目が覚めたらそこには過酷な未来が待っていました
深く、揺蕩うような眠りの底から、唐突に目を覚ました。
そしてそんな騎士団長の目の前にいたのは。
真っ白い自由人でした。
「ひっ」
思いっ切り後ずさって引きつった叫びをあげた騎士団長は正常である。
「失礼だな、お前。私を何だと思っているのだ」
「……」
沈黙を返した騎士団長は、正常である。
自由人だと思っていますが、何か。
そして寝起きで目の前に魔王がいてびっくりしないような太い神経を持ち合わせている人間はなかなかに珍しいと思う。
騎士団長は正常であり凡人であり、繊細なのだ。
「それより、ここはいったいどこでしょうか」
話を変えた騎士団長である。
が。
「お前、やっぱり、結構図太いだろう」
胡乱な目で言われた。
どういう意味であろうか。
自由人の仲間であるヤシロさんには言われたくない言葉である。騎士団長のこれは図太さではなく慣れだ。鍛えられたスルー力を発揮しただけだ。そしてその力を鍛えてくださったのは言うまでもなくスラギとミコトとアマネである。
途中からはヤシロも参加していたが、それでも文句があるのだろうか。
「……」
じっと、見つめ返してみた。
「……」
じっと、見つめ返された。
たいへん不毛な時間と理解したので、騎士団長はくるりと己の周囲を見渡す。自分が横になっていたのは驚きの弾力を誇る長椅子。
ヤシロが座しているのは卓を挟んだ向かい側の寛ぎチェア。
その向こう側に見えるのは今にも崩れそうなほどに書類が積まれた、木製の机。
壁は書物で埋め尽くされている。
机の向こう側には窓があるようだが現在はカーテンが引かれてここが地上何メートルかは判然としない。
「……執務室?」
呟けば、ヤシロは大仰に肯った。
「いかにも。灯台下暗しというだろう」
どういう意味であろうか。
それは先ほどからかすかに聞こえている怒声らしきものと関係があるのだろうか。
ちらり、扉に目を走らせる。それから窓を見た。
すると。
「抜かりはない。どちらも我が魔力で補強済みだ。ミコトらでもなければ開けられぬだろうな」
そんなことは聞いてない。
ていうかそれだれにも開けられないやつ。
ミコトさんたちはヤシロを引き摺りだすためだけに労力は割かないもの。「放っておけ」とか一刀両断されるから。
むしろスラギなどは嬉々として「閉じ込めちゃえ~」とかのたまいながら外部から封印を施しそうである。
そしてそれに全力で対抗するヤシロで魔国崩壊の危機再びになってしまうのではないだろうか。
その場合現状で一緒に閉じ込められている騎士団長はもれなくご臨終を迎えるのだがどうすればいいだろうか。
もちろんヤシロが応戦しなかった場合でも餓死という過酷すぎる結末が待っている。
そこまで考え至った騎士団長、そっと、しかししっかりと、挙手をした。
そして。
「魔王陛下の立てこもりに、なぜ俺が巻き込まれているのか、ご説明をお願いいたします」
至極真っ当な要求を述べたのだった。