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黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
魔王執務室編
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 騎士団長は思った。


 殴っても、いいだろうか?


 なぜならば騎士団長は騎士団長という職についているから騎士団長なのであって、他の職を欲してはいないし、今のところぎりぎり職を辞するつもりもない。

 ていうか騎士団長・ジーノが辞職願を叩きつけたらユースウェル王国の国王は泣き崩れて引き止めるだろう。


 スラギという名の麗しく恐ろしい鬼畜笑顔の金色自由人に共に振り回されてきた戦友をここに来て見捨てることなど騎士団長には出来なかった。


 だからこそのお断りであったのだが、騎士団長は何か間違っているだろうか。


 ていうか腹立たしいならなぜ切り出した。

 そして別に騎士団長は懇願もしていないのに何で上から目線なんだ。


 ……殴っても、いいだろうか?


 ともあれ。


 そんな非生産的な行動は自由人が自由人であることを痛感することにしかならないと理解しすぎている騎士団長は深呼吸を一つして、能面のような顔で聞いてみた。


「ちなみに就職先はどちらで?」


 素朴且つ根本的な疑問であった。


 だってまさかここに来て魔王城で雇われるということはないだろう。魔族と人間では寿命も違うし、そもそも能力的にも割に合わない。

 双方に利点がない。


 ないとも。


 むしろマイナス点しか見当たらない。


 ていうか魔国の人事権は多分ヤシロにはないと思う。

 きっとアスタロトにあると思う。

 そうでなければ、ファルシオといい、ガイゼウスといい、常識的かつ有能な人材が採用されているわけがない。


 人の話を聞かなかったあげく、つい十年ほど前まで仕事をしていないに等しかったと名高いヤシロさんである。

 (上司)がアホだと(部下)が有能になる。

 その典型的な例だ。


 そして仕事をしない上司に構っていられる時間もそれほどなかったことだろう、上司が仕事をしないから。


 そんでもってここでなぜ宰相・ガイゼウスではなく側近・アスタロトが人事権を握っているだろうとの予測が成り立つかというと、外見幼女は外見のみが幼女であるからである。重鎮三人組の勤続年数からして外見老爺のガイゼウスはまさかの一番お若いのである。


 若造なのである。


 対して外見幼女は最も勤続年数が長い。


 つまり、……ほら、あれだ。一番お歳がう……げっほん。ベテラン様なのである。


 ヤシロが泣こうが喚こうがその意見に正当性がなければ人事に反映されることはあるまい。

 アスタロトさんはそれだけの押しの強さをお持ちだと騎士団長は睨んでいる。

 そうでなければ魔王捕獲部隊など結成されていはしないだろう。

 捕獲部隊が役に立っているかは別として。


 そして今現在の状況が成り立っているのはヤシロが騎士団長を拉致した挙句に捕獲部隊を出し抜いて執務室に立てこもっているからであり、当然のようにアスタロトは同席していない。


 さて。


 これらから導き出される結論として、ヤシロが自信満々にのたまう騎士団長・ジーノの『就職先』が魔王城勤務ではないことが分かるだろう。

 ヤシロにその命令権がない可能性が高いことが、数日見ていただけの騎士団長にも察せられるのだ。当の本人が疑問をいだいていないはずがない。


 はずがないと思いたい。


 ので。


 騎士団長の発した質問は、間違っていないのだ。


 だからヤシロよ、そのなんでわからないんだという心底不思議そうな顔をやめてほしい。


 そもそも就職先をヤシロから斡旋される意味も分からないのに、たったこれだけの会話からその先まで理解しろというのは横暴ではないだろうか。

 むしろ騎士団長に何を期待しているのだろうか?


 騎士団長は凡人であり常識人であり繊細なのだ。


 ――で。


 結局就職先とは何処なのか。

 そろそろ回答をいただきたい騎士団長は、じいっとヤシロの瞳を見つめた。


 が、ヤシロは。





「ミコトのところにきまっているだろう」





 何の疑問もないかのようにそう仰いましたので、騎士団長は諦めて通訳を所望したほうがいいのかもしれなかった。









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