表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の止まり木に金は羽ばたく  作者: 月圭
魔王執務室編
173/254

善は急げとは言いますが


 そもそもだ。

 記憶を奥底から引っ張り出せば、騎士団長が意識を失ったのはミコトの御尊顔と唐突なるデレの所為である。


 なにあれ。

 殺傷力が高すぎる。

 どうしたいの? 騎士団長をどうしたいの? 新しい扉を開かせたいの?


 ともかく。


 あの時はまだ客間に居たのだ、みんな揃って。それからどれほどの時間がたったのかはわからないが一日も眠っていたとはさすがにないと思いたいから、数時間後の深夜の時間帯であろうと推測する。


 しかしここは先ほどまでの客間でもなければ与えられた客室でもない、魔王の執務室。

 よく見ると机にうっすら埃が積もっている執務室。

 今にも崩れそうに書類が積み上げられているけど、視線を下げると床には崩れた書類のなれの果てが散乱している悲しい執務室。


 そっと、騎士団長は目頭を押さえた。

 しかしそれを気にするでもなかったヤシロはというと。


「私がこっそりここに連れ込んだからだ」


 拉致か。


 連れ込んだって何。微妙にいかがわしい言い回しはやめていただけないだろうか。語彙力か? 他人の話を聞かないという特性を持つヤシロは語彙力にも欠陥を持っているのか?

 ていうかなんで騎士団長だけ。


「なぜ、とお伺いしても?」

「疑問がいっぱいだな、貴様」


 心底呆れた顔で言われたけどこの状況で疑問がいっぱいにならない輩は頭がどうかしていると思う。


 だのになんでそこで「なぜわからないんだ」みたいな顔をされなくてはならないのだろうか、解せない。


 しかし一応の答えとしてヤシロは。


「用があったからだ」


 端的に返してきたけどそんなことは予想がついている。


 用もないのにつれてこられたんであれば完全なる変質者の奇行に他ならないし、そうだった場合はとりあえずアスタロトに言いつけて百本ほどホームランをかましてもらおうと思う。


 用があって何よりである。


 実は何の意味もなく連れてこられた愉快犯の行動であるという可能性も四十%くらい騎士団長の中には残ってた。


 こっそり連れ込まれたらしい時点で一瞬七十%くらいまで跳ね上がったこともあるというのは余談だ。


 なぜならば相手は自由人である。


 奇行を繰り返していたスラギについて、ミコトは言った。どうしてこんなことをするんだと問うた騎士団長に言った。


「阿呆か。あいつのすることにいちいち意味があるわけがないだろうが」


 とても納得したのは記憶に新しい。

 そして実はかつてスラギ自身からも自己申告をされていたと思い起こす。


「やだな、俺のすることにいちいち意味があるわけないじゃない~」


 馬鹿なの? とでも言いたげな心の底からの笑顔だったことまで付随して思い出された。

 殺意をいだいた記憶である。


 つまり自由人の奇行には何の意味もないことも多々あるという証明に他ならないではないか。

 なれば、今回のヤシロの行動もよもや何の意味もない拉致行為であったのではないかという疑いを持たれても仕方がないであろう。


 日頃の行いである。信用は低い。回復に努めるつもりもないだろうけれども。


 ともあれ。


「……その用とは、今でなければならない緊急のものなのですか?」


 聞いてみた。

 すると。


「いや、別に」


 何言ってんの? とばかりにと返さないでほしい。

 何言ってんの? はこっちの台詞だと騎士団長は叫びたい。


「別に明日だろうが来年だろうが百年先だろうが、私は構わん」


 騎士団長は構うよ。


 とりあえず百年先には騎士団長は死んでいると思われる。

 そしてならどうしてせめて明日を待てなかった。


 もちろん聞いてみた。


 ――と。


「思い立ったからだな」


 吉日だったようだ。

 はた迷惑な!







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ