泣いちゃいます、繊細だもん
いや、もういい。
自由人とはそういう生き物、そう納得するしかないのであろう。
よし、諦めた。
騎士団長たちは頷きあい、理解しあった。
――――が。
理解しあったところで心の平穏が戻ってくるかと思いきや戻ってこなかったのには理由がある。
気づいてしまったのだ、ヤシロに話を通すのにミコトとスラギが一役買っていた、という事実が何を意味するのか。
「「「「………………」」」」
無言、そして騎士団長はその場で崩れ落ちる。
王女たちの、痛ましいものを見る瞳が、突き刺さった。
――だって。
……騎士団長は、苦労したのだ。
すごくすごく、苦労して、スラギを捕獲し、事情を話し、まさかの即答で全面拒否され、懇願し、国王と共に涙目になって条件を勝ち取り、ミコトに会いに行って、恐怖体験を味わい、やっぱり懇切丁寧に事情を話して、まさかの即答で全面拒否され、伝家の宝刀・国王命令のなまくらっぷりに打ちのめされ、それでも一筋の光明に縋り、平身低頭で譲歩をもぎ取り、少数精鋭過ぎるメンバーに囲まれ、自由人二人の相手をした。
それが始まりだ。
だのに。
だのに!
説明するまでもなく、ご存じだったという事ですね?
正にその場にいて、魔王・ヤシロとその話をしたことがあったわけですね?
そしてそんな事実は確かに存在したけど『聞かれなかったから言わなかった』が漏れなく発動していらっしゃったんですね?
自由人のもつ特性の中でも際立って鬼畜なそれを常時発動するのはやめてほしい、切実に。
……ていうか、だ。
まさかだけど……考えたくないけど……。
「……ガイゼウス殿。スラギが、前回、魔王城から帰って行ったのは、何時です?」
「ミコト殿はすぐに帰られましたが、スラギ殿は三週間ほど滞在されまして、そうですな、丁度三か月と少しほど前でしたかな、帰られたのは」
聞いた、騎士団長は、灰になった。
説明しよう。
騎士団長たち使節団は急遽、結成された。
魔王城からの返書が届いて、それこそ直ぐである。歩けば時間はかかるが、文の経路としては、ユースウェル王国王城から海岸まで魔法で飛ばし、人間大陸海岸から魔大陸海岸まで船で運ぶ。そして魔族側の伝令に渡され、魔王城へやはり魔法で飛ばす。
実質、船で運ぶ期間である三週間が文の片道にかかる時間であるといえる。
つまり。
①ミコトたちが来てすぐヤシロの返答を得た→すかさず返信を魔法で送信した→三週間後にユースウェル王国王城に返書は届いた。
②そしてスラギがユースウェル王国にいつもの失踪から帰ってきたのが、騎士団長たちの認識では返書が届く一日前。
③スラギは魔王城に三週間滞在し、帰っていった。
……これらの情報から導き出される事実は単純だ。
スラギは、魔王城への同道という任務を言い渡される前日まで、当の魔王城に居た。
そのうえで、即答で全面拒否した。
かつ、なんでそんな任務を言い渡されるのかも、ミコトともどもわかっていた。
一日もかけずにどうやって魔大陸から帰って来たのかというのはどうでもいい。スラギならできる。実際やったに違いない。
なのに空っとぼけた挙句のこれまでのあれこれ。
いじめでしょうか?
いいえ、自由人のただの自由な行動の結果です。
わかっている、分っているけれど。
乙女のようにぽろぽろと泣き出した騎士団長を、皆が必死で慰めたのは、余談である。




