定があるのであろうか。
まあミコトはあらゆる方向において博識かつ高すぎる能力をお持ちであるようであるからしてそうだといわれても別に驚きはしない。
雑貨屋ではなく、そちらの新事業の方にてヤシロをはじめとした自由人の面々が参加しているのだといわれても、仲良しですねとしか思わない。
でもそれでもやっぱりミコトがここに居ないのはおかしいだろう。
なぜならば、そのような場合において、ミコトが他者に完全に任せきりにしてしまうとは騎士団長には思えないのだ。
例えば、頼む相手が友人であったとしても。
――さて。
自由人と話すうえで、忍耐は重要である。
なのでこれから騎士団長は、己の精神を犠牲にして疑問を解決していこうと思う。
苦行である。
だがしかし理解しなければこの拉致監禁からは逃れられないのであろうことは明白であるし、自由人の発言に関して中途半端な理解のまま放置しておくことほど恐ろしいことはない。
保身である。
ので。
「魔王陛下。俺の矮小な頭では少々理解が及ばなかった次第でございますので、大変申し訳ありませんが詳細なるご説明をいただけませんでしょうか」
限りなく下からな言葉を、限りなく無表情で言い切ってみた騎士団長である。
するとヤシロは大仰なため息で。
「貴様やはり、馬鹿なのだな」
「さようでございますね馬鹿なワタクシメにご教授を」
騎士団長は能面のような顔を崩さなかった。
なんでわからないんだ、という見慣れた表情に対して、なんでわかると思うんだ、と返さなかった自分をほめたいくらいである。
ともかく。
「――仕方あるまい。話してやるから、聞いておけ」
話してくださるのであれば聞くのはやぶさかではございませんので、どうか自由人にしか理解できない思考回路では話さないでいただきたい。
騎士団長は思ったが、もちろん口には出さずに厳かにうなずいた。
「貴様以外にきまっているのは、スラギと、アマネと、もちろん私とだがな」
腕を組み、ふんぞり返った白い人。
そういうのはいらないとか、今は言ってはいけなかろうから、騎士団長は我慢する。
ていうかやはりそのメンツなのですね、どうしてそこに騎士団長を放り込もうと画策しちゃったんですか。
いじめですか?
「別に私が決めたのではない」
ヤシロじゃなければミコトさんですか。
「決めたのはミコトと、」
「……ミコトさんと?」
ヤシロは、知らぬ間に表情を消していた。
そして。
「世界だ」
…………………………。
……どうか自由人にしか理解できない思考回路では話さないでいただきたい。