用件をどうぞ
ヤシロに対する騎士団長のぞんざいさ。
原因は自由人からの感染だった。
流行病か。
そんなふざけた理由を至極真剣に語った騎士団長は本気でした。
そしてそれを受けたヤシロは。
「なるほど。ならば仕方がないな」
仕方ないのかよ。
いったい何が仕方がないんだ。
お前は一応仮にも魔大陸の覇者ではないのか。国主ですらない一人間からの扱いがそれでいいのか。
本当にそれでいいのかヤシロよ。
「ならばほら、さっさと本題に入るぞ」
いいらしい。
そしてあっけらかんと言い放ったヤシロさんであるけれども散々用件を促したにも関わらず悉く話を逸らしてきたのはそちらである。
なのになんで騎士団長が邪魔したみたいに言ってくるんだろう。
解せない。
だがしかしいい加減本当にさっさとしないと夜が明けそうな勢いである、騎士団長は素直にうなずいた。
一瞬の沈黙。
そしてヤシロは。
「腹立たしいことこの上ないが、仕方があるまい、認めてやる。喜べ、貴様の就職先が決まったぞ」
そう仰いました。
ちょっと待とうか。
騎士団長は眉を顰める。そして己の耳の機能に疑問を持ち、思わず首をひねった。
相対しているヤシロもきょとりと同じ角度で首をかしげた。
やめろ可愛いだろうが。
いい年した大の大人の男がそんな仕草をしたところで普通は可愛いどころか気持ち悪いはずなのであるけれども、それは顔面が普通ではないこの自由人には当てはまらない方程式である。
まあなんにせよ、色々な意味で疲れてるのだろう。
騎士団長は手を挙げた。
そして。
「申し訳ございません魔王陛下、もう一回お願いします」
お願いしてみた。
――と、
「腹立たしいことこの上ないが、仕方があるまい、認めてやる。喜べ、貴様の就職先が決まったぞ」
「一言一句たがわずに本当にありがとうございます」
返ってきた答えに反射的に頭を下げた騎士団長である。
だがしかし目上の方に復唱させてそれでも理解ができなかった場合どうすればよいのだろうか。
わからん。
とりあえずいつの間に騎士団長は就職先の決定を喜ばねばならない求職者になったのだろうか。
失業した覚えはない。
なぜならば騎士団長は騎士団長という職務についているから騎士団長と呼ばれているのであってその雇用は遠くユースウェル王国の国王に委託されている。
解雇された覚えもない。
たまに辞表を叩きつけたくはなるけれどもまだ思いとどまっているから騎士団長はこんなところまできてストレスの限界に挑戦しているのだ。
ていうか今この場では辞表をたたきつけるべき国王もいない。立場としては王女は騎士団長より上だが彼女に人事権はない。
つまり騎士団長は就職活動の必要はない。
そしてあらたな就職先も必要ないと思われる。
「……」
じっと、ヤシロを見つめてみた。
「……」
じっと、見つめ返された。
大変な不毛な時間であると思い出したので、騎士団長は再度挙手をして、一言。
「謹んで辞退させていただきます」
丁重に断わりを述べた。
が。
「貴様、馬鹿なのか?」
ヤシロは騎士団長の忍耐の限界を試しているとしか思えなかった。